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ヴァルキリーバトル  作者: 弓師啓史


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22/22

22 仕方がない世界

新登場人物

なし


1,小惑星MOF百十三、指令室

指令室にケイティ・マンロー少尉とデビット・ケックナー大尉がいる。

正面の大画面には三番コロニーが映り、防衛状況が表示されていた。


デビット「企業からの報告では、私の作った改造人間たちは反乱鎮圧に効果を上げている」

ケイティ「ええ私も聞いてるわ。短期間で凄い成果ね。普通、改造人間の洗脳には時間がかかるわ。それを従来の三分の一ぐらいの時間で済むのかしら」


ケイティはそう言いながら、グラスに赤いワインを注ぐ。

デビットはそれを手に取った。


デビット「この手の技術にスタンダードは無いがな。まだまだ発展途上だ」

ケイティ「連合には大勢のいらない人間がいるわ、彼らが即席で強力な兵士になるならこれはとても有効な戦略よ」

デビット「しかし、短命になるだろう。代償なしには得られないものだ」

ケイティ「仮に改造しなくても、刑罰や懲罰部隊で寿命を縮める連中よ、気にする必要もないわ。今、完成しそうなのは何人なの」

デビット「六人だ」

ケイティ「彼らを私に託していただけないかしら」

デビット「何に使う気だ」

ケイティ「あの三番コロニーの賊どもにぶつけて性能を確かめたいの」

デビット「マッチメイクするには手間がかかるが」

ケイティ「そんなことはしないわ。手ごろな標的がいるじゃない」


ケイティはコロニーを警備する旧式のエグゾフレームを見る。


デビット「それは……表向きには、彼らは敵ということになってはいるが……」

ケイティ「あなたが気にする必要もないわ。敵も味方も生きる価値もない連中よ」

デビット「私からは命令はできないが、彼らが暴走して勝手にやった事なら、企業も気にしないだろう。だが、コロニーの内部までは攻め込んではいけない。そこまでやれば、私が責任を問われる」

ケイティ「ええ、あなたに迷惑はかけないわ」


笑顔の女。

デビットは酒を飲み、ぎこちない笑顔を返す。



2,レイの住宅

ちゃぶ台の前でぬいぐるみの熊に電子部品を組み込んでいるクロ。

テレビの前ではレイとカナがアクションゲームで対決をしていた。

宇宙艇を操って敵を倒し、交互にステージをクリアして点数を競っているようだ。


レイ「見えるわ、敵が」


圧倒的な反射神経で次々と敵を撃破して、ボーナスを稼ぐレイ。

カナは横で呆れ気味で見ている。


カナ「俺も多少ブーストされてるけどよ、レイはちょっと桁が違うな」

クロ「よし、できた。目覚めよ、チビクマR改め、チビクマゼェェェット!」


レイはゲームを一時停止して新しい子熊のぬいぐるみを見る。


レイ「Z? 前のRちゃんはどうしたの」

クロ「あれのチップは安物過ぎたからな。あれは諦めて、ちょっと奮発してこいつになったということだ」

カナ「んで、そのZとかいう熊は動かないが」

クロ「心配するな、最初の起動は遅いのだ」


チビクマZはムクっと起き上がり、目が光る。


レイ「なんだか、迫力あるね」

チビクマZ「俺はZ」


かっこいいポーズを決める小さい熊。


レイ「なんかかっこいいわ」

カナ「熊がかっこつけても」

クロ「よしZ。お前の任務なんだ」

チビクマZ「俺の任務は、悪を、倒す!」

レイ「え? 今までで一番いいんじゃない」


レイが驚いている。


クロ「よく言った。よし、とりあえずは住宅周りの監視だ。変質者とか来るかもしれん」

チビクマZ「俺はヒーロー。敵が来たら教えてくれ」


そう言って、ごろっと横になる。


クロ「あのー、君。任務は?」

チビクマZ「心配するな、悪が来たら成敗する。今は『獅子身中の虫』なのだ」

クロ「それ『能ある鷹は爪隠す』じゃないのか。一言もかすりもしてないぞ」

カナ「やっぱ、クマ公が作ったクマ公ロボがまともなわけねぇわな」

クロ「それ、工場長のおっさんと同じこと言ってるぞ。おっさん女子さん」

カナ「誰がおっさん女子だ! このクマ公」

レイ「でも、もし敵が来たとして、Zちゃんって戦闘力あるの?」

クロ「あるわけないだろ、危なすぎる」

レイ「じゃあ、結局、ゴロゴロクマちゃんに変化ないのね」


レイが面白そうにチビクマZの腹を撫でる。

クロが呆れているとキナコから通信が入った。


キナコ「エグゾフレームの調整が終わったみたいだよ。ティシュトリアとハイプラクス」

クロ「そうか、今から行く。エレーナも誘うかな。レイ、工場行くぞ」

レイ「うん、いいけど」

カナ「俺も行くぜ」

クロ「うわ、マジ」

カナ「うるせー」



3,アルミナの農園

主を失った農園は少し荒れた雰囲気になっている。

雑草が生え、農具が放置されていた。

作物は収穫されず、熟しすぎている。

一台の軍用車が止まった。

ボー・クロスメリと数人の護衛兵が降りた。


ボー「ここの人物と話があるんだ。危険はないと思うが」


護衛兵たちは微かにうなずいて返事もしない。

だが、邪魔もしないようだった。

ボーは玄関の呼び鈴を押すが、家から反応は無い。

しばらく待っても物音もしないようだ。


ボー「不在か?」


諦めて帰りかけた時、甲高い声がする。


チビクマ「ボー・クロスメリ!」

ボー「ん?」


よく見ると、玄関の草むらに茶色の子熊のぬいぐるみがいる。

テーブルの上から払いのけた記憶が蘇った。


ボー「君は、ホテルに来てた子だよね。前はちょっと酷いことをしたね。許してくれ」


ボーはそう言ったが、おもちゃのようなロボットに謝っている自分に苦笑する。


チビクマ「アルミナ、いない」

ボー「彼女はそういう名前だったね。彼女はお出かけか?」

チビクマ「アルミナ死んだ」

ボー「え? どういうことだ」

チビクマ「アルミナ出撃して死んだ」

ボー「……そういう事か」

チビクマ「お前、トニー」

ボー「君もしつこいね。僕は彼女の息子じゃないよ」

チビクマ「遺伝子調べろ」


そう言うと、裏口に向かって消えるチビクマ。

ボーはつられて追いかける。

警備兵は止める気もないようだ。

裏口が開いておりボーは入った。


屋内はやや雑然としている。

女性が住んでいた生活感がまだ残っていた。

チビクマがヘアブラシを持ってくる。


チビクマ「髪の毛、遺伝子」

ボー「調べろというのか。困った子だね」


ため息をつく青年だが、結局、ヘアブラシから数本の髪を採取して、ハンカチに包んだ。


ボー「病院で調べたらはっきりするだろう。それで君も納得するんだよね」

チビクマ「やったー」


ボーが車に向かうと、チビクマもついてくる。


チビクマ「車、乗る」

ボー「やれやれ。これも何かの縁かな」


小さい子熊は小さすぎて、自力で車に乗れない。

ボーがつまんで、持ち上げる。

後部座席に座ると、膝の上に置いた。

車が発進する。



4,三番コロニー、警戒宙域

アクスとロゼが宙に浮かび、警戒している。

見える範囲では十機程度。

そのほかにも監視ドローンなども浮かんでいた。


キラ!


遠い闇が光って、何かが迫ってくる。

それはミサイル群だった。


管制「敵襲! 正体不明のエグゾフレームが六機! 各機は迎撃体制に移行してください!」


アクスとロゼが武器を構え、コロニー外壁にある固定砲台などが火を噴く。

ミサイルはたちまち破壊されて光の球になった。

光の影から黒いクニヤラが複数出現する。


兵士「企業の軍が襲ってきたぞ!」


誰かの叫び声。

激しい撃ち合いが始まる。

蠅のように飛び回る黒いクニヤラ。

重マシンガンとビームガンが迎え撃つが、全く捕捉出来ない。

一機、また一機と、破壊されていく三番コロニーの警備部隊。


兵士「無理だ、性能が違いすぎる!」

管制「今、エース部隊を招集しています、それまで持ちこたえてください!」

兵士「クソ、無理を……」


応えようとした兵の機体は、ライフルの直撃を受けて爆散する。



5、小型輸送艇

ケイティ・マンローが小型輸送艇のブリッジから戦況を見ている。

画面にデビット・ケックナーが映った。


デビット「どうかね、私の兵士たちは」

ケイティ「ええ、とても優秀よ。敵は既に四機失ったわ」

デビット「十分な戦果ではないか。これなら上にも」

ケイティ「いいえ。まだこれからよ」

デビット「……何をするつもりなんだ」

ケイティ「まだ敵の新型も出ていないわ。それと戦ってこそ真価がわかるの」

デビット「それはそうだが」


魔人部隊は太陽側の北港を押さえている

警戒していると、反対側の南港から二機のエグゾフレームが現れた。


ケイティ「二機。一機はヴァルキリーね。もう一機は……」


敵の出現に、パッと散開する魔人部隊。



6,エグゾフレーム工場

警報が鳴る。

忙しそうに働いていた作業員たちは手を止めた。


広域警報「敵襲です! 現在所属不明のエグゾフレーム部隊が警備部隊と交戦中。各人は屋外に出ないでください」


人々は工場の大型テレビに集まって戦況を見る。

黒いクニヤラが飛び回って、アクスなどを破壊している。


作業員たち「勝てるわけがない」「何なんだ、企業連合なのか」「企業がこんなことをするわけがないだろ」


口々に考えを言う人々。

軽自動車が入ってきて扉が開く。

レイとエレーナ、クロとキナコ、そしてカナが降りてくる。

アル工場長が気が付いて走ってきた。


カナ「狭すぎだぜ、五人で乗るような車かよ」

アル「レイ、エレーナ、評議会から出撃依頼が来ている」

エレーナ「ええ、行くわ」

カナ「おい、あんた。俺の乗れるのはあるか」

アル「誰だあんた。悪いけど評議会の指令はあんたじゃない。レイ、トッドはちょっと遅れている」

レイ「待ってたら被害が大きくなるわ、わたし出る」

アル「南港はまだ安全だ、そこから出てくれ」


レイとエレーナ、クロとキナコは急いでエグゾフレームに向かう。


カナ「おい、俺はカインの紹介なんだぜ、元ソル王国兵だ。乗れるのは無いのかよ」

アル「アイマダインがあるが、他はまだ調査と調整が終わってない」


アルが一台の赤い機体を指す。


カナ「それでいい、武器は何だ」

アル「クニヤラから取ったビームライフルがあるから使ってくれ」

カナ「任せろ」


カナはヘルメットをかぶりながら向かった。

白いヴァルキリーと青いティシュトリアが南港に向かって飛ぶのが見える。



7,コロニー付近宙域

魔人部隊、黒いクニヤラが六機飛び回っている。

三番コロニーの警備部隊は撤退していた。

ヴァルキリーとティシュトリアが並んで彼らに向かう。


レイ「この人たち、おかしいわ。凄い怒りに満ちてる」

クロ「黒いクニヤラども。スケールビットがついてるぜ。こいつら改造人間だ」

エレーナ「本当、何て感情なのかしら」


エレーナの機械の瞳が点滅する。

精神波の影響を受けているのだ。

キナコは彼女の横の補助席に座っていた。


キナコ「彼らに精神を同調したらダメだよ。絶対無茶なことやってるから」

クロ「何でそんなことがわかる」

キナコ「挙動だよ。なんだか昆虫みたいだ」


二機の周りをブンブン飛び回る魔人部隊。

互いに撃つことは無く、無言のにらみ合いが数秒続いた。


クロ「くるぞ!」


クニヤラは各機四枚のスケールビットを飛ばす。

一瞬でレイたちを包囲した。


レイ「見えるわ!」


ヴァルキリーのマインドワイヤーが髪のようにブワっと広がった。

同時にスケールビットの赤い光線が宙に満ちる。

白い光となって高速で動くヴァルキリー。

スケールビットの攻撃はヴァルキリーの異常な機動を捕捉できず全て外れる。

エレーナも反対に飛んで包囲を抜けた。


レイ「エレーナ大丈夫?」

エレーナ「ええ心配しないで」

レイ「でも、ちょっと減らすわ」


レイはくるくる回りながら高速で飛ぶ。

マインドワイヤーから雨のように青い光線が出て、黒いスケールビットを破壊する。

スケールビットを失ったクニヤラが迫ってくる。

ヴァルキリーに四機、ティシュトリアに二機が向かってきた。



8,エレーナの戦場

ティシュトリアに向かってくる黒いクニヤラ。

明らかに通常のものより強化されている。

ライフルを撃つが、高機動で躱して迫ってくる。


エレーナ「速い」

キナコ「手加減はダメだよ」

エレーナ「できる相手ではないわ」


一機が急速停止して肩のミサイルランチャーを撃ち、一機がそれに紛れてライフルを連射して迫ってくる。

ライフルを躱し、ビームセイバーでミサイルを破壊するティシュトリア。

足の下を一機が掠めて飛んだ。


エレーナ「そこ!」


トリッキーに遅くなったクニヤラには明らかに隙があった。

ライフルを撃ってくるが紙一重で躱して、交差する二機。

ビームセイバーで真っ二つになるクニヤラ。

ライフルを乱射して、もう一機が戻ってくる。

ティシュトリアの背中から、スケールビットが飛び出す。


キナコ「え、そんなのあったんだ」

エレーナ「今気が付いたの」


ライフルとスケールビットで応戦する。

黒いクニヤラは狂気のように迫ってくる。

全弾被弾しながらティシュトリアの面前まできた。


オオオオオオオオオオ!


不気味な波動が宇宙に響く。


キナコ「何か声がするよ!」


エレーナは機械の瞳を激しく輝かせて、コクピットの中心をライフルで貫いた。

爆発四散する黒いクニヤラ。



9,レイの戦場

四機のクニヤラが迫ってくる。

スケールビットは失ったが、ミサイルとライフルを連射しながらレイを狙う。


クロ「いっぱい来やがって」

レイ「怒ってるけど、苦しくて辛いって」

クロ「無茶な改造されてる奴らなんだよ。同情禁止!」


ヴァルキリーは高速で移動し、彼らの全力射撃でも捕捉されない。


レイ「でも、すごく可哀そうなの」

クロ「やめろ! 敵を舐めるな!」

レイ「うん」


レイは諦めて、うなずく。

一機がビームセイバーを抜いて迫ってくる。


クロ「こっちのセイバーは?」

レイ「無いけど」

クロ「マジか!」


間一髪躱して、ライフルを背中に撃つ。

爆散するクニヤラ。

その撃った瞬間を敵に撃たれるが、レイは背中に目があるように躱す。


レイ「ビットちゃんたち!」


ブワっと十枚のスケールビットが展開した。

敵を包囲する。

二機が背中合わせになって、盾をかざしてライフルを撃ちまくる。

レイの操作でそれさえもスケールビットは躱して行くが、倒すのは難しくなった。

一機が捨て身で接近してくる。

その機のライフルは撃ちすぎて、オーバーヒートになりかけていた。


クロ「レイ!」

レイ「……」


レイは突進をふわっと躱して、髪で撫でるようにして通り過ぎた。

マインドワイヤーの青い光線がクニヤラをバラバラにする。

爆発した。


残った二機はスケールビット群に包囲されて動けない。

スケールビットたちは回避に専念していたので、全く減っていない。

しかし、敵のライフルは酷使しすぎて故障したようだ。

迫るヴァルキリー。


レイ「あなたたちに勝ち目はないわ。引きなさい」

魔人部隊A「……こ、ろす」

レイ「殺さなくていいのよ。もう」

魔人部隊B「戦わないと! 敵が迫ってくるわ!」

クロ「お前らは洗脳されてんだよ」

レイ「そうよ、やめるの」


クニヤラたちはライフルを捨てた。

一機は硬直し、一機は手にビームセイバーを持つ。

しかし、光の刃は出さない。


ヴァルキリーがゆっくり近づいて、マインドワイヤーで二機に精神波を送る。


魔人部隊A「あ、ああ、俺の家が見える」

魔人部隊B「あ、あたし、あのひとに」

レイ「もう戦うのはやめましょう。いいの、武器を捨てて」


無言になる魔人部隊パイロット。


クロ「そうだぜ……え、なんだ、これ!」

レイ「だめ!」


クロは何かの通信波を感じた。

それは悪の呪いのようなおぞましさがあった。

クニヤラはビームセイバーに光を灯す。

そして、一機が掴みかかってきた。


ビュン!


二条の光線がクニヤラたちを貫く。

機敏に引くヴァルキリー。

爆発四散する二機のクニヤラ。

遠くに赤いアイマダインと黒いハイプラクスの姿が見える。

ティシュトリアも生き延びて合流するようだ。


カナ「レイ、あんた大丈夫か!」

トッド「俺たちが来たからもう安心だぜ!」

レイ「……」

クロ「一応、助かったのか。空気読めんカップルが来たが」

レイ「あの人たち、助けられたかも」


非常に小さな声でつぶやくレイ。


クロ「仕方がない。ここでは何でもかんでも『仕方がない』ばっかりなんだぜ」

レイ「……でも」

クロ「もうやめろ。お前は神様じゃないんだ。努力しただけでもレイは偉いよ。あいつらは最後にお前の優しさに触れて散った。それだけでも救いだったはずだ」

レイ「……」


レイは無言でぎゅっと黒い子熊を抱きしめる。


宇宙に漂う、無言の残骸たち。

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