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ヴァルキリーバトル  作者: 弓師啓史


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5 神は与え奪う

新登場人物

なし



1,ホテルの屋上、夕方

ボー・クロスメリと銃を持った火星共和国の兵士。

拘束されてはいるが、ホテルの中はある程度自由に歩けるので屋上に来る。

兵士の監視付きで屋上から遠くを眺るボー。

青年が何かに気が付いて振り向くと、屋上から兵士二人が消え、背後に一人の男が立っていた。

ロディ・シモンズ少尉だった。


ボー「決心したんだね」

ロディ「いいだろう、逃がしてやる。ただし条件がある」

ボー「君の好きな条件でいいよ」

ロディ「俺は家族が心配だ……」

ボー「いいよ、会わせてやろう。金も一生使えきれないほど渡す。しかし、どうやるつもりだ」

ロディ「貴様の居場所を企業連合に知らせる。救助されたら俺と仲間を開放しろ」

ボー「たぶん、少人数なら僕の意向でもなんとかなる、しかし、どうやって連絡するんだ」

ロディ「敵がまともなエグゾフレームをくれる、連絡はその時に。救出部隊はその後だ」

ボー「成功したら、君は人生を取り戻せるよ」

ロディ「俺は……妻と息子に会いたい」


罪悪感があるのか囁くようにつぶやくロディ。

偽の日暮れが訪れる。

二人の影が伸びた。



2,工場付近の演習場、昼

鳴り響くサイレン。

北の宇宙港から企業連合の量産エグゾフレーム、クニヤラが吐き出され、飛び回る。

レイとクロは新しく受けとったエグゾフレーム、アイマダインを起動させた。


クロ「おっちゃん、武器をくれ!」

アル「倉庫で好きなの持っていけ!」


アイマダインは工場の倉庫に行き、持てるだけの武器を持つ。

重マシンガン、バズーカ、ビームナイフなどである。


あちこちで爆発が起こり、クリーム色のクニヤラが飛び回っている。


アル「一機来た! 工場退避!」


一機のクニヤラが飛来する。

レイは高速ホバーしながらバズーカで迎撃。

数発撃って盾に直撃する。

盾は半壊したが、機体は無事なようだ。


クロ「盾持ってやがるのか。鬱陶しい」


ビームライフルの反撃が降ってくる。

高速移動で躱し、重マシンガンを撃ち返す。


メインカメラを壊すが、クニヤラも高速機動で背後に回ろうとした。

レイはクニヤラが移動する場所がわかっているのか、全速力でさらに回り込んでいた。


巨人が激突する。

質量の大きいアイマダインがクニヤラを弾き飛ばした。

レイは転がる敵に重マシンガンを連射する。


次々と弱点を正確に射貫く。

飛び散る破片。

バーニアが動かなくなり、移動もできなくなる


レイ「もう、動けないよね」

クロ「これで奴もどうしようもないだろ」


その時、遠くで爆発の連鎖が起きた。

轟音と輝く光。

見ると先ほどの練習機たちが破壊されていたのだ。

クニヤラの一機が飛び去る。


クロ「あれじゃ全滅だ」

レイ「どうしよう」

クロ「戦うしかないぞ、敵のライフルを拾え」

レイ「え、どうするの」

クロ「ハッキングするから、使えるようになるはずだ」


レイはクニヤラの黒いライフルを拾う。

クロは自分の腕から小さな端子を出すと挿入し、システムに侵入した。


最初は使えないという表示が出たが、すぐに使用可能となる。


レイ「クロちゃんすごーい。そんなことができるのね」

クロ「いいから、すぐに敵が来るぞ!」


二機のクニヤラが異変に気付き迫ってくる。

赤い巨体は高速ホバーしながらビームライフルを撃った。

彼らは油断していたのか、急所を撃ち抜かれる。


ボン! ボン!


クニヤラ二機は標的のように一撃で空中で四散した。


レイ「ライフルってすごいのね」

クロ「それが普通だっての」



3.三番コロニーホテル街

三番コロニーは昔のホテル街がある。

企業連合の海兵隊とエグゾフレームはそこに向かって集結していた。

評議会の兵もそこに集結して激しい銃撃戦。

人間だけではなく旧式のエグゾフレームもいるが、押され気味。

レイに通信が入る。


カイン「アイマダイン。レイか」

レイ「はい、レイです」

カイン「敵はボー・クロスメリの奪還に来た企業連合軍だ、手伝ってくれ」

レイ「はい、どうします」

カイン「人間の兵はどうでもいい、クニヤラを倒すんだ!」

レイ「わかったわ、行くわよアマダイちゃん!」

クロ「アイマダイン!」


背中を見せるクニヤラ隊に突撃するアイマダイン。

十機はいる。

二三機が振り向いて迎撃しようとするが次々と破壊されて行く。

四肢が飛び、武器や盾が地に刺さり、煙を上げて地面に激突する。


被害の多さに気が付いた残りが向かってくる。

盾をかざし、警戒しているので今度は安易には倒せない。

次々と爆発する廃ホテル。

巨体で走り回るレイは敵弾を躱すが、奇襲の効果は既になく、敵は地形を盾にしつこく防御を始めた。


カイン「レイ、捕虜のいるホテルがピンチだ。敵の海兵隊が来ている。援軍に行けないか」

レイ「無理よ。ちょっとクニちゃん多すぎ」

クロ「あんたらのエグゾもいるんだろ、無理言うな!」

カイン「俺たちのエグゾがあてになると思ってるのか! 一対三でも勝てんのだぞ!」


怒鳴り合うカインとクロ。


キナコ「僕が行くよ!」


その時、白い三角形の板のような小型機が現れる。


クロ「歩兵相手なら小型機がいたら十分だろ」

カイン「わかった、頼む。捕虜を奪還されたら、また元の木阿弥だ」

キナコ「僕のカメラ出すから、マインドコネクトして」


全周スクリーンの一部が小さく切り取られ、キナコの機体から見える映像が映る。


レイ「うん、感じる。キナコちゃんの機体が見えるよ」

キナコ「射撃は僕がするから、機体操作お願い」

レイ「大丈夫よ、任せて!」


三角形が高速で空を飛ぶ。

数発のビームが撃たれたが、かすりもせずにホテル街まで行った。




4,市街地。

ライフルを構えた火星共和国兵やソル王国兵が重装備の企業連合海兵隊と銃撃戦を行っている。

ロディ・シモンズ少尉は小隊を率いて一角を守っていた。


彼は廃屋の中で数人の仲間の背中を見つめる。

引き金を引こうとする、が、一度躊躇う。


しかし、次は覚悟を決めたのか、仲間の背中に銃弾を叩き込んだ。

一人が気が付いて、銃をこちらに向ける。


火星共和国兵士「貴様! 狂ったか」


非情の覚悟を決めたロディの銃が火を噴く。

男を一瞬早く、射殺した。


ライトを使って特殊な点滅で合図を送る。

企業連合の重武装海兵隊が恐れもなく廃屋に入ってきた。


ロディ「こちらだ、ボーはこちらにいる」

海兵「貴様が手引の者だな」

ロディ「ああ、必ず彼を助けてくれ」


ロディは兵士を案内してホテルに向かう。


海兵「ホテルにガードはいるのか」

ロディ「いる、常駐のがな。しかし、大した数ではない」


海兵隊がホテルまでくると、窓やベランダから激しい銃撃。

海兵隊も撃ち返す。

明らかに企業連合側の方が武力で優っている。

次々と討ち取られる火星共和国兵士たち。


海兵上官「ドローンを飛ばせ。敵兵を掃討するんだ」


海兵たちは小型ドローンを空に飛ばす。

しかし、それは突然の銃撃で次々と木っ端みじんに破壊された。

見ると、三角形の白い板のような小型機が空に現れ、全て撃ち落としたのだ。


キナコ「撤退しなさい。歩兵では僕に勝ち目はないよ」


空に浮かぶ白い三角形。

海兵たちは一斉に銃撃をする。

しかし、三角形の板は異常な機動でくるくると回転して躱し、部隊の背後に回っていた。


ドドドド!


地面に重機関砲弾が炸裂する。

粉塵が飛び散り、地上は煙に包まれた。


キナコ「これは警告だ。このまま全滅して任務に失敗するか、生き延びて任務に失敗するかを選ぶんだ。他の選択肢はないよ」


通信兵「司令部、敵の小型機に釘づけにされています。このままでは全滅は必至です」


海兵隊の通信兵が上層部に連絡を付けた。

指令を受けた後、通信兵が上官に報告する。


海兵上官「退却指令が出た。エグゾフレームの援助は期待できない」


重武装の兵士たちは振り返りもせずに去っていく。


ロディ「まて! まだ、捕虜を助けてないぞ!」


灰色の非情な背中。

海兵隊は彼を無視して歩く。


ロディ「約束のはずだ! 奴を救うと」


ロディは海兵上官の肩を掴む。

上官が振り向くと、その手に拳銃があった。


ロディ「お、おい! 待て」


パン!


銃弾がロディの顔面を撃ち抜く。

飛び散る血液。

ロディは顔面が砕けて死ぬ。。



5,市街地

旧式エグゾフレーム数十台が射撃しながら集結を始めていた。

廃墟ビル群を守っていたクニヤラの部隊だったが、じわじわと包囲されて行く。

頭や腕を出すと、レイのアイマダインが命中弾を叩き込む。


クニヤラに動揺が走った。

クニヤラは盾をかざして後退を始める。


強襲揚陸艇が戦場に強引に突入した。

重装甲の海兵隊を回収する。

兵たちは命からがら駆け込んでいく。


アレン「レイ君、もういい。敵を撤収させてやれ」

レイ「はい」


ライフルを下げるレイ。


クロ「全滅させねーのかよ、今なら叩けるぜ」

アレン「捕虜は守り切った。これ以上の戦いは恨みを増やすだけだ」

クロ「あんた優しいんだな」

アレン「憎しみは連鎖を産む。これでいいんだよ」


レイは無言。



6,エグゾフレーム工場、夕方

アイマダインを返しに行くと、工場の人々が待っていた。

レイとクロが地上に降りると歓声が起き、人々が拍手する。

工場長のアルがやってきてレイとクロ、そして、キナコと握手した。


アル「どうだ俺の調整した機体は」

クロ「おう、期待以上だぜこの機体」


モフ手を上げる黒い子熊。


キナコ「今の洒落だよね……」

クロ「やっぱビームライフルは最高だよな。敵が落として行った奴は俺がハッキングしてやるから全部持ってこーい」


胸を張る黒い子熊。


アル「ま、てめえでもちょっとは役に立ったか。レイちゃんの一割もないが」

クロ「遠慮せず、俺のこと褒めまくってもいいんだぜ」

アル「何の遠慮もしてないが」


レイは人々の歓声も聞こえないのか、空を見上げて不思議そうな顔をした。


キナコ「レイ、どうしたの」

レイ「気のせいか人の声がしたの」

キナコ「みんな大喜びだよ」

レイ「ううん、違うの。なんだか寂しそうで優しい感じだった」

キナコ「僕のセンサーでは拾えなかったと思う」

レイ「……」


レイはどう反応していいのかわからないという表情をする。



7,レイの住宅、夜

レイと子熊二匹は顔を見合わせていた。

夕食の準備も終わったが、まだ子供たちが帰ってこないのだ。

ちゃぶ台の上には夕食が湯気を上げているが、ゆっくり冷めて行く。


レイ「おかしいわ。もう夕飯の時間も過ぎてる」


心配そうなレイ。


キナコ「訓練センターに聞いてみよう、受付の管理AIが答えるはずだ」


端末で連絡する。


キナコ「すみません、ケンジとエリー、幼年の訓練生がそちらにまだいますか」


微かに女性の感情の籠らない答えが聞こえる。

AIの合成された音声。


キナコ「……二人はエグゾフレームの基礎訓練中に襲撃を受けて行方不明だって……」

クロ「おい! 本当かよそれ! もしかして、あの爆発か!」

キナコ「もう一度聞くよ、まだ二人はシミュレーター段階のはずだ」


連絡を取るキナコ。


キナコ「……二人は成績が良かったから、今日初めて実際の搭乗訓練したって」

クロ「じゃあ、二人は、やっぱり」

レイ「そ、そんなの、嘘よね。キナコちゃん」

キナコ「管理AIに嘘をつく理由なんてないよ……」


キナコは首を振る。


クロ「信じたくない。そんなの酷すぎる!」


大声を出すクロ。


レイ「いやぁぁぁああああ!」


レイは涙を浮かべて悲鳴を上げる。


人間とは思えない速度で玄関を開けて外に飛び出す。

家の外に出て、路上に止まっている誰かの車に乗ろうとした。

怪力で金属製の車のノブが引きちぎられる。

慌てて追ってくる二匹の子熊。


クロ「落ち着け、どうする気だ!」

レイ「殺すの! あいつら企業の奴ら! 全員エグゾフレームで!!!」

キナコ「今はどうしようもないよ、二人も帰ってこない!」

レイ「うるさい! 殺すの!!!」

キナコ「レイ! 落ち着いて!」

レイ「うるさい! コロスコロスコロス!!!」


金切り声を上げるレイ。

声が徐々に非人間性を帯びる。


キナコ「クロ君、もうあれしかないよ」

クロ「……そうだな」


一瞬、クロの目が光る。

涙を流して叫んでいたレイはスイッチが切れたよう意識を失った。

脱力して車にもたれかかる。

二匹の子熊は大事な宝のようにレイを抱きかかえ家に連れ帰った。


クロ「かわいそうに。レイはこんな残酷なことに耐えられるのか」

キナコ「今は祈るしかないよ。レイは強い子だよ。僕は信じる」

クロ「ああ、そうだな。俺も信じるよ」


二匹はそっとベッドに少女を寝かせた。

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