20 神様がいるなら
新登場人物
チビクマR:クロが作ったポンコツロボット。
1,レイの住宅、朝
クロがちゃぶ台の前に座って熊のぬいぐるみに電子部品を組み込んでいる。
二階から、パジャマのレイが降りてきた。
レイ「おはよー。また、何か作ってるのね」
クロ「おう。そろそろ完成だ」
電源を入れるクロ。
すると目が光って、その小さな熊のぬいぐるみは立ち上がる。
クロ「お前はチビクマRだ」
チビクマR「ええ、はい」
クロ「お前の任務は何だ」
チビクマR「家の周辺を監視して、変質者とかを見つける仕事です」
レイ「あら、今回はなんだか大丈夫そう」
クロ「では、さっそく監視任務に行くのだ」
チビクマR「はい、では明日から」
そう言ってごろっと横になる。
クロ「違う、今すぐだ」
チビクマR「えーっと、じゃあ、三時間後に全力で頑張ります」
レイ「もしかして、また失敗?」
嬉しそうに聞くレイ。
クロ「かもな……なんだか、俺も疲れたぜ」
そう言って、カーペットの上で寝転ぶクロ。
キナコが部屋に入ってくる。
エプロンを付けて、お盆に乗せた朝食を持ってくる。
キナコ「レイ、朝ご飯だよ。クロ君、おもちゃをしまって」
クロ「おーいR、そこから降りろ」
チビクマR「わかりました、十分後に全力で」
クロ「今すぐどかないと、今すぐスクラップにするぞ!」
チビクマR「やれやれ、せっかちなクマ公だ」
そう言いながら、もぞもぞと動いてちゃぶ台の縁でまた寝転んだ。
キナコ「クロ君の変なロボットはまた失敗か」
レイ「おいしそうね、今日は何なの」
キナコ「豆のスープと、バタートーストだよ」
ちゃぶ台に並べられる。
レイ「いただきまーす」
元気よく食べ始める。
クロ「やっぱこいつはダメだ。壊して別のソフト入れるか」
チビクマR「待て、創造主さん。一時間待ってくれたら全身全霊かけて全力で働く。ぎょえ!」
クロは無情にもスイッチを切ってしまう。
レイ「ちょっとかわいそうだったかも」
クロ「スイッチ切っただけだ。それにソフトを改善されたら生まれ変わるのだ」
キナコ「改善になる保証はないけど」
クロ「キナコ、俺の腕前に疑問持ってるだろ」
キナコ「君がまともなものを作ったの見たことないけど」
2,ボーが軟禁されているホテル
ボー・クロスメリは眠っている。
夢を見ていた。
どこか自然豊かな畑。
背が高く、厳しい顔をした青年。
その隣に優しげな女。
女「今年は上手くできたんだよ。生で食べてみなよ」
女が赤い実をもいで少年に渡す。小さい手で受け取る。
少年「うん」
がぶっと赤い果肉を食べる。
少年「おいちいよ。ママ」
女「うふふ、美味しかった?」
女は少年の額を撫でる。
少し硬くて暖かい手のひらの感触。
ボーは突然目を覚ました。
上半身を起こす。
ボー「今のは……夢か。鮮明だったな」
青年はベッドを出ると水を飲む。
ボー「昔からある変な記憶だ。クロスメリ家で農園見学でもしたのだろうか」
父のジョージは仕事一筋の厳しい男で、遊んでもらった記憶は全くない。
母は反企業のテロで亡くなったという。
ボー「あの父が僕を農園見学なんて連れて行くなんて考えられない」
そうつぶやく。
ボー「似てるかもな、あの女」
ボーは手ひどく拒絶した女のことを思い出す。
レストランの外で払いのけた光景。
なぜかあの女が記憶の農園の女のような気がしたのだ。
ボー「脳が勝手に記憶を合成し夢を見せたのかもしれない」
青年は頭を振ってそれ以上考えないようにする。
3,アルミナの農園
アルミナの家の前に車が止まる。
数人の火星共和国の兵士が降りた。
呼び鈴を押すと、アルミナが出てくる。
アルミナ「……あんたたち」
兵士「アルミナ・クラヴィッツだな」
アルミナ「はい」
兵士「明日の出撃にランダムで選出された。明日の十時までに北港の管理ステーションに出頭してくれ。断っても、時間に遅れても、強制的に捕らえて連行することになる。手間はかけさせてくれるな」
アルミナ「……」
アルミナは返事しなかったが、素直に命令書を受け取る。
兵士は足早に去り、アルミナはリビングの椅子に座った。
机の上にチビクマが寝転んでいたが、立ち上がって声を出す。
チビクマ「アルミナ、何があった。元気出せ」
アルミナ「あたしは明日までの命だよ」
チビクマ「アルミナはまだ寿命じゃない」
アルミナ「そうでもないのさ」
首を振る。
彼女は家族の写真を見た。
突然、データパッドから音楽が鳴る。誰かから通信が来たのだ。
手に取るアルミナ。
アルミナ「エリアナ、久しぶりね」
データパッドには評議員のエリアナ・トリシュが映っていた。
エリアナ「聞いたわ。あなたに出撃命令が出たって」
アルミナ「ええ、私の命も明日までね」
エリアナ「出撃を回避してあげるわ。まだ姉さんが死ぬ時じゃない」
アルミナ「いいえ、私は出るわ。私が断っても誰かが死ぬ」
エリアナ「しかし」
アルミナ「私はね……もう疲れたの」
エリアナ「わ、私の責任よね、私があなたを抵抗運動に誘ったから」
エリアナはうつむいて、ぽとっと、涙を落とす。
アルミナ「あんたの責任じゃないよ。私は私の選択をしただけ。結果を引き受けるのは自分さ、あんたじゃない」
エリアナ「せめて新型に乗せるよ」
アルミナ「余計なことはしないで。慣れたアクスでいいよ」
エリアナ「しかし」
アルミナ「いいの。それは他の人に回して」
エリアナ「ごめんなさい姉さん……私」
これ以上は言葉にならず、ボロボロと泣き始めた。
アルミナ「ありがとう。私のことを思ってくれて。でも、あたしは夫と息子に会えるんだよ。今は解放された気分なんだ」
エリアナはうなずくと通話が切れる。
4,管理ステーション
六人程の男女が控室のような場所で待っている。全員パイロットスーツを着用。
アルミナもパイロットスーツを着て待っていた。
兵士に連行された男が二人入ってきて、席に座らせられる。
手と足に枷がついている。
連行されてきた男たちは一人が唾を吐いて暴れ、一人は極度の恐怖で硬直している。
兵士「前回はまんまと逃げおおせたよな。腰抜けめ。今回は出撃して義務を果たしてもらうぞ」
男「知るかよ! こんなところで死んでたまるか」
兵士「諦めろ。コロニー内にいれば絶対探し出す。外に出ても逃げ道は無い」
男は暴れようとしたが、もう一人の兵士が男の首に注射を打つ。
いきなり男はぐったりとして動かなくなった。
兵士「逃げた腰抜けを最優先で出す、企業連合の指定は五機だ。今からこのメンバーでランダムに出撃者を決める」
どこかに合図送ると、全員の持つ小さな端末にすぐに連絡が来た。
二人の男女が外れたようだ。
その二人は大きなため息をついて立ち上がる。
アルミナは自分の端末が出撃指令になっていることを確認した。
兵士「運のいい奴は喜ばずに急いで去れ」
兵士が言い放つと二人は逃げるようにステーションから消える。
アルミナの端末に自分が乗る機体が表示される。
アルミナ「あたしは、ハイアクス」
暴れていた男「クソ、俺はアクスだ」
アルミナ「……」
兵士「エグゾフレームがわかったら、それに乗ってもらう。そして小型輸送艇にしがみつくんだ」
兵士の銃口を背にして、全員、のろのろと部屋を出た。
暗くて長い連絡路を歩く。
先程嫌がっていた男も諦めたのか、ゆっくり歩く。
エアロックを抜けて港に出ると、旧式のエグゾフレームが立っていた。
たくさんのドローンが監視している。
アルミナたちはヘルメットをかぶってエグゾフレームに乗り込む。
長い戦いの記憶が彼女の心に去来する。
エグゾフレームに乗るのはこれで何回目だろうか。
死ぬとわかっている戦いだったが、慣れたパイロットの感覚が蘇る。
管理AI「ようこそ。敵は企業連合のギャラホルンとクニヤラの部隊です。全力で倒してください」
アルミナ「武器はどこだ」
管理AI「輸送艇の中に機体ごとに専用武器があります。安全のため戦場付近までロックされています」
アルミナ「……」
暴れていた男も、硬直してた男も、エグゾフレームに乗ると操縦して輸送艇にしがみつくようだった。
殺人ゲームの「駒」部隊は、アルミナのハイアクスともう一機ハイアクスがあり、逃げた二人は単なるアクス。最後の一人はブラー。
小型輸送艇が宇宙に出る。
同じハイアクスから通信が来る。
男「あんた、確かアルミナ・クラヴィッツだよな。有名なテロリストの」
アルミナ「そうだよ。でも、今は単なる負け犬さ」
男「俺はガスだ。一度出て死ぬはずだったんだがな、あのレイさんのおかげで生き延びてな」
アルミナ「生き延びたのに、また死にに行くのかよ」
ガス「俺は志願したんだぜ。神様がいて俺は死ぬ宿命じゃねぇのかもと思ってな」
アルミナ「大馬鹿だろ。あんた」
ガス「もし、今回も生き延びたら、本気で神様ってものを信じることにするんだ」
アルミナ「……神様がいるなら、息子に会いたい」
ガス「あんた、家族がいるのか」
アルミナ「昔な」
ガス「俺が死んだら神様にお願いしてやるぜ」
アルミナ「ありがとう、あんた。いい奴だね」
ガス「ああ、みんなそういう」
小型輸送艇は暗い宇宙を行く。
5,小惑星MOF百十三
十台ほどのポッドが並び、その中に男女が入れられている。
サイバーウェアが装着され、薬品を注入する管や、機器を管理する端子などが繋がっている。
デビット・ケックナー大尉がデータパッドを持って巡回している。
ケイティ・マンロー少尉が入ってきた。
ケイティ「改造兵士の様子はどうなの」
デビット「ああ、状態は良好だ。私の組み込んだ遺伝子のおかげで短期間で完璧な兵士に仕上がるだろう」
ケイティ「その遺伝子って、元は誰のものなの」
デビット「あのソル王国反乱の時に大活躍したボーンエリートだよ。君も知っていると思うが」
ケイティ「まさか、彼は昇進して今は将官よね」
デビット「彼は軍の命令を受けて遺伝子を提供したのだよ」
ケイティ「伝説の英雄の遺伝子ならすごい兵士になるわね。でも、大人しく言うことを聞くの?」
デビット「それは心配ない。強烈な洗脳がされている。それに、逆らえば死ぬことになる」
ケイティ「ウフフ、本当にあなたは抜かりがないわね。これからも頼りにしているわ」
媚びの混じった目で見るケイティ。
デビットはかすかに笑う。
6,レイの住宅、庭
鎌を持ったチビクマR、クロ、そして、シャツにミニスカートのレイが家の庭にいる。
クロ「チビクマRよ、庭の草を刈るのだ。少しでも働いて役立つことを示せ」
チビクマR「オッケー。頑張るよ」
ザクッと草を刈るチビクマR.
クロ「お、偉いぞ、その調子だ」
チビクマR「ふう、たっぷり働いたぞ、休憩」
レイ「草を一刈りしかしてないけど」
クロ「おい、まだ休憩じゃないぞ」
チビクマR「僕はこんなレベルの低い労働のために生まれた存在じゃないと思うんだよね。神様もそう言ってる」
そう言って地面に寝転ぶチビクマR。
クロ「やっぱ、だめか」
レイ「本当に困った子熊ちゃんね」
しゃがんで、もふもふのお腹を撫でるレイ。
ガサ。
庭の深い草の影で何かが動く。
レイ「だれ?」
クロが無言で小型拳銃を腹から出す。
草影から茶色い毛皮の存在が出てくる。
レイ「あ、最初のチビクマちゃんじゃない?」
クロ「ああ、確かあのおばちゃん……アルミナにあげた奴だ。おい、どうした戻ってきて」
チビクマ「探す。トニー」
クロ「あの生きてるかもしれない息子のことだよな」
チビクマ「トニーいる」
クロ「遠い宙域の話だぜ、ここにいるわけがない」
チビクマ「いる!」
そう言って、思った以上に速い動きでどこかへ走って行った。
クロ「お、おい」
レイ「ねえ、アルミナさんに何かあったのかな」
クロ「あいつ壊れてるから、変なことを思い込んでるだけじゃないか」
キナコがやってくる。
キナコ「お昼はいつものレストランに行くって話だったよね」
クロ「おう、そうだな」
レイ「孤児院の子供たちも一緒に行くんでしょ」
キナコ「うん」
レイとキナコは小型車に乗って出発してしまった。
7,宇宙、アルミナの戦場
「駒」の部隊は何となくガスがリーダーとなったようだ。
彼のハイアクスを中心に戦場に向かう。
ハイアクス二機とブラーはビームライフル。アクス二機は重マシンガン。
ガス「ブラー機、あんたは盾があるから防御に徹して敵を引き付けてくれ」
ブラーのパイロット「ああ」
ガス「アクス二機は武器が弱いから近寄らず牽制だ。ハイアクス二機の近接で仕留める」
パイロットたちの元気のない返事が聞こえる。
アルミナ「来るよ!」
宇宙に光が見えて、どんどん迫ってくる。
モニターに大型のギャラホルンが一機、護衛のクニヤラが三機。
ギャラホルンの手には大型の拡散ビームライフルがある。
射程に入った瞬間から雨のように拡散ビームが発射された。
「駒」部隊も全力で撃ち返した。
アクスが一機、すぐ火の玉になる。
ブラーの盾には何度も光線が当たっている。
アルミナとガスは慣れた動きで何とか躱した。
アルミナ「あいつ、以前より強化してやがる」
何度かテレビで見ていたのだ。
ガス「近寄らないと絶対勝ち目がないぜ。レイさんみたいに躱せたらな」
ハイアクス二機は直撃は躱しながらも、完全には躱しきれない。
掠るたびにじわじわとダメージが貯まって行く。
アクスの二機目が爆発する。
ブラーが半壊した盾を外して、いきなり直進した。
ガス「俺は周り込む、あいつを援護してくれ」
アルミナ「ええ」
ブラーはドロドロに溶けながら、最後は敵の目の前で穴だらけになって爆散した。
アルミナはその爆発を盾に敵の下部から一気に迫る。
下に向けた拡散ビームライフルの残酷な銃口が目の前に迫る。
アルミナ「ああ、あんた、今会いに行くよ」
アルミナの心に愛した夫の姿が見えた。
目の前で爆発的な光がはじける。
アルミナはビームライフルを激しくぶつけて拡散ビームの向きを変えさせる。
ハイアクスの下半身全体が溶けて無くなった。
しかし、ギャラホルンは目の前の敵に一瞬の躊躇を見せる。
ガン!
ハイアクスがギャラホルンに抱き着く。
ギャラホルンは攻撃できなくなった。
接触状態で誘爆されたら自分も無事ではないかもしれない。
アルミナは灼熱のコクピットで、狂ったように敵にしがみつかせた。
アルミナ「神様! もしいるなら!」
アルミナは激しく何かを願う。
ガスは敵の背後を取っていた。
ガス「アルミナ、すまねぇ!」
ガスはビームライフルを全力で連射した。
至近の光線はビームコートを無視してギャラホルンのメインバーニアを貫く。
激しい誘爆を開始する。
光と炎。
ギャラホルンの脱出装置が開き、コクピットが射出されそうになる。
ガシ!
アルミナのハイアクスがコクピットを誘爆の炎の中に押し戻した。
ハイアクスとギャラホルンは光の球となって大爆発を起こす。
ガスのハイアクスは全速で後退した。
ガス「まさか、だな。また生きちまった。俺が死ぬつもりだったのに……」
クニヤラが迫ってくるが、結果を見ると何もせずに引き返す。
小型輸送艇が戻れと信号を送ってくる。
ガスは無言で帰還した。




