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ヴァルキリーバトル  作者: 弓師啓史


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21 闇の女神

新登場人物

なし


1,コロニーが浮かぶどこかの宙域

飛び回る十機ほどの黒いクニヤラ。

その中央に黒い女神のようなエグゾフレームが浮かぶ。

これはルナの搭乗するイルタナ。

少し離れた場所に、黄金色のエグゾフレーム、クリノスと巡洋艦の小艦隊。

クリノスは黄金の騎士のようなエグゾフレームである。

乗っているのは、ロイ・キャンベル。

コロニーから十数機のハイアクスなどが向かってくる。


ロイ「ルナ、敵はハイアクスだ。型は古いが額面通りの性能ではない。油断するな」

ルナ「ばかばかしい、あんな雑魚」


イルタナから黒い輝きのような大量のスケールビットが飛び出す。

三十個はあるだろうか。

ハイアクス部隊は近寄る前に黒いスケールビットに取り囲まれる。

赤い光が宇宙全体に満ち、ハイアクスはなすすべもなくバラバラに切り刻まれて行く。

光の球になっていくハイアクスたち。


ルナ「アハハ。弱い、弱いわ!」


黒いスケールビット群を克服して、二機が迫ってくる。


ロイ「油断するな!」

ルナ「生意気ね、ゴミのくせに」

ロイ「クニヤラに任せろ、たった二機だ」

ルナ「うるさいわね。私が殺すのよ」


両手首から、光の球が出る。

その球は異常な角度で曲がって追尾、ハイアクス一機を直撃した。

爆散する。

しかし、まだ一機が迫ってきた。


ロイ「クニヤラ隊、動け!」


それまでほとんど動かなかったクニヤラの部隊は、まるで跳ね起きるようにバーニアを全開にして、宇宙を飛び回る。

連射されるビームライフルがハイアクスの四肢を飛ばし、行動不能にしてしまった。


ルナ「よくやったわ、魔人部隊」


ルナは笑うと動けなくなったハイアクスのコクピットをイルタナの右手で掴む。

メキメキとつぶす。

グシャ!


ルナ「あははは、生意気な奴はこうやって死ぬのよ!」


コクピットの中で大笑いする少女。

ロイはレイを悪魔化したような異常な少女を見つめた。


ロイ「敵は悪党ではない、単なる反乱軍だ。残酷な殺し方は人道ルールに違反するぞ」

ルナ「何が人道よ。馬鹿らしい」


鼻で笑う少女。



2,巡洋艦の通信室

ロイ・キャンベルが腰かけて通信している。

相手は個性のない企業幹部。


ロイ「二十三エリアのコロニー群は地球連合政府に降伏すると申しております」

幹部「よくやった。やはり、新設の魔人部隊の活躍かね」

ロイ「ええ、彼らは恐るべき強さを発揮しました。特にルナのイルタナは無敵と言って差し支えありません」

幹部「これは朗報だ。わが社の株価もぐんぐん上昇している」


満足げな幹部。


ロイ「しかし、彼らは過度な攻撃性があります。特にルナはまるで……」

幹部「勝てばいいのだよ、勝てば。広大な宇宙で大規模な機動部隊の派遣はあまりにコストがかかる。少数の改造人間部隊が反乱を鎮圧できるなら、多大な費用対効果がある」

ロイ「彼女は自分の同系統のクローン、レイをとても憎んでいます。三番コロニーへの執着もなみなみならないものが」

幹部「ふうむ。レイとルナを戦わせると視聴率もうなぎのぼりだな」

ロイ「何が起きるかわかりませんよ。レイを倒してそのまま三番コロニーを破壊に向かうかもしれません。それぐらい不安定なのです」

幹部「それは君が制御すればいいだけの話ではないのか」

ロイ「彼女の監視は約束していますが、制御は契約外です。それはデビット・ケックナー大尉の仕事です」


幹部は何かの情報を得る。


幹部「……どうやらそのようだな。しかし、あのケックナーでは何もできんだろう。君が彼女を導いてくれないか。その分の報酬は払う」

ロイ「無理です」

幹部「困ったものだ。戦争の英雄でボーンエリートの君が制御できないとなると」

ロイ「『調整』して攻撃性を下げてはいかがですか」

幹部「魔人部隊の方はできるが、彼女はサリバン博士の未知の技術なのだよ」

ロイ「彼女はサリバン博士がやったように、スリープさせておく方が賢明だと思います」

幹部「そうもいかんのが今の情勢だ。そのまま、火星共和国の方に行ってくれ。過激派が一部のステーションを占拠している」

ロイ「はい」

幹部「ルナと魔人部隊だけでの戦果が見たい。君も他の者も手は出さず、彼らだけにやらせるのだ」

ロイ「それは、とても危険です」

幹部「多少の『行き過ぎ』はいくらでも情報操作できる。マスメディアは我らに逆らえんよ」

ロイ「それならいいのですが」


画面が切れる。

ロイはタバコを出して火をつけ、大きく吸って吐いた。


ロイ「歴史の醜い繰り返し、か」



3,レイの住宅、茶の間

ちゃぶ台の前でキナコが一人、データパッドとにらめっこしている。

玄関の扉がギイッと開いた。


キナコ「ん? クロ君?」


小さな足音がして、茶色の毛皮が姿を見せる。

チビクマだった。


キナコ「ああ、君はアルミナさんにあげた子だよね。前もウロウロしてたみたいだけど。アルミナさんは?」

チビクマ「アルミナ死んだ」

キナコ「え?」

チビクマ「トニー探す」

キナコ「死んだってどういうこと」

チビクマ「ギャラホルンに殺された」

キナコ「……そうだったんだ。話題になってた出撃だね。ガスって人が有名になったけど」


先日の出撃でデザイナーフレームのギャラホルンを倒したガスが有名になっている。

彼以外は死亡したが、死亡者の話題は報道に無かったのだ。


チビクマ「トニー探す」

キナコ「でも、遠い宙域の話じゃないか。クロ君も言ってたけど」


先日の庭でのやり取りを思い出す。


チビクマ「トニーいる」

キナコ「いないだろ、確率的に」

チビクマ「顔認証、九九パーセントで一致する」

キナコ「え、どういうこと、それは誰」

チビクマ「ボー・クロスメリ」

キナコ「まさか、じゃあ、彼女は自分の息子が近くいたのに……彼を息子と知らずに出撃したんだね……」


絶句するキナコ。


チビクマ「ボー・クロスメリに会う。でもどこにいるかわからない」

キナコ「待って……これはかなり重要な問題だよ。クロ君と話してみるか」

チビクマ「ボー・クロスメリに会う」


キナコはチビクマを抱いて、背中のスイッチを切る。


キナコ「とても個人的なことだけど、無視はできないかな。人格二番と話すしかないね」


キナコはそうつぶやきクロと通信する。


キナコ「クロ君」

クロ「ああ、どうした。今買い物中だが」

キナコ「後で君にも事情話すけど、二号、二番と話したい」

クロ「はい、わかりました」


機械的な声で返事するクロ。



4,軽自動車の中

端子を挿して軽自動車を運転するキナコ。

助手席に座るクロ。

クロの腕の中には動かないチビクマ。


キナコ「アレン将軍には許可を取った、僕たちだけでボー・クロスメリに会うよ」

クロ「話は聞いたけどよ。顔認証か。あのおばちゃんの持ってた写真からだろ。夫と幼少期の顔から推定……正確なのか」

キナコ「大昔からある技術だからね。僕たちだって入ってるだろ」

クロ「まあ、そうだけどよ。チビクマにそんなの入れてたかな」

キナコ「買ってきた安物AIの基本パッケージじゃないか。とにかく、疑うなら、君も試したらいい」

クロ「それもそうだな、データはこいつの中にあるな」


端子をチビクマに挿して、写真の映像記憶から青年の顔と照合する。


クロ「……確かに、確率は高いが完璧じゃない」

キナコ「僕たちは百パーセントにこだわりすぎなのかもね」

クロ「ああ、そうかもな。遺伝子検査やれば完璧だが」

キナコ「ボーを説得してやらせるしかないよ」

クロ「そもそも、そこまでやる意味あるのかよ」

キナコ「彼の心境に変化を与えるかもしれないってアレン将軍が」

クロ「それ、残酷かもしれんぞ」

キナコ「僕たちは追い詰められた獣だよ。この三番コロニー全体がね」

クロ「追い詰められた熊さんは何でもやるってことか」

キナコ「そういうこと」


車がホテルの前で止まる。

警備兵と話して案内してもらう二匹。

クロはチビクマのスイッチを入れた。



5,ホテルのバルコニー

テーブルの前にボー・クロスメリが座り、向かいに、キナコとクロ。

テーブルの上にチビクマが立つ。


ボー「レイの熊君たちだよね。アレン将軍の指示があるから会うけど、用件は何かね」

キナコ「この写真を見てほしいんです」


キナコはアルミナが持っていた家族写真を見せる。


ボー「……これは、あの少しおかしい女性が持っていたものじゃないか」


彼の記憶に残っていた。


キナコ「この写真はアルミナ・クラヴィッツという女性が持っていたものです。彼女には生き別れになった息子がいます」

ボー「まさか、それが僕だというつもりじゃないだろうね」


嫌な顔になる青年。


キナコ「僕たちAIには基本アプリとして顔認証が入っています。それで調べると、あなたは非常に高い確率で、彼女と家族だと判定できるんです」

ボー「馬鹿らしい、どうせ百パーセントじゃないのだろう」

キナコ「ええ、そうですが。確率はとても高いのです」

ボー「やめてくれ! 僕はクロスメリ家の長男だ」


立ち上がる青年。


キナコ「一度、遺伝子検査をしてもらえませんか」

ボー「僕にそんな義理は無い」

チビクマ「トニー。お前はトニー」


チビクマが小さい手で指さす。


ボー「うるさい!」


小さな熊のぬいぐるみをはたいて床に飛ばすボー。

クロが無言で拾ってスイッチを止める。

青年はバルコニーから出ようとする。


クロ「おい、ボーさん。アルミナは……」

キナコ「クロ君、もういいよ。行こう」

クロ「……」


二匹はそれ以上何も言わず、そこを後にする。




6,エグゾフレーム工場

大型エグゾフレームが立つ。

プラクス系だが、かなり真新しい雰囲気だった。

レイとトッドが機体を見つめ、忙しそうなアル工場長。

作業台の上に、チビクマRが寝転んでいる。


トッド「とうとう来たか。俺のハイプラクス!」

レイ「へー、すっごい大きいね」

トッド「これはほぼ最新式に近いな。プラクス系の最新アップグレードだ」

レイ「どんな感じなの」

トッド「ビームバズーカに、ビームキャノン、ビームセイバー、機関砲もあるぞ。パワーゲインは前の倍だ」


トッドは自慢げにスペックを言うが、レイは全くわかっていないようだ。

レイは机の上に寝転ぶチビクマRを手に持つ。


トッド「工場長、状態はどうだ」

アル「ああ、かなりいい感じだぜ。クニヤラよりは完全に上回っている」

トッド「そうだろう、そうだろう」

アル「それより、ブラギからマインドコネクト機構を外して、ティシュトリアに換装するから忙しいんだわ。そのチビクマRはクロが作ったんだろ、何かの役に立たないのか」

レイ「ねえ、Rちゃん、あなた何かできないの?」

チビクマR「もちろん、ソフトの調整とかいろいろできるよ」

アル「おお、ならばすぐにやってくれ」

チビクマR「オッケー、じゃあ、明日から全力で」

アル「明日から? 今この瞬間手が足りないんだが」

チビクマR「うんうん、わかるよ。でも、僕はスロースターターなんだ」

アル「明日ならやれるのか」

チビクマR「明後日なら、全身全霊で頑張れると思う」

アル「何だこのポンコツロボは」

レイ「この子、いつもこんな調子なの」

アル「あのクマ公が作ったクマ公ロボ……期待した俺が間違っていた」


アルは工具を持って忙しそうにどこかに行ってしまう。


トッド「クロが作ったのか。あいつ自身なんか壊れてるんじゃないか」

レイ「そんなことないよ。クロちゃんはとってもしっかりしてるわ」

トッド「人格も複数あるんだぞ。あいつが良くても他の人格が……」

レイ「トッド、変なこと言わないで。もう知らない!」


そう言うと機嫌を悪くして立ち去るレイ。

残されるチビクマR。


チビクマR「人間っていつもせかせかしてるよね。ふう、今日は良く働いた」


机の上でゴロッと横になるチビクマR。


トッド「君、今日は何もしてないだろう……少なくともこいつは完全にダメロボットだ」


呆れ顔で子熊を見る。



7,レイの住宅、茶の間、夜

ちゃぶ台の前にチビクマとチビクマRを並べて、工具を手に持つクロ。

キナコは忙しそうに食器を洗っている。

レイはゲームの電源を入れた。


クロ「うむむ、なぜ俺の作るロボは全部おかしいのだ」

レイ「別にいいじゃん、かわいいし」

クロ「俺好みの質実剛健ロボになる予定だったのだが」


その時、玄関の呼び鈴が鳴る。


キナコ「え、誰だろう、こんな時間に」

レイ「はい、どなたー」


レイたちが玄関を開けると、ソル王国の軍服を着た女兵士が立っていた。


キナコ「えーっとすみません、どのような御用でしょうか」

軍服の女「あたしはカナ。暫く厄介になりに来たぜ」

レイ「カナさん。はじめまして。わたしレイよ」

カナ「ああ、知ってるぜよろしくな」


レイはなんとなく嬉し気だ。


クロ「何もんだ、お前は」

カナ「怖い声出すなって、俺はあんたらの味方だぜ、今はな。それに評議員のカインの紹介で来たんだ」

キナコ「カインさんか、それならどうぞ」


カナは遠慮せず入ってきてちゃぶ台の前に座る。


チビクマ「改造人間来た」

カナ「うるせえよ。何で分る」

チビクマ「骨格、人工」

カナ「ああ、あたしはだいぶサイバー入れてるからな。戦争の後遺症だよ」


キナコが茶を持ってくる。


チビクマR「やれやれ、また面倒なのが来たね。僕は休憩させてもらうよ」


と言って、ちゃぶ台の上で寝転ぶ。


クロ「てめぇは一度でいいから役に立て」


キナコが茶を置いて座る。


キナコ「それで、そのカナさんはどのような御用なのです」

カナ「俺は、元ソル兵の軍歴利用してここに潜入したんだ」

クロ「スパイってことか。普通そういうこと公言するか」

カナ「あんたらにとって、気になる情報を持ってきたんだ」

クロ「ほう、じゃあ教えてくれ」

カナ「レイ、あんたの同系クローンがいるって知ってるか」

レイ「え、同系?」

クロ「クローンだから姉妹がいても不思議じゃねぇな」

カナ「そいつは十九号、名前はルナ」

キナコ「十九号」

レイ「ねえ、二人はそのルナちゃんのこと知ってる」


レイが聞いても、クロは首を振り、キナコは押し黙る。


カナ「そいつはとても凶暴な野郎だぜ。俺もあいつに刺されたんだ」


カナは軍服をまくって腹を見せる。

刺し傷の痕跡があった。


キナコ「カナさんが知ってるルナの情報を教えてください」

カナ「今はあの小惑星……MOF百十三でエグゾ貰って暴れてるぜ」

クロ「どんな機体だよ」

カナ「聞いた話だと、イルタナって黒い機体だ」

クロ「知らんなぁ」

カナ「それとあいつの率いる魔人部隊ってのがまた凶暴でな。各地で反乱を残虐に鎮圧している。かなり虐殺もしてるって聞く」

クロ「そのルナが俺たちとどう関係あるんだよ」

カナ「大ありだぜ。あいつはレイ、あんたを心の底から憎んでいる」

レイ「わたし、その人のことぜんぜん知らないよ」

カナ「あいつの腐った根性に理屈なんてあるかよ。ただ気に入らない、だから憎む、それだけだ」

クロ「それで、そのいかれたクローンのことはわかったけど、あんたの目的は何だよ」

カナ「俺はあいつと勝負したい。前は子供を逃がすために思いっきりやれなかったからな。怪我もあった。それに、企業にいたら戦えないだろ」

キナコ「もしかして、ケイティ・マンローに捕まってた子供たちを逃がしたのって」

カナ「ああ、俺だ。俺ってヒーローだよな」

レイ「ありがとう、カナさん。あの子たちのこと後から聞いて本当に心配だったの」


笑顔になるレイ。


カナ「レイはルナとは大違いだな。ルナの顔で笑顔とか」


戸惑うカナ。


クロ「情報はありがとう、目的もわかった。んで、これからあんたはどうするんだよ」

カナ「決まってるだろ。まだ、俺、晩飯食べてない」

クロ「飯を食ったら帰宅してくれ」

カナ「冷たいこと言うな、俺は宿無しなんだ」

クロ「何なんだ、この図々しい女は!」

カナ「熊のくせに小さいこと言ってんなよ」

クロ「小さくないが」

キナコ「まだ肉じゃががあったかな」

クロ「キナコも順応してる場合か!」

レイ「わたしシャワー入るね」

クロ「やれやれ」


呆れるクロ。

ふと見ると、ちゃぶ台にチビクマがいない。

チビクマRはだらしがなく寝ている。


クロ「おい、チビクマR。お前の兄弟はどこだ」

チビクマR「さっき出て行ったよ」

クロ「止めろよお前。自分勝手すぎるだろ、俺のロボたち」

カナ「ご飯ご飯」

クロ「お前はちょっと遠慮しろ!」

カナ「うるせークマ公!」


騒がしくなるレイの自宅。

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