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ヴァルキリーバトル  作者: 弓師啓史


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16/22

16 標的たちの休日

新登場人物

ロイ・キャンベル:元ソル王国の貴族。ボーンエリート能力者の美青年。企業の軍事顧問。

ルナ:レイと同系統のクローン少女。小惑星で眠っていた。




1,レイの住宅、朝

ちゃぶ台の部屋にテレビが置かれている。

レイ、キナコ、クロが何となく見ていた。

番組が始まる。

評議会広報のようだ。

企業連合の輸送船が映り、元火星共和国の情報士官二人がスタジオで解説をしている。

なお、男女一人ずつ。


士官男「今回、我らのエースパイロット、レイとエレーナの活躍により、大幅な配給品が支給されました」


レイとエレーナの映像が映る。

美貌の二人。


士官女「どのような戦果だったのでしょう」

士官男「それは機密なので詳細は言えませんが、企業連合は二人の実力に屈した形です」

士官女「それはとても頼もしい話です。では、どのようなものが支給されたのですか」

士官男「食料雑貨はもちろんの事、個人兵装、嗜好品、娯楽品などです。それ以外の物は新型のエグゾフレームになります」

クロ「新型と言っても、どうせ、多少マシなだけだぜ」


ちゃぶ台の前に座ってツッコミを入れるクロ。

他の二人は無言で見ている。


士官女「エグゾフレームの詳細は機密なのですね」

士官男「はい。しかし、三番コロニー住民全員に臨時配給ポイントが一律二十ポイント支給されることとなりました。二人のヒーローに感謝して使用してください」


広報番組のエンディングテーマが流れ番組が終わる。

その後はクラシックの音楽など、古い映像が流れた。

テレビを消すクロ。


クロ「二十か、もうちょっとくれたらいいのに」

キナコ「あ、今五百ポイント来たよ。レイには特別ボーナスだって」


いつものデータパッドを見せるキナコ。


クロ「だったら、買い物に行こうぜ!」

レイ「やったー。でも何買おうかなー」

クロ「ゲーム買おうぜ」

レイ「そんなものあるのかな」

クロ「行けばわかるだろ」



2,配給所

レイとキナコ、クロが買い物をしようとしていた。

明らかにとても安っぽい受付ロボットがいる。


キナコ「無駄遣いはできない。僕は果物とか野菜を買うよ。受付さん、リスト送るから食料をください」

受付ロボ「ああ、キナコさん。レイさんのおかげで天然物の保存野菜が大量にありますよ」


コンベアに物資が流れてキナコの前に積み重なる。


クロ「俺は何がいいかなぁ。五十口径スーパーマグナムとかある?」

受付ロボ「大口径の銃は配給禁止になりました」

クロ「何言ってんの、このコロニー治安悪いだろ。仕方がない、狙撃用自動ライフルで我慢してやる」

受付ロボ「それも不可」

クロ「おい、舐めてんのか、このポンコツ!」

受付ロボ「クマ公はどこかへ行って」


シッシという仕草をする受付。


クロ「生意気だぞ。安物AIの分際で。上司呼べ!」

受付ロボ「はい次の方。あ、レイさんですね。いつもご活躍拝見してます」


揉み手をする受付ロボ。


レイ「えーと、わたしゲーム!」

受付ロボ「ゲーム機が十五、旧作ゲームソフトセットが五ポイントです」

レイ「じゃあ、ゲーム機一個と、ソフト三個」

受付ロボ「まいどー」


コンベアから流れて来る。




3,レイの住宅

テレビにゲーム機を繋いでアクションゲームにいそしむレイ。

異常な反射神経で、次々と高難度のアクションゲームをこなして行く。


クロ「アクションはレイにとって簡単すぎだな。レイ、この戦国シミュレーションやれよ」


データパッドで説明書を見せるクロ。


レイ「なにそれ」

クロ「一国のダイミョーになって、他国を滅ぼして世界統一をするという、脳みそを使うゲームだ。アクションばっかりじゃアホになるぞ」

レイ「わかった、やってみる」


レイは難しいと言いながら、結局、熱中しているようだった。

しかし、シミュレーションはアクションのように簡単にはいかないようだ。


クロ「でも、チップ一個で古いゲームが三百も入ってるぞ。こんなに要らなかったな」

キナコ「近所に孤児院があるからそこにおすそ分けしようよ」

クロ「孤児院、もしかしてあの超糞女の絡みか」


クロの脳裏に小惑星を乗っ取った偽善者ケイティ・マンローの姿が思い浮かぶ。


キナコ「あの人はもう関係ないよ。こんなコロニーでも子供は生まれるからね。そして、親のいない子も出る……」

クロ「駒になって死ぬんだな。チッ」

キナコ「幼児なのに親がいないとかかわいそうだろ。僕たちは配給ポイントも多いから分けてあげたいんだ」

クロ「わかった、じゃあ、行こうぜ」

レイ「私も行く!」

クロ「……」


クロは亡くなった子供たちを思い出すが、レイはあえてなのかその気配を見せない。


キナコ「前のことにこだわるより、今生きている人を相手したほうがレイにもいいよ」

クロ「そうだな」



4,孤児院

そこは公民館のような一般住宅より少し大きい安普請の建物。

小さな子供たちばかり十人弱がいるようだ。

中には赤ん坊もいる。

一人の保母が、赤ん坊をあやしていた。

エプロンを付けている。

それは機械の目をした金髪の女。


レイ「エレーナ?」

エレーナ「レイと熊さん達ね。こんにちは」

レイ「ここで働いてるの?」

エレーナ「ええ、私、人のお世話をするのは慣れてるから」

レイ「?」


意味が分からないレイ。


キナコ「ええっと、エレーナ、孤児院に差し入れ持ってきたんだ。ゲームソフトと野菜とか」


小型車を指さす。

トランクに入っている。


エレーナ「ありがとう。院長に報告しておくわ」

キナコ「院長さんはいないの?」

エレーナ「ええ、忙しいみたい」


レイは早速、孤児院にあったゲーム機に持ってきたソフトを入れて子供たちと遊び始める。

キナコはエレーナと体調に関して話をするようだった。

小さな幼女がクロに話しかけてくる。


幼女「くまたん」

クロ「はいはい、熊さんだよ」

幼女「おうまさんになって」

クロ「……まあ、いいか。はい、熊さん号だよー」


四足歩行になると、幼女が乗る。


幼女「キャッキャ」

クロ「ゆっくり歩くけど、しっかり掴まってろよ」


子供たちと遊ぶ二人を尻目にキナコはエレーナの状態を調べる。


キナコ「問題はないけど、いくつか数値が不安定だね」

エレーナ「午後からボー・クロスメリと食事をする予定なの」

キナコ「たぶん、それで少しストレスになってるんだよ。彼のことは怖い?」

エレーナ「ええ、少し。私を道具として使ってきた人達の雰囲気があるわ」

キナコ「彼が嫌いなら会わなくてもいいよ」

エレーナ「嫌いじゃないわ。とてもやさしい人。でも、それが怖いの」

キナコ「僕もついて行くよ。心配だ」

エレーナ「ええ、ありがとう」


キナコがレイとクロにこの後エレーナと同行することを告げる。


レイ「わたしも行く! エレーナを守るの」

クロ「俺も行くぜ」



5,近所の洒落たレストラン

ボー・クロスメリの前にエレーナが座る。

その横にキナコとクロ。

レイは別のテーブルにつく。

なお、数人のライフルを持った兵士が遠巻きに監視している。


ボー「……あのね、君たち……僕は彼女と二人で話したいんだが」

キナコ「僕は彼女の体調管理する任務があるから」


キナコは胸を張って答える。


ボー「じゃあ、そちらの黒い熊君は?」

クロ「俺は面白そうだからついてきた」


クロも胸を張って答えた。


ボー「君たちはレイのお付きだろ」

レイ「わたしは一人で大丈夫よ」


レイも笑顔で胸を張って答える。

ボーは頬を引きつらせていたが、やがて、大きなため息をつく。


ボー「仕方がないか。僕は捕虜の身分だからね」


トマトのピザが運ばれてくる。


ボー「とりあえず、食べよう。この店の料理は絶品だね。材料がもっと良ければ完璧なんだが。このコロニーには惜しい腕だ」


ボーとエレーナはピザを少しかじる。

そして、合成コーヒーを飲む。


ボー「君は僕のティシュトリアに乗っているそうだが」

エレーナ「ええ、とてもいい機体ね。バランスがいいわ」

ボー「うちは軍事企業だからね。趣味のデザイナーフレームとは違う」

エレーナ「そんなことを聞くために呼んだの?」

ボー「聞きたいのはもっと重要なことだよ。いくら僕の機体でも、戦いを続けたらいつか君は……」

エレーナ「私、今までの人生で今が一番穏やかな気分なのよ」


少し微笑む。美しい笑顔。

ボーは見とれる。


ボー「それなら、もう、殺人ゲームに出るのはやめてほしいんだ」

エレーナ「それはできないわ。私は大勢を殺してきた。それから降りるのは……」

ボー「君が戦いをやめる代りに、ここに高性能機体を支給するように父に言うよ。悪い取引じゃないはずだ」


ボーはそう言いながら、自分の言葉が本気なのか一瞬疑う。


エレーナ「私は戦いから逃げられないの、無理よ」

ボー「悪いようにはしない。これは本心なんだ、僕を信じてくれ」


ボーはそっとエレーナの手を包もうとする。

しかし、青年は滑らかな女の手ではなく、モフっとした毛皮の手を掴んだ。


クロ「ブー! 誘惑禁止」

ボー「あのね、君。そのブーというのは何だね」


頬がひくひくする青年。


クロ「ビープ音だ。意味は察せよ」

キナコ「クロスメリさん、あなたの提案は彼女を動揺させていますよ」

ボー「君たちは過保護熊だね。やれやれ」


肩をすくめる青年。


トッド「ほう、捕虜のくせにいいご身分だな、ボー・クロスメリ!」


大声が響き、人々が振り向く。

入り口付近に軍服を着たトッドが立っていた。


ボー「君は?」

トッド「軍服を見たらわかるだろ。俺はあんたらクロスメリに仲間を虐殺された元火星共和国の兵士だよ」

ボー「悪いが今は君に話はない」

トッド「貴様になくてもこちらにはある! 仲間だけじゃない、一般人まで!」


トッドは顔を怒りに紅潮させて、ぶるぶる震えていた。

震える手で腰の拳銃に手をかける。

護衛兵士たちが顔を見あわせるがすぐに動く気配はない。

彼らもボーを憎んでいるのだ。


エレーナ「トッド、やめて!」


エレーナは必死になって青年の手を止めようとする。


トッド「エレーナ、君には関係がない話だ。これは俺とこいつだけの」

エレーナ「いいえ、関係はあるわ。あなたが彼を殺せば、私たちは報復で全滅させられてしまうわ」


トッドは怒りで震えていたが、やがて、銃から手を放す。


トッド「クロスメリ。いつか貴様らを皆殺しにしてやる。お前たちがやったことを俺は絶対許さない!」


そう叫ぶと、トッドはレストランを出て行く。

空気は凍り付く。


ボー「すまない、場を白けさせてしまったね。これも身から出た錆だ」

エレーナ「トッドは悪い人じゃないわ。許してあげて」

ボー「彼はトッドというのか。恨まれてるのは僕も知ってるよ」


首を振る青年。

そして、席を立つ。


ボー「食事に来てくれてありがとう。先ほどの提案は本気だ。君も考えておいてくれ。そして、評議会にも伝えてくれないか」

エレーナ「ええ、報告するわ」


去っていくボー。



6,レストランの外

護衛と共に店を出るボー・クロスメリ。

外では中年の女性アルミナが、小型トラックから降りてきた。

車にはトマトが積まれている。

彼女は驚愕したような顔でボーを見つめた。


ボー「……僕の顔に何かついてますか」


先程のトッドとの軋轢で青年は機嫌が悪かった。


アルミナ「あ、あんた。似てる」

ボー「? 何のことです」

アルミナ「似てるんだよ、あんた、あたしの夫に」

ボー「くだらない。僕はあなたのことは何も知らない」

アルミナ「トニー、だよね。あんた」

ボー「何のことか知りませんが、人違いです。僕はクロスメリ家の長男。父はジョージ」

アルミナ「覚えてないのかい? 小さい時、夫の農園でトマトを美味しそうに食べたよね」

ボー「……さあ、記憶にありませんが」


冷たくあしらう青年。


アルミナ「これを見て。この写真だよ、あんたの父さんの!」


アルミナはいつも持っている家族の写真を青年に突きつける。

しかし、ボーは機嫌が悪かったのもあり、手で払いのけた。


ボー「僕はあなたなんて知りません! 勘違いしないでください」


宙に舞う写真。

兵士がアルミナを押しやる。


兵士「接近するな、女。面倒はごめんだぜ」


押されて転倒する。

ボーは険しい目で一瞬、女を見るが、それ以上は何もせず無言で軍用車に乗り込む。

車の窓から見ると、のろのろと立ち上がるアルミナ。

写真を拾い、背を丸めてどこかに歩いて行く。


ボー(少し厳しくしすぎたか、しかし、妄想に堕ちた人間に優しくしても)


彼女の小さな背中に心が痛くなったが、首を振って忘れようとする。

車が発進した。



7,ケイティが占拠した小惑星

小惑星に巡洋艦が接近していく。

ランチ艇が船から出て小惑星の格納庫が開いた。

ランチ艇は入って行く。

パイロットスーツの人間が二人降りて、格納庫からエアロックに進む。

空気が注入されて、ヘルメットを取る。

一人は、以前「スコット」と名乗って三番コロニーに潜入していた男、ロイ・キャンベル。

もう一人は、その相棒の赤髪の美女、カナ。


カナ「こんな辺鄙な場所に価値のあるもんなんて……ロイ、あんた、どう思うよ」

ロイ「ここは有名な改造人間研究者が作った場所なのだ」

カナ「ふーん、だれよそれ」

ロイ「今は知らなくてもいい、どうやら死亡したようだ」


エアロックが開き、笑顔のケイティ・マンローとレイとそっくりなピンク色の髪の少女。

そして、数人の子供たちが彼らを待っていた。

子供たちは自信満々の女二人と違って汚れておどおどしている。


ケイティ「ようこそ、キャンベル少佐」

ロイ「今は少佐ではない。昔の呼称だ」

ケイティ「有名なあなたに敬意を持つのは自然なことよ」

ロイ「まあいい、ところでその少女は……レイに似ているが」

ケイティ「彼女はレイではないわ、まずはこの施設を見学してくださいな」


小惑星を案内しようとするケイティ。

ピンク髪の少女は腕を組みニヤニヤしている。

顔は似ているが、態度が全くレイとは違った。


ロイ「ふむ。君、名前は?」

レイに似た少女「十九号よ」

ロイ「十九? それは名前ではない」

レイに似た少女「お父様がルナと言ってたわ」

ロイ「ルナ。それでいい。人間らしい」

ルナ「人間、そうよ、私は完璧な人間なの」


嫌な笑顔をする少女。

ロイは少し不機嫌になって歩く。


ケイティ「企業連合に興味を持っていただいて嬉しいわ」

ロイ「本当に価値のあるものではないと商談は成立しない。そのことは覚えておいてくれ」

ケイティ「私が調べた範囲でもかなり高度よ。失望はさせないわ」

ロイ「技術評価は専門スタッフがする。ランチ艇で待機しているが、そちらが許可するなら降ろそう」

ケイティ「ええ、この研究施設限定でならいいわ」


データパッドで地図の一部を指す。


ロイ「ああ、いいだろう、どうせ他の部分は企業は興味がない。しかし、先ほどから子供がウロウロしているが」

ケイティ「あの子たちは私の大事な生贄よ」

ロイ「生贄? 物騒だな。どういう意味だ」

ケイティ「私が幸福を得るための、神への生贄」


ロイは激しい嫌悪を感じた。

女の異常性が心に触る。




9/5 微修正

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