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ヴァルキリーバトル  作者: 弓師啓史


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19/22

19 贈られた物

新登場人物

なし



1,小惑星MOF百十三、格納庫

輸送船から続々と搬入される黒いクニヤラ。

一機だけほっそりした機体が降ろされる。

色は同じく黒く、女性的なフォルム。

ピンクの髪の少女ルナが見ていると、輸送船のランチ艇がやってきて、ロイ・キャンベルが降りる。


ルナ「あら、あなた。追い出されたのじゃなかったの」

ロイ「あれはカナの暴走だ。私には関係がない」

ルナ「ケイティがかなり怒ってたわよ」

ロイ「終わったことだ、軍にいる限り自分の思い通りになることなんて無いのだよ」

ルナ「でも、あれはあいつの独自判断でしょ。そして、あなたは助けて追認した」


ルナが不必要に顔を近づけて囁く。

ロイはやや引いて。


ロイ「よさないか。あれは部下を死なせるほど薄情ではないというだけの話だ」

ルナ「あいつ、あんたの愛人でしょ」

ロイ「……」

ルナ「図星なのかしら」

ロイ「子供がそんなことを聞くもんじゃない」

ルナ「私は大人よ。完璧な人間だわ」

ロイ「君は十九号、サリバン博士が作った。普通の人間ではない」

ルナ「酷いこと言うわね。私は心も体も完璧に作られてるのよ。レイとは違うわ。あんな不安定で不完全な……」


やや、イラっとしたのか、ルナは右手の棘が一瞬見える。

しかし、すぐに機嫌を直し、笑顔になった。


ルナ「でも、私のためにエグゾフレームを持ってきてくれたんでしょう」

ロイ「ああ、企業はこのイルタナを君に渡せと命じたよ」


イルタナは先ほどの女性的な機体でヴァルキリーに似ている。

全身に尖った鱗と大きな翼がある。


ルナ「伝わってくるわ、この子、すごい力秘めてる」

ロイ「……忠告するよ、この機体は危険だ」

ルナ「それはボーンエリートとしてそう感じるってことかしら」

ロイ「そう受け取ってもらって構わない」

ルナ「ご忠告ありがとう。でも、これを乗りこなせるのは私だけ」


ルナは重力の少ない格納庫で飛び上がると、一気にコクピットの前に立つ。

すると、主を待っていたかのようにコクピットが開いた。


イルタナ「ようこそ、ルナ様」

ルナ「あら、もう私のこと登録してるのね」

イルタナ「はい、私はあなたの専用機です」

ルナ「いいわ、感じる、すごい力!」


ルナは座席に座り、棘の端子も挿入していないのに、イルタナに精神波を行き渡らせる。

カタカタと、全身のスケールビットが振動した。


ルナ「ああ、すごい。感じるわ。全てを支配できる!」


ルナは異常な知覚の増大を感じる。

ロイは無言で見つめた。


ロイ「企業は子供に危険なおもちゃを与えるつもりなのか。これは胡散臭い嘘の正義ですらない。ただの愚行だ」


ロイの呟きは小さく、誰にも聞こえていない。

背後にケイティが近寄ってくる。


ケイティ「あら、キャンベル少佐」

ロイ「ああ、君か。正式に軍人となったのだね」

ケイティ「ええ、おかげさまで。ところで『材料』は持ってきたのよね」

ロイ「……」


ロイは返事もせずに、搬入されるコンテナを見る。


ケイティ「誰が入っているのかしら」

ロイ「銃殺を待ってる重犯罪人だと聞いた」

ケイティ「いいのよ、彼らもケックナー大尉の改造を受けて立派な人間になるわ」


ロイは女を一瞥して、汚物でも見たかのようにすぐに視界から外した。

そして、ランチ艇に乗り込む。


ケイティ「またいらしてくださいな」

ロイ「ああ、命令なら」


そう答えて、艇の扉を閉めた。



2,孤児院

子供たちにお菓子を配るレイとキナコ、クロ。

壮年の女性、院長が笑顔。

その横には機械の瞳のエレーナが子供たちを抱えて忙しそうにしている。


エレーナ「ダメよ、並んで受け取りなさい」


子供たちは滅多に食べられない甘いお菓子に興奮している。


院長「ありがとう、レイさん、熊さんたち」

レイ「子供たちが嬉しそうでよかったわ」

院長「でも、誰からいただいたものなのですか」

キナコ「これは匿名の人物からです」

クロ「おい、これは……」

院長「そうなんですね、ありがたいですわ」


院長は子供たちの喜びように微笑む。


キナコ「クロ君」


グイッとキナコがクロを少し離れた場所に引っ張る。

小声で話し合う子熊たち。


クロ「なんだよ、本当のことは言わないのか」

キナコ「誰がくれたか知ったら、気分悪いと思う。人間はそういう反応するよ」

クロ「……それもそうかもな」

キナコ「君はもっと物事は慎重に考えてだね」

クロ「あーはいはい、今後は真面目に真剣に考えて、善処いたしますぅ」


レイは子供に引っ張られてゲームをするようだった。

子供たちはお菓子を食べながら、レイのゲームの腕前に見惚れている。

エレーナが子供を置いて二匹に近寄ってくる。


エレーナ「ねえ、敵はどんな奴だったの」

クロ「ベルクナー家の金持ちお嬢さん。名前はクレア」

エレーナ「改造されてるわけがないわね。ボーンエリートなの?」

クロ「さあな、でも、自信はあるみたいだったぞ」

エレーナ「レイなら負けないとは思うけど、何があるかわからないわ」

クロ「ああ、心配するな。この後工場長に呼ばれてるんだ」

エレーナ「ヴァルキリーのこと何かわかったの?」

クロ「コンテナ内部の物に何かあるんだとか」

エレーナ「そう、強い武器ならいいんだけど。あの子が心配だわ」

クロ「ありがとう、レイのこと案じてくれて」

エレーナ「あの子、とても無邪気で、かわいい妹みたい」


エレーナの機械の瞳は感情が読みにくいが、子供と遊ぶレイを見る顔は優しかった。



3,エグゾフレーム工場

工場敷地内に白いヴァルキリーが立ち、レイとクロが乗り込んでいる。

足元にコンテナがあり、アル工場長が無線で話しかけてきた。


アル「このコンテナにはライフルらしきものが入っている。そちらで接続できるか」

クロ「レイ、マインドコネクトするんじゃね?」

レイ「うん、やってみるよ」


レイが端子を挿しこんで精神波を送ると、コンテナの部品がふわっと浮きあがった。

どよめく作業員たち。


部品はヴァルキリーの腰に剣を挿すように定着する。


クロ「あ、その何かの一覧に、多用途ビームライフルてのが追加されたぞ」

レイ「本当ね」


モニターを指さすクロ。

レイもうなずく。


クロ「それ、よく見たら、色々な武装があるんじゃないか。ライフルが光って、他の武器は消えてるな。持っていないってことだろう」

レイ「なんだか色々あるのね」

クロ「よく見ると、多弾なんとかランチャーとかあるな。光ってないということは持って無いのか」

レイ「へー、そうなのね」

クロ「あのー自分の機体だぞ」

レイ「なんだかややこしいから、後で調べようと思って放っておいたの」

クロ「お前、説明書読まない主義だろ」

レイ「頭が痛くなって眠くなるのよね。細かいものを見ると」

クロ「こりゃ処置なしだな」


コンソールの上でゴロゴロするクロ。


ヴァル「クマ公、そこで寝転ばないで」

クロ「ヴァル公。お前がちゃんとレイに説明しないからこんなことになるんだぜ」

ヴァル「してましたが、レイ様に聞いてもらえないのです」

レイ「えへへ」


ピンクの舌を出してごまかすレイ。


クロ「とにかく、このライフルは何だ」

ヴァル「これは多目的ライフル。威力の制御が可能で、射撃モードも変えられます」

クロ「モードの種類は」

ヴァル「突撃銃が基本で、拡散砲と長射程狙撃モードがあります」

クロ「じゃあ、さっそく撃ってみるか」

アル「おい!」


いきなり大声で通信が入る。


クロ「はい?」

アル「はい? じゃねぇ! コロニー内では撃たせないぜ。宇宙でやれ宇宙で」

クロ「無駄にでかいくせに、いつもみみっちいことばかり」

アル「聞こえてるぞクマ公」

クロ「あーはいはい」

レイ「じゃあ、すぐ宇宙に行こう!」


ヴァルキリーは元気よく飛び上がると、南港に向かう。



4,コロニー付近、宇宙

ゴミが浮く宇宙空間。

レイの白いヴァルキリーは髪をなびかせて宇宙を飛ぶ。


アル「いつも通り、ゴミを片付けてくれ」

レイ「オッケー」

クロ「レイ最大出力で撃ってみようぜ」

アル「いきなり最大とか、アホかー」

クロ「またすぐに小さいことを」

アル「このクマ公、やっぱ故障してんじゃねぇか」

クロ「つまらないけど最弱からやりゃいいんだろ」

アル「つまらないとかそういう問題じゃねぇ!」

レイ「クロちゃん喧嘩しないの」


レイがクロを小脇に抱える。

ヴァルキリーは腰のライフルを手に持つ。

銃を抜くのではなく、部品がスケールビットのように浮遊して手の中で銃として形になるのだ。


クロ「すっげ」

レイ「じゃあ、最弱で」


ライフルから細い光線が飛んで、残骸を真っ二つにする。


クロ「スケールビットよりちょっと強いぐらいか」

レイ「次は普通」


太い光線が出て、次々と残骸が消える。


クロ「クニヤラのライフルより明らかに上だな。最強だとどうなる」


通信が入る。


カイン「こちら、評議員のカイン」

レイ「カインさんこんにちは」

カイン「新しい武器の演習中だと聞いたが」

クロ「おう」

カイン「スパイが見ているかもしれない。基本性能だけ判明したら後は秘匿しておいてくれ」

クロ「でも使ってみないと」

カイン「フルパワーがわかると敵が対応してしまう可能性がある」

レイ「オッケー帰還します」

クロ「おい、いいのかよ」

レイ「もうわかったわ、全部」

クロ「レイがそういうなら……」


ヴァルキリーは港に向かう。



5,戦闘宙域、廃コロニー

両肩に巨大な盾を付けた鎧武者のような黒い機体、ナグルファル。

操縦するのはクレア。

そして周りにはブラギが六機。

ブラギの一機にはミカが。他には猟犬部隊が搭乗していた。

遠巻きにクニヤラが三機いるが、彼らはかなり距離を取っている。


ミカ「お嬢様、わざわざ敵に待ち伏せさせなくても」

クレア「いいのよ。ナグルファルにとってはこの方が都合がいいの」


浮かぶ巨大な廃コロニーには過去の戦争で巨大な大穴が開いている。

慣性で回転しているが無残な残骸。

穴に向かってゆっくり降下していくナグルファル。


クレア「あなたたちは外で待っていて」

ミカ「ダメよ、私ともう一機は連れて行って」

クレア「仕方がないわ、邪魔はしないで」


黒いブラギが二機、ナグルファルの後を追う。



6,廃コロニー内

レイは昔の建物の陰に隠れていた。


キナコ「僕はここでいいの?」

レイ「ええ、その亀裂に入っててね」


コロニーの外壁が割れてエグゾフレームが入れないような細い空間が出来上がっている。

そこにキナコの乗る大型ビットが入り込む。


クロ「ナグルファルのデータが来てるけど、重マシンガンで勝てる相手じゃねぇな。こいつは今までの金持ちの玩具じゃない、本物だぜ」

レイ「うん、頑張る」

クロ「ライフルが見つかってよかったぜ」

レイ「んん、来たみたい!」


巨大なナグルファルの影が見えた。

両手首にビームガンを撃てるようになっているらしく、レイが潜んでそうな場所に光の雨を降らす。

爆発と土埃。

あたり一帯の視界が一気に悪くなる。

さっと一瞬だけ白い影が見えた。


クレア「そこ!」


腹の中央にある拡散ビーム砲であたりを焼き尽くす。

白いスケールビットが数枚、反撃のために迫ってくる。

ナグルファルを青い光線で撃つ。

躱しきれず、硬い盾に傷がつく。


ミカ「お嬢様」

クレア「来ないで、邪魔なの!」


しかし、猟犬の一人は我慢できず大きな倉庫のような建物に飛び込んだ。


クレア「ダメ!」


建物の中で青い光が満ちて、耐えきれずブラギが飛び出す。

全身をずたずたにされているが、それでも反射神経だけで躱そうとする。

黒いスケールビットを数枚飛ばすブラギ。

しかし、次の瞬間青くて太い光がブラギを貫通した。


ミカ「うそ」


ボン!


爆発するブラギ。


クレア「そこ!」


クレアはビームガンを連射して突撃した。

スケールビットが命中弾を当てるが、重装甲は全く抜けない。

昔の建物を突撃で粉砕して、白い影に弾を叩き込む。

しかし、ヴァルキリーはあっさり躱した。


クレア「これなら!」


ナグルファルの足の爪が伸びる。

ヴァルキリーはそれも上に飛んで躱す。


クレア「終わりよ!」


爪の先から上空に向かってビームが出る。

ヴァルキリーは絶体絶命に見えた。

しかし、


レイ「女の子を舐めないで!」


ヴァルキリーは頭のマインドワイヤーで手近な鉄骨を掴んでグイッと体をスライドさせた。

ビームが足首の装甲を溶かすが、被害はそれだけだった。


クレア「嘘、そんな」


必殺の攻撃を躱されて、虚ができる。

ヴァルキリーがライフルを次々と叩き込む。

両肩の巨大な盾が爆発して、消失した。


ミカ「みんな、お嬢様を守るよ!」

猟犬部隊「はっ!」


ブラギが殺到して来る、ナグルファルは一旦引いた。


クレア「ダメよ、引きなさい!」

ミカ「しかし、このままだと」

クレア「これは命令よ! 逆らうなら処罰するわ」

ミカ「下がって、みんな!」


ミカは下がったが、猟犬部隊が二機、青い光で貫かれて爆発四散する。


クレア「死んでもらうわ、レイ!」


ナグルファルの背中の格納庫から、鎖のようなものが何条も辺りに発射される。

それは丸い粒が付いた金属のワイヤーだった。


クロ「何じゃこりゃ」

レイ「嫌な感じがする」

クレア「終わりよ、レイ」

レイ「え、これ、私に感応してる」


丸い粒が宙に浮くと一斉にレイに向かって飛び始めた。


クロ「これ、爆弾かなんかだろ!」

レイ「私にめがけて来るわ」

クロ「うわー、まだ死にたくない! やり残したことがあるんだ」


ヴァルキリーに向かって黒い物体が飛ぶ。


クレア「かわいそうだけど精神感応爆弾よ。あなたに勝ち目は最初からなかった」


ヴァルキリーが黒い塊に包まれたと思った瞬間、巨大な爆発が起き、あたりの建物が吹き飛び、コロニーの外壁に亀裂が入る。


ミカ「あれを使ったのね、うちの秘密兵器」

クレア「だから来てはダメなのよ」

ミカ「え?」


埃が徐々に薄くなる。

青い目が光る。

白い影が煙の中から浮かび上がる。


クレア「馬鹿な」


丸短い大砲のような形になっているビームライフルを構えているヴァルキリー。


クロ「助かった。最大出力拡散砲すげぇな」


ビームライフルがカチカチと形を変えて行く。

極端な短銃身から長銃身になる。


ミカ「猟犬!」


残りのブラギが飛んでくる。

しかし、すぐに光の球となった。

廃コロニーから離脱するナグルファル。

しかし背後に白い三角形が現れた。


キナコ「かわいそうだけど」


粒子砲が連射され、ナグルファルのバーニアを次々と貫く。

ナグルファルは誘爆する前に、壊れた部品を外す。

メインバーニアが外れ、右腕が外れ、最後は下半身も無くなる。

コロニーから脱出するナグルファル。

迫るヴァルキリー。


どんどん小さくなっていくナグルファルは、軽くなって早く逃げる。

そして、ミカの機体が身を挺して立ち塞がった。

異変を感じたクニヤラ隊が遠くから飛んでくる。


レイ「狙撃モード」


銃身が極限まで長くなった。

照準に捉えるが、レイは撃たなかった。


クロ「どうした、撃たないのか」

レイ「あの子は子供たちにお菓子をくれたわ。だから」

クロ「情けで命拾いしたな、あの女」


レイが撃たないでいると、彼らは必死に逃げて小さな光の点になって消えた。



7,三番コロニー北港

輸送船がやってきて、ブラギとアイマダインを搬入している。

レイと子熊二匹が見物していた。

トッドがやってくる。


トッド「ブラギか、割といいよな、あれ」

レイ「アマダイちゃんの方がいいよ」

クロ「アイマダインな」

キナコ「ん、何だろ、変なコンテナ来たよ」


搬入されて行くコンテナ。

データパッドを見るキナコ。


キナコ「何か知らないけど、約束にはない物だね」

レイ「ねえ、それ何なの」


レイが搬入作業を指揮している士官に問う。


士官「ボーナスらしいですよ。メッセージがあります」


レイは紙の手紙を貰う。

開いて読む。


クロ「なんて書いてあったんだ」

レイ「子供たちで分けてくださいって。コンテナいっぱいのお菓子だって」

クロ「ガキども虫歯になるかもな」

キナコ「歯磨きぐらいするだろ」


レイは手紙を大事にしまう。

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