15 黒き結晶の記憶
新登場人物
なし
1,倉庫付近
巨大エグゾフレーム、サイコギガントが空中に浮く。
黒い結晶でできた槍が浮き、地上ではゾンビと化したエグゾフレームが蠢く。
トッドのスーパープラクスはレイ、エレーナと合流した。
トッド「何だこの宙に浮く槍は」
クロ「気を付けろ、これに刺されたらゾンビになるぞ」
地上で動くエグゾフレーム群のコクピットは例外なく槍で貫かれている。
トッド「逆に言えばコクピットを守りさえすればいいのかもな」
クロ「そんなに甘くねぇだろ」
宙を飛び交う黒い槍。
マムがマインドコネクトで飛ばしているのだ。
レイとエレーナは飛来する槍を次々と落とすが、スーパープラクスはあまり反応速度が高くなく、槍を躱すだけで精いっぱいだった。
レイ「トッド、その機体じゃ危険よ。下がって」
トッド「と言っても、狭いコロニーだ、簡単にはいかんぜ」
キナコ「地上で何かの建物に隠れたほうがいいですよ。ゾンビはあまり強くない」
トッド「そうさせてもらうか」
そう言うと、トッド機は病院の建物が中央にある市街区に降りる。
同時に足もとで向かってくるロゼをバズーカで倒した。
クロ「でも、あのでかいサイコギガントを倒したら、こんなコロニーぶっ壊れるかもな」
レイ「ライフルは効かないし、至近戦に持ち込むしかないけど」
躊躇するレイ。
空中の戦いは若干膠着した。
地上ではゾンビ群がスーパープラクスに向かっている。
トッド「レイ、ゾンビども動きがおかしい。病院を背にすると撃ってこない」
クロ「クローンの生産設備があるんだ。多分、奴らにとって最重要施設なんだよ」
キナコ「もしかしたら、あのサイコギガントを操る本体がそこにあるかも」
レイ「じゃあ、乗り込んで調べましょうよ」
ヴァルキリーとティシュトリアは病院に向かって飛ぶ。
すると、敵は攻撃をやめ、硬直するようだった。
クロ「巨大な倉庫があるな、あそこにエグゾを入れて、対峙したら時間稼ぎができるぞ」
エレーナ「私が敵を押さえるわ、あなたたちが中を調べて」
病院倉庫前に降り、巨大なシャッターをこじ開けて入って行く。
2,クローン製造工場
その倉庫は病院の備蓄品を貯蔵する倉庫だったようだが、仕切りが設けられ、人一人を入れておけるサイズのポッドがずらりと並んでいる。
輝きがあり、装置自体は生きているようだった。
壊したシャッターの前にティシュトリアが陣取り、敵の様子をうかがう。
キナコ「やはり、敵は迫ってこないね。僕たちはここで見張るから、君たちは調査して」
病院を見下ろしてサイコギガントが宙に浮き、周りをゾンビエグゾフレームが囲む。
しかし、病院を攻撃できず、どうしていいかわからないという反応だった。
クロ「無理はするなよ。エレーナも」
エレーナ「ええ」
クロ「意外と素直じゃん」
エレーナ「私はこんなところで死なないわ。花の冠も貰ったから」
クロ「その意気だぜ」
エグゾフレームを降りる、レイとクロ、そして、トッド。
クロはレイに拳銃を渡す。
クロ「さすがに今はこれぐらい持てよ」
レイ「うーん、わかった。でも、これどうやって撃つの」
クロ「安全装置を外して、狙い付けて、引き金を引く」
レイ「難しいのね」
クロ「今度しっかり練習しような」
トッドはサブマシンガンを肩にかけている。
ポッドに興味を惹かれ、横についているモニターを調べていた。
トッド「これは故障しているな。でも開くみたいだ」
クロ「安易に開けないほうがいいぞ、多分」
しかし、トッドは興味本位で開けてしまった。
悍ましい悪臭と共に、ドロッとした気持ち悪い液体が見える。
トッド「うわ!」
すぐに閉じるトッド。
トッド「うげー気持ち悪りぃ」
クロ「だから言っただろうが! いいもんある訳ねえだろ!」
レイ「変なにおい、なんかあったの?」
レイは見ていなかったが、悪臭に顔をしかめる。
クロ「いいから、ポッドは無視して行こう。トッド、次は警告を聞けよ」
トッド「……ああ、さすがにちょっと反省した」
げんなりした顔のトッド。
3,研究棟
ポッドの奥にセキュリティの高い扉があるが、拾ったカードを差し込むとあっさり開く。
そこはコンピューターや資料が並ぶ研究室だった。
天井に自動タレットがあったが、動かない。
トッド「剣呑なのがあったな。カードがあってよかったぜ。ハッキングだと撃たれてたかも」
クロ「突然動かないように潰しておくか」
そう言って、クロは適当な端末からシステムに侵入し、タレットなどをハッキングしていく。
クロ「システムが古いから楽勝だぜ、全部無効化した」
トッド「この先はどうなってる」
クロ「地下になんか重要な施設があるみたいだ」
通信が入る。
キナコ「クロ君、手に入る研究データは全部持って行こうよ」
クロ「ここのクローン技術じゃ見るもんないかもしれんがな。念のためだ」
情報を漁って持って行くクロ。
レイ「気持ち悪い場所だわ。なんだか、意思みたいなものを感じる」
好奇心の強いレイだが、この部屋にうすら寒いような感覚があった。
トッド「何かわかったか?」
クロ「王族の血統再生プロジェクトというのがあったみたいだな」
トッド「何だそれ。ソル王国の王統なら……連合に降伏したんじゃないのか」
クロ「クローンと何か関りがあるのかも。肝心な資料が見当たらん」
トッド「今は調べてる場合じゃない、地下格納庫に行こう」
三人は両開きのスライドドアをいくつも開けて進んでいく。
途中から照明もなく、レイとクロは体からの発光点で照らしながら進む。
そして、金庫のように重厚な扉に到着した。
トッド「おかしいだろ、こんな頑丈なの。ウイルス兵器でも入っているのか」
クロ「開けたらはっきりするだろ」
そう言って、ハッキングを開始するクロ。
やがて、重い音を上げてゆっくり開く。
4,地下エリア
金属の全く飾り気のない階段が地下へ降りて行く。
多少の照明もあった。
そこは、サーバールームのような場所だった。
しかし、違いがあり、中央に巨大な黒い金属の結晶の塊がありガラスのケースに入っている。
それを守るように座る三人の人影。
レイたちが近寄っても、その人影は動かず、それは軍服を着た人型の黒い結晶だった。
トッド「何だこれ。人間、だったのか? 今は石の塊みたいだな」
レイ「これ、生きてるよ!」
トッド「そんな馬鹿なことが……」
しかし、トッドの声は途中で詰った。
一番手前の一人が立ち上がったのだ。
結晶人「ろ、ろーざの、た、め」
何か喋ろうとする。
明らかに女の声だった。
ゾンビのように結晶の手を伸ばす。
片手で、トッドの腕を掴んだ。
結晶人「た、たすけ」
トッド「う、うわ!」
トッドはサブマシンガンを構えて銃を乱射する。
動いた結晶人が派手に砕け散り。座っている二人、そして、中央の黒い石の塊に銃弾を浴びせた。
結晶人は体が粉々に砕けて、倒れた。
クロ「落ちつけ」
トッド「はぁはぁ。し、しかし」
クロ「とりあえず、こいつらは無害になったな」
レイ「ねえ、あの中央の人、話できると思うよ」
クロ「人?」
レイ「うん」
レイとクロは中央の石の塊に近づく。
それは一際黒く美しく輝く結晶、一メートル四方ぐらいの四角い物だった。
トッドの銃弾でガラスのケースが壊れ、その石の結晶が一部、内部に散らばっている。
クロ「何だろな、この結晶」
クロはケース内部にモフ手を伸ばし、結晶を一つ取って見つめる。
レイ「ケースに端末がつていてるね。お話してみるよ」
そう言って、無邪気に自分の端子をその端末に挿入した。
クロ「おいおい、調べてからやれよ」
クロはそう言いながら、無意識に結晶をモフ腹の隠しポケットに突っ込んだ。
トッド「レイ、大丈夫か」
レイ「うん、えーっとね、この子ローザに拾われたオリジナルだって」
クロ「オリジナル、何のオリジナルだよ」
レイ「ナノマシンだって。生物と機械を融合させる研究って」
クロ「じゃあ、この結晶は、他のも含め人間だったのかよ」
レイ「うん」
クロ「じゃあ、あのマムなのか、こいつ」
レイ「マムはトッドが倒しちゃったみたい」
トッド「じゃあ、あのサイコギガントも動きを止めたか」
レイ「制御ができなくなるらしいわ」
トッド「それ、余計不味くなったかも。断言はできんが」
レイは中央の結晶と心の中で話し続ける。
クロ「他に何かわかったのか」
レイ「これで死んだ人を復活させようとしたけど、やっぱり上手く行かなかったみたいね。だから、融合したナノマシンと死んだ人の遺伝子でクローン作ってたんだって」
トッド「まるでオカルトだな。追い詰められた弱小テロ集団の妄想だろ」
レイ「え? 逃げたほうがいいって。マムの女が安全装置を仕掛けていて、ここの秘密がばれたら、全部壊すつもりだって言ってる」
クロ「やっぱ、そんなところか、急いで引くぞ!」
三人は慌てて、地下エリアを後にする。
5,クローン製造工場
レイたちはエグゾフレームを目指して走る。
警報が鳴り響く。
合成音声「警告、情報保全のため、緊急指令発動されました。後一分でここは破壊されます」
トッド「走れ! みんな!」
三人は風のように駆けた。
そして、急いでエグゾフレームに乗り込む。
トッド「今日は走ってばかりだ」
エレーナ「敵が動き出したわ! 急いで!」
エレーナの切迫した声。
ティシュトリアはライフルを撃ちまくって、次々とゾンビエグゾフレームを破壊している。
敵が迫ってきているのだ。
マム「情報保全緊急指令、発動します」
病院の上空で全身が光り輝くサイコギガント。
全身の拡散粒子砲が一斉に発射された。
光の奔流が病院を貫く。
大爆発を起こした。
間一髪、難を逃れる三機のエグゾフレーム。
コロニーに巨大な穴が開き、病院だった残骸などが宇宙に吸い出される。
レイたちはそのまま宇宙出る。
6,コロニー付近、宇宙空間
三機のエグゾフレームが見守る中、大穴から怪物がゆっくり顔を出す。
サイコギガントが魔王のように出現した。
全身が光り輝き始める。
レイ「トッド、エレーナ、逃げて!」
トッド「これは無理だ」
スーパープラクスとティシュトリアは一斉発射された拡散粒子砲から慌てて逃げた。
レイは見えているかのように躱す。
ヴァルキリーは白い光と化して、敵を引き付ける。
全身の乱射が当たらないと気づいたマムは肘から先を有線で飛ばしてレイを追跡する。
両手の指も砲になっており、そこから戦艦砲並みのビームがレイを撃つ。
レイ「そう簡単に当たらないわよ」
エレーナ「私、格闘挑むわ、トッドはロケット弾で」
トッド「わかった」
トッド機はやや遠隔からバズーカのロケット弾を連射する。
エレーナは高速で回り込んで、ビームセイバーによる近接戦を挑んだ。
ティシュトリアを狙う敵の腕。
しかし、それはレイがスケールビットの群れで破壊した。
同時にロケット弾が命中してもう片腕も破壊する。
トッド「今だ!」
ヴァルキリーが正面から、ティシュトリアが背後から、格闘戦を仕掛ける。
首が真後ろにくるっと向いて拡散粒子砲を撃つ。
正面にも同じく胴体の砲で牽制するが、二機は華麗にかけ抜けて躱し、ビームセイバーで斬る。
レイ「女の子の力よ!」
ヴァルキリーのマインドワイヤーが蒼き光を放ち、細い短距離レーザーを至近で大量にたたき込む。同時にスケールビットの群れで一斉射撃した。
あまりの破壊に、誘爆を開始するサイコギガント。
レイとエレーナは巨獣が吼えるような魂の叫びを聞いた。
魔王のごとき巨人の崩壊を無言で見つめる三機のエグゾフレーム。
7,庁舎前
調査隊が輸送船のドローンと話し合っている。
周りを警戒する海兵隊。
血まみれでピクリとも動かないプラスが倒れていた。
ドローンの声はカイン。
カイン「調査はどうだったのだ」
調査隊隊長「残念ながら、ローザは情報を残しておりません」
カイン「とにかく、敵のエグゾフレームが動き出した。至急退避してくれ」
調査隊隊長「はい。しかし、実は、退化した現地民を一人、トッド伍長が命を助けろと」
カイン「助かるのか? そのようなものを連れ帰る訳には」
調査隊隊長「たぶんですが、船に持ち込んでも助からないかと」
カイン「それは後ろで倒れている少年か?」
調査隊隊長「ええ、兵士の誤射で」
カイン「ん? 思ったより元気そうだな」
カインは映像の中で倒れていた少年がムクリと起き出したことに気づく。
海兵たちも驚いていたが、少年は目をらんらんと輝かせている。
調査隊隊長「え、そんな馬鹿な、止めを刺したはず……」
男の呟きはとても小さかった。
海兵「ば、化け物だ」
少年の体は全身が黒くなり、結晶の塊と化していく。
そして、宙に浮いて、結晶の槍になった。
いきなり、調査隊の隊長を串刺しにする。
調査隊隊長「そ、そん、な」
口から血を吐いて死ぬ隊長。
一棟の民家から黒い槍が大量に吹き出される。
それは、調査隊が虐殺したクローンの亡骸が無造作に積み重ねられていた民家だった。
カイン「何事だ! 誰か報告しろ!」
映像の中では次々と体を串刺しにされる調査隊と海兵たち。
銃声と血しぶき、そして、悲鳴が満ちる。
カイン「退避! 退避しろ!」
ドローンからカインの声が響くが、空しく木霊すだけだった。
8,評議会
アレン将軍、カイン・マクドネル、エリアナ・トリシュの三人。
三人は調査隊の最後の映像を見る。
アレン「な、何ということだ。君が本当の話と言わなければ、にわかには信じられん映像だ」
エリアナ「何なのこれ、どこの国が作った兵器なのよ」
カイン「わかりません、ただ、あのコロニーがローザというあまり知られていない組織の物だったということだけです」
エリアナ「聞いたことがあるわ、リパブリックオブソロアーミー。辺境で追い詰められて撃滅されたテロ組織」
アレン「それがなぜ。とにかくこの黒い槍のようなものはなんだ」
カイン「これはキナコの報告からですが、機械と人間を侵食して別の物に変えるナノマシンであったと」
アレン「あの熊たちは何か知ってるのかね」
カイン「彼らの報告ではクローンの製造施設の地下にナノマシンを制御するシステムがあったようです。しかし、それに触れた瞬間安全装置が作動して、サイコギガントが全てを破壊したようです」
エリアナ「そうなのね。彼らが何かを隠してる可能性は?」
カイン「彼らは我らのエース。無理をして探ることはしていません」
アレン「この結果では最低限の報酬しか望めないだろう。兵を失って得たものはないか」
腕を組むアレン。
カイン「トッド伍長も妙に口が堅いようです」
アレン「確か映像に出ていた少年に命を助けられたといっていたのだな」
カイン「はい」
アレン「部下を問い詰めるのはやめよう。身内同士で争うのは空しい行為だ。それより、コロニーはどうなったのかね」
カイン「あの不気味なコロニーはまだ生きています。緊急補修装置と修復ドローンはまだ生きていたようです」
アレン「最後の選択として、あのコロニーを避難先として考えておくべきではないか」
エリアナ「問題はそのナノマシンね。制御できないとなると」
カイン「これもキナコの説ですが、マインドコネクトで制御できる可能性があると。実際サイコギガントが槍を操ってましたから」
アレン「個人的には避けたい選択だが、若いものは生き延びねばならん。二人も検討しておいてくれ」
カインとエリアナがうなずいて会議はお開きとなる。




