2 三番コロニー
新登場人物
トーマス・アレン:評議会のリーダー格。細身で口ひげ、60代。三番コロニー内で元火星共和国軍の残党をまとめる。過去の地位が高いため将軍と呼ばれている。
カイン・マクドネル:評議会の一員。元少佐。無精ひげと狼のような雰囲気の古参兵。軍用のパイロットスーツを私服代わりにしている。元ソル王国残党をまとめる。
アル:大柄で豪放磊落な工場長。
ケンジ:レイが与えられた住宅に住みついていた子供。奴隷の子供で三番コロニーに捨てられた。
エリー:ケンジと同じ境遇。金持ちと奴隷の子供。
1,宇宙に浮かぶ古いコロニー
レイ、トッド、キナコとクロが乗る輸送船は古いコロニーに接近する。
コロニーは巨大な円筒形、巨大な太陽光パネルが羽のように飛び出していた。
コロニーの近くには膨大な残骸を集めた巨大ながらくたの雲がある。
輸送船は何かを警戒するかのようにその雲の影に入った。
トッド「太陽の方角に敵の監視衛星がある。雲を使って視線に入らないようにしたからバレていないと思うけど、見つかったらこの船は接収されるだろう」
キナコ「このコロニーは占領されてるの?」
トッド「占領? 厳密には違うが似たようなものだ」
首を振るトッド。
クロ「どうやって入るんだ」
トッド「この船にボートがあるからそれで」
キナコ「普通、セキュリティチェックされるよね」
トッド「心配するな、多少の出入りは誰も気にしていない。エリアの脱出だけ厳しく監視されている」
クロ「意味が分からん、何のためだ」
トッド「細かいことはボートに乗ってから教えるよ」
2,小型の宇宙艇、ボートの中
レイ、クロ、キナコ、トッドが乗り込み、トッドが操縦する
トッド「つまり、敵はこのエリアを大きく監視していて、輸送船の接近は流石に気が付いてしまう。しかし、外宇宙を航行できないボートは気が付かないか無視しているんだ」
クロ「んで、何のために?」
トッド「三番コロニーの人間はある目的のために自由に生かしているんだよ」
レイ「自由に暮らせるならいいことだと思うけど」
トッド「その自由の目的が問題なんだ。敵……企業連合は俺たちをここに住まわせて、旧式エグゾフレームに乗せて狩の獲物にしている」
クロ「要は人間狩りってことか」
レイ「ひどい!」
キナコ「そんなコロニーには行かないほうがいいと思うけど」
トッド「他に行く場所はないぞ。君たちはあの金持ちを殺した。あいつは敵にとって大事な客の一人だった。逃げてもエリアを出る時に艦隊に捕捉されて、あの輸送船なんて粉々にされる」
クロ「なるほどな。あんたらかわいそうな連中と俺たちは一蓮托生になったんだな」
トッド「そういうことだ」
レイ「三番コロニーってどんなところなの」
トッド「酷いところだよ。人間狩りの獲物だから大抵は戦争捕虜や犯罪者、金持ちが捨てた奴隷、改造されて失敗した人間なんてのもいる。みんないつ死ぬかわからないから刹那的ですぐに暴力だ」
レイ「おこりんぼさんばかりなのね」
クロ「んな、かわいいもんじゃねー」
子熊二人、ボートの後部席で密談。
クロ「こりゃ、大量に武器を準備しておいて正解だったな」
キナコ「トッドの話聞く前から武器をいっぱい積んでたよね」
クロが手押しのコンテナを運んでいる回想。
クロ「そりゃ、何があるからわからんし。あいつが獣の本性出して『やっぱり、むらむらして我慢できん』とか言ってレイに襲い掛かるかもしれんだろ」
キナコ「君、ちょっと考えすぎだよ」
キナコが苦笑する。
クロはモフ腹の隠しポケットから九ミリの自動拳銃を出す。
クロ「俺たちはレイの護衛だぞ、警戒忘れんなよ」
キナコ「トッドはいい人だよ。それに彼女は彼の命の恩人だ」
レイ「ねえ、ところで何時になったらコロニーにつくの」
トッド「二日後ってところだな」
レイ「えー退屈!」
そう言ってレイは座席を倒して寝転ぶ。
3,コロニーの港
小型ボートは無重力の中をゆっくりと進んでいく。
戦闘用の宇宙服を着て、マシンガンを持った数人の兵士が待ち構えている。
兵士「何者だ」
トッド「共和国軍のトッド伍長」
兵士「まさか、生き延びたのか」
トッド「将軍に報告したい、通してくれ」
兵士「ああ」
彼らはあっさり通してくれる。
レイとキナコとクロ、そして、コンテナを引っ張るトッドがボートから出て、エアロックに入る。
トッド「何だ、この荷物、妙に重くないか」
クロ「レイのだよ。女の子は荷物が多いんだ。詮索は無粋だぞ」
兵士が合図して通される。
エレベーターに入りコロニーの地上に降りていく。
キナコ「本当にチェックも何も無いんだね」
トッド「ああ、このコロニーに政府なんてないからな。あるのは評議会だけ」
クロ「それっぽいものはあるんだ」
トッド「一応、こんな混沌とした場所でも勢力はある。俺の属する元火星共和国軍、元ソル王国兵、後はテロ組織とか麻薬組織の奴ら、色々だ」
エレベーターを出ると市街地に。
ガラガラとキャスター付きのコンテナを押すトッド。
クロとキナコはそれに乗っている。
トッド「何だこれ、本当に無駄に重い」
レイ「あ、あの人見て。顔にいっぱいお絵かきしてるよ」
レイが指さす先にギャングとしか思えない刺青塗れの男。
タンクトップでごつい男が睨みつけている。
頭は無毛。
クロ「あ、ほんとだ、頭もつるっぱげじゃん。ぷぷ」
トッド「いいから! ああいうのに関わったらダメ!」
男のズボンには拳銃が突っ込まれている。
男が怒る前に急いでコンテナを押して立ち去る一行。
トッド「ハァハァ、どうなることかと思ったぞ」
レイ「ところで、どこまで行くの」
トッド「もう見えている」
そこは雑居ビルで、一階が雰囲気の悪そうな酒場だった。
4,酒場
人間二人は入って行く。
子熊二匹はコンテナの上に座って店の前。
軍服を着崩した男たちが数人、他にもならず者のような連中もいる。
軍服の男たちがトッドを見て大きな声を出す。
軍服のリーダー「トッド、生きてたのか。これは奇跡だ」
トッド「ああ、ロディ。この子がエグゾフレームに乗って俺を助けてくれたんだ。名前はレイ」
レイ「あの、どうも」
おずおずとあいさつするレイ。
ロディ「へー、すげえ美人じゃねぇか。凄腕パイロットなんだな。俺はロディだ」
トッド「将軍はいるか」
ロディ「ああ、お前、まずは生存報告をしろよ。この子を合わせるのはその後だ」
トッド「わかった」
ロディたちとトッドは奥に入り、手持ち無沙汰のレイが一人残された。
暫く待っていると、ならず者の一人がレイに話しかけてくる。
ならず者「よう、姉ちゃん。ちょっと俺と酒を飲もうぜ」
レイ「いや……来ないで」
ならず者「怖がらなくていいんだぜ、ちょっと俺と仲良くしてくれたら、な?」
べたべたと触ってくる男。
レイは恐怖で凍り付く。
レイ「や、やめて」
ならず者「姉ちゃん、サイボーグなのか。どんなサービスできんだよ」
にやにや笑う男。
酒臭い息がレイの顔にかかる。
男はレイの金属の手首をつかむ。
レイは泣きそうな顔で首を振った。
ドン!
扉が開いて、小型コンテナが店に突入してくる。
驚く人々。
コンテナのふたが開き、軍用のヘルメットをかぶったクロが大型ショットガンを持って顔を出す。
クロ「レイから離れろ糞野郎! ミンチになりたいのか!」
それは大砲のような銃口の連射式ショットガンだった。
ならず者の仲間たちが一斉に腰の銃を抜く。
レイ「放して!」
稲妻のような一撃で男を棘状の端子で刺す。
レイはクロの後ろに隠れるようにコンテナに身を寄せた。
怯えた小動物のような動き。
ならず者「つ! てめぇよくも」
クロ「死にたいのか、てめーら全員肉団子になるぞ」
銃を構えたならず者の仲間たちだったが、連射式ショットガンの大口径を見て徐々に逃げるように動く。その先に別の出口があった。
ならず者「へ、へへ。冗談だ。冗談じゃねえか本気にするなよ」
彼らは慌てて別の出口から逃げ出してしまう。
ならず者も仲間が逃げると慌てて追った。
クロ「舐めんじゃねーぞ」
キナコ「君の武器も役に立ったね」
レイ「クロちゃんありがとう。でもこのコンテナって武器が入ってたのね」
クロ「サブマシンガンと、拳銃、対人地雷にグレネードランチャーもあるぞ」
キナコ「君は戦争する気なのか」
クロ「レイを守るためだ」
キナコ「本当の心配性は君だろ」
キナコが苦笑する。
トッドがやってくる。
トッド「将軍がお会いになる。三人とも来てくれ」
クロ「おう!」
トッド「その……武器は無しで」
クロ「えー」
トッド「そんな大型武器いつから……ってコンテナは武器だらけじゃないか! どおりで重いわけだ」
キナコ「武装なしで行くよ、クロ君」
クロ「しゃーねーな」
5,ビルの一室。アレン将軍の部屋。
大きな机とモニターや通信機器などが並ぶ事務所のような部屋。
六十代ぐらいの軍服を着た男、細身で整った口髭。
穏やかな表情。
護衛の兵士が二人いる。
トッド「トッド伍長、入ります」
アレン「入れ」
トッドとレイ、クロとキナコが入る。
トッドが三人を紹介した。
アレン「トーマス・アレンだ。昔の役職の関係で皆に将軍と言われている……ふむ、レイ君はサイバー化されているようだが、マインドブーストもされているのだね」
キナコ「はい」
アレン「お付きの熊君たちもいる。フフフ」
笑顔の将軍はレイに座るように勧める。素直に座る少女。
アレン「まずは伍長を助けてくれてありがとう、レイ君」
レイ「私、あのいやな奴が許せなくて」
アレン「君には強い正義感があるようだ。とてもいいことだよ」
将軍は優しい顔でうなずく。
アレン「しかし、君たちは運が悪い。どこから来たか知らないがここに入れば人間狩りゲームの駒にされてしまう。誰が駒にされるかは基本ランダムだが」
クロ「逃げられないのかよ」
トッド「おい、言葉を選べ」
アレン「伍長、気にするな。残念ながら、ここに連れてこられたものはほぼ逃げられない。まず船がない。そして、エリア全体を常に大企業連合の艦隊と衛星が監視している。我々にあるのは敵の企業軍から与えられる旧式のエグゾフレームだけで、それでは勝てないし逃げられない」
キナコ「絶望的ですね」
アレン「人間狩りはランダムに住民から選ばれる。我らにできるのはいつか順番が来て死ぬのを待つだけなのだ」
レイ「ひどい話。私、みんなのために戦う」
立ち上がるレイ。
アレン「そう言ってくれると心強い。君のためになるべく良い機体を用意しよう。トッド、彼女への手配は任せる」
部屋を出るトッド、ついて行くレイと二匹。
アレン、机上の画面に向かう。
誰かと通話するようだ。
兵士崩れのような五十代の男が映る。痩せた狼のような顔、無精ひげ。
アレン「カイン君、彼女をどう思う」
カイン「誰かが作った実験体の改造人間といったところですか。ああいうのは下手すると凶暴化しますよ」
アレン「しかし、使えるなら」
カイン「旧ソル王国もそう思って失敗作を大量に作りました」
アレン「彼女が暴走したときはどうすべきだと思う?」
カイン「改造人間でも感情はあります。憎まれないことですね。無差別殺戮を始めるならお手上げですが」
アレン「うむ、気を付けよう。だが、使うしかない。どうせ我らは追い詰められた鼠だ」
切れる通話。
6,エグゾフレーム工場
コロニー内部にある巨大で汚い工場。
そこでは大量のジャンク部品があり、日々エグゾフレームを組み立て改造している。
しかし、そこにあるものはほとんどが旧式の物ばかりだ。
レイと子熊たち、そしてトッドが汚い作業着の大男と話す。
トッド「こちらが工場長のアルさんだ、彼らは……」
アル「火星の将軍から聞いてるぜ、あんたにいいの渡せってな」
クロ「ボロばっかじゃねぇか。クニヤラもねーのかよ」
アル「何だぁ、このチビロボが。生意気言いやがって」
クロは男の膝より少し上ぐらいの身長しかない。
トッド「こいつのことは気にしないでください。それより機体はありますか」
アル「今のところ使えるのはハイアクスのチューンしたのが最上だな」
クロ「ハイアクスってクニヤラより二代ぐらい前だろ」
レイ「クロちゃんは黙ってて」
モフっと抱き上げられて、口をレイに抑えられるクロ。
キナコ「おじさん、マインドコネクト装置は載せられるかな」
アル「マインド……まあ、ものによるが。んな高級なもんどこにあるんだ」
キナコ「僕たちは一つ持ってる」
クロ「あれはアクス改に載ってるから同じ系統で行けるだろ」
もぞもぞとレイの腕から這い出てクロが口を出した。
アル「とにかく、現物を持ってこい」
キナコとトッドが離れてこっそり話し合う。
キナコ「トッド、船から回収できないかな」
トッド「火星の仲間を動員したらいい。ここの工場の奴らにも手伝わせる」
キナコ「ちょっと大ごとになりすぎないか」
トッド「どうせここで生きてる奴らは死ぬ順番を待つだけなんだ。やってくれるだろう」
キナコ「ありがとう、あれさえあれば、レイが一方的にやられることはないよ」
トッド「任せろ、俺たちは悪党どもに一矢報いられるなら何でもやる」
トッドはそう言うと、端末を取り出して誰かと連絡を取り始める。
7,古い住宅
ギイっと玄関が開いて、レイ、クロ、キナコが入る。
背後に兵士の男二人。
彼らはコンテナを押して来てくれたようだ。
兵士1「キナコさん、この荷物どうします」
キナコ「裏に置いといて」
家の中をチェックするレイ。
レイ「うーん、何にもないけどちょっと古い家ね」
壁などは黒ずんでいる。
キナコ「将軍のコネで貰った家だよ。まだマシな方って兵士のおじさんが言ってた」
レイ「ん?」
レイが家の奥をじっと見る。
暗がりの中に気配があった。
クロ「誰だ! 刺客か!」
クロが腹の中から拳銃を抜く。
しかし、それを制するレイ。
レイ「心配しないで。私たち、あなたたちの敵じゃないわ」
レイがそう暗がりに告げると、おずおずと小さな人影が二人出てくる。
それはまだ小さな二人の子供だった。
少年と少女は痩せて汚い服を着ている。
レイ「あなたたち、なにがあったの、こんなに痩せて可哀そうに」
レイが涙を浮かべて、少女を抱き寄せる。そして、少年の背中をさすった。
兵士の一人が入ってくる。
兵士1「あ、その子たち、前の住人が面倒見てたようです」
クロ「そいつはどうしたんだ、育児放棄か」
兵士1「最近駒に選ばれて……」
クロ「チッ! そんなことかよ。悪党どもめ!」
クロが短い脚で地団太を踏む。
8,住宅のリビング。カーペットにちゃぶ台の部屋。
少年と少女はかなり飢えていたのかがつがつと食料を食べる。
それを座って優しい顔で眺めるレイ。
クロとキナコも横に座る。
クロ「お前ら、名前ぐらい言えよ」
少年「僕はケンジ。この子はエリー」
少年の方が少し年上である。
食事の手を止めて答えた。
クロ「兄と妹なのか」
ケンジ「ううん。この子、金持ちの子供なんだ。僕は奴隷の子供。いらないからって捨てられてここに」
レイ「もう大丈夫、私が守るわ」
レイが少女の肩を優しくなでる。
クロ「このコロニーは『地獄』って名前に変えたほうがよくないか」
キナコ「本当にどうしようもないね」
かいがいしく二人の世話をするレイ。
子どもたちの口を拭いたり、水を汲んだりする。
クロ「んで、ハイアクスはどうなるんだ」
キナコ「完成予定は一ヵ月後だよ。装置の回収だけで一週間。組み込みに二週間。調整一週間」
クロ「やっぱ、かかるよな。というか思ったより早い?」
そう言って寝転がるクロ。
キナコ「うん、相当頑張った早さだよ」
クロ「でも、それまでにレイに出撃指令が来たら終わりだろ」
キナコ「そこは大丈夫。彼女は企業連合のリストにないから。それに、多少人員も交渉で変えられるみたいだよ」
クロ「どういうこと」
キナコ「ワンサイドゲームじゃつまらないって人も多いらしいんだ。だからこちらで腕がある人を選んだりできる」
クロ「つまり、こちらが準備整うまではレイは温存できるんだな」
キナコ「そうなるね」
団らんを楽しむレイと仲間たち。
9,黒く巨大な巡洋艦の一室。
豪華な調度。
一人の茶色の髪をした美青年が宇宙空間を見ている。
その後ろにはソファーに座る青い髪の美女。
どちらも薄手の最高級パイロットスーツを着込んでいた。
美女「ボー。あなたがこんな遊びに興味あると思わなかったわ」
青年に話しかける女。
ボー「誘ったのは君だよ、ミラ」
ミラ「デザイナーフレームを手に入れたら試したくなるわ。誰だってそうじゃない」
ボー「相手は古い装備しかない賊軍。腕試しにもならないと思うけどね」
ミラ「それでも実戦の意味はあるわ。企業の貴族として無垢じゃいられないのよ」
ボー「まあ、やるだけやるよ。通過儀礼みたいなものだ」
ミラ「あなたのティシュトリアなら負けなんてほとんどありえないわ、心配しないで」
ワインのグラスを片手に、ボーにしなだれかかるミラ。
窓は画面であり、格納庫が映る。
背中に円盤を背負った異形のエグゾフレーム。濃い青の機体。
無言の青年はじっと見つめる。
8/9 9/5 微修正




