27:にわか仕込みの自警団
投光器級の魔導ランプが一斉に発光し、漆黒の装束を纏った三人の隠密を白日の下に晒した。
商業ギルド連盟が莫大な報償金で放った影の処理屋。
だが彼らは今、飛び越えた外壁の先が、俺が計算し、ヴィンが仕掛け、レギナが配置を練り上げた完璧な『捕獲檻』の真ん中であったことを悟っていた。
「……ッ! 罠か! 突破するぞ!」
筆頭格の男が低く叫び、魔力を通した短剣を構えて身を低くする。
彼らの身体能力なら、光で照らされようが強行突破できるはずだった。
だが、彼らが踏み出そうとした瞬間、足元の影から銀色の閃光が疾走した。
「一歩でも動けば、その首が飛ぶ」
レギナの長槍だ。
予備動作すら見せず、手首の返しだけで三人の喉元スレスレに穂先を滑らせ、その足を強引に縫い止める。魔法の装飾などない、純粋な殺陣の極致。
「散れ!」
隠密たちが即座に散開し、死角を突いて左右の細道へ駆け出す。
しかし、逃げ込もうとした通路の奥から、ズシン、ズシンと重く揃った足音が迫っていた。
「慌てるな! 歩幅を合わせろ! 隙間を作るな!」
巨漢ガルムを先頭に、巨大な木盾を隙間なく並べた警備隊が立ち塞がる。
かつての彼らなら、殺気に気圧されて不意を突かれていただろう。
だが今、彼らは己の恐怖ではなく『隊列の維持』に全神経を注いでいた。
隣の仲間と肩を押し当て、巨大な壁となって空間そのものを削り取ってくる。
「……なんなんだ、こいつらは……ッ!」
戦闘力なら隠密が上だ。だが、相手は『決闘』をしてくれない。
巨大なプレス機が不純物を押し潰すように、ただ機械的な『工程』として逃げ場を潰してくるのだ。
痺れを切らした一人が、耐火レンガの壁を蹴って屋根へ跳躍した。
だが、跳躍の頂点で鋭い笛の音が夜気を切り裂く。
「屋根の上も可動域内だよ! 特製のお見舞いだ!」
屋根の影からヴィンデールが投射器の引き金を引く。
放たれたのは、樹液を煮詰めた粘着弾。空中で体勢を崩した隠密は体に粘液を絡め取られ、ベチャリと不快な音を立てて地面へ叩きつけられた。
逃げ場は完全に潰れた。 押し寄せる盾の壁と、寸分のブレもないレギナの槍。筆頭の男は壁際へと完全に追い詰められた。
「……くそがっ!」
男が半ばヤケクソで短剣を握り直した、その時。
無音で、頭上から影が舞い降りた。
月光を背に受け、黒いロングコートを揺らし、俺は、腰の無骨な長剣を静かに抜き放った。付与魔法の光すらない、ただの鋼。
だが、その構えを目にした瞬間、隠密の筆頭は全身の毛穴を逆立てた。
一切の揺らぎがない剣先。
自分の間合い、呼吸、重心のすべてが、相手の刀身に完全に捕捉されている感覚。
戦場の修羅場をくぐり抜けてきた男だからこそ、瞬時に理解してしまったのだ。
目の前の男が、この強固な防壁の最後にして絶対的な『蓋』であることを。
カラン、と。 隠密の筆頭は自ら短剣を手放し、ゆっくりと膝をついた。
「……掃討完了だな。ガルム、彼らを地下の収容室へ。怪我があればアンナのところへ運べ。……せっかくの『資産』だ、丁寧に扱え」
「了解しました、代表!」
ガルムたちが規律正しく捕虜を拘束し、連行していく。
自分たちの手で職場を守り抜いたという不敵な自負が、その背中に宿っていた。
建物の影から、セリアーナが平然とペンを走らせながら歩み出てくる。
「代表。刺客三名の無傷での捕獲を確認しました。……さて、この不法侵入者という『生きた証拠』を使って、商業ギルド連盟にどのような内容の請求書を送りましょうか?」
「不法侵入および施設への不当接触に伴う『特別査定費用』だ。……相場の三倍で請求書を打て。奴らが大切に抱え込んでいる金貨で、俺たちの新しいインフラを整えさせてもらう」
俺は長剣を鞘に納め、東の空から差し込み始めた夜明けの光を見上げた。




