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いかにして彼は生きると決めたのか  作者: 冷製春雨スープ
届かぬ声、静謐なる涙、凄惨たる救いの手
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十三話


金属と金属のぶつかり合う甲高い音が数えきれないほど響いていた。


 地面には斬撃の跡が無数に広がっていて、聳え立っていたはずの木々は伐採されている。


 マサオミがグレートソードを振るたびに暴風が巻き起こる。


 その破壊の嵐を剣豪がいとも容易く受け流していた。


 少し離れた位置にいる剣豪へ駆ける。

 正面からマサオミが剣豪に向かってグレートソードを振り下ろし、剣豪が刀に沿うように受け流す。

 

 ギィィィっと言う甲高い金属が削れる音を出しながら、マサオミのグレートソードが空を斬る。衝撃波が巻き起こり、砂塵が舞うのと同時に獣の爪痕のような荒々しい切れ込みが走った。


 空いている左拳で殴ろうと剣豪に拳を振り抜く。

 剣豪は、少し跳び、膝で刀の腹を押さえながら、受ける。

 剣豪は後ろへ飛んでいき、両足で着地した。


 「おいおいおいおい!!前線の英雄の名が泣くゼェ!??」


 そう言った剣豪が突然、マサオミの視界から消えた。

 後ろを振り向く。いない。


 いや、下か。


 地面スレスレの前傾姿勢で飛翔し、刀を振り上げる。グレートソードを握る右手首を狙っているようだ。


「手元がお留守なんじゃねぇの!!」


 マサオミは咄嗟にグレートソードを空中に投げ、刀を振り上げて向かってくる刀にわざと右手を斬らせ、左手で首根っこを掴もうとする。


「だからあめぇって!」


 剣豪は振り上げた勢いのまま離れる様に回転して、そのまま跳躍。


 宙に浮いた回転しているグレートソードの上を取ると、マサオミに切先が向いた瞬間、グレートソードの柄頭を蹴り、マサオミにグレートソードを飛ばす。


 脳天を突き刺す様に向かってくるグレートソードを半歩進んで避けるのと同時に、柄の部分を掴む。そして足に力を入れて、加速する。


 勢いそのままグレートソード切り上げた。


 「ありがとう」


 「嫌味かぁ!?」


 剣豪は、横に半歩ズレる形で回避し、相手の推進力を利用して通りすがら切り込もうとする。


 マサオミが思い切り下半身に力を入れた。地面に少し足をめり込ませて、無理矢理急停止し、右上から袈裟斬りにしようとする。


 「どんな脚力してやがる!!」


 袈裟斬りを刀で受け止め、少し宙に浮くことで、マサオミの力を利用して距離をとる。


 剣豪は思う。

 あっぶねぇ!ありゃまともに受けてたら死んでたぜ。


 そもそもアイツ、斬撃を無視して攻撃してくるせいで俺の間合いで戦えねぇ。

 やりにくいったらねぇな。


 てかあの異能。傷が完全に治りきらねぇ。ちいせぇ傷はそのままで、デケェ傷はすぐに治りやがる。手首ちょんぎっても再生するその異能がすり傷一つ治せないわけがねぇ。


 もうちょい探ってみっか。


 剣豪は再度納刀するのと同時に、法術を使う。


 「法術『天翔け捷疾鬼』」


 剣豪の体に淡い光が灯り、溶けた。


 法術『天翔け捷疾鬼』

 効果は単純、自身の速力を上げ、身体強度はそのままに体を少し軽くする。これによって緩急の差が激しい不規則な動きをスピードを保ったまま行うことができる。


 「いくぜぇ!!」


 瞬間、マサオミの視界からまたもや剣豪が消える。先ほどとは違い、技術ではなく純粋なスピードである。


 暴風を撒き散らしながら、マサオミの周囲を変則的に走る。

 そして、緩急をつけるように方向転換し、マサオミに向かってきた。


 「首斬って!!!ど頭蹴り飛ばしたらどうなんだぁ!?!!」


 水平に横薙ぎされる刀身。マサオミの首めがけて振り抜かれる。

 遅く感じる視界の中、マサオミはそれを無視した。


 そして左拳を構える。


 首に刀身が流れるように断ち切っていく。斬られたそばから鮮血が飛び出し、完全に断たれることなく、同時に再生を始める。首に首輪のような傷ができた。

 しかし、確かに塞がっていた。


 「なんだそれ!!」


 攻撃した時、それはその人間が一番無防備である時間、一瞬のタイミングである。それは剣豪であっても例外ではない。しかし、その無防備を狙うことは容易ではなく、ダメージ交換はデメリットが多い。


 それでも、マサオミに関してはその限りではない。


 マサオミは構えていた左拳を振り抜いて、剣豪の土手っ腹に拳をぶち込む。

 バゴンッと言う音を立てて剣豪は吹き飛んだ。剣豪の表情が先程とは違い、苦悶に歪んだ。


 軽くなった体も相まって、勢いよく飛翔する中、痛む腹を無視して、地面に両足で着地。たたらを踏みながら受け身を取った。

 口に逆流してきた吐血をペッと吐き出して、獰猛な笑みを浮かべる。


 「おいおい!咄嗟に法力腹に集めてなきゃ死んでたぜ!?!」


 「そうか」


 「淡白な化け物だなぁ!!!」


 再度剣豪が加速する。


 するとマサオミの体が少しずつ切り刻まれ始める。

 右肩、左足、頬、胸などに大量に剣筋が走り始める。しかしそのどれもが小さい傷。

 再生が始まらない。


 剣豪はそれを見て確信する。

 

 こいつの異能で治せるのは、デカい傷だけ!あの首で確信した!!それも完全には治んねぇ!ならば狙うは、失血による失血死!!


 マサオミは無数に吹き荒れる剣撃の嵐の中、考えていた。


 鬱陶しいな。まるで虫みたいだ。


 マサオミはグレートソードを背中に背負い直し、両手を組んで振り上げる。筋肉がボコっと膨張した。


 剣豪は膨れた腕と大振りな構えに不思議に思う。


 なにする気だ?だが!!


「んなバレバレの攻撃当たるわけねぇだろ!!」


「違う」


 マサオミは地面に向かって思い切り両腕を叩き込んだ。


 巻き上がる砂塵、吹き荒れる暴風。地面が揺れ、割れた。


___ダブルスレッジハンマー


 簡易的な地震により、踏み込む足場のなくなった剣豪の身体は宙に浮き、軽くなった体も影響して暴風によって飛ばされる。


 「マジかよ!!!!化け物か!?てめぇ!!」


 離れたところに剣豪は着地する。

 砂塵が舞っているせいでマサオミの様子がわからない。が、それは向こうも同じ。


 はずだった。


 一つの影が砂塵を突き抜けて、突撃してくる。


 マサオミだ。マサオミは自分の直感を頼りに飛び出し、剣豪の居場所を特定した。


 剣豪は背筋が凍るような錯覚をする。


 マサオミがグレートソードを上段から振り下ろす。


 剣豪は焦りながら考える。


 やべぇやべぇやべぇ!!避けられねぇ!!角度もやべぇから受け流せもしねぇ!!こうなりゃ受け止めるしかねぇ!!


 剣豪は、己の持ち得る法力の全てを使って全身と刀に纏う。そして刀を横にし、グレートソードを受け止めた。


 ドガンとした音が轟く。剣豪の足が陥没し、刀身が少し歪んだ。地面がひび割れる。超重量がかかっている様な重さを感じる。

 足からビキッと言う嫌な音が鳴った。


 「グッガあああああああ」


 力じゃ勝てねぇ!技でもこれじゃあ抜け出せねぇ!!


 剣豪は半身をズラし、左腕を犠牲に抜け出し、距離を取る


 「ぐがあああああああああ!!!いってぇなぁ!!!ふざけんなぁ!!」


 剣豪は左腕の付け根から血を吹き出させている。懐から瓶を一つ取り出し、飲んだ。


 「グッ、、くあ"あ"あ"あ"」


 すると傷口が塞がっていく。血が止まった。


 「いてぇいてぇいてぇいてぇいてぇいてぇ!!!!クソがああああああ!!!!」


 剣豪は、息を荒くしながら地面に蹲る。


 数秒ほどして、ある程度落ち着いたのかそのまま立ち上がった。


 マサオミはその光景をただ見ていた。どうでもよかったからだ。なぜなら結末は変わらない。



___底は知れた。



 「回復薬か。」


 「あ"あ!!いつ飲んでも最悪だなぁ!!クソいてぇ!!」


 口調は荒い剣豪は、内心冷静だった。


 こりゃ勝てねぇな。技のことごとくを力だけで突破してやがる。しかもあの回復薬を飲んだタイミングでも攻撃してこねぇ。


 わりぃなフランザ。今は無理だ。


 てこたぁ元の目的、方陣の女の奪還が優先だな。幸い法術は切れてねぇ。

 あの化け物は俺の動きについて来れてなかった。


 なら選択は一つ


 ここは逃げて、方陣の女を連れ帰る。んで、治癒士に治療してもらってから再戦だな。


 「おい化け物!!」


 マサオミに背を向け、顔だけ振り返ったあとに嫌な笑みを浮かべて、言った


 「決着は次にお預けだぁ!!」


 剣豪がマサオミから顔を背け、走り出す。ダンッとした音と共に団員達の元へ走り出した。


 剣豪の判断は間違っていない。片腕がなく、先程の回復薬によって体力も大幅に削られている。故に勝てるわけがない。













 しかし、何故逃げ切れると考えた?


 確かに動きについてこれていなかった。

 確かに力だけで突破しようとしていた。


 だが、マサオミはこの戦いの中で一度たりとも法力を纏っていたか?いや。纏っていない。


 法力による身体強化には2種類ある。

 1つ。法力を纏うことによる身体強化及び身体硬度の上昇。これは纏う法力の量と元の身体能力に依存している。

 2つ。法術による強化。基本的には法力による強化よりも強化倍率が高く、強い。しかし言葉にする必要があるため使う技がバレるデメリットも存在する。


 勘違いしてしまったのだろう。あの身体能力で、法力を纏っていない方がおかしいのだから。常識で考えてしまった。


 だからダメなのだ。故に敗北が確定した。

 奇しくもそれは、フランザと同じ敗因となる。


 マサオミの二つ名 "不屈の撃滅"

 不屈とは、その決して引かず、決して倒れぬ背中からつけられた。そして彼の象徴でもある異能『不撓不屈』もその二つ名の要因だ。


 では何故"不屈の撃滅"なのか?

 何故異能そのままの"不撓不屈"ではないのか?

 何故二つ名に"撃滅"の名が入っているのか?


 そして何故、過去に見た居合抜刀の記憶だけで剣豪に対応できたのか。


 理由は単純明快


 マサオミは左足を引き、前傾姿勢になる。そして左手を地面に添える。グレートソードを鞘に納めるように切先を地面につけた。


 右足、右腕、右肩、腰、そして"左腕と瞳"に法力を集中させる。


 この技は居合抜刀ではない。これは居合抜刀を参考に作られた技。言うならばパクリ


 この技はグレートソードでできる技ではない。姿勢も前傾姿勢すぎていて、普通は左手を地面につけてもなんの意味もない。これでは獣の様な姿勢になってしまう。

だから技として成立しない。


 はずだった。


 北点傭兵団団長 ザイテンは、常軌を逸した身体能力を有している。異常な腕力に脚力、そして万力のような握力が、この技を成立させていた。


 この技は、彼が撃滅と名付けられるに至った技の一つ。その一端

 彼はこの戦いで初めて、己の技術を、技を使う。


 その技の名は


 「羅刹鬼(らせつおに)


 ドガァアアアン!!!とした今日一番の轟音が響く、地面が揺れて捲れる。恐れるかのように木々がざわめく。


 異常な加速


 視界がトンネルのように狭くなっていく。それを法力によって強化した瞳で補う。

 一瞬で剣豪の背中に追いつく。そして、グレートソードを抜刀した。


 剣豪の首と胴体が泣き別れた。


 剣豪の口から思わず声が漏れる。


 「はぁ?」


 視界が回る。そして、急停止した。

 マサオミと目線が合う。


 それが剣豪ボクデンの見た最後の景色だった。


 『羅刹鬼』の被害は甚大だった。道は抉れ、木々が倒れていた。

 まるで怪物が通った後のように

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