6 想いを埋めて
新登場人物
スコット:元火星共和国兵士。金髪の美男子。薄いサングラスをかけて、共和国の軍服を着ている。
カナ:赤い髪を持つ美女。いつも派手なパイロットスーツ。
トウドウ:評議員ハビエルの部下。陰気な中年男。ハッカー。
1,レイの住宅、朝
ベッドの上で眠るレイ。
心配そうに見つめる二匹の子熊。
クロ「どうする。レイを起動して大丈夫だと思うか」
キナコ「いつまでもこのままじゃ。水や食事もとらないと機能が損傷を受けてしまう」
クロ「起こしたらどうなる」
キナコ「……わからないよ」
クロ「おい、お前の専門だろ」
キナコ「精神の暴走だけは簡単にはいかないんだよ」
クロ「でも、このままじゃだめだろう。起こすぞ」
キナコ「うん」
クロの目が光り、レイがパチッと目を覚ます。
上半身を起こして、キョロキョロするレイ。
クロ「大丈夫か、レイ」
レイ「あああああああああああ!」
レイは大声で叫ぶと、人間とは思えない跳躍で壁に張り付く。
握力だけでしがみつき、巨大な昆虫のように壁を移動した。
住宅の安普請の壁が砕け、壁の粒子が落ちて来る。
クロ「落ち着け!」
レイ「コロスコロスコロスコロス!!!」
キナコ「ストップ! 停止して!」
クロは慌ててレイを停止させる。
ドサ。
力を失ってカーペットの上に落ちるレイ。
クロ「怪我をしてないか! クソ、まだ駄目か」
二人は大事に抱えて、レイをベッドに寝かせる。
キナコ「このままじゃ」
クロ「おい、一号。お前が専門だろ。どうにかしろ!」
キナコ「こうなったら、鎮静剤の強いのを」
クロ「そんなものあるのか」
キナコ「病院にあるかも」
クロ「どうやって貰う、強奪か」
キナコ「とにかく将軍に頼るよ」
2,アレン将軍の執務室
アレン将軍と子熊二匹がいる。
護衛の兵はいない。
アレン「君たち二人だけで話とは珍しい」
キナコ「実は……」
キナコは面倒を見ていた子供たちが襲撃の巻き添えで亡くなったことと、そのショックでレイが暴走状態であることを話す。
アレン「そうか……それで強力な鎮静剤が必要だと」
キナコ「ええ、内密に手に入れたいんです」
アレン「私に話してくれたのは賢明な判断だよ。敵のスパイが耳にするかもしれない。私に任せてくれ、すぐに届けさせよう」
キナコ「ありがとうございます」
アレン「しかし、彼女には安全装置があるのだね。それはどのようなものなのか……」
キナコ「詳細はプロテクトのため話せないんです」
アレン「君を作った人間は秘密主義だね」
キナコ「ご主人様はあらゆる問題をお考えでした」
アレン「……とにかく、今は彼女の回復だな。話はまたにしよう」
3,レイの住宅
注射装置を持つキナコ。
プシュッとレイの首に打ち込む。
クロ「強い薬だろ、それ。そんなに打ち込んで大丈夫なのか」
キナコ「今は賭けるしかない。確実なことなんてないんだ」
クロ「……」
キナコ「三分後に目覚めさせて」
やがて、クロの目が光り、レイが起動する。
レイは目をぱちぱちとさせていたが、大声を出すようなことはなかった。
レイ「……」
クロ「大丈夫か、お前はショックのあまり暴走してたんだよ」
レイ「あの子たち……可哀そう」
そう言うと、しくしく泣き始めた。
キナコとクロをぎゅっと抱きしめる。
クロ「そうだな、可哀そうだったな」
レイ「あの子たちはね、とってもかわいい子だった。本当に天使みたいで、やさしくて……」
レイは子供たちの短い思い出を繰り返しつぶやく。
クロは辛抱強く聞き始めた。
キナコはレイの腕からそっと抜け出す。
キナコ「おかゆつくるよ」
クロはうなずく。
そして、泣き続けるレイを慰める。
4,評議会
アレン将軍、カイン・マクドネル、エリアナ・トリシュ、そして、ハビエル・ユスフのいつもの四人。
カインが三人に説明しているようだった。
カイン「つまり、ロディの裏切りが今回の襲撃の発端のようです」
アレン「では、あのボー・クロスメリがそそのかしたのだな」
カイン「ええ、状況証拠ですが」
エリアナ「やってくれるわね、あの坊や」
ハビエル「痛めつけてやったらどうか。舐めてたらどうなるか」
アレン「捕虜との会話厳禁、監視強化だけでいい。彼を虐待しても意味のない行為だ」
ハビエル「……」
ハビエルはやや不服だが、何も言わない。
カイン「殴りたい気持ちは同じだが、あいつは所詮、若造。籠絡して協力者にしたほうがいい」
エリアナ「私もその意見に賛成よ。拷問なんてして、もし、死んだら、私たちすぐに皆殺しにされるわ」
ハビエル「籠絡。どうやるんだ」
カイン「女、かな。若い男なんてそんなもんだ」
ハビエル「あいつは大金持ちの小僧。女なんて不自由しないだろ」
カイン「今は不自由している。若い男だぞ。昔がどうだったかなんて関係がない」
ハビエル「ふふ、俺の傘下にそういう店があるぜ。ここには金持ちの元奴隷女が多いからな。容姿もいいのがそろってる。もちろん、美形の男もな」
カイン「それなら、その件はあんたに任せるぜ」
ハビエル「ああ」
ニヤッと笑う元ギャング。
アレン「その件はそれでいいだろう、例の輸送船はもう大丈夫なのかね」
カイン「監視衛星は退去してます。南港に入れて問題はないかと」
アレン「あれが最後の希望だ。偽装して、存在も極力秘密にしてくれ」
カイン「南港は関係者以外立ち入り禁止にしましょう。どうせ、ほとんど使ってません」
アレン「君たちも他言は無用だ」
他のものもうなずいて会議は終わりとなる。
5,北港付近、繁華街
二人の男女が歩く。
一人は金髪に白い肌。薄いサングラスをかけた火星共和国の兵士風。
かなりの美青年だった。
もう一人は赤く長い髪、薄茶色の肌。赤と黄緑の派手なパイロットスーツを着た女。
こちらも美しい女。
サングラスの男「カナ。もっと目立たないようにできないのか」
パイロットスーツの女「スコット、あんただって、さっきから通り過ぎる女が色目使ってるでしょ」
スコット「そうでもないだろ」
カナ「あんたは無神経なのよ。にしてもここ本当に最低の場所ね。ガラも悪いし、臭いし」
スコット「そういうな。彼らはゲームの生贄なんだ。まともでいる方が難しいだろ」
二人は人々の視線を気にすることもなく平然と街を歩く。
街のモニターに先日の戦いが映って人々が何となく見ている。
カナ「あーあ、かっこ悪い。あんな旧式にボコボコにされちゃって」
モニターにはティシュトリアが破壊される姿が映されている。
スコット「ボーは油断したんだよ。あのお坊ちゃん」
カナ「あんたなら、勝てるわけ?」
スコット「僕はボーンエリートだからね。あんな風にはならないよ」
カナ「あのレイってパイロット、今はハイアクスじゃなくてアイマダイン乗ってるらしいわよ。勝てるのかしら」
スコット「所詮は旧型だよ。君はどうなんだ」
カナ「はいはい、私はボーンエリート様とは違うけど、負けないわ」
歩き出す二人。
カナ「でも、どうやって、そのレイに会うつもりなの」
スコット「どんなところでも金で動く人間がいる。レイの居場所を教えてくれる奴に会う予定だ」
カナ「誰よ、それ」
スコット「名前は言えないけど、元ギャング」
カナ「やっぱり、そういう奴ってモラルが無いのね」
スコット「モラルのあるやつがギャングなんてしないだろ」
苦笑する青年。
6,レイの住宅近くの丘、小さな公園
レイと二匹の子熊。
小さな二つの缶を埋めている。
土を盛って、最後に一抱えある大きな石を置いた。
クロ「これでいい、この見晴らしのいい場所に墓を作れば、二人の魂も安らぐぞ」
レイ「うん」
やつれた少女がうなずく。
優しい風が吹く。
レイ「魂ってどこに行くのかな。作り物の私にもあるの?」
キナコ「君はちゃんとした人間だよ。僕たちとは違うんだ。魂だってある」
断言するキナコ。
クロ「そうだぜ、お前は大事な大事な存在なんだ。自信持てよ」
レイ「ありがとう、二人とも」
レイは質素な墓を見る。
野草の花を摘むと、墓に挿した。
レイ「あの子たちの一部でも見つかったらよかったのに……」
クロ「仕方がない。あの状況では……遺品で我慢するしか」
レイ「うん」
子供たちの私物はほとんどなく、僅かな思い出の品が缶に入っているだけなのだ。
丘を降りる三人。
クロ「泣いていても仕方がないぜ。俺たちは前向きに生きないと」
レイ「うん」
キナコ「そうだ、近くにいい感じのレストランがあるんだ。そこでお昼を食べないか」
クロ「それがいい。美味しいもの食べて、元気出そうぜ」
レイは少し涙を浮かべてうなずく。
歩く三人。
クロ「ところで、キナコ。俺たち金とか持ってないよな」
キナコ「え、あるけど。当たり前だろ」
クロ「その金、どこで手に入れたんだ!」
キナコ「評議会が配給ポイントをくれてるんだ。これが通貨になる」
クロ「聞きたいのは、何で俺が一ポイントもないのかって話」
キナコ「君はロボットでお金なんていらないだろ」
クロ「俺は超高級AIだからいるんだよ、金が」
キナコ「はあ、まあちょっとだけ小遣いあげようか?」
クロ「今すぐよこせ」
キナコが小さなデータチップを渡す。
キナコ「これに入ってるから、無駄使いしないように」
クロ「いくら入ってるんだ」
キナコ「それ一個で確か百ぐらいかな」
クロ「それ、どの程度の価値なんだよ」
キナコ「使えばわかるだろ」
7,近所のレストラン
そこは小さなレストラン。
元々何かの店だったのか設備もそろっていてしゃれた店だった。
料理ができる男が死ぬまでの暇つぶしに店を経営しているのだ。
メニューを見るクロ。
クロ「一食だいたい五ポイントぐらいか」
店主「今日のお勧めは、合成肉のパスタと、トマトのピザです。トマトは近所で栽培した本物ですよ」
キナコ「ピザでお願いします」
店主「熊さんたちは……ロボットだよね、女の子の分だけですね」
クロ「俺は地場ものの極上家庭用電源で」
店主「はい?」
キナコ「彼のことは気にしないで! ピザ一人分をお願いします、後コーヒーも一人分」
店主が奥に引っ込む。
やがて、料理が運ばれて、少しかじるレイ。
レイ「おいしいね」
キナコ「どんどん食べて、おかわりだって遠慮しないでね」
レイがピザをゆっくり食べていると、一人の男が店に入ってくる。
サングラスをかけて、火星共和国軍の兵士に見える。
店主「いらっしゃい」
彼はコーヒーを注文したようだ。
静かに食べるレイ。
男は彼女を見つめる。
男「もしかして、君ってあの有名なレイだよね」
突然、男が話しかけてくる。
クロ「ああ、そうだけど、あんたは?」
男「僕はスコット。元共和国兵士だよ。あの戦いを見て久しぶりにすっきりしたんだ」
レイはおずおずとうなずく。
スコット「よかったら、握手してくれないか」
クロ「いいぜ」
黒いモフ手を出すクロ。
スコット「いや、熊君じゃなくて」
レイ「いいけど」
青年は立ち上がり少女の細い手を握って握手する。
スコットの手は熱かった。
ニコッと微笑む青年。
レイの頬が赤くなる。
レイはうつむいて手を放す。
スコット「本当に君みたいな可愛い子があのいけ好かないクロスメリをやっつけたなんて……今でも信じられないよ。ありがとう、兵士たちみんなが君に感謝してる。ここの支払いは僕がしておくよ、ささやかだけど感謝の気持ちだ」
レイ「ええ」
キナコ「そろそろ、行こうよ。ありがとう、スコットさん」
食事を終え、青年を残して店を出る三人。
8,評議会
いつもの四人アレン将軍、カイン・マクドネル、エミリア・トリシュ、ハビエル・ユスフ。そして、レイと子熊二人、トッド。
さらに見なれない中年の男が一人いる。
中年の男は陰気そうな。さえない男だった。
ハビエル「レイの輸送船だが、解析の結果が出た。トウドウ、説明してくれ」
陰気な男が大画面の前に立つ。
トウドウ「あの輸送船は巧妙に記録を消していまして、どこにでもある汎用宇宙船という以外はわかりません。しかし、過去にどの航路を通っていたかという記録はありました」
画面にエリア三十付近の宇宙図が出る。
トウドウ「あの宇宙船はエリアのぎりぎり端、外宇宙方面に未確認の拠点があって、そこから出入りしていたようです。行先は主に旧ソル王国系のエリアを」
カイン「ふむ、しかし、企業の監視網は抜けられないだろう」
トウドウ「ここが監視下に入る以前の話のようです」
カイン「なら、エリアのコロニー群が戦争で破壊される以前なのか」
トウドウ「破壊された後、監視下に入る前、短い期間です」
カイン「そうなると大昔でもないな。数年前だ」
腕を組むカイン。
レイ「ぜんぜんわかんない」
キナコ「しーっ! 今は聞くことに徹して」
アレン「つまり、そこに行けばレイ君の秘密がわかると」
ハビエル「その場所は何かわかったのか」
トウドウ「はい、どうやら、小惑星があるようです。多分ですが、居住可能な」
カイン「クローンやマインドブーストの秘密研究所といったところか」
エミリア「ソル王国系よね。地球連合と戦ってたんだから」
カイン「そうとは限りませんよ。ソル王国敗戦後、そういう施設は連合が接収してます」
アレン「輸送船を使って行くことは可能だろうか」
カイン「外宇宙方面ですから可能でしょう。何もない外宇宙への監視は緩いですよ」
アレン「私は調査する価値があると思うがどうかね」
エミリア「リスクを考えると……」
ハビエル「行きましょうよ。お宝があるかも」
カイン「リスクを冒さなければ得るものもないか」
アレン「一応、賛成が多いようだな。レイ君、君には行ってもらうことになる。自分のルーツだ興味あるだろう」
レイ「えーっと、わかりません」
アレン「熊君たちはどうかね、君たちの考えは」
キナコ「僕からは何とも。僕にそこの情報は何もないです。プロテクトがかかってるだけかもですが」
クロ「同じだぜ。全然知らない、そんなところ」
アレン「ふむ。反対するのかと思ったが。それならやはり行くべきだ。人選と準備が整い次第、伝えよう。今日の話はこれだけだ」
会議室を出る人々。
9,繁華街
会議が終わって家に帰る。
タクシーに乗って外を眺めるレイ。
繁華街の派手なネオン。
大勢の人々。
色々な店がある。
レイ「ねえ、ちょっと面白そうじゃない」
クロ「そうだな、お、あの電子部品の店が良さそうじゃん」
クロが指す先にゴチャッとした店がある。
キナコ「さっさと帰ろうよ、治安も悪いよ」
レイ「たまには一人で遊びたいー」
クロ「過保護は良くないぜ、キナコ。レイだって一人で何でもできるようにならないとな。とりあえず、俺はあの店を見る。お前は帰って夕食の準備しろよ」
キナコ「うーん、じゃあいいけど、無駄使いしないでね」
例の配給ポイントの入ったチップを渡すキナコ。
モフ手から受け取るレイ。
タクシーを降りる二人。
車のトランクから、軍用ヘルメットと大型ショットガンを出して背負うクロ。
クロ「レイ、お前も銃を持て」
レイ「重いからいらない。それに私、強いから大丈夫よ」
クロ「しかし、治安が悪いぞ。あんまり遠くに行くなよ」
そう声をかけても目を輝かせて繁華街に入ってしまうレイ。
キナコを乗せたタクシーが去る
結局、クロも嬉しそうに電子部品の店に入った。
レイは一人ぶらぶらと歩く。
無防備な女の子。
危険な男たちが見ているのに気が付かない。
そんな彼女に見覚えのある男が声をかける。
スコットだ。
スコット「レイさん」
レイ「あ、あなた。えーっと見たことある」
スコット「偶然だね、こんな場所で」
笑顔の青年に、笑顔で答えるレイ。
スコット「よかったら、お気に入りのバーがあるんだ、そこでちょっと飲まないか」
レイ「うん、ジュース好き」
スコット「あ、ああ、雰囲気がいい店なんだ」
店の前には警備がいて、スコットの腰の拳銃を預かる。
レイは何も持たないので、あっさりと通された。
静かな音楽が流れる店に座る二人。
その頃、小さな電子部品を買って喜んでいたクロ。
腹の隠しポケットにしまう。
クロ「ん? レイが見えない……場所はわかるけどよ」
そうつぶやいて、件の店に向かうクロ。
8/13 微修正




