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いかにして彼は生きると決めたのか  作者: 冷製春雨スープ
再会の温度、初恋の再定義
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4話

 ゆかりは地下牢から上がり、応接室にマサオミを案内する。ゆかりは先程助けてもらったことをまだ考えていた。乙女である。


 そんなこんなで応接室の扉の前についた。


 「貴方は職務に戻ってください」


 「かしこまりました。」


 そう言って立ち去る門番の姿を確認したのちに応接室に入っていく。


 マサオミはゆかりが門番に指示を出すのと同時に入室し、ゆかりが入室する前にはとっくにソファに腰掛けていた。

 これが雇用主と雇用者の姿なのか。100人に聞いても違うというだろう。


 マサオミは周りを気にしない子であった。団員の気苦労が透けて見える。


 ゆかりはその姿に微笑み、懐かしいなと言う思いにかられていた。

 そう言えば昔、方陣家の分家である彼は、私を敬いもせず仏頂面で好き勝手していたなぁ。と


 ゆかりはマサオミと対面のソファに腰掛ける。


 もちろんマサオミは上座に座っている。何がもちろんなのかわからないが、理由は特にない。なんとなくである。

 これが元貴族嫡子の姿か?教育失敗ここにあり。


 しかしゆかりは全く気にしていない。そして郷愁の駆られていた。

 ゆかりはとっくに毒されていた。


 「あの、マサオミ様?.....本日はなんで会いにきてくれたのですか?......いやいや!とても嬉しいのですが、その.....突然だったもので、心の準備が.......」


 ゆかりは思う。一報欲しかったな。と


 ゆかりは方陣家の当主である。もちろん機密に関わる物以外の手紙は第三者の検閲が入ることにはなっているが、検閲する者には、マサオミ宛の手紙はそのまま通すよう命を下していた。


 だって、その。おめかしとかしたかったですし....私も心の準備をする時間が欲しかったと言いますか....

 と、如何にも乙女らしいことを考えていた。


 ゆかりは忘れていた。今日は依頼を出した傭兵団の団長が来る日であると


 「依頼だ」


 「え?」


 「依頼だ」


 「.....そうですか」


 ゆかりは忘れていた。マサオミとの再会が嬉しいあまり忘れてしまっていた。そういえば今日は団長様が来る日であると


 ゆかりは思う。


 と言うか私に逢うために来てくださったわけではないのですか?なんです?依頼?私はもののついでですか?ええそうですか。マサオミ様にとっては私は依頼のついでの存在ですか。薄情すぎはしませんか?私はこんなに逢いたかったのに......逢いたかったのに!!!


 ゆかりは内心穏やかではなかった。当たり前である。しかし、表情には出ていない。

 これでも方陣家当主、そこは抜かりなかった。仕事のできる女であった。


 ふと、ゆかりは一つの疑問が浮かんだ。


 以前調べたら時は、北点傭兵団の団長の名前はザイテンと言う名前だったはず。間違ってもマサオミ様ではない。では彼はなんの依頼を受けにここへ?


 「.....あの、マサオミ様?依頼というのは...」


 「お前の護衛だ」


 「その....北点傭兵団の団長様なのですか?」


 「そうだ」


 「ですが、傭兵団の団長の名前は、ザイテンと言う方だとお聞きしているのですが....」


 「偽名だ」


 偽名だった。


 曰く彼は10年前、私と別れた時から本名を隠して活動していたらしい。マサオミと言う方を探しても彼が見つからないわけである。


 しかしゆかりは才女である。法術の才はなくともその頭脳と容姿は巷で話題となるほどの才女である。もちろん彼が偽名を使っている線は予測していた。でも見つからなかった。その痕跡さえも


 であるなら考えられる事は一つ


 「.....誰かが意図的に隠していた?」


 「何がだ」


 「いえ!こちらの話です!気にされないでください!」


 「そうか」


 マサオミは素直な子だった。

 マサオミは考えてもわからない。考えるのは、傭兵団の頭脳であるザンザか副長のスミレの仕事だ。と考えている。思考を放棄していた。

 これがかの有名な北点傭兵団の団長の姿である。


 しかしゆかりは、彼のこの姿勢に助かっていた。


 「それで、マサオミ様。依頼の話に移りましょうか」


 「わかった」


 ゆかりは気を引き締める。

 ここからは方陣家当主として話すために


 「依頼内容は、私の護衛。期間は3ヶ月。依頼料は大金貨5枚で相違ありませんか?」


 「大丈夫だ。」


 「わかりました。宿はどういたしますか?私が用意することもできますが」


 ここでゆかり、自分の願望を少し出す。当主になりきれなかった。

 この話を始めた瞬間、表情は変わらないが目線をキョロキョロとさせたり、手に力が入っていた。無意識下の行動である。

 とてもわかりやすい。


 まだ決まっていないのなら、ここに住み込みでいい。いや、それがいい!て言うか一緒に住みたい!朝からご飯を一緒に食べて、日中はずっと一緒に!そして夜には、一緒にお風呂?なんかも入っちゃったり?もちろん護衛として!護衛としてですけど!

 などと心の中で考えていた。誰に言い訳をしているのだろうか、ゆかり本人にもわかっていない。


 そんなゆかりの思惑を知らない。気づかないマサオミはその提案をバッサリと切り捨てた。


 「いらない。宿は取ってある。」


 「......そうですか。わかりました」


 一考の余地すらない。即答であった。


 そんなこんなで話会いは進み、ひと段落ついた。外はもう暮れかけている。

 話会いと言うよりもただの確認作業だったが


 ゆかりはふぅ、と息を吐いて表情を崩した。


 「....ここまでにしましょうか」


 「わかった」


 返事は相変わらず淡白。依頼についての話のときと一切変わらない。


 ゆかりはマサオミを見た。

 無表情で紅茶を飲んでいる。でかい図体に小さいカップ。なんとも不釣り合いでゆかりは少し笑ってしまう。


 「なんだ?」


 慌てて視線をずらし、下を向く

 気分を害してしまったかも知れません....


 「い、いえ!......その、マサオミのお体とカップが、その.....不釣り合いで、少し笑ってしまいました....」


 「....そうか」


 声に感情が乗っていた。先程の淡白な返答と変わらないのに、確かに柔らかさを感じた。


 バッと顔をあげてマサオミの顔を見た。

 ほんの少し、本当に少しだけ微笑んでいるように見える。


 瞬きをした時には、仏頂面に戻っていた。幻影かのように。ゆかりは見間違いかと思った。でも、


 _____見間違いじゃないといいな


 そんな仏頂面の彼の視線を受けてゆかりは無意識に、言葉を発していた。


 「.....おかえりなさいませ。マサオミ様」


 「ただいま」


 ゆかりは少し驚いて、微笑んだ。少し涙が滲んでいる。


 返してくれた。彼が、マサオミ様がただいまって言ってくれた。

 それだけでゆかりは、もうなんでも良くなった。嬉しくて、嬉しくて。望んでいた言葉を聞けて。なんとなく、救われたような気がした。


 数秒。もしかしたら数分。どっちにしても短い時間ではあるが、静けさがこの部屋を満たしていた。


 双方一言も言葉を発しない。ただそこにいる。

 この静けさがゆかりには温かくて、昔と一緒で、とても落ち着いていた。


 その時、空気を読まない男から一つの音が轟いた。


 ぐぅぅぅぅ


 この音はそこまで大きくないが、静かな空間ではよく響いた。雰囲気がぶち壊しである。


 その下手人たるマサオミはどこ吹く風、常人であれば顔を赤面させ、恥ずかしそうにするところであろう。彼は変わらず仏頂面。心なしか、何かありました?という顔にも見える。


 そんなマサオミがゆかりはおかしくて、愛おしくて


 「ふふっ....お腹空いたのですか?もういい時間ですものね?」


 「ああ」


 「でしたら夕食は私が振る舞いますよ?」


 「いいのか?」


 なんか彼の目が輝いているように見える。

 私との再会の時はこんな風じゃなかった。私との再会よりご飯?え?私の優先度ご飯以下?


 ゆかりは納得いかないかった。


 が、まあいいかとも思う。惚れた弱みであった。


 「では参りましょうか」


 ゆかりはゆっくりと立ち上がり言った。


 「ああ」


 ゆかり 22歳 独身

 彼と別れた後から磨き上げたお料理スキル。もとい花嫁修行の腕の見せどころがきた。


 今日ここでマサオミ様の胃袋を掴みます!


 とても張り切っていた。やる気満々である。


6話終盤あたりから物語が少し動きます。

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