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いかにして彼は生きると決めたのか  作者: 冷製春雨スープ
届かぬ声、静謐なる涙、凄惨たる救いの手
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十二話


 団員達の逃げていく背中を見ながら、剣豪は口を歪ませ、額に皺を寄せる。

 不愉快そうに言った。


 「はぁ!?舐めてんのかよ!おい!!」


 剣豪が納刀して、片足を引き、構えを低くする。

 直ぐにでもゆかり達を追いかけるつもりのようだ。


 「逃すわけねぇだろ!!」



 マサオミはその構えを見たことがあった。マサオミはその時の記憶を思い出す。


 『マサオミ、この技を使う相手には気をつけろよ。すごい速いからな」


 居合抜刀。かつて親友が教えて、見せてくれた技の一つ


 この技は、法力を全体に纏うのではなく、踏み込む右足、刀を振る右腕に右肩、そして腰にだけ集中させ、爆発的な推進力と常軌を逸した剣速を得る技である。


 剣豪の体がブレて見えて、加速する。少し遅れて、ドンッとした音が鳴った。


 その音が響くと同時に、もう一つ、ドンとした音が鳴る。


 そしてガギンッ!と言う振り抜かれた刀とマサオミのグレートソードがぶつかった音が響き渡る。


 吹き荒れる衝撃波。木々を揺らす。


 剣豪が驚愕に目を見開いて、獰猛な笑みを浮かべる。


 「はぁ?マジかよお前!初めてだぜ!俺の居合止められたことなんざ!!」


 マサオミは鍔迫り合いをしながら小首を傾げた。

 マサオミは短く返答する。


 「そうか。遅かったからな」


 剣豪は後ろへ飛び上がり、距離を離した。


 「言うねぇ。お前殺させねぇと先に進めなさそうだな。」


 再度、刀を肩でトントンとして、斜め上を向き、考える仕草をする。


 「.......もしかしてお前か?フランザを殺したってやつは?」


 マサオミは少し考える。わからない。


 「誰だ」


 「方陣の...なんだっけかぁ?当主誘拐したやつだよ」


 もう一度考える。


 ああ、アレか。


 「ああ、殺した。」


 剣豪は野生的な笑みを浮かべ、圧を膨れ上がらせる。


 「アイツのことなんざ、別に好きじゃなかったんだがよ、仲間だったんだ。敵討ちしてやるぜ!」


 剣豪は再度刀を納刀し、構えを低くする。

 マサオミは思う。


 また同じ技か。


 そんなマサオミの様子を見た剣豪は、ニヤリと笑う。


 「今、また同じだって思ってんだろ?あめぇよ!!」


 先ほど以上の加速と共に、抜かれる刀身。見た目は同じ技。さっきよりも速くなっただけ。


___首筋が粟立つ


 後ろから首に殺意を感じた。

 振り向くと同時にグレートソードを横薙ぐ


 ガギンとした音が鳴る。


 「ハハッ!マジかよお前!」


 続けて剣豪は、刀を引きそのまま刺突。マサオミの心臓に突き刺さった。


 マサオミは突き刺さった刀身を左手で握る。

 

 手から血が吹き出る。

 そして突き刺さった刀身を引き抜いて、剣豪ごと持ち上げる。


 「おいおいおい!!嘘だろ!?!!」


 地面に叩きつける。


 ドガンとした音と共に、握っていたはずの刀身がなく、そして指が斬られているのを確認する。


 逃げられたか。


 「いってぇなぁ。てかなんだよそれ!くっそキメェな!」


 マサオミの心臓の傷はもう癒えていた。

 傷が完全には塞がっていないのか血が流れ落ちる。

 

 剣豪は切ったはずの指を見ていた。

 再生している。しかしこれも完全ではなかった。皮がないのか血の滴る肉が剥き出しだ。そんな左腕を気にする様子もなく握る開くを数度


 「速いな」


 クハッと剣豪が笑う


 「指ぃ斬られてそれかよ!そりゃ異能かぁ?んな中途半端な異能は見たことねぇなぁ!!」



 マサオミの異能『不撓不屈』

 効果は諦めぬ限り斃れることはなく、負った怪我は再生する。しかし、戦うのに支障がない程度しか癒えないため、完全回復することはない。



 「おまえおもしれぇなぁ!!死ぬまで刻んでやんよ!!」


 剣豪が切先をマサオミに向けて、名乗りをあげた。


 「おれぁ、"剣豪"ボクデン!!てめぇの首んちょ斬る男だぁ!」


 戦いにおいて、口上とは敵味方に自分の名と身分、戦功を大声で名乗るものである。


 作法として、名乗られた口上には嘘一つなく、事実でもって答えるべきもの。

 

 マサオミとて、その作法は理解している。理解しているが、


 疑問にも思っていた。だって


 「"不屈の撃滅"ザイテン。お前を殺す」


 これから死ぬやつに、本名など教えても意味がないだろう?




 

 団員達は響く轟音から逃げるように走っていた。

 団員達は皆、マサオミのことを信じている。マサオミが剣豪なんぞに負けるわけがないと


 しかし、その表情は暗く、会話はない。


 ザンザは苛立つ気持ちを舌打ちにし

 スミレは無力感に拳を握りしめ

 カレラは下唇を噛み

 ねいは泣きそうな顔で先導している。


 団員はこう言う時、いつも無力感に駆られている。

 

 もっと強ければ


 もっと速ければ


 そうすれば、もっとマサオミの役に立てるのに。足手まといにならないのに。

 マサオミと共に戦うことだってできたのに


 なんでこんなに弱い。

 なんでこんなに何もできない。


 これが団員達の本音であった。


 団員達は知っていた。

 マサオミは、自分たちがその場にいるだけで、守ろうと動くことを

 マサオミはそれでも切り抜ける。でも、その分負う傷が増えることを


 普段は自分達を頼ってくれるマサオミも、ある程度の相手と戦う時に関しては、自分達のことを戦力として考えていないことを


 それが悔しい。

 それが悲しい。

 もっと頼って欲しい。

 もっと傷つけて欲しい。

 

 だから団員達は、マサオミを置いて撤退する状況が、虫唾が走るほど大嫌いだった。



 スミレは揺れる視界の中、音の鳴る方をずっと見つめていた。


 ゆかりの心は悲鳴をあげている。


 マサオミは無事だろうか。

 怪我はしていないだろうか。

 死んではしまわないだろうか。

 

 ゆかりはマサオミを傷つけないためにマサオミを遠ざけた。

 それが今、マサオミはゆかりのために戦っている。


 それが嬉しく、何よりも悲しかった。


 「......マサオミ様.......」


 死なないで.......



 その時、ねいが異変を感じ取る。


 ねいが立ち止まり、手を開いて団員達の静止を促す。

 スミレが理由を聞く


 「どうした。ねい、何があった。」


 ねいの額から汗が流れ始める。焦ったようにキョロキョロと辺りを見渡して、確信をもってから報告した。


 「......多分....ウチ達の居場所、気づかれてる。」


 団員達とゆかりは、ゆっくりと囲まれ始めていた。


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