3 白と青の邪神
新登場人物
エリアナ・トリシュ:三番コロニー評議会の一員。中年の地味な女。反地球連合テロ組織を率いていた。
ガス:髭の中年男。人間狩りの駒。強い諦めを持つ元ソル王国兵。
ボー・クロスメリ:茶色の髪を持つ美青年。貴族であり、クロスメリ財団の御曹司。ティシュトリアのパイロット。
ミラ:青く染めた髪、上流階級の冷酷な雰囲気の女。ホワイトナイトのパイロット。
1,エグゾフレーム工場
大量のジャンク部品が搬入されて、作業員やロボットたちが使える部品を山から探している。
遠くから眺める二匹の子熊。
クロ「すげえゴミの山だな」
キナコ「そういうなって、あれには価値のあるものもあるんだよ。それにあれに紛れて僕らのみどりちゃんを搬入できた」
みどりちゃんとは輸送船にあった高機動型アクス改のことである。
クロ「んで、あれはめでたくバラバラか」
キナコ「そうだね、マインドコネクト装置を取れば無茶な機体でしかないから」
無数のバーニアとほとんど装甲がない機体を見て、工場長のアルは絶句したのだ。
二人の脳裏にアルの反応が思い出された。
アル「こりゃ、暴走自殺志願機だ。ちょっとでも当たれば即死だぜ」
作業服を着た男がやってくる。
作業員「子熊のお二方。工場長がお呼びですよ」
クロ「ハイアクスの引き渡しか」
作業員「ええ、うちの自慢の出来です」
呼ばれた二人はモフい尻を上げる。
2,工場内部
機械と廃部品が雑然と並ぶ工場。
溶接のアークが光り、油の焦げた匂いが漂う。
工場の広間に緑色の巨人が立っていた。
基本のフォルムは古いアクスと同じだが、バーニアの位置や装甲の形状が違う。
車に乗って、レイも来ていたようだ。
もちろん、運転はトッド。
エグゾフレームの前には作業台が設置され、コーヒーカップが置かれて注がれていく。
アル「完成式典と言っても何もないから。インスタントコーヒーで乾杯だ」
レイ「やったー。かっこいいね新みどちゃん」
飛び跳ねるレイ。
アル「こらー、変な名前つけるな。俺の機体は仮名ハイスラッシャー朧だぜ」
クロ「すげー中二くせー」
アル「熊は黙ってろ」
キナコ「性能に何か変化はあるの?」
アル「あんたらの装置付けた。それとレイがとにかく高機動にしろ、装甲減らせって言うからそうしたぜ。機動力は普通のハイアクスより二割増しだ」
クロ「おい何やってんだよおっさん! レイが死んだらどうする。重装甲にしろ!」
レイ「当たらなければどうってことないでしょ」
レイがクロの頭をなでる。
クロ「レイは能天気なんだよ」
アル「心配するな、コクピットとバーニア周りとか、危険な所は固くしてある」
クロ「そ、それならいいけど」
レイ「早速乗ってみたい!」
アル「好きにしてくれ。演習場を出るなよ。あと、特注の小型機もあるが」
アルの指さす先には一人乗り用の白い小型機があった。
二門の機関砲と小さなミサイルがついている以外は、まるで三角形の板だった。
トッド「あんなもの、たいして役に立たんだろ」
キナコ「あれは僕の機体なんだ」
アル「生命維持装置を全部取ったのはそのためか。とにかく操縦桿すらない。自己責任で頼むぜ」
レイとクロがハイアクスに乗り、キナコが小型機に乗る。
キナコは小さな座席に座って、モフ腕から端子を出して接続。
そして、この小型機はふわりと浮くと、ハイアクスの背中に元からある装甲板のように張り付いた。
キナコ「マインドコネクトの接続も良好だよ」
ハイアクスは工場を出ると演習場で稲妻のように動く。
レイ「いい感じよ。新みどちゃん。動きが軽いわ」
アル「すげぇ動きするな。あの嬢ちゃん」
遠くから眺める関係者たち。
ハイアクスから通信が入る。
クロ「こちらクロ。武装が足りんのだが。何にもないぞ」
アル「こちらアル。ジャンクに何期待してんだよ。その辺の適当な武器を使いやがれ」
クロ「ブーブー」
アル「熊は黙ってろ」
3.宇宙空間。小型輸送艇
暗い宇宙を行く小型輸送艇。
格納庫はなく、旧式のエグゾフレームが四機しがみついている。
アクスが一機、盾を持ったロゼが二機。
そして、レイのハイアクス。
アクスのパイロット「よう、あんた若いのに不運だな。ほぼ死ぬのは決まってるようなもんだぜ」
レイに話しかけてきたのは髭の中年男だった。
レイ「あなた名前は?」
アクスのパイロット「俺はガス。名前を聞いても意味はないがな。どうせほぼ死ぬ」
レイ「ほぼってどういう意味」
ガス「一生懸命戦ってぎりぎり脱出できたら、情け深いお客なら殺されないかもってことだ。今のところそれが最大の生存の可能性だぜ」
レイ「負けるとは限らないわ」
ガス「夢を見るな。相手はデザイナーフレームが二機。当然クニヤラの護衛もいる。万に一つぐらいしか生存の可能性はないんだよ」
諦めきってる男は肩をすくめる。
レイのモニターに敵の開示情報が映った。
白い騎士のようなほっそりしたエグゾフレーム「ホワイトナイト」。
そして、背中に円盤を背負った異形の機体「ティシュトリア」。
性能もパイロットも開示されていない。
戦う相手であるとだけわかる。
レイ「……」
ガス「ところであんたの背中についてる三角形のはなんだ? 装甲、じゃねぇな追加バーニアか」
レイ「隠し玉よ」
ガス「あがくねぇ。全部無駄だって。頑張って戦ってるふりが一番肝要だぜ」
レイ「とにかく、諦めないで頑張りましょう」
ガス「へいへい。でも、あんたのこと嫌いじゃないぜ」
そう言って通信が切れる
小型艇は巨大輸送艦の残骸が浮かぶ宙域に向かう。
4,巨大輸送艦の残骸
放棄された巨大輸送艦が浮かぶ宙域。
小型輸送艇は四機のエグゾフレームを外して、少し離れたところで待機する。
奇跡的に生存者がいた場合に回収する役割なのだ。
ガス「ロゼ二機は盾をかざして前に出ろ。防御行動に徹するんだ。でもビームガンで反撃は忘れるな」
ロゼのパイロット1「ああ」
ガス「俺たちアクス系はバズーカで遠距離支援する。運が良ければ多少は善戦できるかもな」
ロゼのパイロット1「ああ、やるだけやる」
クロ「諦めきってるよな」
今まで無言だったクロがつぶやく。前と同じように隙間に挟まっている。
レイ「こんな残酷なゲーム。どこかで終わらせないと」
やがて、光の粒が宇宙の闇に複数出現し、徐々に大きくなっていく。
ガス「来たぜ、油断するな」
六機のエグゾフレームが見える。
四機はいつものクニヤラ級。
二機は事前に知らされていた、ホワイトナイトとティシュトリア。
天文学的な金額で作られた二機は輝きと迫力が量産機とは全く違う。
ガス「やれ!」
ほぼ同時に双方が射撃を開始する。
クニヤラ級は牽制の射撃だが、デザイナーフレームたちは輝くビームの命中弾を叩き込んでくる。
すぐにロゼの盾がボロボロに壊れ、盾からはみ出していた四肢や頭部が溶けていく。
ガス「くそ、くそ!」
必死にバズーカを撃つ。
しかし、ガスとレイのロケット弾は次々と破壊されて到達もしない。
ガス「このままだとロゼが」
ホワイトナイトがロゼ二機に迫り、ティシュトリアがアクス二機に迫る。
レイ「ガス、ロゼの加勢に行って、私があの青いのを引き付けるから」
ガス「ああ、やるだけやってやるぜ」
ガスのアクスがバズーカを撃ちながら突撃する。
レイはロケット弾をティシュトリアに叩き込むが全て回避された。バズーカを捨てる。
クロ「弾速遅いんじゃ無理だぜ。近寄らないと」
レイ「わかってる」
追ってくるのを確認してレイは無数の残骸が浮かぶ巨大輸送艦の中に入って行った。
5,巨大輸送艦の内部
高速で逃げ込むレイ機。追うティシュトリア。
ボー「ミラ、僕はあのハイアクスを仕留めるよ」
ミラ「ええ、気を付けて」
ボー「君こそ、三対一だろ」
ミラ「心配しないで、今一匹減って二対一になったわ」
どこかでエグゾフレームが爆発する輝きが見える。
輸送船の中を飛ぶ二機。
大きな残骸が浮き、全速力では飛べない。
時折、ハイアクスの一部が見えるが、一瞬で消えてしまう。
ボー「ち、ちょこまかと」
青年の顔に苛立ちと笑いの混ざったような感情が出る。
闇の通路を青い光で照らしながら進むティシュトリア。
ミラ「手こずってるのね。外に出て、ティシュトリアの火力で輸送船を全力攻撃したらどう。楽に勝てるわよ」
ボー「それで勝っても面白くないだろう。それじゃ単なる戦争だ」
ミラ「でも、安全でしょ」
ボー「安全に生きたいならこんな事をしてないよ」
ミラ「それなら、お好きに」
ボーは全身の神経を張り巡らせて、闇を進む。
通路はやがて、外に出るようだ。
6,甲板の上
輸送船の甲板の上。
大量の残骸がわずかに残った重力で甲板の上に緩く堆積している。
そして、緑色のハイアクスが待っていた。
右手にいつもの重マシンガン。
ボー「君、ただものじゃないだろう。名前は?」
至近の通信波。
レイ「レイよ」
ボー「君に勝ち目はない。降伏したら命は取らないよ」
レイ「……」
レイは答えなかった。
次の瞬間両機が動く。
ティシュトリアは右手から光の球を発射。
レイは重マシンガンを連射。
光の球は曲がって追尾するが、レイを捕捉しきれない。
逆に砲弾が数発ティシュトリアに命中した。
しかし、装甲を抜けない。
ボー「そんな武器で勝てるわけがないだろう!」
ティシュトリアが頭から拡散ビームを乱射しながら迫る。
一瞬、追い詰められるハイアクス。ハイアクスの装甲板が一部消失し、左腕が溶ける。
レイ「キナコちゃん! 今よ!」
レイが叫ぶと甲板の亀裂から細い板のような小型機が現れ、ティシュトリアの背後から砲弾と小型ミサイルを連射する。
青い機体の背中が盛大に爆発する、しかし、異常に頑丈なのか動きは止めない。
ボー「舐めるな!」
ティシュトリアの背中の円盤が輝き全周に向かってビームを乱射した。
ビームは小型機を貫くように見えたが、紙一重で次々と躱してしまう。
狭い隙間を瞬時に選択できるようだった。
ボー「バカな。まさか」
レイ「そう、そのまさかよ」
いつの間にか、画面いっぱいに重マシンガンの銃口が見えている。
ドドドドド!
至近距離で連射される砲弾。
装甲は貫けないが、センサーや関節、内臓武器、ライト、様々な耐えきれない部品が破壊されて行った。
ボーの目の前で画面が何度も切れ、予備に切り替わっていく。
レイ「降伏しなさい、あなたに勝ち目はない」
厳かなレイの声。圧倒的な自信。
ボー「わかった、降伏する」
青年がそう告げると、銃口が降ろされる。
三角形の小型機がすーっとハイアクスの背中に張り付く。
その時、ボーがにやりと笑う。
ティシュトリアの手にビームセイバーがあった。
ボー「悪いけど、油断したね!」
振り上げられるビームセイバー。
レイ「もう!」
ハイアクスはティシュトリアに体当たりをした。
倒れるティシュトリア。
ビームセイバーは衝撃で宇宙の彼方に飛んでいく。
機体を踏み付け、ビームナイフを抜いてコクピットに突きつける。
ミラ「待って、殺さないで」
白い機体が接近していた。
レイ「ホワイトナイトね。私の仲間はどうしたの」
ミラ「倒したわ。一人だけ脱出したから殺してない」
レイ「二人も殺したのね。遊びでそんなことやって何も感じないの?」
ミラ「……とにかく、その人はクロスメリ財団の御曹司よ。手にかけたらあなたたちは皆殺しにされる」
感情のこもらない声で答える女。
レイ「殺さないわ。捕虜にする」
ミラ「待ちなさい。このまま手を引くなら、悪いようにはしないわ」
レイ「あなたこそ諦めなさい。こいつは連れて行く」
ミラ「どうなっても知らないわよ。三番コロニーなんて、私たちが本気になれば簡単に全滅させられるわ」
レイ「私たちはいつも死ぬ恐怖の中で生きてるの。そんなの脅しにならない」
ミラ「……失うものが無い相手は厄介ね」
ミラはそうつぶやくとそれ以上は何も言わなかった。
ホワイトナイトは白い光の塊になって行ってしまう。
ボーはコクピットを開けて手を上げて出てくる。
ボー「僕は貴族の一員だ。紳士的扱いを約束するなら降伏しよう」
レイ「ええいいわ。でも、次、変なことをしたら」
ボー「嘘はつかないよ。信じてくれ」
やがて、小型輸送艇がやってくる。
7,小型輸送艇の一室
手錠をかけられたボー。
ガスとレイ、クロが座る。
ガス「マジでデザイナーフレームを倒したのかよ。信じらんねぇ。しかも捕虜までも!」
レイ「仲間は助けられなかったわ。ごめんなさい」
ガス「何言ってんだ。全部助けるなんて絶対無理だ。それよりあんたは本当にすごい」
ボー「君は何者なんだ。普通の人間じゃないね」
ガス「だまりやがれ! 貴族野郎め。ボコボコにしてやりたいぜ」
激高して立ち上がるガス。
レイ「ダメよ、紳士的扱いするって約束したんだから」
ガス「クソ! クソ! 俺たちはロクな人間じゃねぇ。でも、こいつらのゲームでどんだけ無駄に死んだか。絶対許せねぇ!」
ガスは涙を流しながら壁を殴る。
そして、別の部屋に行ってしまった。
クロ「このお坊ちゃんと一緒にいるのが耐えられなかったんだろな」
レイ「……」
クロ「あんたら、人間狩りゲームなんてやって、悪いことしてると思わんのか」
ボー「主催者の説明では、君たちは追い詰められたテロ集団で、戦わないと周辺に襲い掛かるという話だよ」
クロ「やっぱデマでごまかしてんだよな。んなわけあるか。あんたらの戦いにいつも都合よく弱めのエグゾフレームがあるのがおかしいと思わんのかよ」
ボー「……」
クロ「いらない人間もエグゾフレームも企業の手先が狩の獲物として送り込んでんだよ」
ボー「うわさでは聞いていたけど……」
クロ「ち、現実見やがれ」
やがて、三人は無言になってお互いを見ようとせずに佇む。
8,三番コロニー評議会
質素な会議室に集まる三人の男女。
アレン将軍、カイン、そして初めて見る中年の女。
カインはカイン・マクドネルという名の五十代の男。ソル王国系ゲリラ組織所属。生まれてこの方兵士として生きてきた。緑色のパイロットスーツを私服代わりにしている。
中年の女はエリアナ・トリシュ。反地球連合テロ組織を率いていた。一見穏やかな人物で服装も普通。
この三人はこの三番コロニーで一定の勢力を持ち、話し合ってコロニーの政策を決めていた。
三人は席について大画面を見る。
捕虜になったボー・クロスメリ。鹵獲されたティシュトリア。黒い子熊を連れて歩くレイなどが次々と映る。
エリアナ「本当に信じられないわ。勝っただけじゃなくて捕虜を取るなんて。しかも相手はクロスメリ財団の御曹司よ」
カイン「この幸運は最大限活用しないと。将軍、企業連合とどう交渉する気だ」
アレン「あまり無茶な要求をすれば、捕虜の命を無視する可能性は常にある」
エリアナ「バランスが大事よね」
アレン「とにかく、物資の増量と武器を要求する」
エリアナ「殺人ゲームは止めないの?」
アレン「それをやめろと言えば、奴らにとってここの存在意義がなくなる。強硬手段が行われる可能性が高い」
カイン「至近にいる監視衛星の撤退を要求したらどうだ。常に見張られていては永久に逆転なんかないぞ」
エリアナ「そうね、それは重要よ」
カイン「そうすればあの輸送船を港に入れても大丈夫だ……そうだ、それと戦いで脱出したパイロットの殺害を禁止したほうがいい」
アレン「とりあえず、要求はそれでいいだろう」
エリアナ「たぶん、スパイが入ってきたり、内部で裏切者が出たりするわよ。あの坊やを取り返したいはずだから」
カイン「そうだな。士気の高い人間を選抜して評議会付きの治安部隊を作ったほうがいい」
アレン「それは君に任せるよ」
カインとエリアナは立ち上がって、会議室を去る。
アレン将軍は汚く雑然とした街を窓から見た。
アレン「いつか、このコロニーの人間が助かる未来があるのだろうか。私にも想像ができない」
そうつぶやき、その後は無言でタバコを吸う。




