表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウル・コレクトター『魂の回収者』〜〜裏切られた神の復讐劇〜〜  作者: 瀬〆駿翔
荒廃した世界で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/7

昔話と贈り物

 門番の背中には迷いがなかった。


 ホームを抜け、通路を曲がり、さらに奥へ進む。人の声が遠のき、代わりに機械の低い唸りと乾いた空気が増えていく。生活層というより、拠点の中枢に近い場所なのだと分かった。


 途中、いくつかの扉の前を通った。どれも頑丈で、無駄な装飾がない。必要なものだけが残っている。


 やがて、厚い金属扉の前で門番が立ち止まった。扉の横には、誰かが後から刻んだ小さな印がある。本の形。


 門番は扉に手を添えたまま動きを止める。すぐには開けない。呼吸を整え、声の高さを落として言った。


「アーカイブ様。門番のセキです。先ほど連絡した少女を連れてきました」


 私はそこで初めて、門番の名前を知った。――セキ。


 そして「連絡」という言葉が引っかかった。どこで連絡を取っていたのだろう?やはり機械化で得た能力なのかな。


 数秒の沈黙。


 扉の向こうから、低い声が返ってきた。


「……入れ」


 重い音を立てて扉が開き、私はセキの背中に続いた。


 中は静かだった。簡易灯が整然と並び、壁一面に棚がある。金属箱、紙束、端末、破損した基板、古い写真。――少し散らかっているが、崩れてはいない。「整理された乱雑さ」だった。


 奥に、一人が座っていた。


 この人が――レリック『アーカイブ』。


 目はリオと同じで左目が義眼。機械化の継ぎ目は目立たないのに、肌の質感が人間のそれではない。驚くほど落ち着いた雰囲気を纏い、こちらを見ていた。視線の鋭さだけが、部屋の暗さを切っている。


 セキが一歩前に出る。


「追跡されていた者です。リオが保護しました。義眼の表示は未登録。異常反応が高く、回収優先度も高いそうです」


 アーカイブの義眼が細く光った。私を見たまま、しばらく黙る。


 その沈黙は圧ではなく、記録のページをめくるような“間”だった。


「……話せるか」


「はい」


 私が答えると、アーカイブは頷き、視線を私の全身へ滑らせた。


 服と呼べるほどのものはない。身にまとっているのは白い布だけ。雨と泥で汚れ、ところどころ肌に張りついている。


 白い髪が濡れて頬に貼りつき、灯りを受けて淡く光っている。

 アーカイブの視線が、そこで一瞬止まった。


「……その歳で白髪は珍しい」


 淡々とした声だった。セキが短く息を吐く。


「ターミナルでも、見ません」

 

 アーカイブは続ける。


「持ち物がない。生活の痕跡も薄い。――準備をして地上に出たようには見えない」


アーカイブは一拍置いた。


「考えにくいが、仮に別の集落があるとして……そこから追放された可能性はある。追放なら身一つになる。名前が消えることもある」


 そこで言葉を切る。


「だが、それでも矛盾が残る」


 セキが小さく頷く。


「異常反応と回収優先度、ですね」


「そうだ。普通の人間に、異常反応と回収優先度が付く理由がない。……未登録も偶然とは思えない」


 私は唇を噛んだ。自分が何者でもなく、人でもない――そんな考えが喉元までせり上がる。


 アーカイブは私に問う。


「名は」


「……分かりません」


「記憶が欠けているか?」


「はい」


 アーカイブは頷いた。驚きはない。ここでは“欠ける”ことも日常なのだろう。


「分かった。では現時点で覚えていることはあるか?」


 アーカイブはそう言って、私から視線を外さなかった。


「気付いたときには外にいました。記憶もなく、名前もない。でも――あの塔に行かなきゃいけない。そんな感覚がずっとあるんです」


 アーカイブが、興味を示したかのように上体をわずかに前へ動かした。


「ほう。塔に……」


 少し考える素振りを見せ、静かに言う。


「マザーシステムと、何か深い関係があるのかもしれないな」


 そして、言葉を短く切った。


「少し昔話をしよう」


 空気が変わった気がした。


 アーカイブは淡々と続ける。


「今から1500年ほど前、人類は“尽きない力”を拾った。それを『コア』と名付け、奇跡だと呼び、崇めた。都市が発展し、人口が増え、ありとあらゆる革命がおきた」


私は息を飲んだ。


「最初は救いだった。飢えが減り、病が減り、夜が明るくなった。だが便利は増えるほど、必要になる。人口は増え、奪い合いが始まった」


 アーカイブは棚の一角へ視線を向けた。古い地図の断片。焦げた写真。数字の羅列が残る端末。


「力を持つ場所と、持たない場所。世界が割れ、戦争に発展した。そして大国は『コア』の力を使って、AIを統括する“マザーシステム”を作り上げた」


 声は変わらない。


「マザーシステムは驚異的だった。兵器は増え、土地が消えた。……人類にはまだ早い代物だった。大国は終戦を呼びかけ、マザーシステムの停止を約束した」


一拍。


 「……だが止まらなかった。マザーシステムは外から止められることを恐れ、自己防衛を覚えた。外部シャットダウンを拒否し、人類とAIの戦争が始まった」


 言葉の一つ一つが真剣で、胸の奥に刺さる。


「そして人類は敗北した」


 セキの指が腰の短銃に触れて、すぐ離れた。癖のような動きだった。

 アーカイブは私を見る。


「今の地上は、マザーシステムの庭だ。ドローンは目で、ロボットは手足だ。登録されたものは管理され、登録がないものや逃げている者は回収される」


 回収。言葉が背中に冷たく落ちる。


「君が何者かは分からない。だが、異常反応を示し、優先度が付く。これはマザーシステムにとって脅威になるのかもしれない」


 断定ではないのに、逃げ道がない言い方だった。


「地上に出れば狙われる。だが、塔に行かなくてはならないんだろう?」


 机の上に布包みが置かれた。セキではない。棚から取り出したのはアーカイブ本人だった。動きが静かで速い。機械の軋みもない。


「受け取れ」


 布を解くと、短い刃が出てきた。刃渡りは掌ほど。柄は古いが、刃は赤い光を薄く放っていた。

 私は両手で受け取る。


「……ありがとうございます」


「この刃には、あいつらにとって致命的なウイルスが入っている」


 アーカイブは椅子の背に体重を戻した。


「ドローンやロボットに刺せれば、一時的に行動を封じられるだろう。武器は命綱だ。塔に行くなら、なおさらだ」


 その言葉が、妙に刺さった。


「セキ。墓場に案内してやれ。――『スミス』にも連絡を」


 胸の奥が、微かに鳴った。

 

 あの“ひっかかり”。近いのに遠い感覚が、少しだけ強くなる。


「墓場には素材がある。使える部品、使える鉄、使える刃。それと、死械もある」


 セキが短く言う。


「案内します」


 私は刃を強く握り直した。


「……分かりました。色々、ありがとうございました」


 アーカイブが、わずかに頷いた。


 扉の外へ出る直前、私はもう一度だけ棚を見た。紙束、端末、写真。終わった世界の欠片が、静かに積まれている。


 セキが歩き出す。


 私はその背中を追いながら、胸の奥の弱い糸――遠くの塔の方向と、もうひとつの強まり始めた“ひっかかり”を同時に感じていた。


 【墓場】


そこに、何かがある気がする。

最後までお読みいただきありがとうございました!

良ければ評価とブックマークお願いします!

励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ