8 小惑星
新登場人物
ケイティ・マンロー:三十代ぐらいの女。白い髪、白い肌、灰色の目を持つ。金持ちが捨てた孤児たちの世話をする。三番コロニーの有名人。
1,コロニー尾部、南港
レイが乗っていた輸送船が停泊している。
無重力の中で作業する人々。コンテナなどが運ばれていた。
赤いアイマダインが格納庫に入って行く。
もう一機、見慣れないエグゾフレームも続く。大型で一つ目のメインカメラ、黒と灰色の塗装。
形状から、アイマダインに近い系統である。
作業を見つめる二匹の子熊、キナコとクロ。
キナコ「スーパープラクスだね。これは割といい機体だよ」
クロ「プラクスってだいぶ古いだろ。ソル王国動乱の最後の方の機体だな」
キナコ「プラクスの製造ラインをそのまま使って、改修したのがこれだよ。出力と頑丈さはアイマダインに匹敵するよ」
クロ「クニヤラの落ちてたライフル持たせてるのか。まあ、それならマシか」
一機のランチが到着して、二十人程の人間が降りて来る。
武装した海兵隊、評議員のカイン・マクドネル、陰気な中年トウドウ。見たことのない女、そして、十人程の子供。
アイマダインからレイが顔を出して降りてきた。
カイン「ケイティ、彼らがレイとそのお付きの熊だ」
そう呼ばれた女は薄い笑いで軽く会釈する。
ケイティ「ええ、もちろん存じてますわ。レイはとても有名だから。そこの熊ちゃんたちも」
レイ「は、はじめま、し、て」
ぎこちなく挨拶するレイ。
子熊たちも義務的に頭を下げた。
キナコ「ケイティさんはどのような任務なのです?」
輸送船はエリア三十外縁にある小惑星の調査に向かうのである。
カイン「彼女と子供たちは小惑星が居住可能なら、移住するのが目的だ」
ケイティ「ええ、もし、このコロニーが邪悪な企業に破壊されたら、子供たちだけでも別の場所にいたら難を逃れられるわ」
クロ「それで、とりあえず十人ぐらいって感じか」
カイン「そうなるな。最後の保険ということだ」
2.宇宙を行く輸送船
船は船長がカイン、海兵隊は主にソル王国系が多い。
なお、スーパープラクスのパイロットはトッドだった。
主な人間がブリッジに集まってブリーフィングをしている。
メイン画面に小惑星の写真。
構造図などが副画面に。
カイン「小惑星はソル王国系の秘密研究所だったのではないかと推測されている。そのため、まだ防衛機能があるかもしれない。諸君は警戒して頂きたい」
トッド「よっぽどの新型じゃなければ、レイと俺が対処できる」
レイは集中力がないのか、クロのモフい頭にデータパッドを乗せる。
気にもしていないのか、腕を組んで発言するクロ。
クロ「最近まで生きてたのなら、手強い可能性があるぞ」
カイン「手に余るようなら、すぐに撤退する予定だ。トウドウがハッキングして海兵隊が安全確認の後、子供たちが上陸する手はずになっている」
レイ「そこにいつ到着するの」
カイン「一週間後だ」
レイ「それまで、退屈だね」
クロを抱きかかえるレイ。
データパッドが落ちるが、床に落ちる前に見もせず手に取る。
カイン「娯楽室があるから、そこを利用してくれ。パイロットの二人は交代制で、普段も油断しないように」
トッド「ああ、もちろんだ」
レイ「はーい」
3,娯楽室
数人の子供達とレイが大きな画面の前に座ってゲームをしている。
宇宙空間の中を宇宙船で飛び回って、悪の宇宙人のUFOなどを破壊するという単純なものだ。
隕石や敵の攻撃を軽々と回避し、次々と敵を破壊していく。
男の子「すげー、お姉ちゃん。やっぱ、凄腕パイロットだぜ」
一番小さな少女「わたしもやる!」
男の子「お前がやっても、どうせすぐやられる。他のゲームやれよ」
レイ「いいから、ベリーイージーでやればいいのよ」
レイは少女にゲームパッドを渡し、席を譲る。
少女はゲームを始めるが、すぐに撃墜されたようだ。
男の子「やっぱダメじゃん」
少女「えーん」
泣き始める少女。
レイ「大丈夫よ、お姉ちゃんが仇取ってあげる」
レイはベリーハードで再開すると、魔法のようにクリアしてしまう。
その頃、クロは他の子供達とおままごとをしていた。
少女2「はい、熊ちゃん。今日ご飯はパンにソーセージが乗ってるの」
クロは何もない皿を手にとって、食べるふり。
クロ「はい、パクパク。とっても美味しいぞ」
棒読みで応える。
少女2「つぎは、美味しくて甘いジュースよ」
クロ「ありがとう、ごくごく、美味しいなぁ」
クロ(いつまで続くんだこれ。お子様の相手なんざしてられんぞ!)
クロはおままごとから逃げる口実を考える。
しかし、やるべき仕事は二三日で終わっていたので、残った仕事は子供の相手だけだったのだ。
少女2「あなた、今度映画館に行きたいわ」
クロ「おお、そうだね。家族みんなで、来週にでも行こうか」
クロ(割と、マジで苦痛だな)
クロはそう思ったが、子供たちは可愛い子熊が大好きなようで、遊びの相手をせがまれる。
レイを見ると全く子供の相手が苦痛ではないらしく、楽しそうにしていた。
クロ(精神年齢的には近いわな)
そう思ってクロはため息をついた。
少女「あなた、どんな映画見るの?」
クロ「やっぱ、筋肉ムキムキの男がバリバリ銃を撃つやつだな」
少女「マザーがそういう映画を見たらダメって」
クロ「マザーって、あの白髪の女か。んなわけあるかよ、正義が悪を倒して何が悪い。映画ぐらい何でも見たらいいじゃん」
少女「マザーがいいっていう映画以外見たら……」
クロ「へー、なんか大人しそうなオバハンだけど、うっさいんだな」
少女「怖いの、マザーは……」
少女の最後の声は消えるような小さな声だった。
4,小惑星の宙域
黒い宇宙に浮かぶ、奇怪な形状をした巨大な岩。
ところどころに内部に施設がある気配。
下部にカタパルトがある。
ゆっくりと輸送船が近づく。
カイン「こちらユリシーズ海運の輸送船だ。宙域調査をしている。こちらに害意はない。可能なら寄港したいが、返答をお願いする」
カインが通信機に話すが、小惑星は全く返事がなかった。
オペレーター「少佐、カタパルトに稼働を確認、敵が出て来るようです」
カイン「トッド、レイ。すぐに出撃してくれ、こちらは急速後退するが追いつかれる」
既に搭乗していた二人と一匹。
輸送船の格納庫が開き、暗い宇宙が見える。
トッド「敵は問答無用のようだ。攻撃してきたら遠慮はいらないぞ」
レイ「ええ、でも、対話は続けて」
アイマダインとスーパープラクスがふわっと宇宙に出る。
レイ「レイ、いっきまーす!」
クロ「カタパルトの射出じゃないと雰囲気無いな」
5,エグゾフレーム戦
レイとトッドが宇宙に出ると、三つの光が迫ってくる。
二機はビームライフルを構えた。
カイン「こちらが何を言っても、反応はない。敵は旧式のハイアクスだ。交戦距離に入ったら遠慮は要らない」
トッド「了解」
レイ「……」
レイは無言、真剣な顔をしている。
クロ「どうした」
レイ「感じるわ、つらくて苦しいって」
クロ「相手は何もんだ」
レイ「……」
レイは再び黙ったがアイマダインを加速させる。
同じく、バーニアを吹かすスーパープラクス。
見る見る敵が迫ってきた。
クロ「敵はハイアクスだな。一機挙動がおかしい、バーニアが故障してるんだ」
レイとトッドはライフルを撃つ。
ほぼ同時にハイアクスもライフルで反撃した。
交差する光。
一機のハイアクスが火の玉になった。レイの一撃が故障しているハイアクスを倒したのだ。
トッド「よくやったレイ、格闘距離になった。一機は俺が」
レイ「トッド気をつけて」
6,トッドの戦場
トッドはハイアクスの相手をするが、やはり、その機体も故障しているのか、動きが鈍い。
しかし、腕が立つのか、トッドの攻撃をあっさり回避して、逆に反撃が当たる。
トッド「こいつ! 手強いぞ!」
ハイアクスのライフルはよほど旧式なのか、スーパープラクスに何度か当たるが、装甲を抜けていないようだった。
トッド「ち、なんてやつだ」
キナコ「手伝うよ」
キナコの小型機が敵の背後に回って、激しく銃撃する。
まるで、背中に目がついてるかのように回避するが、さすがに隙があった。
トッド「そこだ!」
赤いビームがハイアクスの腹を貫き、一気に誘爆する。
7,レイの戦場
一機のハイアクスが迫ってくる。
ハイアクスは背中から有線式の子機を出すと、自身のライフルと子機の二方向から次々とビームを連射する。
レイは何を考えているのか、反撃をせずに回避していた。
クロ「レイ! 舐めてると死ぬぞ! 早く撃ち返すんだ」
レイ「この子……苦しいって」
クロ「なに、何かわかるのか」
レイ「もうやめて、わたし、あなたの敵じゃないの!」
レイは叫ぶが、緑色の巨人は無感動にライフルを向ける。
クロ「説得なんて効くわけないだろ。今すぐ倒すんだ!」
レイ「……」
レイは無言で一発撃つ。
有線式の子機が赤い球になった。
敵は打ち尽くしたライフルを捨て、ビームセイバーを抜いて迫ってくる。
ポン。
迫ってくる敵にエネルギー弾が放たれる。
敵は自分から当たりに行ったかのように、光の球を腹に受けて大穴が開く。
すぐに誘爆して火の玉になった。
クロ「何者だったんだ」
レイ「あの子わたしだったわ」
クロ「考えすぎだ。レイはレイだよ」
レイ「つらくて苦しい、だから、他人が許せないって」
クロ「何だそれ。そんな奴倒すしかない」
レイ「……そうだね。あの子、誰かが止めないと輸送船も襲っていたわ」
クロ「レイ、戦場で敵に同情するのやめろ。それな、戦士に対しても失礼だぞ」
レイ「うん」
それ以上の敵の出現はなく、二機は武器を構え監視をする。
8,小惑星への上陸
正面の大型ハッチに宇宙服を着た数人の男たちが取り付く。
トウドウがハッキングをすると、あっさり開いた。
ランチから海兵隊が突入し、小惑星制圧を開始する。
一時間後。
カイン「侵入できない区画もあるが、九割のクリアリングは完了した」
レイ「カインさん、入ってみたい。いいでしょ」
カイン「小惑星は無人のようだ。いいだろう。何か思い出したら報告してくれ」
トッド「少佐、彼女が心配だ。一緒に行って護衛したいが」
カイン「ふむ。まあいい。代わりのパイロットを送る」
トッド「ありがとう、少佐」
アイマダインとスーパープラクスは小惑星にとりつくと、レイとトッドが降りる。
そして、個人機動装置を背負った兵士がやってきて入れ替わった。
スーパープラクスが宙に浮き、警戒任務を始める。
レイとトッドと子熊二匹は正面の巨大ハッチから入った。
なお、子熊二匹はレイの足にしがみついている。
9,小惑星の中
四人が小惑星の内部を歩く。
かなり広いが、無人だった。
トッドは拳銃を抜いて通路に入る。
白い通路の壁に黒いしみがついている。
トッドはなぜかゾクッとした。
ぎゅっと拳銃を握る。
レイ「何だろう、白い通路なのに黒い感じがするね」
クロ「何だそれ。白は白だろ。黒色なんて俺だけだ」
レイ「ううん、違うの、なんだか黒いの空気が」
クロ「うーん。意味が分からん」
頭をかくクロ。
通路を行く。
その途中で陰気な中年トウドウがしゃがんで作業をしている。
何かの端末に端子を挿してハッキングしていた。
キナコ「トウドウさん、ここを散策したいのですが」
トウドウ「ああ、熊さんだね。じゃあ、データ送るからそれ見て」
キナコのデータパッドに小惑星の地図が入る。
トウドウ「赤い色の部屋がまだ空いてないから」
クロ「これはわかりやすいな」
キナコのデータパッドをみんなで見る。
トッド「まずはこの格納庫を確認しよう。物資がどれだけあるか確認したいからな」
レイ「じゃあ、早速行きましょうよ!」
トッドは手に拳銃を持ち真剣な顔だが、レイは遠足気分で格納庫に向かう。
10,格納庫
巨大な空間。
真空、弱い重力、コンテナや大きな箱が雑然とある。
エグゾフレームのラックもあったが、今は一機も見えない。
レイ「あ、このコンテナご飯が入ってるみたいよ」
クロ「こっちは薬品が大量に入った箱だ。これは何年も住めるんじゃないか」
子供のように物色するレイとクロ。
キナコはデータパッドとにらめっこして、興味がないようだった。
トッドは警戒しながら、物資を確認する。
隅の方にある大きな箱に注目するトッド。
それはコンテナの半分ぐらいのサイズで、上部に屋根がない。
トッドは不思議に思って軽く飛び上がって、箱の縁に立つ。
トッド「!」
トッドは驚愕した。
その箱はふた代わりに大きな網がかけられている。
そして、その網の下に白い服を着た人間の死体が積み重なっていたのだ。
後ろではレイとクロが楽し気に物資を調べている。
トッド(死骸は真空で干からびているが……十人ぐらいか)
トッドは振り返って。声をかける。
トッド「レイ、ここは俺が調べるから他の場所を見てきてくれないか」
レイ「うん、いいけど」
トッド「ここにあるのは一般的なものばかりだ。他の場所に重要な物が無いか調べてほしいんだよ」
レイ「うん、任せて!」
レイは嬉しそうに胸を張った。
倉庫を去る一人と二匹。
トッドはカインと連絡を取る。
トッド「マクドネル少佐、重要なものを発見した。極秘で通信したい」
カイン「うむ、セキュリティを上げよう……それで、何がある」
トッド「死骸だ。白い服を着た男女。干からびているから断言はできないが、全員顔つきが同じに見える」
カイン「どういうことだ、つまりクローンという事か」
トッド「たぶんだが、レイの遺伝子と同じ実験体だと思う。容貌が似ている」
カイン「ぞっとする話だな……つまり、失敗作だから殺して廃棄。反吐が出るぜ。人を何だと思ってやがる」
トッド「これをレイが見て、不安定になられたら困る。宇宙に捨てたいのだが」
カイン「……それもそうだな。外宇宙にカタパルトから射出したらどうだ」
トッド「ああ、それは大丈夫だと思う。装置もそろってる」
カイン「廃棄する前に、念のため、死因を調べておいてくれ」
トッド「了解」
通信を切り、一人作業を始める。
死骸を並べ、写真を撮って行く。
大半は銃撃されているようだ。
だが、数人の首に赤い点があり、他に外傷がない。
トッド(なんだこれは、銃ではない。ナイフか細い針のようなもので殺したんだ。一撃で殺せるようなものか? 殺人鬼に殺されたのか、家畜のように屠殺したのか)
トッドはそう思いながら写真を撮り、そして、再び積み直してカタパルトに乗せた。
重力はほとんどない空間。
しかし、作業は大変だったのか、トッドは顔に少し疲労をにじませて射出する。
おぞましい箱は黒い外宇宙方面に飛んでいく。
そして、すぐに見えなくなった。
トッドは一人ため息をつく。




