4 サイレン
新登場人物
ロディ・シモンズ少尉:元火星共和国軍。二十代後半の男。故郷の妻と息子を心配する。
ハビエル・ユスフ:評議会の一員。大柄な中年男。髭、腕の全面に刺青。タンクトップと軍用パンツ。元麻薬ギャングのリーダー。
1,レイの住宅
小型のライフルを担いだクロが帰ってくる。
ちゃぶ台の前でキナコが小さなデータパッドとにらめっこ。
クロ「ただいまー。あれ、他のは?」
キナコ「レイは二階で寝てるよ。あんな激しい戦闘したら消耗するからね」
クロ「あいつも無敵の超人ではないか。船でもゴロゴロしてたよなそういえば」
キナコ「あれも怠けてたわけじゃないんだよ」
クロ「でも、あのガキンチョどももいないようだが」
キナコ「ああ、あの子たちは学校に行けって連絡が来たんだ。今は学校だよ」
クロ「誰からだよ」
キナコ「このコロニーを統括してる管理AIから」
クロ「んなもんがあったんだ」
キナコ「出撃の連絡とか、パイロット養成はしてるんだよ」
クロ「ここの奴らは標的になるのが仕事だからな……」
そう言って、ライフルを分解し始める。
小さな弾倉をガチャっと横に置く。
キナコ「そういえば、君は何を」
クロ「近所の畑で鼠が出るから退治してたんだぜ」
この付近では家庭菜園をしている家がちらほらある。
キナコ「へー、それで小口径のライフルか。それで何匹倒したの」
クロ「スコアはゼロ!」
きっと鋭い目をする黒い子熊。
キナコ「……要は一匹も倒してないってことだよね」
クロ「そう解釈することもできるな」
キナコ「……AIってそういう作業は普通得意だよね」
クロ「俺は超高級AIだから、狙ってるうちに心のブレがあるんだよ」
キナコ「それって、AIである意味あるの?」
分解の手を止めるクロ。
クロ「にしても、あのガキンチョども、パイロットになってもいいこと何も無いって知らないのか」
キナコ「ケンジ君はエグゾフレームに乗って悪党を倒すって」
クロ「一方的にやられる未来しかないぞ」
キナコ「そう忠告したけど、人間は理屈で動かないから」
クロ「ち、ほんとに最悪の場所だぜ」
銃のメンテナンスをやめて寝転がるクロ。部品がモフ背中の下敷きになる。
二階からパジャマ姿のレイが降りて来る。
レイ「ねー、おなかすいたー」
キナコ「用意するよ。ご飯食べたら、評議会に行くよ。呼ばれてるからね」
レイ「何しに行くの」
キナコ「偉い人がレイと会いたいんだって」
2,評議会
会議室に四人の人物が待つ。
いつもの三人、アレン将軍、カイン・マクドネル、エリアナ・トリシュ。
四人目に初見のごつい男。
刺青が入り、タンクトップに軍用のパンツとブーツ。
ハビエル・ユスフ、元麻薬ギャングのボス。
二匹の子熊が入り、おずおずとレイが会議室に入ってくる。
トッドがレイと子熊たちを紹介する。
ハビエル「おう、噂は聞いてるぜ。街の連中もあんたの大活躍で大喜びだ」
怖い顔を笑顔にする。
レイ「ど、どうも」
キナコ「街の人も知ってるんだ」
トッド「戦いは全宇宙で中継されてるんだよ。街にもモニターがあるからな」
小声でトッドが教える。
アレン「レイ君、評議会は君を大事に思っているのだ、リラックスしてくれたらいい」
エリアナ「それにしても不思議な人ね、あなたは能力者なの?」
レイ「えーっと」
キナコ「彼女はマインドブーストされています。詳細は言えません」
エリアナ「つまり、改造された人間かクローンという事? 天然の能力者……ボーンエリートじゃないのね」
キナコ「はい。彼女はそういう因子を持つ遺伝子を組み込んだ存在です」
エリアナ「それをやったのはどこの組織なの?」
キナコ「言えません」
エリアナ「その組織はあなたたちを捨てたのかも、義理立てしても意味ないでしょ」
キナコ「言えません」
ハビエル「AIに無理強いもできんな、解析してみるか? 俺の部下なら」
キナコ「ハッキングを受けて解除されれば僕はすべて消去されます。それはクロ君もです」
ハビエル「ふむ、しかし、古い技術なのだろう」
カイン「それはわからんぞ。どこかの組織がねじ込んだ最新式かもしれん」
レイがキナコに抱き着く。
泣きそうな顔。
レイ「キナコちゃんが消えるなんて嫌!」
アレン「レイ君、安心したまえ、私は反対だ。興味本位でリスクを冒すべきではない」
カイン「俺も反対。仮に古い技術でも舐めてたら痛い目見るぜ」
ハビエル「ま、無理にとは言わんよ」
ハビエルは太い腕を広げる。
アレン「話題を変えよう。レイ君には新しいエグゾフレームを支給する。企業連合が折れたのだ」
ハビエル「捕虜効果だな。いい気味だ」
アレン「機体はアイマダインになる」
クロ「それはそこそこの機体だぜ」
腕を組む子熊。
レイ「アマダイ? なにそれ」
クロ「アイマダイン! 赤くてでかくてドバーッと動いてバスバス攻撃するやつだ」
レイ「ふーん、わかった」
キナコ「……それでわかる?」
アレン「とにかく以上だ。レイ君、今後の君の活躍を期待してるよ」
評議会から去るレイたち。
エリアナ「赤ん坊みたいな女の子ね、何も知らないというか」
カイン「戦争の道具なんて使い捨てってことだ、人格なぞ要らん」
エリアナ「そう言って旧ソル軍は失敗作を作りまくったわよね」
カイン「俺はやってないぞ、個人的に人体実験は反対だ」
アレン「しかし、彼女は強い正義感がある。彼女を作った何者かにそういう思いがあったのでは」
エリアナ「正義感……フフ。それが一番利用しやすい感情よ」
ハビエル「とにかく、利用できるならいいじゃないか。何を怖がってる」
エリアナ「便利な道具で怪我をしたくないだけ」
ハビエル「街の人間がどれだけ大喜びか知らんのか」
エリアナ「そんなの、浅薄な大衆心理よね」
アレン「とにかく今は彼女の強さに頼るしかない。そして、彼女が勝ては状況を少しずつでも有利にできるのだ」
カイン「念のためにこっそり護衛を付けますか。何があるかわからない」
アレン「そうしてくれ。でも監視はバレないように」
うなずくカイン。
3,居住区、ホテル街
太陽の方角にある宇宙港、通称北港に隣接する居住区近くに廃ホテル群がある。
昔、コロニーが建設された当初は普通のコロニーとして旅行者なども来ていた名残り。
その地区は丘になっており、丘に張り付くように景色のいい立派な建物が並ぶ。しかし、今は人の住まない廃墟になっている。
その一角、中でも状態のいいホテルに、元火星共和国兵と思われる一団と高級なパイロットスーツを着たボー・クロスメリが訪れる。
彼らは捕虜を軟禁するために連れてきたのだ。
ボー「君たちは火星共和国の兵士か」
青年は時々何かを問うが、兵士たちは冷たい沈黙を守る。
ボー「僕を助けてくれたら、君たちを出してやる。出すだけじゃなくて大金持ちにしてやる」
青年が何を言っても、兵士たち黙々と目的の部屋に向かう。
やがて、かなり高級な一室に案内される。
兵士「入れ」
ボー「やれやれ、士気の高いことで」
皮肉を言うが、彼らは無言だった。
ボーは一室に閉じ込められる。
数日後。
何度かの兵士の交代があった。
部屋に三人の男が入ってくる。
軍服から火星共和国の兵士だと推測される。
真ん中の男は階級章で少尉だとわかる。
二十代後半だろうか。
ボー「君は」
少尉「ロディ・シモンズ元少尉だ」
ボー「その少尉さんが僕に何の用かな。紳士的扱いのはずだ、尋問拷問は約束をたがえることになるぞ」
ロディ「質問があるだけだ、あくまでも紳士的にな」
兵士二人は出て行く。
二人になった。
ボー「一対一の対話か、いいだろう、話せる範囲なら答えよう」
ロディ「今、火星共和国はどうなってる」
ボー「そんな話か。火星共和国は解体されたが、自治領になったよ」
ロディ「住民はどうしている」
ボー「戦争犯罪人は逮捕されたが、住民はそのままだよ。そのまま地球市民として暮らしている」
ロディ「嘘をつけ! 奴隷のように扱っているのだろう!」
怒りで紅潮するロディ。
ボー「クロスメリ財団はそれに反対したんだ。無理な開発を強要して同じ結果を招くのかと」
ロディ「……」
ボー「火星を無理やり開発しても、結局、戦争が起きて破壊されるなら意味がないだろう」
ロディ「ふん。信じられるか、現に貴様は殺人ゲームをしていたではないか!」
ボー「ここにはテロリストが籠っていて周辺に襲い掛かっているという話でね、僕は討伐に加勢しただけだ」
ロディ「ゲームのように中継されて、おかしいと思わんのか」
ボー「……そうだね、僕も不見識だったようだ」
ロディ「俺たちは反乱をした。それには極端な抑圧があったからだ。しかし、だからと言って、殺人ゲームの駒にされるほどのことをやったのか」
ボー「僕も君の気持がわかるよ。ここにきてそう思ったんだ」
ボーの心に、泣いて激怒するガスの姿が浮かぶ。
ロディ「本当なのか、その気持ちは」
ボー「どうだ、僕を開放してくれたら、もうこんなゲームをやめるように働きかけるよ」
ロディ「貴様! 逃げたいだけだろ。適当なことを言いやがって!」
ロディは拳を振り上げるが、ボーは避けもせず見返す。
赤い顔をしたロディはブルブル震えていたが、やがて拳を降ろす。
そして、そのまま部屋を去った。
ボー「……さて、種をまいたかな」
ボーはほとんど聞き取れないほどの小さな呟きをする。
4,レイの自宅、夕方
ケンジとエリーが帰ってきた。
キナコとクロが夕飯の準備をしている。
レイ「二人とも、今日はどうだったの」
ケンジ「うん、僕たち、パイロットの才能があるって言われたよ」
エリー「お姉ちゃん、これ」
エリーは小さな白い花を摘んで持っていたのだ。
帰り道で手に入れたのか。
レイ「ありがとう」
エリー「髪に挿してあげる」
ケンジ「僕、強くなってあいつらやっつけるんだ。お姉ちゃんみたいに」
レイ「……」
髪に花を挿したレイは複雑な顔をする。
子供たちがパイロットになって火に包まれる想像が起きた。
キナコ「はい、今日は合成肉の肉じゃがだよー。主食は合成米」
エプロンを付けたキナコがお盆に料理を載せて来る。
子供たちも慎重に並べる。
レイ「おいしそうねー」
子供たち二人がうなずく。
クロ「もうちょっとまともな食いものがいるな」
三人は何も文句を言わず、合成食品の料理を食べる。
レイは時折子供たちの様子を見て優しい笑顔になった。
キナコ「君は食べたことないだろ」
クロ「見ただけでわかるぞ、そんなの」
キナコ「仕方がないよ、支給されるのは最低限だけなんだから」
クロ「……俺も飯を食うか」
そう言うとクロはモフいわき腹にあるスリットを開いてコンセントを入れる。
クロ「ああ、やっぱ家庭用電源は美味いぜ」
レイ「そんな物に味とかあるの?」
クロ「もちろんだ」
キナコ「レイ、クロ君の嘘を信じたらダメ!」
クロ「ところで新しいエグゾはいつ受け渡しなんだ」
キナコ「一週間後かな。小細工をチェックするんだって」
クロ「まあ、当然だわな」
5,エグゾフレーム工場
いつもの雑然とした工場。
古くて巨大な加工機械などが轟音を響かせて動いている。
工場の一番広いスペースに赤いエグゾフレームが立つ。
重厚なボディに装甲と巨大なバーニアが幾つもある。
レイといつもの子熊たちが現れ、巨人を見上げる。
レイ「へー、アマダイちゃんってすごい大柄」
クロ「アイマダイン! こいつは名機といっていいぞ、各地の戦場で頼りにされてる」
キナコ「マインドコネクトも既に載ってるみたいだよ」
クロ「もうか。早いな」
キナコ「アイマダインはスペースに余裕あるからね」
工場長のアルもやってくる。
アル「見たぜ、あんたの活躍。いけ好かない金持ち小僧を捕虜にしたのをよ」
クロ「俺も乗ってたんだぜ」
アル「だから、あんたのために新型をみんなで突貫工事したんだ。みんな、やる気出してくれてな」
レイ「ありがとう、アルさん」
笑顔のレイ。
少し赤くなる工場長。
クロ「おーい、俺も」
アル「へへへ、とにかく、一度乗ってみてくれ」
レイ「うん。でも、私の新みどちゃんはどうなったの」
アル「あー、あれは左半分の破壊が見た目より酷くてな。とにかく使うのは無理だな」
レイ「ごめんね。相手が思ったより強くて」
アル「気にするな」
レイは搭乗するために昇降口を探すが見つからない。
レイ「これどうやって乗るの」
アル「ああ、それは頭にコクピットがある。後頭部から乗るんだよ」
昇降機が降りてきて、レイが掴まるとするすると登って行く。
クロは慌ててレイの腰にしがみついた。
後頭部が開き、広いコクピットが見える。
レイはすぐに入らずに景色を眺める。
レイ「いい景色ねー。他の機体も頭にコクピット付けたらいいのに」
クロ「うわーこわ。お前よく平気だな」
クロは見苦しく手すりにしがみついている。
レイ「こんなの大丈夫よ」
すたすたとアイマダインの肩を歩く少女。
クロ「すぐに戻りなさい! 危なすぎ!」
レイ「怖がり熊ちゃんなのねー」
面白そうにしながら戻ってくる。
コクピットに入る二人。
クロが座る専用の補助椅子まである。
レイ「全く広さが違うわね」
クロ「この機体は居住性まで考えてあるからな」
レイ「え、すごーい、全周が見えるのね」
全方位スクリーンが映ると二人は空中に浮いているような感覚になる。
赤い巨人の一つ目に光が灯り動き出す。
通信が来る。
アル「いいか、機動性のテストだ。いつも通り演習場から出るな」
クロ「おーい、おっちゃん。ビームセイバーすらないぞこの機体。標準の大型バズーカもないのか」
アル「アクスとロゼの標準武器ならいっぱいあるから自由にしてくれ」
クロ「まーたそれかよ!」
レイはアクス用の重マシンガンを拾うと、高速で動まわる。
地上はホバー移動ができるらしく、段違いの機動性能だった。
レイ「みどちゃん系とは全然違うわねこのアマダイちゃん」
クロ「アクス系な、んで、これはアイマダイン」
演習場に戦艦の残骸から作った標的があるので砲撃する。
全速力で移動しながら、描かれた円の中心にバスバスと命中する。
同じ場所に当たりすぎて、貫通してしまった。
砲弾が後ろの無人の丘で炸裂する。
アル「すごい腕だな。奴らに勝てるわけだ」
クロ「いい武器がないと勝てるもんも勝てませんぜ、旦那」
アル「それは俺に言っても無駄だ」
練習をやめ、休憩するレイ。
コクピットを開けると、コロニー内の風が心地よい。
ふと見ると、アクスとロゼが数機、遠くで歩いていた。
緑の丘を歩く旧式エグゾフレームの列。
レイ「みどちゃんとロゼちゃんね」
クロ「あれは訓練センターのひよっこが操縦してんだ。歩くのも危なっかしいな」
レイ「ちょっとじれったいわね」
クロ「初心者なんてあんなもんだぜ」
二人はすぐに興味を失って別の景色を眺める。
何となく、北港の方角を見ていると光点が幾つも現れる。
レイ「ねえクロちゃん。あの光なんだと思う」
クロ「北港か、企業の補給船かな……おかしいぞ! モニターで拡大してくれ」
レイが慌ててコクピットに座りモニターで拡大する。
北港は市街区と隣接している。
煙が上がっていた。
そして、強襲揚陸艇が現れエグゾフレームの群れが飛び回る。
クロ「飛んでるのはクニヤラだ。絶対敵襲だよ!」
コロニーの偽の晴天、のどかな午後に、サイレンが鳴り響く。




