表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いかにして彼は生きると決めたのか  作者: 冷製春雨スープ
再会の温度、初恋の再定義
4/8

3話

マサオミを牢から出して、応接室に向かう。

先頭に門番、その後ろをマサオミとゆかりが並んで歩く。


ゆかりは思う。彼に表情が感じられない。あんなにも感情豊かだった彼が何を考えているのかわからない。


ゆかりは彼を見た。


能面のような仏頂面。体は大きく筋骨隆々、見え隠れする腕には痛々しい古傷がついている。

そして、ゆかりがずっと見ているというのに目が合うことはない。気にした様子もない。


なんで?私はこんなに会いたかったのに....会えて嬉しいのに.......

彼は、私に会いたくなかったのでしょうか.....


ついには俯いてしまう。

もっと何かがあるのだと思っていた。抱きしめあって、涙を流しながら再会を喜ぶ物だと思っていた。実際それに憧れていたし、話したいことも聞きたいことも沢山あった。


ただいまと言って欲しかった。おかえりと言いたかった。


こんなロマンもないところでも、思わず飛び上がってしまいそうになる程嬉しかった。しかし、話しかけても帰ってくる返答は淡白なものだけ。

感情が乗っていない。


これじゃあ、喜んでいるのは.....


「.....私だけ、ですね」


ゆかりは無意識だった。自分でも声に出ていたことに驚いて、口元に手を添える。蚊が鳴くような声だった。


再度彼の方を見た。

変わらず前だけを見て、こちらには目も向けてくれない。先程の言葉は聞こえていなかったのか。それとも無視しているか、それすらもわからない。


ゆかりは落ち込んでしまっていた。


ずっと彼のことが頭によぎり、今自分がどこを歩いているのかもわからなくなってしまうほどに。


ここは地下牢。下は硬い石畳。不揃いな石が敷き詰められた床である。ゆかりは現在、ヒールの高い靴を履いていた。足元に気をつけて歩かねば転けてしまう。


だから躓いた。

ゆかりは咄嗟に手を前に出し、思わず目を瞑ってしまう。


「.....っ」


衝撃はいつまで経っても来ない。

痛みもない。


ゆかりは恐る恐る目を開けた。


そこには、ゆかりの手を優しく握り、肩に手を添えて支えてくれている彼がいた。

こちらを少し心配そうに見てくる。


「大丈夫か?」


初めて目が合ったような気がした。

不思議だ。先程も牢を挟んではいたが、目は合っていたはず。それでも、そう思ってしまった。


顔の表情は変わっていない。昔に比べて少なくなった口数も、手を握ってくれている傷跡も、昔にはなかったものだ。


でも、その目は......

彼の優しい眼差しだけはなにも......


ゆかりは時間が止まってしまった様な感覚を覚えていた。

心臓の鼓動が早くなる。顔に血液が溜まっていくことを実感している。顔はもはや真っ赤だろう。


それでも目を離せない。

だって、だってその瞳は、初めて恋に堕ちた時の瞳と一切変わっていなかったから.....

こちらを気遣う眼差し、涙が出てしまうほどに優しい目。


ゆかりは思う。10年の間に何かあったんだ。それで彼は変わってしまったんだ。と


ゆかりは知っている。彼の実家はもうないことを。壊滅してしまっていて、お屋敷のあった痕跡すらももうないことを。


そしてゆかりは知った。

ゆかりの大好きだったその瞳だけは、昔とは一切変わっていないことを


「?どうした。」


ずっと見つめてくるゆかりに不思議そうに尋ねた。


「.....あ、いえ!その....助けてくださりありがとうございます。」


「構わない。」


彼の返事は相変わらず淡白なものだった。

それでも先程よりは、気落ちしなかった。彼の目は変わっていないと知れたから。



しかしゆかりは気が付かないフリをした。

眼差しは一緒。それも少し違うことに本当は気づいていた。彼の優しい目は確かに昔と似ている。しかし、


彼の目には"優しさ"だけしかなかった。


ゆかりとの再会を喜ぶ色なにもなかった。

ゆかりは気が付かないフリをした。そんなことはないと。


ゆかりは再度歩き始めた。

4話は5月7日19:00に投稿されます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ