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ヴァルキリーバトル  作者: 弓師啓史


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18/22

18 令嬢の挑戦

新登場人物

クレア・ベルクナー:大企業CEO、ベルクナー家の令嬢

ミカ:クレアお付きの改造人間

デビット・ケックナー:改造人間専門の技術大尉。小惑星に赴任する



1,某コロニー、貴族用の豪邸の一室

その部屋から美しい人工の自然が見える。

部屋には豪華な調度が並び、二人の少女が大きなモニターを眺めていた。

一人はベルクナー家の令嬢クレア。

緑の髪にどこかの学校の制服。

もう一人は護衛兼、話し相手の改造人間ミカ。

子供のように小柄でまっすぐの髪。クレアと同じ制服。


画面ではいつもの殺人ゲームが放映されていた。

全身、尖った装甲を持つデザイナーフレームと、ブラーやアクスⅡが戦っていた。


ミカ「賊軍はいつもよりちょっと強そうだけど」

クレア「対するはギャラホルンね……もしかしたら手に余るかも」


ギャラホルンはライフルを撃ち、体から四方八方に拡散粒子砲をまき散らす。

一機のブラーが破壊された。

しかし、包囲は解けない。

装甲を撃たれるギャラホルン。


ミカ「なんだか苦戦してるわ」

クレア「ギャラホルンは頑丈さに特化してるわね」

ミカ「やられないから、負けないって。思想がかっこ悪いわ」


古いエグゾフレームたちが武器を連射する。

ギャラホルンは回避しきれず、連打でビームを浴びた。


クレア「逃げたほうがいいわ」

ミカ「あ! 投了したわよ、あいつ。最低ね」


ギャラホルンは自ら投了して主催者のクニヤラ部隊が救出に来る。

下がる賊軍。


ナレーター「ギャラホルンは善戦しましたが賊軍の数が多く、勝負は投了となりました。しかし、敵は二機を破壊されギャラホルンの勝利と言っていいでしょう」

ミカ「何言ってんのよ。負けよ、あんなの」

クレア「仕方がないわ、賊相手に負けたとはそうそう言えないのよ」

ミカ「どんな結果でも勝利判定よね。はっきり負けたと認めたのはレイに負けた時だけね」

クレア「レイ、一度戦ってみたいわ」

ミカ「ダメよ、相手は謎の新型機まで手に入れているのよ。危険すぎるわ」

クレア「私のナグルファルなら」

ミカ「あなたのお父様が絶対許さないわ」

クレア「ミカ、あなたは誰のお付きなの」

ミカ「……クレア、あなたです」

クレア「お父様じゃないでしょ。私の指示に従ってもらうわ」

ミカ「でも」

クレア「これは命令よ、私はあのレイ・アレンと勝負したいの。私の機体でね」

ミカ「……せめて、護衛部隊はつけてください」

クレア「仕方がないわね、わかったわ」


渋々うなずく少女。



2,評議会

アレン将軍、カイン・マクドネル、エリアナ・トリシュの三人が話し合っている。

正面の画面には小型輸送艇が映っていた。


アレン「驚いたことに、救難信号で見つかったのはケイティ・マンローに捕まっていた子供たちだ」

エリアナ「あの女、子供に反乱されたのかしら」


怜悧な顔を笑いにゆがめるエリアナ。


アレン「どうやら凄腕のパイロットが彼らを逃がして、追手と戦ったらしい」

エリアナ「その戦いはどうなったの? 誰がそんなことを」

アレン「結果は不明だ。どうやら企業連合のパイロットが子供たちを救った。高速艇の最後の操縦者が彼女になる」


名前だけが、モニターに表示される。

カナ、とだけ。


エリアナ「カナ。姓はないの?」

アレン「改造人間かもしれんな。子供たちの境遇に同情して暴走したといったところか」

カイン「その可能性はありますね。マインドブーストされていても普通の人間の感情はあります」

エリアナ「それで、子供たちはどう言っているの」

アレン「子供たちはほとんど訳が分かっていないようだ。マザーに見つかったら殺されると」

カイン「弱者を恐怖で支配する魔物だぜ。あの女は」


カインは小惑星でしてやられた経緯もあり、極度にケイティを嫌っている。


アレン「カイン君、君からも話があるのではないのか」

カイン「企業連合よりレイと勝負したいという要求が来ています」

エリアナ「レイと? 勇敢ね。何者なの」

カイン「ベルクナー家のデザイナーフレームだ。名前はナグルファル」

エリアナ「ベルクナー。はっ。あいつら」


エリアナは明らかな嫌悪を見せる。


アレン「戦いだけなのかね」

カイン「勝てば捕虜を一人開放しろと。負けたら、新型の量産機を渡すという話ですね」

アレン「負けると失うものが多すぎないか」

カイン「新型の量産機を要求しましょう。そうですね、五機ぐらい」

エリアナ「五機は多すぎよ」

カイン「交渉は強気で」

アレン「言うだけならタダだな」



3,大型ヨット。豪華な一室

宇宙を行く、大型ヨット。

ベルクナー家の私財。

見た目は民間船だが、軍艦並みの艤装もされている。

豪華な一室。

パイロットスーツを着たクレアとミカ。

モニターの中年男と話している。彼は企業の交渉係で、人間としての個性が全くない。


中年男「入金を確認しました。賊軍はクレア様の条件を飲むそうです」

ミカ「ブラギを五機も渡せないわ」

クレア「いいのよ、その程度」

ミカ「でも」

中年男「交渉の結果、ブラギ二機とアイマダインを三機にしましたが」

クレア「ありがとう、お父様の小言がちょっと減るわね」

中年男「他にご要望はありませんか。可能であれば応えますが」

クレア「そうね、戦う前に一度、レイに会ってみたいわ」

中年男「し、しかし、それは危険ですよ」

ミカ「そうよ、何でそんなことを」

クレア「レイは約束は守ると聞いたわよ。ボーも紳士的扱いをしているって」

中年男「責任は負いかねますが、手配はできると思います」

クレア「いいのよ、ちょっと会って話すだけ。じゃあ、もういいわね」

中年男「はい」


通話が切れる。


ミカ「ほんと、お嬢様は危険好きすぎる。よく旦那様を説得できたわね」

クレア「お父様は私が旧式の量産機と戦うと思っているわ。それに、これで勝ったら、アカデミーですごく自慢できるじゃない。みんなのヒーローになれるわ」

ミカ「とにかく。戦いの前に親衛隊とも一度会ってください。士気も上がりますわ」

クレア「お父様の『猟犬』ね。連れてきて」


ミカが連絡をすると、五人の黒いパイロットスーツを着た男たちが入室する。

全く同じ動作でクレアに膝まずく。


猟犬隊長「クレア様、我ら、お嬢様のために命を捧げる覚悟です」

クレア「ありがとう。立っていいわ」


彼らは全く同じように立ち上がった。


ミカ「相手はレイになった。そして、新型のヴァルキリー。あんたたち、敵は生半可じゃないよ」

猟犬隊長「はっ! お嬢様に毛筋ほどの傷もつけさせません」

クレア「……」

ミカ「もういいわ、下がって」


男たちは無言で去っていく。


クレア「あなた、親衛隊に」

ミカ「言わないで、あなたのお父様がそうしろって」

クレア「そう、なのね。でも、あれでは人間じゃないわ」

ミカ「お嬢様を守るためよ」



4,小惑星

マスクと白いつなぎを着た研究職員の列。

彼らは小惑星の研究施設に入って行く。

研究員のリーダー、怜悧な顔をした壮年の男がマスクを取って振り向く。

彼はデビット・ケックナー大尉。

後ろから地球連合軍の軍服を着てケイティ・マンローが歩いてくる。


ケイティ「ケックナー大尉?」

デビット「ああ、そうだ。ケイティ・マンロー少尉だな。君は今後私の指揮の下で働いてもらう」

ケイティ「ええ、よろしくね」

デビット「軍籍復帰は小惑星をもたらした君への報酬だ。過去の罪は抹消されているが、今後の待遇は働き次第となる」

ケイティ「ええ、いいわ」


女はにこやかだった。


デビット「ふむ、思ったより素直だな。もっと攻撃的なのかと思ったぞ」

ケイティ「そんなことはありませんわ。所詮、私は非力な女でしかないのよ」


女は明らかに媚びるような視線を送る。

デビットは一瞬戸惑う。


デビット「なお、君の口座には約束通りの金を送った。確認してくれ。それにしても、このまま地球圏に戻ると思っていたが」

ケイティ「やり残したことがありますもの」

デビット「ほう、それは?」

ケイティ「うふふ、私個人の問題ですわ」


ルナがニヤニヤしながら、その光景を見ていた。


ケイティ「でも、この小惑星をどうなされるのです?」

デビット「ここは企業連合の拠点に改造し、同時に、改造人間製造を行う。我らの分析では地球圏に匹敵するかそれ以上の技術があると判明したのだ」

ケイティ「じゃあ、あのルナの……」

デビット「いや、あの娘も噂のレイも謎が多い。もっと安定的な遺伝子で量産を行う」

ルナ「ポンコツをいっぱい作るつもりなのね」

ケイティ「ルナ。言葉を慎みなさい」

ルナ「フン」


気に入らないという顔で立ち去る少女。


デビット「私の合成した遺伝子は自慢の一品だ。それに、無から作るのではなく、大人に移植できる。肉体を育てる手間がいらない」

ケイティ「すごい技術ですわね。それで改造兵士が作れるなら」

デビット「ああ、君はそれを指揮してくれ」

ケイティ「ロイ・キャンベルが指揮官になると思いましたわ」

デビット「彼は忠誠心が常に疑われているのでね。あの子供たちの件も不問にはしたが……」


ロイ・キャンベルとカナは表向き罪は問われなかったが、小惑星からは去った。


デビット「とにかくここは軍事拠点にもなる。その指揮は君に任せるよ。私は兵士製造に集中する」

ケイティ「ええ、でもここの名前はどうするの。謎の小惑星研究所のままでは」

デビット「ああ、それはMOF百十三という名前がついた」

ケイティ「辺境軍事拠点の略かしら」

デビット「そうだ。ここから太陽方向に移動して、エリア三十の太陽側で監視する」


そこまで話し合うと、デビットはマスクをつけて研究室に向かう。

立ち去るケイティ。

少し行くと、ルナが待っていた。


ルナ「どうするの、素直にあいつの部下になっちゃうわけ」

ケイティ「そうね、今はそうするわ」

ルナ「何考えてるのよ」

ケイティ「ここは軍事拠点になるわ。部隊指揮官は私。復讐するのあいつらに」

ルナ「私はレイから盗まれたものを全て取り返したいわ」

ケイティ「何を盗まれたのかしら」

ルナ「あいつは全てを盗んだわ。私はお父様に愛されていたのに、後からあいつが横取りしたの」

ケイティ「いいのよ、あなたは正しいわ。あの小娘の腐った感じは私もわかる」

ルナ「……とにかく、エグゾがいるわ」

ケイティ「大丈夫よ、最新式が来るわ。あなたに適したのが」

ルナ「ヴァルキリーも本来は私の物なの。そもそもお父様が名付けたのに、あの女!」


歯ぎしりするルナ。

冷たい目で顔だけ笑顔にするケイティ。


ケイティ「ええ、復讐しましょう。私たちを馬鹿にした全てのものに」



5,豪華ヨット内部、廊下

パイロットスーツを着たレイ。そして、子熊のクロが廊下を歩いている。


クロ「へーこれが、金持ちお嬢様の船かー」


キョロキョロと辺りを見回す黒い子熊。


レイ「……」


クロと違い、レイは緊張した面持ちだった。


クロ「お、なんだこれ」


壁にかかっている剣を手に取ろうとするが、当然手は届かない。


レイ「触っちゃだめよ、多分」

クロ「いいじゃん、減るもんじゃないし」


とある部屋から黒髪の少女が出てくる。


ミカ「レイとお付きのロボットね」

レイ「ええ。この子はクロちゃんよ」

ミカ「ロボットの名前なんてどうでもいいわ、お嬢様はこちらよ」


冷たい目で睨むようにレイを見る少女。

レイたちはその豪華な一室に入る。



6,豪華ヨット、応接室

ふかふかのじゅうたんが敷かれた一室。

丸くて大きなテーブルに瀟洒な椅子。

白いドレスのクレアが待っていた。


クレア「あなたがレイね。私はクレア・ベルクナーよ」

レイ「初めまして」

クロ「おう。よろしくな」


子熊が手を上げる。


ミカ「あんたには聞いてない」

クロ「さすが金持ちお嬢ちゃんの船だ。カーペットもふっかふかだな」


カーペットの上でゴロゴロする黒い子熊。


レイ「クロちゃん、大人しくして」

クレア「いいのよ。可愛いお付きなのね。座ってくださいな」


レイが椅子に腰かけると、クロもいそいそと隣に座る。

全員が座ると、召使いが紅茶とお菓子を運んで来た。


クレア「一度あなたと話してみたかったの。突如賊軍に現れたヒロイン。何者なの?」

レイ「わたし、クローンの改造人間よ」

クレア「クローン。それは誰の?」

レイ「わからないわ。わたしは目覚めた時から前の記憶はないの」

クレア「そう。誰かがあなたを三番コロニーに送ったのかしら」

レイ「わからないわ。でも、巻き込まれてしまった」

クレア「そうなのね。それなら、私の元に来たら罪は問わないし、自由をあげるわ」

レイ「無理よ。わたし」


彼女の脳裏に散っていった人々が見える。


ミカ「お嬢様、こんな危険な女」

クロ「レイは危険人物じゃねぇ。お前らがそうさせてるだけじゃねぇか」

クレア「ミカ、いいのよ。じゃあ、あなたは三番コロニーのテロリストに同情してるのね」

レイ「ええ、企業連合がどう言ってるのかは知らないけど、彼らは殺人ゲームの駒にされているわ。わたし、見捨てられない」

クレア「企業の話ではテロリストが……」

クロ「それ、プロパガンダだぜ。都合よく倒しやすい機体が出て、いつでも金持ちが投了できるっておかしいと思わんのかよ」

クレア「それは……私にはわからないわ」

クロ「あんたらが楽しくぶっ潰してるボロ機体には人間が乗ってんだよ」

クレア「……」

ミカ「黙りなさい、この熊」

クレア「いいのよ。ところで、今、ボーはどうしてるの。彼とは知り合いだから気になって」

レイ「車でコロニー内をウロウロしているわ。多分、暇なのよ」

クレア「そうなのね。元気そうならいいけど」

クロ「紳士的扱いしてやってるんだぜ」

ミカ「ボーは貴族。当たり前でしょ。というか、この熊、聞かれてから答えるようプログラミングしたいわ」

クロ「俺はさすらいの熊。自由意志で生きてる」


モフ胸を張る子熊。


ミカ「こいつ壊れてるんじゃないの?」

クレア「ところであなたヴァルキリーはどこで手に入れたの。どこにも記録が無いのよ。性能も全くわからない」

レイ「それは」

クロ「ブー! 機密情報。お答えできません、お嬢さん」

ミカ「マジで殺意湧いてきたわ、この熊」


瞼をぴくぴくさせるミカ。

しかし、クレアは怒るどころが微笑を浮かべた。


クレア「聞きたいことはこれぐらいかしら。今日は来てくれてありがとう、レイ」

レイ「ええ」

クロ「なあ、お嬢さん。あんたそのお菓子食べないのなら俺が貰ってもいいか」


女性たちは一切お菓子には手を付けていない。

紅茶も飲んでいなかった。


クレア「どうぞ、お持ちくださいな。でも、ロボットのあなたは食べないでしょ」

クロ「ああ、近所のガキどもに分けてやるんだ」

クレア「三番コロニーに子供がいるの?」


クレアは思わぬ情報に目を見開く。


クロ「ああ、割と居るぜ。孤児院もあるからな。ガキども、滅多にお菓子なんて食べないから喜ぶだろ」


そう言ってお菓子を回収して腹の隠しポケットに入れる。


ミカ「私のもあげるわ」

クロ「ありがとうお嬢ちゃん」


クロのモフ腹はお菓子で膨れ上がり、かなりのぷっくりお腹になる。


クレア「ミカ、船にあるお菓子は全部この子に渡して。どうせ私は食べないから」

ミカ「はい」



7,ヨット付近、宇宙

小型輸送艇が三番コロニーに向かって飛ぶ。

小悪魔のような黒いエグゾフレーム、ブラギが一機現れる。


猟犬隊長「今やれば、未然に危険を排除できますが」

ミカ「ダメよ。私もそう思うけど」

猟犬隊長「ならば」

ミカ「お嬢様が激怒するわよ。これは命令、見逃しなさい」

猟犬隊長「……」


ヘルメットから憎悪をたぎらせた眼を光らせるが、彼は結局、トリガーから手を放した。




9/12 微修正

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