表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

end

「これ、前もらったテディ・ベアに、仕込んでたの?」

「そう。チロルを撮ってるのと同じカメラが入ってたんだよ」

 だからあのベアは、大きさのわりに重かったんだ。私はいまさらながらに気づいた。

 幹直君が隣に座ると、ベッドのスプリングが大きくきしんだ。身構える間もなく、私はいとも簡単に、彼に押し倒されてしまった。

「ずっと、茜ちゃんのこと見てたんだ」

 彼はずっと、私のことを見ていた。

 だから、私のことを良く知っていた。貸してくれた本だって、私の好みを知っていたからこそ選ぶことができた。部屋に運ばれたご飯の内容も。ベアを抱きしめて眠った時の寝顔も、着替えている時の下着姿も。

 私がどんな男性を好きになるのかも。

「いつから、私のこと知ってたの?」

「ずっと、前から」

 あのコルクボードには、出会う前であるはずの、幼いころの私の写真まであった。ずっと、と重く響く言葉が、塾で出会う前からだとすぐにわかった。

「僕のこと、好きになってくれて嬉しかった。茜ちゃんに好きになってもらえるように、頑張ったんだ。大変だったよ」

 私の上に覆いかぶさり、見下ろしてくる幹直君。彼は私の理想の人そのものだった。王子様があらわれたと、本当に思っていた。

「チロルに会わせるって誘ったのは、嘘?」

「そうだよ」

 私の興味をひくためだけに、犬を飼っていた。悪びれる様子もなく、幹直君は笑う。頬を撫でられ、私は身体がびくりと震えた。

 胸がどきどきしていた。でもこの鼓動の早さが、いつものときめきではないと私にはわかる。押さえつけられた手首がふるえていた。

「茜ちゃん、こわいの?」

 私は答えられなかった。ふるえてしまいそうなる唇を、噛んでこらえていたからだ。だから一言も、喋ることができなかった。

「こわいよね。ずっと自分が見てると思ってたのに、本当は自分が見られてたんだから」

 彼は私が、自分のことを事細かに調べていたこともすべて知っていた。知っていて、知らないふりをしていた。そして彼のことを少しでも多く知ろうと動きまわる私を、影からずっと、見ていたのだった。

 私は昔、彼に会ったことがあるんだろうか。考えても、まったくわからない。私が幹直君のことを知ったのは、塾で会った時。その前なんて知らない。誰かわからない。

 でも彼は、私のことをずっと見ていたんだ。

「茜ちゃんが、ずっと欲しかったんだ」

 そう呟いて、幹直君は私の首筋に顔をうずめた。唇が鎖骨に触れて、私は肌が粟立つのを感じた。覆いかぶさる大きな身体が、強い力で私を押さえつける。とてもじゃないけど敵わない。逃げることなんてできなかった。

 その大きな身体。力強い手。私を見つめるうっとりとした瞳。熱っぽく上ずった声。

 とても恋しかったはずの彼が、今、とてもこわかった。

 私が幹直君を好きになったんじゃなかった。

 彼が私に、好きになるように仕向けていた。

 私は気づいたのが遅かった。

「やめて……!」

 悲鳴をあげても、誰にも届かない。助けを呼ぼうとした私の唇を、彼の唇がふさぐ。

 こんな人知らない。私が知っている幹直君はこんな人じゃない。けれど私を押さえつけている彼は、私が恋焦がれていた理想の王子様そのものの姿をしていた。

 彼は私の耳朶に濡れた唇を寄せ、囁いた。

  

 マイ

 スウィート

 スウィート

 スウィートハニー

 今日から君は僕のもの。



      END  


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ