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ソウル・コレクトター『魂の回収者』〜〜裏切られた神の復讐劇〜〜  作者: 瀬〆駿翔
荒廃した世界で

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6/7

死械

 セキは振り返らずに歩いた。アーカイブの部屋を出ても、胸の奥の重さは消えない。未登録。異常反応。回収優先度。言葉だけが先に並び、意味が追いつかないままだ。


 通路を曲がり、また曲がる。生活の音が薄くなる。灯りはあるのに柔らかさがない。配線が太くなり、床の材質が変わる。人の気配も減っていき、ターミナルの端が近いと分かった。


 やがて空間が広がった。そこに積まれているのは壁でも寝床でもない。金属の山だった。装甲板、折れた脚、砲身、骨格、絡まったケーブル。形の分からない部品。どれも壊れている。


 ――機械の墓場。


「ここだ」


 金属の匂いが濃く、粉っぽい空気が喉に引っかかる。足元には細かい破片が敷き詰められ、歩くたび乾いた音が鳴った。


「スミス様が来る。武器と装備、改造が得意なレリックだ」


 示された先に薄い灯りが揺れていた。墓場の隣、壁で区切っただけの簡素な空間から作業の音が聞こえる。その音が止まり、灯りの奥で人影が動いた。作業台の前にいた影が手を止め、道具を置いてこちらへ向かってくる。


 近づくにつれ、その姿に目を奪われた。人の形をしているのに、関節の角度が微妙に違う。衣服の下に硬い線が走り、肩や腰の厚みが筋肉ではなく構造に見える。歩き方は静かで、迷いがない。


 男は作業場の灯りを背に近づいてきた。金属の指先に作業の痕が残っている。――あの手で、直接やっているのだろうか。


 視線が私に向く。値踏みというより別の種類の視線だった。


「話は聞いている」


 スミスは私の全身を一度見た。白い布、白い髪、白い肌。


「……機械化はしていないみたいだな」


 私は小さく頷く。スミスは首を傾げると、すぐ本題に入った。


「どういう戦闘スタイルが好みだ?」


「えーと…」


 急に言われたので驚いた。だが胸の奥に引っかかる感覚が言葉を押し上げた。


「……空中戦、だと思います」


 スミスの眉がわずかに上がる。


「空中戦? 機械化していないのに、そんなことができたのか?」


「分かりません。でも……私は空で戦っていたような気がするんです」


 自分の口から出た言葉なのに遠い。けれど、嘘ではない気がした。スミスはしばらく私を見てから息を吐く。


「にわかには信じがたいが……まあいい。機械化する気はないんだよな」


「それは……ちょっと」


 流石に自分の身体を機械にするのは抵抗があった。スミスは肩をすくめる。否定ではなく受け入れだった。


「身軽な装備は作る。だが空中戦っぽいことをするなら、刃だけじゃ足りない」


 墓場の奥へ視線を投げる。


「距離が出るし、近接だと届かない場面が多い、銃のほうがいいかもな」


 スミスは続けた。


「銃になる材料が欲しい。フレームと駆動部と給弾系、それと軽い装備の素材」


 スミスは墓場のほうに歩き出した。


「銃の素材と装備の素材、両方探すぞ」


 スミスが先に進む。セキが続き、私も遅れないように付いていく。墓場の中は音が吸われる。金属だらけなのに響かない。奥へ行くほど灯りが弱くなり、影が濃くなる。死んだ機械が積み重なって道を作っていた。


 胸の奥が強く鳴った。無視しようとしても無理だった。塔へ向かう糸とは違う。もっと近い。もっと強い。近いのに見えない“何か”が、ここではっきり形を持ち始める。


 胸の奥が熱を持ち、白い布の隙間から淡い青い光が漏れた。


「……っ」


 自分の声が遅れて出る。


 青い光は、もう一つあった。墓場の奥、金属の山の向こう。壊れた大型の機体の胸部――深い穴の奥で、同じ色が脈を打つように灯った。


 私の内側と、あの機体。二つの光が、糸で結ばれたみたいに揺れる。


「……どうした、大丈夫か?」


 スミスの声は優しかった。だが答える暇もない。もう一つの光の源で金属が軋み、影が起き上がる。


 片腕がない。胴には大穴が空いている。装甲は裂け、内部がむき出しだ。それでも動く。壊れているのに、淡い青い光を放ちながらこちらを見ている。


 死械が起き上がった。こちらへ向けて踏み出す。


 スミスが一歩前に出て、セキに言い放った。


「セキ、戦闘部隊に連絡。すぐ来るやつを呼べ!」


 声の温度が変わった。軽さが消え、命令を放つ。


「了解。ここは任せました。スミス様もお気をつけて」


 セキは命令に従順だ。踵を返し、足音が遠ざかる。残ったのは私とスミス、そしてこちらへ迫り来る巨大な死械だったもの。瓦礫を踏み潰すたび粉が舞い、金属片が跳ねる。重い振動が床を伝い、足の裏に響く。


 スミスは私を押し戻すように片手を伸ばした。


「お前は逃げろ」


 スミスは小さなものを取り出し、握りしめる。金属が滑って伸び、少し赤く光っている棒状の武器になった。


「俺が時間を稼ぐ」


 スミスが前へ出た。大型ロボットの踏み込みに合わせて側面へ滑り込み、装甲の隙を狙う。速い。大きな身体なのに動きが軽い。


 だが、相手が大きすぎる。片腕のないロボットでも一撃が重い。床が割れ、金属の山が崩れる。スミスが弾かれるように距離を取った。


 私はその光景を見て動けなかった。逃げろと言われた。正しい。分かっている。


 でも胸の奥が言う。


 ――回収しろ。


 私は、何かを回収しなくてはいけない。理由は分からないが確信に近い。


 手の中の刃を見る。アーカイブからもらったもの。赤い光を薄く放つ刃。息を吸い、足を前へ出した。


「来るな!」


 スミスが振り返り、短く叫ぶ。

 だが私は逃げるのではなく、戦いに行く。


 刃を握り、ロボットへ向かった。

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