7 宇宙の決闘
新登場人物
なし
1,夜のバー
薄暗い店内。
レイとスコットは飲み物を机に置いて話をする。
その状況をじっと見つめる、美しい女カナ。
面白そうに眺めている。
レイはストローで少しジュースを飲む。
スコット「僕は火星共和国で予備役だったんだけどね、戦争の終盤に召集されて」
レイ「よびえきって何?」
スコット「普段は普通の仕事をしていて、戦争になったら優先的に駆り出される一般人だよ」
レイ「そうなのね」
スコット「共和国は兵員が足りなくなって、呼び出されて軍服を着た瞬間に降伏。何もしてないのに犯罪者としてここまで連行されたんだ」
レイ「それはかわいそう」
少しうるんだ眼をするレイ。
スコットは一瞬、見つめてしまう。
スコット「君はどうなんだ。あんな凄腕ならどこかの戦線で活躍してたのか」
レイ「えーっと何だったかな。そうそう、火星共和国のパイロットだったのよ。でも、大した戦果は上げてないわ」
なお、彼女の身分は表向きのカバーストーリーが用意されている。
以前聞かされていたが、あまり真面目に覚えていなかった。
彼女の情報は管理AIがハッキングされて登録されている。
スコット「君ほどの腕で無名なんて……不思議だね、君は突然何もないところから現れたみたいだ」
レイ「そんなことないわ」
スコット「君、姓は何というの」
レイ「えーっと、私、戦争のせいで記憶が無くなってるの。体のサイバーも治療の結果だって」
スコット「……君はボーンエリートなのか?」
レイ「ボーン?」
スコット「生まれつきの能力者ってことだよ。ソル王国反乱戦争の時に有名なパイロットが幾人も力に目覚めたんだ」
レイ「わからないわ、ただ、全体が見えるだけなの」
スコット「……」
スコットは酒を少しだけ飲む。
2,バーの入り口
軍用ヘルメットをかぶり、背中に大型のショットガンを背負った子熊クロが店に入ろうとする。
警備の大男が止めた。
警備「おい。武器の持ち込みは禁止だ」
クロ「何を小さいこと言ってんだ。無駄にでかいくせに」
警備「小さいことじゃねぇ! そんなでかい銃ダメに決まってるだろ!」
クロ「ここは治安が悪いだろ?」
警備「てめーが一番治安悪化させてるだろが! 武器を預けないなら絶対入れない」
クロ「ち、しゃーねーな。絶対返せよ、俺の愛銃なんだ」
警備「こんなアホみたいな武器を愛用してる奴って初めて見たぞ」
警備はぶつぶつ言いながら銃を預かる。
店に入るクロ。
レイとスコットが何かを話し合っている。
クロはカウンターに座って監視することにした。
クロ「とりあえずビール」
バーテンダー「熊君、ロボだよね」
クロ「何も頼まないで座っていいなら何も頼まんが」
バーテンダー「まあいいか、合成ビールどうぞ」
目の前に置かれるビール。
クロはこっそり二人の様子を観察する。
スコットはわからないが、レイは全くクロに気が付いていないようだった。
やがて二人が立ち上がって店を出ようとする。
クロは勘定を済ませ、後をつけることにした。
3,夜の街
スコットはタクシーを止めてどこかに向かおうとする。
歩いて追跡していたクロ。
クロ「ち、まずいな」
彼の短い脚では当然追えない。
クロ「キナコ聞こえるか。レイが色男に捕まってどこかホテルに向かう可能性がある」
クロはキナコに無線で通信する。
二人の間は機器も要らないようだ。
キナコ「え? レイに恋人?」
クロ「交際期間が短すぎないか。あれは酒に酔わせて、抵抗力が無くなったところをウヒヒってやつだ」
キナコ「とにかく、彼女は今繁華街を抜けて……廃墟のホテル街に向かってるね」
キナコとクロはレイの居場所がわかっている。
クロ「ああ、どうするつもりなんだ色男は」
キナコ「景色のいい場所で口説くとか。もしかしたら拉致?」
クロ「レイがピンチだな。キナコどうするよ」
キナコ「考えすぎかもしれないけど、僕は小型機に乗るよ、念のために」
クロ「ちょっとやりすぎぐらいの方がいいぜ。何かあってからでは遅い。俺はタクシーで直行する」
キナコ「任せたよ」
クロ「でも、お前、どうやって小型機に乗るんだ。工場の敷地にあるだろ」
キナコ「ご心配なく」
クロは通信を終え、バイクタクシーを止める。
後部座席に乗って、ホテルの廃墟街に向かう。
4,ホテルの廃墟。段になった構造のテラス。
景色のいい場所で夜景を眺めるレイとスコット。
スコット「ここ、いいだろう。目を付けていたんだ」
レイ「ええ、素敵」
スコットの腕にレイが少しもたれかかる。
スコット「ねえ、君はいつまでもここにいるつもりなの」
レイ「仕方がないでしょ。ここの人たちは逃げられないように閉じ込められてる」
スコット「僕はとあるつてで脱出できるんだ。僕と一緒に来ないか、君なら大歓迎だよ」
レイ「ううん。ここの人たちを見捨てられないわ。だって」
レイの心に宇宙で散った人たちと、先の戦いで逝った子供たちの顔が浮かぶ。
スコット「君なら僕の組織でとても大事にされるよ」
レイ「組織? 火星共和国軍のこと?」
スコット「違うよ、もっと強大で宇宙規模の組織だ。君の失った記憶も最新技術で解析できるんだよ」
レイの心に、キナコとクロが全消去される未来が浮かんだ。
レイ「ダメ。そんなの」
スコット「心配はいらない、何も怖いことはないよ」
レイ「嫌なの」
スコット「わかった、無理強いはしないよ。でも、僕と一緒にここを出たほうが君は幸せになれる」
レイ「嫌、一人で行くなんて」
レイには子熊二人を残して行く選択肢はなかった。
スコット「聞き分けの悪い子だ。何も悪いことはしないよ」
ぐっと強い力でレイの手首をつかんだスコット。
レイ「やめて!」
スコット「いいから、一緒に来るんだ。ここで騒いでも誰も助けに来ないよ!」
レイ「は、放して」
レイは怪力を持っているが、恐怖の方が上回っていた。
スコットに引き寄せられる。
いつの間にか複数の人間が花壇の影などから現れる。
その中には、スコットの相棒カナもいた。
カナ「あーあ、色男も籠絡失敗ね」
皮肉に笑う女。
他は数人の男たち。軽武装の兵士である。
小さなサブマシンガンを持っていた。
レイ「助けて、だれか!」
兵士「キャンベル様、眠らせますか」
スコット「その方がいいかもしれないね」
涙目のレイ。
優男の顔を捨て、冷酷な目をするスコット。
兵士が薬品の注入器を出した時、花壇から黒い影が飛び出す。
ショットガンを構えたクロだった。
クロ「てめーら、死にたくなかったらレイを放せ!」
大型のショットガンの巨大な銃口。
しかも連射式である。
レイ「クロちゃん!」
スコット「その銃で撃てばレイにも当たるだろ。僕たちはマシンガンもある」
クロ「バーカ。死ぬのはてめえらだけだ。俺もレイも小口径弾なんて効かねぇんだよ!」
スコット「……」
兵士「大尉、あいつの言うことは事実です。我々は軽装なので小型榴弾を受けて戦闘不能になります」
カナ「わ、わたし、防弾じゃないし」
さっと逃げ出す女。
レイはスコットに迷いが出た瞬間に、一瞬でクロの背後に逃げていた。
少し怒った顔で、スコットを睨む。
スコット「わかった、今はお互い引くということで納めようじゃないか」
クロ「俺はロボットだが、ハンドメイドで殺人規制とか無いからな。舐めんなよ」
スコット「もう十分だ。みんな武器をしまえ」
兵士が銃を下げると、クロとレイは段になっているベランダを降りて行く。
地上まで長い階段がある。
二人は体の一部が光るのでそれで照らしながら急ぐ。
レイは常人より速い、クロも四足歩行になって駆ければ遅くないようだ。
レイ「ありがとうクロちゃん。来てくれて」
クロ「嫌な予感がするぜ、あいつら、なんか隠し玉があるかもな」
レイ「隠し玉?」
地上に降りるころ、その予感は的中する。
闇夜にぬっと巨大なエグゾフレームが現れたのだ。
クロ「何だあれ。外から入ってきたのかよ。がばがばすぎるだろ、このコロニー!」
レイ「初めて見るタイプね、あれもデザイナーなんとかなの」
カナ「今度は逆転ね。生身であんたたちに勝ち目はないわ。降伏したら命は取らない。諦めなさいレイ」
エグゾフレームから声がする。
クロ「とにかく逃げようぜ!」
レイ「走っても無駄よ。ねえ、パイロットさん。生身の私に勝って何の意味があるの。それじゃ卑怯者よ」
カナ「何言ってんのよ、私は卑怯者じゃないわ!」
なぜか、すぐ頭に血が上るカナ。
レイ「エグゾフレーム戦であなたに負けたら捕虜になってあげる。それ以外の方法で勝つつもりなら卑怯者よ」
カナ「いいわ、だったら、コテンパンにしてあげる。でもあなた、エグゾフレームがないわ」
レイ「心配しないで、カムヒアーアマダイちゃん!」
クロ「アイマダインな」
レイが手を上げると、夜空に巨大な光が浮かんでいる。
なぜかアイマダインがやってきていたのだ。
地上に降りる赤い巨人。
レイはいそいそと乗り始める。
クロ「今撃たれたら終わりだな」
レイ「大丈夫よ、あいつは卑怯者じゃないんだから」
キナコ「間に合ってよかったよ」
キナコから通信が入る。アイマダインにはレイの小型機が張り付いていた。
クロ「これ運んだのお前か」
キナコ「僕というか、マインドコネクトでレイが遠隔操作したというか」
搭乗する二人。
カナ「乗った? じゃあ、さっそく戦いね」
レイ「待って、ここじゃ市街地に近すぎる。宇宙でやりましょう」
カナ「フン。じゃあ、宇宙で待つから絶対来なさいね」
カナの乗る巨大な機体がコロニーの使っていない港に向かう。
なお、コロニーにはいくつも発着場があり、北港全体にいくつも出入口があった。それは南も同じである。
レイも敵の機体の後を追う。
5,コロニー付近、宇宙
大型のエグゾフレーム二機が対峙する。
一機はレイの搭乗するアイマダイン。
対して敵は灰色の重装騎士のようなエグゾフレームだった。
そして、その戦いを観察するかのように小型の輸送艇が浮かんでいた。
その輸送艇にスコットが乗っている。
カナ「あたしの機体はメブズ。あんたの旧式とは違うから。死んでも恨みっこなしね」
レイ「戦いはやってみないとわからないわ」
二機は牽制するかのようにぐるぐると回る。
クロ「レイ、右腕にティシュトリアのエネルギー弾の発射装置あるぞ」
レイ「ほんと、いつの間につけたのかしら」
クロ「工場長のおっさんもやるね」
レイは左手にクニヤラから奪ったライフルを持ち、右手はフリーにする。
メブズは七つのスケール・ビットを飛ばした。
スケール・ビットはマインドコントロールするドローンである。
そこから色々な角度でアイマダインをビームで撃つ。
クロ「こいつ、マインドコネクトできるんだ」
レイ「心配しないで!」
巨大な機体で器用に躱すレイ。
それどころか、ビームライフルで次々とスケール・ビットを落とし始める。
ビュン!
子機の攻撃をかわすアイマダインをメブズのライフルが襲うが、間一髪躱した。
クロ「嫌な攻撃しやがるぜ!」
だが、次の瞬間には機体に衝撃が走る。
さすがに子機のビームを躱しきれなかった。
足の装甲版や肩が一部破壊された。
レイ「キャ!」
クロ「大丈夫だ! こいつはそう簡単に落ちん」
レイ「よかった、じゃあ、アマダイちゃん、反撃よ」
クロ「アイマダイン!」
身体からキナコの小型機が離れる。
そして、小型機と敵のスケール・ビットが激しい挙動で撃ちあう。
ビームを華麗に躱して、砲弾を叩き込む。
ミサイルが連射された。
ついには全てのスケール・ビットが消える。
キナコ「ミサイル全弾消費!」
カナ「ち! あんたもマインドブースト使いだね。でも!」
メブズからマシンガンのようにビームが発射される。
凄まじい機動で全てを躱すレイ。
一気に迫る赤い巨人。
メブズが両手の手首からビームセイバーの光る刃が出る。
クロ「セイバーの範囲内だぞ」
レイ「大丈夫!」
アイマダインがメブズの頭に手をかざした瞬間、エネルギー弾が射出される。
ほぼゼロ距離で躱すこともできず頭部が消失するメブズ。
カナ「クソ!」
同時に腹の巨大な拡散ビーム砲が火を噴いた。
アイマダインの右足首が蒸発する。
カナ「え?」
ビームの光が消えた直後、アイマダインの巨体が消えていた。
レイ「後ろよ。脱出しなさい」
カナ「嘘!」
ライフルとエネルギー弾、小型機の機関砲が背中のバーニアなどに叩き込まれた。
光に包まれるメブズ。
高性能機体も耐え切れず、誘爆を開始する。
同時にコクピットの脱出カプセルが射出された。
カプセルはそのまま小型機として飛び、観戦していた小型輸送艇とドッキングするようだった。
スコット「見事だレイ。君の勝ちだ。だが、約束では勝負するだけ。僕たちの撤退は邪魔しないでくれ」
レイ「いいわ。もう二度と来ないで」
スコット「僕も人に使われる身。約束はできないが、個人の判断の及ぶ限りは、なるべく守るよ」
レイ「……」
輸送艇はカナを回収すると全速力で撤退する。
クロ「いいのかよ、あれも捕虜にしたら」
レイ「疲れたわ。なんだか」
クロ「わかった、すぐに帰ってご飯食べようぜ」
キナコ「もう冷めてるけど、温めたらいいか」
撤収するアイマダイン。
6,アレン将軍の執務室
小さな画面にカインが映っている。
報告を聞いていたようだ。
アレン「ふむ。夜に現れた謎のエグゾフレームはメブズというのか。君は聞いたことはあるか」
カイン「ないですが、最新型の改造機だと思いますね。貴族の護衛にそういうものが多いのです」
アレン「だが、レイが倒してしまった。相手は何者なのだ」
カイン「子熊たちの話では、工作員臭い奴だったと」
アレン「スコット・キャンベル。何者だろう」
カイン「スコットではないですが、キャンベルという名前の貴族崩れの男は有名ですね、ボーンエリートとして」
アレン「ロイ・キャンベル・エバートだったか。ソル王国の元貴族」
カイン「ええ、今、企業の軍事顧問職を渡り歩いていると聞きます」
アレン「レイに興味を持っているとはね。目的は何だろうか」
カイン「あいつは胡散臭い男ですよ。個人的な野心で成り上がったと王国でも噂がありました」
アレン「しかし、レイが籠絡されず良かった。彼女は我々の希望だ」
カイン「とにかく、あまりに警備がずさんですね。やすやすと侵入されてしまうとは」
アレン「とりあえず、共和国の兵士で入り口の警備ぐらいはしよう。警備体制を輪番で整えようじゃないか」
カイン「それがいいでしょうね」
通信が切れる。
暗い部屋でため息をつく将軍。
アレン「レイはカバーストーリーも覚えられないのか。まるで子供だな」
合成ウイスキーを出して、少しだけグラスに注ぐ。
アレン「せっかく姓を与えたのに。覚えてほしいところだ」
モニターをレイの登録画面にした。
そこにはレイ・アレンとある。
机から写真を取り出す将軍。
その写真は若い娘だった。
アレン「似てる。君に。どう思うエミリー」
将軍は写真に話しかけた。




