2話
少し時が遡り、昼時。
ゆかりは執務室にて書類仕事をしていた。
カリカリと言う万年筆の音だけが聞こえている。
ゆかりは思う。
そう言えば、今日は傭兵団の団長様が来る日だったな。と
まだでしょうか?もう着いていてもおかしくない時間なのですが.....
コンコン
ドアがノックされた。
「入ってください」
団長様が到着なされたのでしょうか?
ゆかりは書類から目を上げ、入室してきた者を見る。
門番だった。やはり到着したのですね。
「ゆかり様。不審者を捕らえました。」
予想外だった。
ゆかりは困惑する。え、いま?誰?
しかし彼女は顔には出さない。目線で話を続けるように指示を出す。
「現在、地下牢にて拘束中です。どういたしますか?」
ゆかりは少し考える。
今日は傭兵団の団長が来る日。傭兵団は、偶に騎士崩れの者もいるため礼儀作法を知っている者もいる。が、基本的には粗暴な方が多い。自分自身、傭兵を見たことがあるが礼儀のなっている者は少なかった。
ゆかりは捕らえた者の特徴を聞いてみることにした。
「その者の特徴は?」
「はい。体格の大きい男性。背中にはグレートソードを背負っておりました。」
あ、団長様だ。
ゆかりは北点傭兵団を雇う前に彼らについて少し調べていた。
曰く、傭兵団の団長はグレートソードを片手で振り回すのだとか。
特徴と一致する。今日の予定も相まって、確定でいいだろう。
「今すぐ私をその方の元へ案内してください。」
「わかりました。」
ゆかりは椅子から立ち上がり、地下牢へと向かう。あそこ、ジメジメしてて好きじゃないんだけどな。と思いながら執務室を出た。
地下牢に移動している最中、門番になぜ捕らえたのかを聞いてみることにした。
「なぜ捕らえたのですか?」
「はい。目を合わせた後、数秒間無言だったのですが、突然「通せ」と一言だけ申されまして、今現在の方陣家の状況を加味して、捕らえておく方が得策だと考えました。」
「......そうですか」
一言目が通せ?なぜ依頼書を見せなかったのでしょうか?
ゆかりは思った。それは仕方がないと。
私は傭兵が来ると知っていたから納得できたけれど、側から聞いたら怪しすぎる。
だって大柄のグレートソードを背負った男が一言だけ通せと言うのだ。当たり前である。
そして少し反省した。門番に今日の来客する団長様の特徴を伝えてるのを忘れてしまっていた。
きちんと言っていたら、こうはならなかったでしょう。と
そんなこんなで地下牢への階段についた。
「ゆかり様。足元にらお気をつけください」
門番に先導してもらい階段を下っていき、辿り着いた。
ここはいつ来ても薄暗くてジメジメしている。正直あまり滞在したい環境ではない。
早く用事をすませてしまうとしましょう。
「ゆかり様。この先に捕らえた者がおります。」
コツコツと足音を立てて進む。すぐに彼の元についた。
彼の牢の前で立ち止まる。
彼は地面にあぐらをかいて座り、何かを考え込んでいた。
ゆかりは思う。なんとも余裕そうですね?マイペースな方なのでしょうか?と
彼が顔を上げ、目が合った。
「.......え?......」
衝撃を受ける。だって、だってその顔は.....
10年前にじゃあなと一言だけを残して去っていった男。
私がいくら探しても見つけられなかった男。
未だに忘れられず、想いが増すばかりの初恋の彼の顔だった。
筋骨隆々な体、大雑把に短く切られた髪など、昔とは変わっているところはあるけれど、少し威圧感のある顔立ちには面影がある。
しかし、私と目が合っていると言うのに彼から反応がない。
もしかして気がついていないのでしょうか?
それとも人違い?
ゆかりは考える。
それだけはありえない。私が彼をわからないわけがない。
だってずっと探してた。ずっと会いたいと思っていた。暇があれば彼を思い浮かべる毎日。考えない日なんて、10年前から1日たりとも存在しない。
どれだけ探しても見つからなくて、もしかしたらもう....なんて、信じたくないことも考えていた。
そんな彼が目の前にいた。
それが現実かどうか、ゆかりは少しわからなくなってしまって.....
確かめるように聞いた。
「マサオミ様....ですか?」
「ああ」
ゆかりが思っている再会ではなかった。
違和感。
気のせいだと断じた。
彼だ!マサオミ様だ!ずっと会いたかった!覚えてくれているだろうか?私のこと、わかってくれるだろうか?
「あの.....私のこと.....わかりますか?」
「わかる」
違和感が強くなる。
気づかないふりをした。
「お久し...ぶりですね?マサオミ様」
「そうだな」
違和感を無視できなくなった。
ゆかりは彼の顔をよく見てみる。
能面のような仏頂面。彼は昔、そこまで愛想も良くなく明るくもなかった。しかし、感情は豊かで考えていることが、少し表情に出てしまう。そんな人だったはず。
今の彼は、ゆかりには何を考えているのかわからなかった。
彼がそこにいるはずなのに、そこにはいない様に思えてしまった。




