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ヴァルキリーバトル  作者: 弓師啓史


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17/21

17 人と魔物

新登場人物

ネオチビクマ:自分を「冥界から現れた地獄の使者」だと思っているポンコツロボット。



1,レイの住宅、朝

ちゃぶ台の上で熊のぬいぐるみに電子機器を組み込んでいるクロ。

パジャマ姿のレイが降りて来る。


レイ「おはよー。クロちゃん何作ってるの」

クロ「おはよう。前のはイマイチだったが、新しく作ったぜネオチビクマ。さあ、目覚めるのだ」


クロがそう言うと、茶色い熊のぬいぐるみはむくっと起きる。


ネオチビクマ「フフフ、我を目覚めさせたのは貴様か」

レイ「なんだか変わった感じね」

クロ「そうだ、お前の任務なんだ」

ネオチビクマ「我の任務? 我は地獄の使者。この世を魔界にするのだ」


そう言うと、ちゃぶ台から降りる。


クロ「おい、勝手に行くな」


しかし、彼は無視すると玄関まで行く。


ネオチビクマ「おい、そこの娘、扉を開けろ」

レイ「いいけど、何するつもりなの?」


レイが笑顔で扉を開けると、ばっと飛び出した。


ネオチビクマ「我は冥界より現れし地獄の使者! フハハハ。ひれ伏せ人類!」


キナコの運転する小型車がやってくる。

キキー!

グシャ。

ブレーキをかけるが一歩遅く、ネオチビクマをタイヤで踏みつぶした。


キナコ「すごく速くて……何だったの? 小動物かな」

レイ「お帰り、キナコちゃん。クロちゃんのネオチビクマちゃん踏みつぶしちゃったね」

キナコ「ああ、またクロ君の変なロボットか」


クロも出てくる。


クロ「あー壊れてるじゃん……ま、いいか、どう見ても失敗作だったし」


家に持って帰るクロ。

キナコは朝食の用意をし、クロは修理をしている。

レイはご飯を食べると、着替えた。


クロ「どこに行くんだ」

レイ「兵隊さんの合同訓練だって。誘われてるの」

キナコ「じゃあ、僕たちも行こうよ」

クロ「おう」


クロはぬいぐるみをポイッと捨てる。

三人は車に乗った。



2,工場付近演習場

火星共和国兵とソル王国の兵士が数十人。

彼らは格闘やライフルなどの訓練をしている。

レイたちが車を降りると、評議員のカインとトッドが出迎える。


カイン「レイ来てくれてありがとう。諸君、今日の訓練はエースのレイも来ている」


カインが紹介すると、兵士たちが拍手した。


カイン「こういう殺伐としたご時世だ。人間単位の戦闘力も高めておく必要がある。何があるかわからんからな」

レイ「そうだよね」

クロ「おっちゃん、レイは拳銃も撃ったことがないんだ。教えてくれないか」

カイン「うむ、ならば俺の言うとおりにするんだ」


各自、格闘や射撃訓練を始める。

レイはカインに手取り足取りで射撃を習う。


カイン「よし、撃ってみろ」


自動拳銃を構えるレイ。

パン!

見事標的のど真ん中を撃つ。


カイン「上手いな、じゃあ次は二発連射してみろ」

レイ「はい」


パンパン!

ほぼ同じ位置に当たる。

更に何発も撃つが、全く外さない。


カイン「本当に素人なのか、すごい才能だ」

クロ「素人にしてはやるじゃないか」

レイ「えへへ」

キナコ「クロ君も練習したほうがいいんじゃない?」

クロ「俺は戦闘のプロだから、練習なんぞ」

キナコ「じゃあ、僕とどちらが上手いか勝負しようよ」

クロ「毛皮怪獣の分際で、よし、相手してやる」


キナコとクロが小型拳銃を持って標的を狙う。

キナコは凄い速度で連射した。

クロはパンパンとゆっくり撃つ。


カイン「……キナコは凄いな。全弾ど真ん中だ。クロは……見事標的の縁に全弾命中している」

レイ「わざと外したみたいね」

クロ「そ、それ超高級AIのブレなんだわ……そんなことより、次は格闘訓練だろ」

レイ「よーし、みんな投げ飛ばしてやるんだから」


簡単な防具を付けて蹴りや殴り、投げ、締め、ナイフや警棒の訓練をする。

子熊たちは手足が短すぎるので最初から参加しない。

トッドがレイの相手をする。

脇を閉めて、両こぶしを握って腕を軽く広げる。


トッド「フ。この俺に隙があると思うならかかってきなさい」

レイ「うーん、じゃあ、えい!」


適当なパンチが行くが、トッドが軽く受け流す。

次々とパンチ、そして、蹴り。


トッド「やるな、レイ」


攻撃は素人ながら、どんどん早くなっていく。


トッド「お、おい」


レイは攻撃に熱中し始めると、止まらなくなる。


カイン「もういい、一旦止まれ」


防具を付けたカインが背後からレイを羽交い絞めにする。


レイ「放して!」


異常な速度ですり抜け、猛獣のような眼で睨むと腕をカインに伸ばす。

白銀の棘が見えた。

カインが身構える。


キナコ「ダメだ!」


茶色の弾丸のようにキナコがジャンプする。

ケーブルの付いた棘が飛び出したが、毛皮の体で受け止めた。

棘の端子はキナコに深く刺さり、止まる。

どさっと地面に落ちるキナコ。


レイ「え、わたし、こ、こんな酷いこと……ど、どうしよう」


ショックのあまりおろおろするレイ。

そして、クタッと倒れた。

意識を失ったのだ。

クロの目が光っている。


トッド「今、棘が少佐の首を狙っていた。あれって」


トッドがつぶやく。

小惑星で見た死骸のことを思い出したのだ。

首を何かで貫かれた犠牲者たち。


カイン「ふぅ、肝が冷えたぜ。防具はつけていたから大丈夫だったとは思うが。キナコ、無事か」

キナコ「ええ、内臓の装甲板で止まってます。僕より、彼女の方が」


ムクっと起き上がる子熊。


カイン「やはり、ブーストされた人間は不安定だ。呼んだ俺のミスだったな」


首を振るカイン。


キナコ「彼女は連れて帰ります。ちょっと興奮しただけなので……でも、申し訳ありませんでしたカインさん」

カイン「気にするな」



3,小惑星付近、巡洋艦の通信室

ロイ・キャンベルとカナが画面に映る誰かと話している。

相手は企業幹部のようだ。


幹部「キャンベル君、技術部の話ではかなり有望な研究だったという報告がある」

ロイ「では、ケイティ・マンローと契約されるのですか」

幹部「ああ、まだ決済されてはいないが、そうなるだろう」

ロイ「最初の話通り、ここに技術部を移転させて、金だけ渡すのですか」

幹部「上の方では、彼女をここに滞在させて、基地にするという話になっている」

ロイ「あの女は想像を超える危険人物ですよ。信用されるのは……」

幹部「彼女は連合の優秀な下士官だった。エグゾフレームも新型を送る」

ロイ「子供たちが十人ほどいますが。彼らはどうします」

幹部「我々には必要ない」

カナ「おい、おっさん、必要ないってどういうことだよ。保護しねぇのか」

幹部「カナ君だな。ブーストの悪影響が出ているようだ」


前に出るカナを静止するロイ。


ロイ「カナ、落ち着け。とにかく、子供たちはこちらで処遇を決めます」

幹部「ふむ。まあいいだろう。それより、十九号以外のクローン体はどこに消えたのかね」

ロイ「ゼロ号レイが三番コロニーですが、他は存在しないようです」

幹部「記録ではまだ十数体いるはずだ」

ロイ「痕跡だけですが、何らかの事件があったようです」


ロイが写真を見せる。

壁の乾いた血痕。壁にめり込んだ銃弾。


幹部「三番コロニーが最初に来た時に殺されたパイロットのクローンを含めるとほぼ全滅なのか」

ロイ「たぶん、その可能性が高いですね」

幹部「なぜ殺したのかわかるか」

ロイ「何があったのかは記録にありませんね。殺したものが消したのか。ダリル・サリバン博士と思しき死骸は所長室にありました」

幹部「相当高度な企業。クロスメリインダストリーが関与していると踏んでいるが。あのヴァルキリーも」

ロイ「クロスメリが虐殺を行ったのなら、機密だらけのマシンは残さないでしょう」

幹部「調査は君に任せる。まさかと思うが、ローザの亡霊も関わっているかもしれない」

ロイ「はい、ご期待に沿えるよう努力します」


通信が切れる。


カナ「胸糞悪いぜ、企業の奴らめ。ところでどうすんだよ、子供たち」

ロイ「僕にできることはない」

カナ「あの女から助けるべきだろ。あいつは頭がおかしいぜ。あのルナもな」

ロイ「……そうだな。僕もなるべくなら無慈悲ではいたくない。リスクはあるが……」

カナ「何か思いついたんだな。聞かせてくれよ」


ニヤッと笑うカナ。

渋々、何かを告げるロイ・キャンベル。



4,レイの住宅、夕方

二階から降りて来るキナコ。

ちゃぶ台の前にクロが座っている。


クロ「レイはどうだ」

キナコ「大丈夫。ショックは受けたみたいだけど、今は薬も効いて寝ているよ」

クロ「もしかして、狂暴性プログラムされてるんじゃねぇか」

キナコ「ご主人様はそんなことはしないよ」

クロ「俺はご主人様のことは全く知らない。どういう人間なんだ」

キナコ「僕は言えないんだよ」

クロ「ハッキングしてやろうか」

キナコ「君にはできないだろ」


苦笑するキナコ。


クロ「ああ、たぶんな。忌々しい」

キナコ「でも少しだけなら言えるよ。ご主人様は改造されたクローンの精神成長を重視されていた。だから、レイのことを最も期待していたんだ」

クロ「ふーん」

キナコ「ご主人様はレイが真の人間として、人を指導する立場になってほしいって」

クロ「意味が分からん。ほぼ戦争の駒だろ。今の状態じゃ」

キナコ「ご主人様は試練を重視していたんだ」

クロ「そういや、俺が二号でお前が一号。他は? 三号とか四号とか」

キナコ「わからないよ」

クロ「他のに出会ったら俺たちどうなるんだ、それにも仕えるのか」

キナコ「わからない」

クロ「わからんことだらけか」


クロはゴロっとカーペットの上に転がる。

しかし、すぐむくりと起き上がった。


クロ「話は変わるけどよ、あのローザのコロニーであの結晶のコアがあっただろ」

キナコ「うん、でも、あれは消えたよね、多分」

クロ「破片を一個だけ持ってきたんだ」


ちゃぶ台の上に黒い結晶を置く。

不気味に輝く。


クロ「これお前にやるわ。ナノマシン関係ならお前が専門だろ」

キナコ「まあ、そうなるね」

クロ「適当な制御できるAIと融合させたらナノマシンを操作できるかもな」

キナコ「可能性はあるね。貰うよ」


キナコが取ろうとすると、クロがその手を押さえる。


クロ「一応、言っておくけど、自分で試すなよ」

キナコ「僕たちにはレイを守るという至上命令がある。心配はいらないよ」


そう言ってキナコは結晶を手に取ると、隠しポケットに入れた。



5,小惑星格納庫

小型輸送艇がドッキングし、寝ぼけ眼の子供たちがぞろぞろと歩いている。

カナが彼らを急かしていた。


カナ「急ぎな、企業の連中は時間にうるさいんだよ」


カナは子供たちを輸送艇に乗せるつもりのようだった。


少年「マザーがいないけど、勝手に動いていいの?」

カナ「いいんだよ、マザーより偉い人の決定だかんな」


ウサギのぬいぐるみを抱いた少女がうつらうつらしているので、少し大きな少年が抱きかかえて宇宙船に乗せようとタラップに足をかける。


ルナ「待って、だれの命令で子供たちを移動するの」


パイロットスーツを着たピンク髪の少女が鋭い目で静止する。


カナ「企業の上の方さ。あんたらはあいつらの下に入った。逆らうんじゃないよ」

ルナ「そんな話聞いてないわ」

カナ「マンローに聞いたらいいだろ」

ルナ「彼女は寝ているわ。あんた、まるでコソ泥ね」

カナ「うっせぇな。クローンの作り物の分際で余計なこと言ってんじゃねぇ!」


カナはかっとして怒鳴る。

子供たちは動揺して、足が止まった。

ルナは冷たい笑顔を浮かべて、身構える。

カナは拳銃を抜いた。


ルナ「あんた、子供を盗む気ね。ケイティに何をしたの」

カナ「眠らせたんだよ。あんたもな、てめぇこそなぜ寝ない」


カナは彼女の寝室に催眠ガスを仕込んだのだ。

ルナの寝室にも行ったが、効果がなかったようだ。


ルナ「小細工は効かないわ」

カナ「ち!」


拳銃を構えるカナ。

しかし、右腕からケーブルの付いた白銀の棘が走る。

カン!

拳銃に当てて難を逃れた。

さらに左腕から棘の一撃、それは腹を刺す。

ズボっと刺さったが、拳銃を撃ち返した。

ルナは銃弾が見えているように躱す。

棘が抜けて戻る。


カナ「クソ!」


拳銃を乱射する。

ルナは異常な体術で回転して躱し、コンテナの影に飛び込んだ。


カナ「子供たち、いいから船に乗りな! ここにいたらマザーがあんたらを殺してしまうぞ」


子供たちはカナの剣幕と拳銃に恐れを抱いて、慌てて船に乗り込む。

カナも船に乗り込んだ。



6,宇宙空間、小型輸送艇内部

小惑星からどこかに向かって全速力で飛ぶ小型輸送艇。

カナが操縦していた。

通信が入る。


ロイ「予定通りだな。大丈夫か、顔色が悪いが」

カナ「ああ、心配するな。脱出直前にルナに妨害された」

ロイ「これはあくまでも君の独断専行だ。ブーストによる精神不安定の結果だ」

カナ「わかってるって」

ロイ「……やはり追ってくるな。アイマダインだ」

カナ「あいつは俺の因縁の奴だな、メブズでやってやるぜ」

ロイ「これはあくまで君の私闘だ。僕は手助けできない」

カナ「ああ、気にするな」

ロイ「すまんな」


カナは全速力の自動パイロットにして席を立つ。

子供たちが不安げな目で見る。


カナ「いいか、俺がお前らを必ず助けてやる」

年長の少年「もし、マザーに捕まったら、僕らは」

カナ「心配すんな、世の中腐れ野郎ばっかじゃねぇぜ」


エアロックを出る前に、腹を見る。

止血はしているが、思ったより傷が深く、出血が止まらないようだ。


カナ「鎮痛剤でしのぐか。クソ」


ヘルメットをかぶってメブズの赤い機体に乗り込む。

格納庫を開けて、暗い宇宙に飛び出した。



7,カナの戦場

宇宙の彼方を進んでいく小型輸送艇。

迫ってくるアイマダイン。

立ち向かうメブズ。


ルナ「カナね。何で子供を攫う」

カナ「子供を攫ってんのはあんたらだろ」

ルナ「マザーはあの子たちを大事にしてるわ」

カナ「嘘をつけ。お前らは奴隷として大事にしているだけだ!」

ルナ「奴隷の何が悪いの? 平和に生きられるじゃない」

カナ「うるせぇ! 死にやがれ、魔物め」


メブズから四つのスケールビットが飛び出す。

破片たちはアイマダインを包囲して赤い光線を放つ。


ルナ「フフ。つまらない攻撃」


鋭い目をした少女は背後に目があるかのように躱す。

ライフルが連射された。

それも躱したが、さすがに完全に躱しきれないのか、いくつか装甲が溶けた。


ルナ「やってくれるわね」


ルナの目がギラッと輝く。

すると、メブズのスケールビットがいきなり制御を失って回転する。

そして、それがメブズを狙い始めた。

ルナが制御を奪ったのだ。


カナ「何て野郎だ。力が強すぎる。ぐ」


カナは口から吐血する。

ルナはライフルも撃ち、メブズは必死に逃げ回り始めた。

拡散粒子砲を放ち、スケールビットを潰した。


ルナ「無駄よ」


ビームをかいくぐり、一気に迫るアイマダイン。

右手をメブズの頭にかざした。

メブズの両腕からビームセイバーが出る。

ボン!

ゼロ距離発射のエネルギー弾がメブズの頭部を消した。


カナ「そこだ!」


ルナは以前のレイと同じ動きをしていた。

異常な高機動で飛び越え背後に回り込もうとする。

しかし、カナはわかっていたかのように背後を斬った。

アイマダインの両足が切断される。


ルナ「できそこないの改造人間が!」


アイマダインはメブズのメインバーニアにエネルギー弾を叩き込む。

激しく誘爆を開始するメブズ。

緊急脱出装置が射出された。


ルナ「逃がさないわ!」


右手をかざす。


ロイ「それ以上はさせない!」


黄金の輝きが弾道を遮った。

盾を持った黄金の騎士のようなエグゾフレームが立ちふさがる。


ルナ「ロイ・キャンベル。邪魔しないで」

ロイ「君は勝ったはずだ。これ以上は単なる虐殺になる。僕には阻止する権利があるのだよ」

ルナ「ふん」


ロイの乗る高性能機は無傷で、自分の機体は半壊している。

壊れているのは両足だが、全体への負荷は明らかだった。

遠くへ消える高速輸送艇。

ルナはギロッとにらんでから、小惑星に戻る。


ロイ「大丈夫か、カナ」

カナ「ありがとう。ロイ。助けられたな」

ロイ「部下を救うのは上司の仕事だ」

カナ「あの子たち、無事に三番コロニーに戻れるか」

ロイ「匿名通信を送ったよ、迎えに来るはずだ」

カナ「あんたは、本当は優しい男なんだよ」

ロイ「……」


黄金の機体は巡洋艦に向かって飛ぶ。

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