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ヴァルキリーバトル  作者: 弓師啓史


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9/23

9 悪魔

新登場人物

なし



1,小惑星入り口付近

ハッキング作業をするトウドウ。

彼の後ろにケイティ・マンローと十人程の子供たちがやってくる。


トウドウ「ああ、もう来られましたか。大丈夫ですよ、危険なものはいないようです」

ケイティ「ありがとう。この子たちが生きて行くのに十分な物資と施設があると聞きましたが」

トウドウ「ええ、ここは恒久的な施設です。設備も全部生きていますね。データを送るので見てください」


ケイティが持つデータパッドに小惑星の地図や物資の在庫データが送信される。

ケイティは興味深げに見ていたが、


ケイティ「この部屋、武器庫みたいね。まだ入れないのかしら」

トウドウ「ああ、そこは個人兵装がある場所です。優先度は低いだろうと思って後回しにしてました」

ケイティ「開けてもらえます?」

トウドウ「武器に興味があるんですか? なぜ?」

ケイティ「まだ完全に安全とわかったわけじゃないわ。武器が必要よ」

トウドウ「確かに、そうかもしれませんね。ちょっと待ってください」


トウドウは特に疑問も感じないのか応じてしまう。

専門知識と技術は高いが、それ以外のことは本質的に無関心なのかもしれない。

数分の作業であっさり開けてしまう。


トウドウ「開きましたね」

ケイティ「ありがとう。それにしても、一々あなたが開けて行かないと全部が開かないのね。何とかならないの?」

トウドウ「ええ、マスターキーがあればいいんですけど」

ケイティ「マスターキー」

トウドウ「カードのようですね。ここの所長のカードがあれば、全部開きますよ。海兵隊にも探すように言ってるんですが」

ケイティ「形状はわかるかしら、色とか」

トウドウ「金色のカードです。ここのAIがそう言ってますよ」

ケイティ「探してみるわ……ん? この所長室に行けばあるかもしれないわよ」


ケイティが指す部屋はいくつかのセキュリティを突破しないと入れないようだ。


トウドウ「確かに、そこにマスターキーがあれば、ここで頑張らなくてもいいかもしれませんね。優先しますか?」

ケイティ「ええ、お願い」

トウドウ「いいですよ、ここに住むなら、マスターキーが無いと不便ですからね」


トウドウは陰気だが根が親切な男だった。

ケイティは作った笑顔でうなずく。

トウドウは荷物をまとめると所長室に向かう。

ケイティは個人兵装の倉庫に向かう。



2、小惑星居住区

個室が並ぶ一帯を楽しそうに探索するレイと子熊二匹。

時々、私物のようなものが落ちているがほとんどがガラクタである。

基本的にがらんとしており、まるで廃墟のようだった。


レイ「ん? この部屋」


その部屋はほとんど物もないが、若干、人が住んでいたような形跡があった。


クロ「ハイアクスパイロットが住んでたのか。私物もほとんどねぇな。刑務所みたいだ」

レイ「あ、これ」


レイは倒された写真立てを発見する。

ピンク色の髪の幼い少女と、中年男性の写真。

中年男性は顔の部分が刃物で破かれている。

男の体型から、中年男性の雰囲気。


クロ「……」

レイ「この女の子わたしかしら。誰だろう、このおじさん」

キナコ「僕たちはわからないよ、全然。レイは何か覚えているの?」

レイ「わからないけど、このおじさんが優しい人だって感じる」

クロ「そんなもの気持ち悪いぜ。捨ててしまえ」

レイ「そんなことできないわ。何でそんなこと言うのクロちゃん」

クロ「顔が消されてるとか、変だろ。おかしな奴がいたんだよ」

レイ「でも……」

キナコ「そうだね、人間で言うなら縁起が悪いよ。その写真は気持ち悪いよ」

レイ「キナコちゃんもそういうなら……」


レイは写真をもとの場所に置く。

そして、その部屋を出た。

また少し歩くと、壁に赤黒いしみが幾つもあった。

よく見ると、壁に小さな穴があり、金属の輝きが見える。


レイ「なんだか汚れてるわ」

キナコ「こ、ここは汚いからすぐに他の場所に行こうよ」

レイ「いいけど……」


キナコとクロでレイの手を取ってその場を後にする。



3,個人兵装の武器庫

ギイ。


扉を開けてケイティが入ってくる。

アサルトライフルや拳銃、その他いろいろな武器が幾つも並ぶ。

自動拳銃を一丁手に取る女。


ガチャ。


手慣れた感じでスライドさせ、細々とチェックする。

眼は鋭い。


ケイティ「ソル王国軍の正式拳銃ね、古いけど使えるわ」


ニンマリ笑う。



4,高セキュリティの倉庫

データパッドを持ったキナコと、ついて歩くレイとクロ。

いかにも高セキュリティを感じさせる装置と異常に頑丈そうな扉。


キナコ「ここは、生体認証だね」

クロ「って、ことは俺のハッキングは必要なく開くかもな、レイの認証で」

レイ「生体認証って何するの、ちょっと怖いわ」

クロ「何にも怖いことなんて無いって。こうやって手をパネルに当てるだけだ」


そう言って届かないパネルを見て、触る動作をする。

すると、赤いレーザーがクロを走査した。


クロ「ん? 何だ?」

人工音声「素体二号の認証しました。セキュリティ開きます。なお、倉庫に入られる方は全員認証してください」

レイ「クロちゃんが行けるなら私もやってみる!」


レイは元気を取り戻してパネルに手を当てる。すると。


人工音声「素体ゼロ号認識しました。お通りください」

キナコ「じゃあ、僕も大丈夫かな」


キナコが手を上げると、赤い線が走査する。


人工音声「素体一号認識しました。お通りください」

クロ「俺たちってもしかしたら通番の『素体』なのか。レイもゼロ号だって」

キナコ「そうみたいだね」


非常に頑丈な扉がゆっくり開いて行く。

エアロックがあり、先に薄暗い倉庫が見える。

レイと二匹は入る。



5,所長室

作業をするトウドウ。

小一時間の作業の後、ついに屈服するかのように開く扉。

プシューという音と共に扉が横にスライドし、若干の悪臭が流れ込んでくる。


トウドウ「臭いな、腐敗物でもあったのか。空気循環は生きているようだが……」


そうつぶやきながら所長室に入る。

生活感があり、乱雑な机、モニター。

ミイラのように干からびた死体が椅子の横に倒れていた。

死骸は白い研究服を着た男、それ以外はよくわからない。

床には血が流れた跡があり、乾燥してパリパリになっている。

彼の手には金色のマスターキーがあった。


トウドウ「死体があったのか。ケイティさんの勘が当たったね」


トウドウはしゃがみこんで拾う。


ケイティ「見つけたのね、マスターキー」

トウドウ「ええ、これですね、形状が話と一致します」


振り返って、カードを見せる。微かな笑顔。


ケイティ「それは良かったわ」


女の手には自動拳銃があった。

パン!


銃声が響き、トウドウの腹から血が流れる。

腹を押さえ膝まずく男。


トウドウ「え? なぜ」


パン、パン!


更に銃弾が男の背中を貫く。


ケイティ「ありがとう、トウドウさん。でも、もう用済みなの」


トウドウは出血多量で返事もできない。

消えゆく意識の中でトウドウは必死にケイティを見る。

女は満面の笑みを浮かべていた。



6,高セキュリティの倉庫

薄暗い倉庫に入っていくレイと二匹。

あまり多くの物はない。

大きなコンテナが四つほど。

そして、中央最奥に白いエグゾフレームが立っていた。


レイ「なんだかとってもきれいな子ね」


その白い機体は細く、背が高く、全体的に緩やかな曲線でできている。

背面の各所にバーニアがあり、背中に小さな羽が幾つもある。


クロ「何だろ、見たことがある」

レイ「そうね、わたしもそう思うわ」

キナコ「僕はわからない」

クロ「悩んでいても仕方がない。レイ、乗ってみろよ」

レイ「うん、なんだか他人の気がしないわ」

クロ「エグゾフレームは人ではないが」


苦笑する子熊。

レイが近づくと、搭乗装置が降りてきた。レイとクロが迷わず乗ると上昇する。

腹が開いてコクピットが現れた。

そして、背中の羽の一部が取れ、三角形の板が床にするりと降りて来る。


キナコ「僕はこれに乗るようだね。粒子砲がついてるよ」


キナコが乗り込むとコクピットが閉まって単なる三角形の板になる。

そして、再び背中の羽の一部になった。

レイがコクピットに座り、キナコが補助座席に座ると、光が満ちて起動する。


女性の声「ゼロ号。ようこそ。私はあなたの専用機です」

クロ「へーすごいじゃん、レイの専用機だって」

レイ「わたし、ゼロ号じゃなくてレイ。そして、この子はクロちゃん。名前を覚えて」

女性の声「申し訳ございません、あなたはレイ様、そして、それはクロ」

クロ「気のせいか俺のこと扱い悪くないか」

レイ「あなたは何と呼べばいいの」

女性の声「よければ、レイ様が命名してください」

レイ「うーん、そういわれても。クロちゃん何か思いつく」

クロ「この機体、女戦士みたいだから。ヴァルキリーとかどうだ」

レイ「じゃあ、ヴァルちゃん。よろしくね、ヴァルちゃん」

ヴァル「承りました、私はヴァルです」

クロ「じゃあ、名前はついた。周りのコンテナは何だ」

ヴァル「私の付属品です」

クロ「機体とコンテナ全部持って帰ろうぜ」

レイ「うん、そうしよう! ヴァルちゃん、ここを出たいけど、どうしたら」

ヴァル「天井が開きます、少しお待ちください」


ゆっくりと開いて行く天井。

暗い宇宙が見える。

レイはそっとヴァルキリーを宙に浮かせた。

背中のバーニアが少し青く輝く。



7,輸送船、ブリッジ

ランチ艇が飛び、トッドと海兵隊が戻っている。

その様子を画面から確認するカインと乗組員たち。

トッドがブリッジに入ってきた。


カイン「一応、こちらの任務は完了した。ケイティ、トウドウとレイたちが帰ってこない、どこにいるかわからないか」


画面にケイティが出る。


ケイティ「さあ、いないわね。どこかで遊びに夢中になってるのよ」

カイン「レイならわからんでもないが、トウドウは子供じゃないぞ。連絡も取れないのだが」

ケイティ「海兵隊は全部撤収したのね」

カイン「ああ、彼はこちらに戻ったとあんたが言ったから彼らは何も考えずに帰ったんだ。嘘をついたのか」

ケイティ「そうね。そうよ、嘘をついたわ」


笑う女。


カイン「貴様、何のつもりだ!」

ケイティ「あら、そういえばあの男を見つけたわ」

カイン「トウドウを出せ!」

ケイティ「残念ね、あいつは血まみれで死んじゃったわ」


女は拳銃を見せる。


カイン「殺したのか? なぜだ!」


カインは訳が分からず、頭を振る。


ケイティ「理由はここを私が占拠するからよ。あんたらの紐付きじゃなくて」

カイン「海兵隊を突入させたらあんたはすぐに終わる。こちらにはエグゾフレームもあるんだぞ」

ケイティ「もし、変なことをするならこのガキどもを殺すわ」


ケイティは少し引いて小さな少女を抱きかかえ、こめかみに拳銃を突きつける。


カイン「は? そんなこと俺になんの関係がある。殺したかったらやればいいだろう。諦めて降伏しろ」


パン!


女の拳銃が火を噴く。


少女「きゃあ!」


果たして少女は死ななかった。

しかし、拳銃弾は少女の額を切り、だらだらと出血させている。

少女は泣きもしない。

あまりの恐怖に顔が引きつっている。

様子を見ていた乗組員たちが息をのむ。


乗組員たち「マジかよ頭がおかしいぞ」「あんなかわいい子に何てことを」「どうにか助けられないのか」


人々が声を出す。


ケイティ「さあ、どうするのよ。突入してこのガキどもを皆殺しにするつもり?」

カイン「クソ、何て女だ。貴様、こんな辺境で独立して何になる」

ケイティ「私はゲームの駒になって死ぬのはお断りよ。ここの研究成果を企業に売れば、私は自由になれるし、大金持ちになれるわ。あんたらに渡す意味が無いの」

カイン「く、クソ!」


ブリッジはあまりの状況に大勢が無言で固まって見ていた。


トッド「少佐、ここはあいつにくれてやりましょう。そうすれば、少なくとも子供たちは死なない。ここはどうせ、保険だったんです」

カイン「しかし、この結果では……」

トッド「無理をして得たら、子供たちはあの悪党が皆殺しにしますよ」

カイン「……わかった、いいだろう、貴様にここはくれてやる。しかし、貴様は絶対許さん」

ケイティ「ありがとう、元少佐さん。ついでにエグゾフレームを一機貰えるかしら、私の脱出用が欲しいの。アイマダインがいいわ」


カインは輸送船のコンソールをドカッと殴った。


カイン「そんな義理があるかよ!」

ケイティ「いいの? このガキをバラバラに刻んで殺してもいいのよ」


そう言って、銃口を少女の小さな手に向ける。

ケイティの顔は笑いで引き歪み、まるで魔物のようだった。


トッド「渡しましょう、これ以上は妥協できないですが」

カイン「クソ!」


特大の声で吠えると、カインは画面から消えた。


トッド「ケイティ・マンロー。いいか、あんたは俺たちにとって永久に敵だ。今は要求を呑むが、覚えていろよ」

ケイティ「ホホホ。あんたたちに何ができるの。あんただって、明日にはゲームの駒になって死んでるかもしれないのに。負け犬の遠吠えね。アイマダインを置いて、さっさと消えなさい」

トッド「悪魔め」


トッドは憎しみのこもった目で睨む。



8,小惑星外、倉庫の上。

スーパープラクスがコンテナを持って運んでいる。

横に浮かぶ白いヴァルキリー。


パイロット「これ、輸送船に運んでおけばいいんですか」

レイ「ええ、私は試運転するから」

パイロット「なんだか見たこともない機体ですね、それ」

レイ「わたしの専用機なのよ。いいでしょ」

パイロット「ええ? そうなんですか。あ、輸送船が帰るそうです。遊んでないで撤収しましょう」

レイ「はあ、仕方がないわ。私もコンテナ持って行くわね」


二機は両脇にコンテナを抱えて輸送船に飛ぶ。

小柄な白い機体はその状態でもスーパープラクスより早かった。


トッド「何だ、その機体。誰が乗ってる」

レイ「トッド、レイよ。この子はヴァルキリー。私の専用機体なの」

トッド「そうか、すぐ格納庫に入ってくれ、急いで撤退する」

レイ「なんかあったの?」

トッド「ああ、とにかく小惑星から離れよう。ここは本当に不愉快だ!」

レイ「?」



9,評議会

いつもの三人が会議室にいる。

アレン将軍、エリアナ、そしてハビエル。

そして、遠征の顛末をトッドが報告した。

絶句する。


アレン「……なんという。あの女はとんだ食わせ物だったのか」

ハビエル「俺はギャングだけど、許せん。とんでもない奴だ」

エリアナ「胡散臭い女だとは思ってたけど、想像を超えるわね。何者なの」

アレン「記録では戦争犯罪人であると。捕虜の虐殺に加担したようだ」

エリアナ「ここは敵がでっち上げた冤罪が多いけど、それは本当かも。あの様子じゃ。ところで、カインはどうしたの」

トッド「少佐は頭が冷えるまで来ないと仰られて」

アレン「仕方がないだろう。しかし、君たちは正しい判断をしたよ。全てはあの悪魔的な女が異常なだけだ」

ハビエル「あの女、今度見たら脳天ぶち抜いてやるぜ。俺の部下をやりやがって……それにしても三番コロニーは本当にろくでもない人間の展示場だ」

エリアナ「でも怪我の功名ね、正体不明の新機体を手に入れたわ。性能はどうなの」

トッド「正直言って、未知数です。レイはあんな調子ですし、工場長も機体の備品からして何なのかわからないと」

アレン「時間をかけるしかないだろう。ただ、雰囲気だけで見てもあの機体は相当な高性能機だ」

エリアナ「小惑星を基地にして、避難場所にしたかったんだけど、目論見が消えたわね」


ため息をつくエリアナ。



10,小惑星、ラボ

マスターキーを持って小惑星内を探索するケイティ。

腰には拳銃。

得意げに歩いている。

そこはよくわからない装置が並ぶ一角だった。


ケイティ「ここの成果を売れば、いくらになるのかしら」


鼻歌を歌いながら歩く女。

とあるゲートを開けて入る。


ケイティ「ここは最重要エリアね。どんなお宝があるの」


そこには人一人が入れるサイズのポッドがあった。

正面がガラスになっていて、内部が見える。

そこにはピンク色の髪を持った少女が眠っていた。


ケイティ「あら、あなた、レイとそっくり。クローンよね」


ケイティはマスターキーを差し込み、ポッドを開放する。

見つめるケイティ。


目を覚ます少女。

最初、少女は戸惑っていた。

しかし、やがて、笑った。


とても、邪悪な笑みで。

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