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ヴァルキリーバトル  作者: 弓師啓史


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23/23

23 目覚める秘密

新登場人物

ジョージ・クロスメリ:クロスメリグループの会長。ボーの父。


1,どこかの豪邸の一室

その部屋はシンプルだが、さりげなく置かれた調度一つ一つが最高級の品ばかりである。

非常に立派な机の前に、五十代と思われる一人の男が座っている。

最高級のスーツを着込み、身なりに一切の隙が無い。

彼の前にホログラフのモニターが浮かび、映像を見せていた。

そこにはヴァルキリーの設計図が映っている。

美しい女性秘書が入ってくる。


秘書「ジョージ様。クロスメリインダストリの社長がお話があるそうです」

ジョージ「いいだろう、二十分だ」


秘書は頭を下げて去り、机の上に別の画面が浮かぶ。

太った六十代の男が映る。

緊張するのか、しきりに額の汗を拭いていた。


社長「会長、超感覚者専用機体、HSU一型、通称ヴァルキリーの件ですが……」

ジョージ「今、図面を見ている。なぜこれが賊軍の手にあるのかね」

社長「これは試作型をダリル・サリバン博士の研究所でクローン体に乗せるという話になりまして」

ジョージ「なぜ、君の社のテストパイロットに任せなかった」

社長「それは、その、機体の性能があまりに極端なものになりまして……相当上位の超感覚者でなければ使えないか、あるいは、危険があるという技術者からの指摘がございまして……」

ジョージ「それで、サリバンに渡したのか。オプション兵器も含めて」

社長「はい。しかし、機体とライフルだけのはずが……あの、マインドコントロール式の多弾頭核ランチャーまでも。もしかしたら、何かの手違いかもしれませんが」

ジョージ「常識的に考えて、手違いでそんなものが渡るわけがない。スパイが君のそばにいるのか。それとも、君が裏切ったのかね」

社長「め、滅相もない! 経緯は全力を挙げて調査中でございます」

ジョージ「あの武器は一撃で国家レベルの破壊をもたらすものだ。冗談では済まされないものだとわかっているのか」

社長「はっ。もちろんでございます」

ジョージ「とにかく、スパイを捕まえて全てを明らかにしろ」

社長「実は、そのスパイですが」

ジョージ「何かわかっているのかね」

社長「可能性ですが、ソル戦役後に採用したソル系の技術者たちがサリバンと何か取引をしていたようです」

ジョージ「ふむ、ソル系は王に非常に忠誠心が高い。王族は地球連合に降っているのだ、可能性は低いだろう」

社長「それが……例の王女を復活させようとしている連中がサリバンと関わっていたようです」

ジョージ「王女、まさか」

社長「ええ、その組織自体は消えたようですが残党が密かに生きているようです」

ジョージ「それはどの抵抗組織かね」

社長「ローザと言います、あまり有名ではないですが」

ジョージ「ローザ、聞いたことがあるな」

社長「サリバンが王族の遺伝子でクローンを作り、その専用機にヴァルキリーを当てた可能性が」

ジョージ「しかし、彼の研究所は再発見された時にはほぼ無人だった。何があったのかね」

社長「そこは不明です。三番コロニーの管理艦隊からの報告は、内部で闘争があったようです」

ジョージ「勝手に滅んでくれていたのならそれに越したことは無いが、ヴァルキリーと危険な武器は賊の手に渡っている。これは地球議会や貴族評議会からも叩かれる可能性が高い」

社長「これをなかった事にするのは難しいかもしれません」

ジョージ「そうだな、核ランチャーのことは可能な限り隠すのだ。三番コロニー、奴らのこともこのまま放置はできん」

社長「しかし、ゲームは貴族階級にとても人気で、既に莫大な額の賭けが盛り上がっております。簡単には取りやめるのは……それに、ボー様のことも」


ジョージは嫌な顔になる。


ジョージ「あの愚か者め、手間をかけさせる。あいつのことはとりあえず考えるな」

社長「ご子息のことが無くても、彼らを潰すには大義が必要かと」

ジョージ「そうだな、考えておこう」


ジョージは通信を切ると葉巻を取り出す。


ジョージ「友を殺して、今、その報いを受けるか。あの子に罪はないが」


ほとんど聞こえない声でつぶやく男。



2,レイの住宅、奥の部屋

住宅奥の普段使っていない一室。

キナコがパソコンを机に置いて、黒い結晶に端子を張り付けて何かを調べている。

クロが入ってくる。


クロ「おう、調べてるのか、それ」

キナコ「うん、でも、これ何の反応もしないんだよね」

クロ「それ、サイコギガントが操ってただろ。マインドコネクトでなら」

キナコ「これはコア部分だから同じかどうかは不明だね」

クロ「確か、レイが端子経由で話してただろ。意思があるんじゃないか」


そう言うと端子を手首から出して、黒い結晶に押し付ける。


クロ「もしもし、結晶君。こちらさすらいの熊、クロ君です」

キナコ「そんなので意思疎通できるわけないだろ」


苦笑するキナコ。


クロ「おお、そうか。茶色の毛皮怪獣では話しにくい、なるほどー」

キナコ「適当な嘘つかないの」


玄関が開く音がして、レイとカナが帰ってくる。

二人はエグゾフレーム工場で機体調整の手伝いをしていたのだ。


レイ「ただいまー、キナコちゃんお腹減ったー」

カナ「俺も、同じく」

キナコ「はーい、今用意するよ」


キナコが慌てて台所に向かう。

クロも端子を戻して、二人の元に行く。


クロ「カナ、あのアイマダインはどうだったんだ」


二人が去った無人の部屋。

パソコンの画面に文字が浮かぶ。


???「誰? 僕は何をしたらいい」



3,病院

診察室に医者とボー・クロスメリ。

中年の医者は画面のデータを見せる。


医者「これが遺伝子の検査結果です」

ボー「数字だけ見ても何のことかわかりませんが」

医者「結論から申しましょう。その髪の毛の遺伝子とあなたは親子関係があります」

ボー「え? それは」

医者「つまり、その髪の毛の持ち主とあなたは母親と息子ですね」

ボー「このことは、誰にも口外しないようにお願いします!」

医者「ええ、医者の義務ですので。詮索もしません」

ボー「ありがとう」


ボーは打ちのめされたようにふらふらと立ち上がり、夢遊病のように病室を出る。

警備兵が遠巻きに見ているが意識に入らない。

暗い玄関から明るい外に出る。

病院の前は広い駐車場であり、管理が悪いのか隙間から雑草が生えている。

ボーは草の生える縁石に思わず座り込んだ。


警備兵「おい、大丈夫か」

ボー「心配いらない。ちょっと驚いただけだ」


そういうのがやっとだった。

病院の前で待っていたチビクマがやってくる。


チビクマ「ボー、元気出せ」

ボー「……」

チビクマ「結果、知りたい」

ボー「君の言った通りだったよ。これで満足か」

チビクマ「アルミナ、息子がいた」

ボー「君は……アルミナの何なんだ」

チビクマ「アルミナご主人様」

ボー「僕は何者だろうね。父は偽物なのか」


深いため息が出る。


チビクマ「ボー・クロスメリ・トニー」

ボー「そんなの変な名前だろ」

チビクマ「アルミナ、息子愛してる」

ボー「だから、君は息子に会わせたかったのか」

チビクマ「うん!」


強くうなずく小さい子熊。


ボー「君に愛情なんてわかるのか」

チビクマ「知ってる、人を大切だと思うこと」

ボー「……僕は、そんな母親に酷いことをした」


手ひどく拒否した記憶が青年の心によみがえる。

それが彼女に対する最後の記憶なのだ。


ボー「愛情か。彼女とは一度も人間的な会話をすることもなく……宇宙に散った……僕はその愛に値する人間なのか」

チビクマ「アルミナ、トニー好き、ボーも好き」

ボー「ありがとう」


そう言ってチビクマを持ち、立ち上がる。

車に向かう青年。



4,エグゾフレーム工場

レイがコクピットを開けた状態でヴァルキリーに乗り、クロも横に座っている。

開いてないコンテナが二つ前にあり、アル工場長がヘッドセットを付けた。

彼の横でキナコも何かをチェックをしている。


アル「開けてないコンテナに専用の武器がまだあるだろう」

クロ「四個のうち残った二個か。それって適当に開けられないのか」

アル「一応、ロックがかかってる。片方は簡易だから無理すりゃ開けられるがな」

クロ「最後の一個が厳重なのか」

アル「そういうことだ。そちらのマインドコネクトで開くんじゃないかと思ってな」

レイ「わかった、やってみるよ、ヴァルちゃん」

ヴァル「はいレイ様、コンテナを解放します」


カチという音と共に三番目のロックが外れる。


クロ「四番目はどうした」

ヴァル「管理権限者の許可が必要になります」

クロ「何じゃそりゃ。ヴァル公、管理権限者って誰だよ。どこにいる」

ヴァル「今現在は確認できません」

クロ「ハッキングで開けるか」

ヴァル「それは非常に危険な行為です、安全装置が発動して破壊されます」

クロ「でも、開けなきゃ無いのと一緒だろ」

レイ「権限者って誰か偉い人のこと?」

ヴァル「はい、具体的にはサリバン博士になります」

レイ「サリバン? だれ、それ」


目を丸くするレイ。初めて聞く名前だったのだ。

通信が入る。


キナコ「あわわ、ヴァル君、それ以上はしゃべったらダメ」

ヴァル「私はレイ様の指示に従います」

レイ「サリバン博士って、知ってることを教えて」

ヴァル「超感覚研究所の所長です。小惑星研究施設の主任研究者、あなたの」

キナコ「二号、レイを止めて」

クロ「はい、一号」


クロの声が個性のない声になる。

そして、目が光ってレイが意識を失った。

暫くしてキナコがコクピットにやってくる。

キナコが入るとコクピットが閉じた。


アル「おい、何をしている」

キナコ「申し訳ないけど、機密情報を漏らせないので」

アル「誰に義理立てしてるんだ」

キナコ「その四番のコンテナを開けます。これなら満足ですよね」

アル「ここに役立つ強力な兵器があるなら」

キナコ「僕もそこに何があるかは知りませんが」


暫くして、四番のコンテナから音声がする。


コンテナのAI「ロック解除します。放射能汚染の可能性がありますので、十分な装備をご用意ください」

アル「え、マジか。この内部に何があるんだ。待て、音声に出すな」

コンテナのAI「はい、画面をご覧ください」


コンテナの横に小さな画面があるのでアルはそれを見る。

暗い画面に文字が浮かぶ。

アルのこめかみに小さな汗が浮いた。


アル「ヤバいものが……とにかく、ロックは解除するな」

コンテナのAI「管理権限者の命令が必要です」

アル「わかった。おいキナコ。このコンテナは再ロックしてくれ」

キナコ「わかりました。中に何があったんです」

アル「俺じゃ判断できん」


暫くしてコンテナが再ロックされ、コンテナ横の画面も光を失う。

そして、キナコが外に出てきた。


アル「レイとクロはどうした」

キナコ「もう起きますよ」

アル「寝ていたのか、何なんだ」

レイ「あれ、何かあったのかな」

クロ「お、どういうこと」


コクピットではレイとクロが意識を取り戻していた。


レイ「ヴァルちゃん、私意識飛んでた?」

ヴァル「はい」

レイ「確かサリバン博士という人のことを」

ヴァル「申し訳ありませんが、お答えできません」

クロ「何じゃそりゃ。いきなり黙りやがってヴァル公」

ヴァル「申し訳ありませんクマ公」

クロ「隠し事か、安物AIの分際で」


クロがコンソールの上でゴロゴロするが、ヴァルは無言だった。


レイ「なんだか、勝手に物事が進んでるみたいで怖いわ」

クロ「俺も。ん?」


ヴァルキリーの兵装に二つの追加があった。画面に小さく文字が光る。


クロ「武器増えてるぜ」

レイ「た、だんとう……何とかは赤く光って待機だって」

クロ「見た感じ使えないんだろ。使えないなら意味ない。それより、そのセイバーランサーだ。絶対、超かっこいいぜ!」

レイ「へー。ヴァルちゃん、これ動かせる?」

ヴァル「はい、精神波を送ってください」


マインドコネクトすると、三番目のコンテナからふわっと黄金色の長い棒が浮かぶ。

ヴァルキリーの手の中に入った。


クロ「ランサーってことはビームセイバーの大型版だろ」

レイ「短くして腰につけることもできるみたい」


黄金の棒は半分の長さに折りたたんで、ライフルとは逆の側に収めることができるようだった。


レイ「面白い」


さっと腰から外して長い棒に変える。


クロ「セイバー出そうぜ」

アル「外でやれ、外で」

クロ「あーはいはい」


ヴァルキリーは演習場に出ると、ランサーの光の刃を出す。

それは青い光でとても長い。

光が演習場を照らす。

黄金の槍を持つヴァルキリーは光の女神のように見えた。



5,アルミナの農園

主のいない小さな農園。

ゆっくりと寂れている。

車が止まり、警備兵が降りてボー・クロスメリが降りた。


警備兵「あの空き家に何の用だ」

ボー「どうやら、知り合いの家のようなのだ。遺品を探したい」

警備兵「逃亡行為でなければ好きにさせろという命令だ、窓を開けて姿は見えるようにしてくれ」


うなずくボー。

まっすぐ鍵の開いている裏口に向かう。

青年は家に入るとチビクマをジャケットのポケットから出す。


チビクマ「アルミナの家。アルミナいない」

ボー「ああ」


ざっと見るが、私物は既に処分されているようだった。

ゴミやがらくたは逆に放置されてている。


チビクマ「アルミナ、通話してた」

ボー「誰と?」

チビクマ「妹」


ボーはそう言われて机の上に放置されいるデータパッドを手にする。


ボー「これは住民管理用の支給品だよね。いくら安物でも本人じゃないと」


安価な量産品だが、最低限のセキュリティがあった。


チビクマ「パスわかる」

ボー「見てたんだね、コードを入れて」


チビクマから端子を出して、接続する。

すると、データパッドが開く。

調べる、ボー。


ボー「彼女はほとんど誰とも話したことが無いな……最後の通話が……評議員のエリアナ・トリシュ。抵抗運動関係だったのか。ここの人間だから不思議じゃないが」

チビクマ「エリアナ、妹」

ボー「そういう事か」


ボーはデータパッドを机に置いて外に出る。

チビクマは嬉しそうにジャケットのポケットから青年を見ていた。



6,アレン将軍の執務室

執務室にトーマス・アレン将軍とアル工場長がいる。

アルはソファーに座ると、アレンは小さなグラスに合成ウィスキーを注いだ。

そして向かいに座る。


アレン「君が一人で来るとは珍しい」

アル「実はヴァルキリーのオプション兵器の話です」

アレン「ああ、小惑星から持ってきたコンテナのことだね」

アル「四個あって、うち一つのロックが厳重だったと聞いてますか?」

アレン「うむ」

アル「それをレイたちが開けたのですが、中身が」

アレン「何が入っていたのかね」

アル「マインドコントロール式の多弾頭核ミサイルランチャーです」

アレン「……それは、とんでもないものだよ、君。このことを知っているのは?」

アル「レイたちは気づいていないと思います。知っているのは工場では私だけです」

アレン「情報漏洩はとりあえず大丈夫そうだな」

アル「私では判断できないので将軍に」

アレン「それは賢明だった。しかし、それは国家の戦略を変えるものだ」

アル「レイが操れば、大艦隊を一撃で全滅させられるかもしれませんね」

アレン「うむ。しかし、誰のものか知らないが、持ち主は必死に探しているだろう」

アル「下手をすればこのコロニーの運命も」

アレン「そうだ、ここを破壊してでもそれを無かった事にするか、或いは」

アル「俺は一介の技術者。ご判断は将軍と評議会にお任せします」


そう言うと、アルは立ち上がる。


アレン「ありがとう、しかし、何とも重いものを手に入れてしまった」


アルは頭を下げて部屋を出る。


アレン「評議会にかけるか? しかし、情報を広げるのも危険だ」


グラスの酒をぐっと煽る。

そして、すぐに再び注いだ。

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