表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の魔女の拾いもの  作者: 茜菫
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/71

第5話 私と彼の決意 (4)

食事を終えた後は、二人で腕を組んで街中をゆっくりと散策したり、公園のベンチに座ってお喋りに興じたり。ひと通り話を終えると、何を話すわけでもなく寄り添って、二人で風に揺れる花を眺め、鳥のさえずりを聞きながら同じ景色を共有する。穏やかで、安らぐ時間だ。


日が傾いて赤に染まる頃には店に戻った。退屈していたのか、留守番をしていた猫は帰ってきたアルベールの足にじゃれついて、小さく笑んだ彼が猫になってしまった兄を抱きかかえるのを見ながら、このまま穏やかな日々を過ごせたらいいのにとぼんやりと思う。だが、これは仮初の平穏なのだとも、理解もしている。


「あの、ちょっとだけ今日の夕飯の材料を買ってきます。」


「では、私もお供を」


「大丈夫です、ちょっとだけなのですぐ戻りますし。」


店に戻ってくるまでに一緒に買いに行くという手もあったのだが、何となくあのデートを特別にしたかったので、こうして戻ってきた。買い出しなどはよく一緒に行って、殆どの荷物を持ってもらうことが多く、それをするとなんだかいつもと同じ感じになってしまいそうな気がしたのだ。


それが伝わった、という訳ではないだろうが、アルベールはあっさりと承知しましたと言って引き下がる。結構、彼はこうみえても頑固なので、食い下がらないのは珍しい。


「じゃあ、ちょっといってきます。」


「はい、いってらっしゃいませ。」


いってきます、いってらっしゃい、この世界では無いその言葉のやり取りをしながら、私の習慣に合わせてくれるアルベールに心の中で感謝した。それと同時に、彼はいつでも私を優先してくれるので、なんだか申し訳ない気持ちになる。


昼間よりも人の少なくなった、赤く染まる街並みが眩しい。今日の夕食はアルベールが喜ぶようなものを作りたいなと考えながら、早く用事を済ませてしまおうと早足で歩く。


アルベールは私の手料理を好きだと言ってくれていた。なんでも、出会って初めに出した朝食の、冷たいじゃがいものポタージュがお気に入りらしい。今では食べることを楽しんでいるアルベールだが、それまでは食事を楽しみにしたことは無かったそうだ。


軟禁状態であったとはいえ、王族である彼が口にするものはいいものばかりであっただろうに、それまで食べてきたものの味はあまり分からなかったらしい。食事も誰かと一緒にとることがなかったそうで、どんな料理も食べた気がしなかったというのはきっと、精神的なものだったのだろう。


そう思えば、今日の笑顔で会話をしながら料理を平らげ、ケーキを差し出してきたアルベールはとても幸せそうで、胸があたかくなる。彼がこのまま心穏やかに過ごすことが出来ればいいと思って、口元を緩めた。


「すみません、そこのお嬢さん。」


そんな時に、横手から声をかけられて足を止める。声のするほうを見れば、若い女性が立っていた。亜麻色の長い真っ直ぐな髪を後ろでひとつで束ねていて、黒縁の眼鏡の下から水色の目がこちらを珍しそうに覗いている。腰に帯剣しており、王都では珍しくもない傭兵といった風貌だ。ただ、どこかで見たことがあるような気がするのだが、自分の狭い友好関係の中には記憶はなく、相手もお嬢さんと呼ぶくらいなのだから知り合いではないはずだ。そんな人間から声をかけられる理由はないはずなので、少し警戒していると、彼女は眉尻を下げて笑う。


「急に声をかけてごめんね、お嬢さん。私、王都に来たばっかりで困ったことがあって…丁度、前を通りかかってくれたお嬢さんに声をかけさせてもらったんだ。」


確かに、大きな通りから何本か裏に入ったこの道は、人通りが少ない。現に、私の近くには人がおらず、遠くに数人見える程度しかない。


「なんでしょう?」


「人探しをしていてね…ちょっと、協力をお願いしたくて。」


そう言って、困ったような表情を浮かべながら近づいてきた彼女に、何故か言いようの無い不安がわきあがった。なんの根拠もないのに、これは関わってはいけないと直感が告げる。女は笑顔だし、敵意もなさそうに思えるのに、嫌な気がして首を振った。


「ご、ごめんなさい、私急いでいて…」


一歩下がって断りを入れ、そのまま背を向けて走り出そうとしたところで手首を掴まれ、驚きに目を見開く。初対面のはずの人間にこのように触れられるなんて、異常事態だ。肩越しに振り返れば悪戯っぽく笑った女と目が合って、本能的に恐怖を感じる。


「…離してください、声を上げ…っ?!」


言い終わる前にぐっと手を引かれてバランスを崩した体を抱きすくめられて、反対の手で口を塞がれた。恐怖に体が竦み、そのままズルズルと路地裏に引き込まれる。抵抗しなければと思うのに体は思う通りに動かず、声を上げることすら出来なかった。

人通りが少なかったためか、私たちに気づくものはおらず、この道を通るのではなかったと後悔しても遅い。最悪の場合は魔法を使って逃げ出すことも考えながら、今は未だ相手を刺激しないように、恐怖で震える身体と心を叱咤して相手の出方を待つ。


「私が探している人はねえ、珍しーい赤い目をした、すっごく綺麗な男の人なんだけどね?」


女が耳元で囁くように告げた内容に、心当たりはある。私は今までに、赤い目をした人間は二人しか見たことがない。今は亡き魔女エイダと、アルベールだ。アルベールは元々追われていた身だ、そのことを思い出せば、彼女をどこで見たことがあったのかも思い出す。


アルベールが黒の森の奥に入り込む直前、彼を襲っていた男女二人組がいた。水瓶を通じてだったのではっきりと見たわけではなかったから、すぐには思い出せなかったが、その二人組の片割れの女の顔が彼女の顔だ。


(まさか、エールランの王都まで追いかけてくるなんて…)


アルベールはアフロートの王子で、追われていたのも黒の森のアフロート側に面する場所だ。黒の森からは、このエールランの王都は随分離れているし、何より呪いの効果は私が覆い隠していたので安心していた。まさか、国を越えてここまでたどり着くとは思わなかったのだ。


「恨むならあの美しい容姿でも恨んでね。あれだけ目立つからねえ。」


小馬鹿にしたような声音で、女が吐き捨てるように言った。元々、アフロート国内でも死んでも尚噂されるような容姿の王子なのだ。確かに、店にもどこで知ったのだと聞きたくなるくらい、彼を一目見ようとやってくる女性の客も増えた。それくらいに、彼の容姿は美しくて目立つ。


「それで、お嬢さんには協力してもらいたくて声をかけさせてもらったんだ。ね、大人しくしてくれさえいれば、お嬢さんを傷つけるような真似はしないからさ。」


水瓶に映ったのは二人組、この女には他に少なくとも男の仲間が一人いるはずだ。今、近くには私がわかる範囲ではいない。隠れ潜んでいるのか、本当にいないのか、それが分からなければ下手に抵抗する方が危ないだろう。


「お嬢さんはいい子だね。」


抵抗する気はないと意思表示する為に大人しくしていると、女は優しげな声でそう言った。作ったようなそれに、思ってもいないくせにと言いたくなるが、ぐっとこらえる。

アルベールを彼らに引渡すようなことはしたくない。再び彼が自由を奪われるなんて、絶対にさせてはならない。けれども、この現状を打破することは、今の私には難しいだろう。私が傷つき、最悪死ぬようなことになれば、苦しむのはアルベールだ。それも避けるべきだ。


幸いか、私はこの女ともう一人の男のことを知っているが、彼等は私が魔女の弟子だということは知らないはずだ。よく知っても、異国から来た魔法使いの女と言うだけだろう。


機を見てなんとかこの現状を打破しなければ。恐怖で震えてしまうが、アルベールの事を思い出して覚悟を決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ