孤独と天秤
濡れたシャツを脱いで上半身裸という状態のエルディバルト兄は、海水が滴るシャツを力いっぱい搾り上げて水気を飛ばし、それでもってソレで乱暴に自らの髪をふきながら顔をしかめた。
「優先順位が判らんっ。嫁、あんたは風呂と着替えをすませてまっていろ」
「あたしも行きますっ」
そのまま広いホールを乱暴な足取りで行こうとする相手に、慌てて自分もと同行を申し出たがびしりと指を突き付けられた。
「そんな濡れネズミで何ができる。身なりを整えてまっていろ。この先誰に会うにしたって、そのナリじゃまずいだろ」
「ルティアはっ」
「だーかーら、それを確かめてきてやるっていうんだ、ボケ嫁っ。
おまえ達、あとは任せたからなっ」
後の台詞はその場にいる神官服の一団へと向けられ、あたしは相変わらず複数の女性にわらわらとタオルを押しつけられた。
「どうぞ、浴室に」
冷淡ともいえるほど静かにかけられる言葉にぐっと奥歯を噛みしめる。先ほどルティアの件を耳にしているだろうに、彼女達にとって今大事なのはぐしょぐしょに濡れて突然現れた珍客が、神殿を濡らすのを拒絶することだけだとでもいうように。
「ルティアは……どうなっているんですか?」
「わたくしどもはお答えすることはできかねます」
「どうして、ですか?
だって、ルティアは神殿官の――ユリクス様の娘ですよね? だったら、ここは神殿なんだからっ」
「あちら様は神殿官。私共は神官です」
淡々と切り返される。
その意味がつかめなくて、焦りばかりが募っていく。
そんなあたしの戸惑いを不憫と思ったのか、エルディバルト兄に報告をしていた門兵がそっと首を振った。
「その方達は決められたことしかできません。無茶をおっしゃられないでください。現状彼女らの仕事は転移門から現れた人物の世話と定められている。それ以外のことに反応はしません」
神官とはそんなにも統制されたものなのか。いや、そもそもそれは統制なのか。苛立ちに彼女達を見返せば、ふと違和感に眉間に皺が寄った。
その顔に見覚えがある訳ではないのに、自分は彼女達を知っていると感じたのだ。以前にも神殿で女性神官達に世話を受けたことがあるが、その時と感じが似ている。
――彼女達は一様に無表情で淡々としていて、ただ自らの仕事のみをこなす。
それはユーリの屋敷にいる女性達と一緒だった。ただ静かに、自らのすべきことをこなしていく姿は、まるきりそういう動作だけを許された自動人形すら思わせる。
なんともいえない薄気味悪さを感じて、ふるりと身が震えた。
転移門の門兵は「もういい。こちらの女性を浴場に」と声をかけ、それによってぴたりとあたしの体から水気をぬぐう行為が止まった。
「ご案内いたします」
半眼を伏せて礼をとる女性に、慌ててこくこくとうなずいた。
全身びしょぬれなのだから風呂に入るのも着替えをするのも構わない。むしろ望ましいことだけれど、問題はまったく何がおこっているのかさっぱり判らずに放置されるというこの現状だ。
何度か説明を求めてみたけれど、先ほどの門兵さんの言葉の通り、無視されるということではないけれど「判りかねます」という静かな答えが向けられるのみ。
ユーリも気になるけれど、とにかく今はルティアのほうが気にかかる。
そう、ユーリを殴るのは後でいい。
あたしは無駄にぎゅっと拳を握って、ただただ流れる時間を耐えた。
簡素なワンピースに身を包み、髪は簡単に結い上げられた。化粧までほどこそうとするのを止めた頃に、あたしを迎えに来たのは固い表情のエルディバルト兄――ではなく、エルディバルトさん当人だった。
普段通りの髭と騎士らしい姿にかかわらず、その表情は憔悴して覇気がない。でも相手のことなど構わずにあたしは詰め寄るようにして「エルディバルトさん、ルティアはっ?」と声を上げた。
エルディバルトさんはあたしをじっと見ていた。
声を荒げることも普段通りの不愉快そうなまなざしでもなく――どこか強張ったような表情で、唇の端が小さく引きつれている。
驚いたことに、それは迷子の子供のように見えた。
今にも泣き出してしまいそうな強い感情を押し込めているような表情に、あたしのほうが戸惑う。
「エルディ――」
おそるおそるもう一度名を口にすれば、「……来てくれ」と掠れる声を絞り出し、エルディバルトさんはくるりと身をひるがえし、あたしは慌ててその背を追いかけた。
「ルティアが重体って、嘘ですよね? だって」
暴漢に襲われて重体――怪我であれば、治癒できるのではないか?
それは医者だとか薬剤師の領域ではなく、魔法使いの領域として。ここにはユーリがいるのだから。
以前にも何度か、魔法は無限ではなくて早々使って良いものでは無いと言いながらもユーリは怪我やら痛みは治癒してくれたものだ。
そのユーリがいるのだから、たとえ報告を受けたその時に重体であったとしても、いまは――謎の焦りを感じながら小走りでおいかけるあたしに対し、エルディバルトさんは無言で廊下を突き進む。
神殿の建物を抜け、外へと出ると待っていたのは馬車。
無言で馬車に乗るようにと示され、あたしは唇を噛むようにして馬車に乗り込み、そしてエルディバルトさん自身も馬車に乗り込んだ。あたしが席につくのを確認するのもそこそこに、エルディバルトさんがどんっと座席の板を蹴ると馬車はごとりと動き出す。
エルディバルトさんはあたしとは反対の席に座り、そして大きく――大きく息を吐き出した。
「エ……」
「あと、四日だった」
エルディバルトさんは足を広げるようにして座り、太ももに両の肘を押し当て――両手で自分の額と目とを覆いつくすようにして項垂れるようにして、ゆっくりとそう言葉を吐き出した。
「あと四日。
なぜ、来たんだ。おまえは、私を更に絶望させに来たのか? それとも、希望を与えてくれるのか?」
「全然話が見えないんですが」
もともとこの人とまっとうに会話ができたかといえばそうではありませんが、なんですかね、この人ときたら。
ちょっといらっときたところで、エルディバルトさんは肩を震わせて笑った。
それはぞくりと背筋が凍りつくような、歪な笑い。
「ルティアは、あと四日で死ぬ」
「――」
「死ぬんだ」
糞っ!
エルディバルトさんは口汚く罵るように吐き出し、感情を抑え込むように肩を揺らし、笑う。
「いいや。もう死んでいるんだ。
もうっ。死んだんだっ。死んでいるのにっ。なぜっ、なぜっ、お前は来てしまうんだっ」
「エルディバル、ト、さん?」
「なぁっ、なんでっ」
エルディバルトさんは狭い馬車の中で怒号を発し、がばりと顔をあげてあたしの両肩を押さえつけるように掴んだ。
つかまれているのが肩であるのに、その力はあまりにも強くて首でも絞められてしまうのではないかという恐怖がたちのぼってくる。
あたしは身じろぎして逃れようとしたが、相手の力は微動だにせずあたしを押さえつける。
「やっと飲み込んだものをっ。お前は私を苦しめる為にまた現れたのかっ」
「ちょっ、痛いっ。いったい何なのっ」
――ルティアが死んだとか、死んでいるとか。絶対に無視できないワードが幾つも飛び出すのに、相手の勢いがありすぎて口もはさめないし、何よりエルディバルトさんの焦燥と勢いが恐ろしい。
身を縮めたあたしを抑え込み、低く怒号を抑えるように言葉を連ねていたエルディバルトさんであったが、歯ぎしりの音があたしの耳にまで届くほど奥歯を噛みしめ、やがて引き絞るように口にした。
「頼む。頼む――今までの非礼はすべて詫びよう。
額づけというのであればそうもしよう。だから、どうか……」
エルディバルトさんはいったん言葉を切り、あたしを抑え込む力を緩めて真摯な眼差しであたしを貫き頭を下げた。
「あの方を、助けてくれ」
――案内された場所は、礼拝堂のように祭壇がしつらえられ、そして、その正面、ルティアは棺の中で眠っていた。
死んでいるという言葉の通り。
棺の中で横たえられたルティアは、自分の腹部で両手を組み合わされ――その瞼は閉ざされて、その瞼は震えることもない。
ひんやりと肌寒さを覚えるそこで幾人かの人々に見守られる形で安置されていた。
すぅっと血の気が引く感覚に、一旦開いた唇がもう一度閉ざされた。
「……ルティア」
それでもやっとしぼりだした呼びかけにも応えず、ルティアは純白の花嫁衣裳を着せられて――まるで、美しい非現実の光景のように。
ルティアの棺の傍らにはユリクス様がいて、あたしの姿にすっと身を引いた。
「ナフサート嬢」
「……生きて、いるんですよね?」
口元が引きつった。
ここにたどり着く前までに、エルディバルトさんから聞いた言葉のままに問いかけた。
「生きているのにっ。棺なんてまだ早いですよっ」
眠っているだけだ、と。
エルディバルトさんは言っていた。暴漢によって傷つけられた傷をそのままに、竜公はルティアの治療をしなかった。そのかわり、眠らせたのだ。
「竜峰の竜と同じように――生きてはいるけれど、ただ眠っている状態」
そうして彼は突き付けた。
「このまま眠り続ければ、竜ならざる普通の娘のルティアは死ぬ。次の竜公の選定を早めなさい――次の魔法使いが彼女を目覚めさせなければ、彼女は一週間後には死ぬことになるでしょう。彼女を救いたくば一刻も早く、代替わりをすることです。
私にはもう魔力が少なく――そして、魔力を補充する気持はないのだから」
***
ほぅっと、吐息がくちから落ちた。
疲れているつもりはなくとも、自分が疲れているのだと――なぜか突然そう実感する。
「姫さん?」
問いかけに、むっと唇が歪んだ。
「淑女が寝ている部屋に入ってはいけません」
「俺は見張りだ」
そうきっぱりと邪心無く言われ――おそらくきっと理不尽であろうが、さらにむっとした気持ちになる。
「リドリーはどうしました?」
「まだ戻ってない。医務室じゃねぇの? あのうるさい姉ちゃん、リドリーがいないと本当にやかましいから」
肩をすくめていうアジスの言葉に、アマリージェは同意した。
――うるさい姉ちゃん、というのはリドリーの妹だ。
初めて会った時は、その焦燥に驚き同情も沸き起こったものだが、数日共に過ごすようになって思ったことといえば。
――依存。
まるで一人では立つことすらできないのではないかという程に弱弱しく姉であるリドリーやマーヴェルに頼り切っている。病がちで不安なのだろうとも思うが、子供のようにリドリーやマーヴェルに笑いかける反面、ちらりと視界に入り込むアマリージェへと冷ややかなまなざしを向けてくる。
今まであそこまでの敵意に触れたことは無い。
リドリーにその敵意を隠していたかと思えば、あからさまに見せようともする。そうすると、リドリーが困ったように「マリー、ごめん」と謝ってくるのがまた――奇妙な感情を抱かせる。
――依存。もしくは共依存。
リドリーは妹を突き放そうにも突き放せない。
そして、妹はそれを十分に理解しているように見える。
嘆息がもう一度くちから漏れた。
なんという不毛な関係か。
「どうした、姫さんっと」
嘆息を気に掛けるようにアジスが首をかしげるが、ふいにアジスは眉間に皺を寄せた。
「なにか?」
「いや、船の向きが変わった挙句に突然動き出した」
「よく、わかりましたわね」
この船に乗って驚いたことといえば、その動きがまったく判らないということ。
あまりにもなめらかに静かに動きすぎて、まるで大地にたつ家にいるようにと錯覚する程動きが判らない。今もアジスが船の向きが変わったというが、アマリージェにはまったくわからなかった。
「動いたよ。だからわかったけど、もしかしてこの船しばらく停泊してたか?」
眉間にさらに皺を寄せてぶつぶつと言うと、アジスは椅子に掛けられていたストールをひったくり、アマリージェへと差し出した。
「姫さん。疲れがとれたのなら一緒に行こう。デッキに出ればなにか判るだろうし」
――極力アマリージェを一人にしないようにと行動する年下の少年に、アマリージェはちいさく微笑した。
「身支度を整える時間を淑女には与えるものですよ」
「姫さんは寝起きでも見苦しくなんかねぇよ」
素で言っているのであれば、彼は大人になれば相当問題を招き起こすことだろう。
これでは到底目が離せない。
軽く小言を含みつつデッキへとでれば、甲板上では人があわただしく動いている。アジスが見知った男にいくつか声をかけ、やがてアマリージェを引き連れて操舵室へと行くと副艦長が航路図を眺めているところにぶち当たった。
「なにか慌ただしいようですが」
「大丈夫ですよ。お嬢さんはどうぞお気になさらず――と、いったところでこの報告はしておいたほうがいいですね」
子ども扱いで放置しようとありありとわかる態度を見せたが、すぐに気をかえたように副艦長は視線をあげてアマリージェを見た。
「うちの艦長とリドリー・ナフサート嬢は先に聖都に行かれました。
この船は転移門が機能せずにおいてけぼりです。当初の予定より日数がかかりますが、海路を変更して聖都へと入る所存です」
「先にって、どうやって?」
「竜公の指輪の魔力を使わせてもらいました。人間二人程度は移転するのに問題はありませんが、さすがにこの軍艦は無理ですから――他に問題はありません。どうぞ部屋に戻ってゆっくりとなさっていて下さい」
淡々とした返しに、はいそうですかとにっこりとは笑えない。
意味は判りづらいが、どうやら置いてきぼりをくらってしまったようだ。
アマリージェは軽くそっと首を振り、隣に立つアジスは「ゲッ」とつぶやいた。
「なにか問題が?」
副艦長の問いかけに、アジスは無意味に手のひらをグーパーと繰り返した。
「俺らは別にいいけどよ。竜公の不思議には慣れてる。
だけど、あのねぇちゃん――と、兄ちゃん、納得するかね?」
――リドリーは魔法の力によって聖都に転移しました。
ふつうに聞いたら意味不明だ。
三人の視線が複雑に絡み合う。
やがて口を開いたのは副艦長であった。
「……彼らは魔法に触れたことが無い?」
「俺なんかはもともとコーディロイを知っていたから、そんなモンもあるっていう認識だったけど。そもそも隣町だったから、実際に目にすることっていうのも滅多になかったしなー。
一般的に言えば竜公なんざおとぎ話の住人だし。魔法使いなんて絶滅してるだろ」
誰が彼らにリドリーの不在を説明するか。
どう考えても一番大人でありこの船を現在管理する立場である副艦長が適切であろう。
その思いも込めてアマリージェとアジスの眼差しが副艦長に向けられるが、副艦長は視線をそらした。
***
「ルティアを救いたいか?」
棺に眠るルティアを呆然と見下ろすあたしに向けられた問いかけに、あたしはぼんやりと視線を巡らせた。
静謐な空気に満ちた聖堂の雰囲気が一変する。静謐さから緊張へと。
居合わせた人々が皆一歩退き、軽く礼をとる。おそらくこの場で一番偉いユリクス様ですら居住まいをただすその人の――正体をあたしはすでに知っている。
思考能力の落ちたあたしは慌てることもできず、ただたちあがり息をのむ。
そんな、おそらく非礼に当たることすら気にかけずに壮年の男性は口元を歪めて笑った。
「あやつなれば何かを変える――いや、何も変えることなく時を過ごすことができるだろうと見誤ったのは私だ。思いのほか早い代替わりも、やつが望むのであれば致し方ない。だが、魔法使いの選定には時間がかかる――魔法使いはこの国で唯一。これ以上選定に過ちがある訳にはいかぬゆえな」
幾度か見かけたその人は、ふざけた物言いで自らを「おじさま」と言う。
だがそんな態度も今はなく、ただ鷹のような鋭いまなざしで問いかけてくる。
「それでもルティアを救いたいとお前が言うのであれば、代替わりを急いでも構わない。
お前が――今代において何一つ望まなかったあやつが真実望んだ竜の贄であるのだから」
眼差しは冷たく、視線を逸らすことを許さない。
あたしの喉の奥がからからに乾く。
あたしは今、突然重大な決断を突き付けてられているにも関わらず――何一つ現状を把握してはいなかった。
ユーリとちょっと離れているだけの筈だった。
ただ、自分の内にわだかまるものを綺麗に清算したくて郷里に行くだけの筈であったのに。
突然、しているのかしていないのか判らないような婚約を一方的に破棄されて、理由も判らずに別れを告げられた。
そうして、それでも当初の予定通りに郷里に戻っている間に――
いったいぜんたいあのボケカスは何をしているんだろう。
本当に、ほんっとうに目が離せないったらありゃしない。
「……さっき、竜公には魔力が無いと聞きました。魔法が、使えなくなったのですか?」
「あやつの能力は無尽蔵では無い。負担がかかるものだ――その負担を補うことを、あやつはやめてしまった。だから魔力も底をつく。魔力がなくなれば竜を眠らせることもできなくなる。そうとなれば――こちらとしても竜公を新に選定しなくてはならない」
「陛下は、竜公に命令できるのですよね? それならば、魔力を補うようにと命じれば」
以前、ユーリは確かにそう言っていた。
自分には主がいる。主だけが本来竜公の名を掌握し、その名をもって命じることができるのだと。
――だからこそ、ユーリの名を知っているということを決して他人に知られてはいけないのだ。
ユーリは、二人の人間に名を握られている。
本来の主である陛下と――そして、あたしに。
「私はあやつの生涯において唯一の命令を下している。それ以外、命じることはしない」
きっぱりとした言葉に、その強い眼差しに。
あたしの中にあった謎が解けてしまった。
あたしが本来陛下に拝謁を求めた理由が――言われてもいないのに、氷塊してしまう。
あたしは目を見開いた。
なんということだろう。
なんて、ひどい。
ユーリは傷ついていたのに。
悲しいんでいたのに。
あんなに――
「あたしは、竜公の名を知っています」
淡々としたあたしの告白に、その場にいた神官以外の人間がざわめいた。
それはどう考えても自殺行為で、絶対に告げてはいけない言葉だ。それでも、あたしは口にした。
その名を付けた人を前に。
「その名を、呼んだことはあるか?」
「いいえ」
「だろうな――」
ふんっと、陛下が鼻を鳴らす。
あたしは泣き笑いの表情で相手を見つめた。
「アレは、あの名は――あなた様ご自身のことですね」
その名を告げて命令を下す時。
それは命令を告げるものに突き付けられる。
咎人――ユーテミリアと。
この面前のその人は、自らへとその名を冠したのだ。
それは自らへの強い戒めとして。
「なんて、なんて……ひどい」
ユーリの気持ちはどうなる。
自らにつけられた名前に傷ついていたユーリのことなど少しも考えていない。なんという独りよがりなことだろう。
ぐっと拳を固めたあたしを、細めたまなざしで見つめる男は唇を歪めるようにして笑った。
「さあ、どうする。竜の贄よ」
――おまえは、どちらをとる?