14 鉄のゆりかご
新登場人物
マム:クローン体たちの指導者的存在。巨大エグゾフレームのサイコギガントに搭乗しており、姿は見えない。
1,巨大格納庫
レイとクロ、トッドの三人はプラスという少年の案内でコロニー内ジャングルを行く。
少年は動物のように動きが速い。
レイは軽々とついて行く。
クロは四足歩行で行けば速いようだ。
トッドだけが少し遅れている。
クロ「兵士、ビールばっか飲んでるからたるんでんだろ」
トッド「そんなに飲んでないぞ。ところで、どこまで行くんだ。ちょっと暑いんだよ」
青年は少し汗をかいている。
このコロニーは、若干、暑いようだ。
クロ「確かに、少し気温が高め設定だな。まともな管理者がいないのか」
トッド「壊れているのかもな」
レイ「あれ見て!」
少女が指し示す先には四角くて大きな建物があった。
トッド「あれは格納庫だ。確か天井に大穴が開いていたから廃墟だと思ったがな」
トッドは地上に降りる時に主な建物は目星をつけていた。
プラスは彼らをそこに案内するようだった。
やがてジャングルは切れ、広いアスファルトの地面が広がる。
巨大な格納庫が建つ。
プラスは迷わず入っていき、レイたちも後を追う。
2,格納庫内部
中に入ると巨大な直方体がある。
そして、その前にプラスと全く似たような顔をした幼い顔の人間が十人程。
一様に汚い服と、ぼさぼさの髪。
プラスはレイたちを見て上を指さす。
三人は絶句する。
巨大な直方体は巨大なエグゾフレームだったのだ。
直方体の上に巨大な頭部。
よく見ると頭部を貫くように黒い槍が突き刺さっている。
クロ「これ、旧ギガンテス系の機体じゃないか」
レイ「なにそれ」
クロ「今は消えた一派だよ、地球連合系の極右集団」
トッド「でかいな、今は人型じゃないけど変形するだろ、これ」
三人がまごついていると、女性の声がする。
どうやら、巨大エグゾフレームから声が出ているようだ。
中年女性の声「ようこそいらっしゃいました。私はマムと呼ばれているわ。あなた方は?」
トッド「俺たちはユリシーズ海運の調査隊です。辺境宙域の市場調査の途中なんです」
トッドはレイとクロも紹介する。
マム「民間企業なのね。世界はどうなっているのか教えていただけるかしら」
トッド「今は地球連合が太陽系全体を支配してます。昔よりは支配は弱まっていますが」
マム「おかしいですわ、ローザはどうなってますの?」
トッド「ローザ?」
マム「ROSA、ローザ。リパブリックオブソルアーミーのことですわ」
トッド「申し訳ありませんが、聞いたことが無いです」
マム「民間の方だから無知なのかもしれませんわね、世界を支配しているはずです」
クロ「兵士、ここは話し合わせておけよ」
クロがモフっとトッドの足を突いて、小声でつぶやく。
トッド「ああ、そうですね、ローザは強い勢力ですよ。辺境の民間企業なのであまり知らなくて申し訳ない」
マム「無知なのはあなたの罪ではありませんわ。しかし、この話題はもう禁止します。子供たちにデマを伝えることになるかもしれませんから」
トッド「……」
レイはプラスと仲間たちを指さして聞く。
レイ「ねえ、マムさん。この子たちみんな同じ顔してるわね」
マム「ええ、この子たちはクローン人間よ。ここにソル王国残党が流れ着いた時、人口が極端に少なかったのよ。だからボーンエリートの遺伝子でクローンを作ったと聞いております」
レイ「この子たち、男の子、それとも女の子?」
マム「性の発展が未熟で止まっているのよ。でも、彼らはこれで十分な機能を果たします」
クロがトッドのズボンを引っ張る。
クロ「恐ろしく低いクローン技術だぞ」
トッド「辺境だから手に入れた技術が不完全だったのかもだな」
レイ「でも、この子たちって、歳を取ってないわ。どんどん作ってるの?」
マム「ええ、十数年で人でいられなくなるわ、だから……」
突然、機械が故障するような音がする。
マム「ごめんなさい、詳しいことが言えないようね。とにかく、この子たちは一定数を保つように常に生産しているのよ。ここは大事なローザの拠点、人を欠かせないのよ」
レイ「じゃあ、この子たちを作ってるローザの人がいるのね」
マム「いいえ。過去の毒ガス攻撃で住んでいた作業員は全滅。今は病院の自動生産装置が作っているわ」
レイ「毒ガス……酷いことを、だれが」
マム「地球連合の邪悪な手先の所業よ。しかし、今は彼らも大きな罰を受けているでしょう」
ふと見ると、プラスたちがコップに水を汲んで持ってくる。
ボロボロのお盆に汚いコップ。
プラス「みず、のんで」
レイ「プラスちゃん、ありがとう」
何も考えずにすっと飲み干すレイ。
トッドは礼を言うが、警戒して手はつけない。
クロ「後で感染チェックしたほうがいいな」
トッド「水の見た目は綺麗だがな。やめておくよ」
二人は小声で話す。
レイ「ねぇ、マムさん、ちょっと見学してもいいかしら」
マム「あなた、この子たちと仲良くしてくれるのね、いいわ、好きなだけ見てくれたら」
そう言うと、巨大エグゾフレームは輝きが落ちて、静かになる。
レイたちは興味津々で倉庫を探索する。
3,倉庫内施設
食品の供給装置や浄水装置などが稼働しているようだ。
クロ「こいつら何喰ってんだろ」
トッド「葉っぱだよ。ジャングルの植物は全部食用にできるものだ、それを機械にかけて。三番コロニーでも足りない分はやってるぜ」
クロ「よく見ると植生に多様性が無いな。作った自然だ」
トッド「コロニーなんてそんな物だろう。雑草は地球だけで見られる貴重品だよ」
肩をすくめる青年。
倉庫に事務所もあり、中を見ると白骨死体などが転がっている。
クロ「うわ、やっぱ死骸があるか。レイは見なくていいぞ」
レイはプラスたちと交渉を試みているが、彼らはあまり知能が高くないらしく、よくわからないという顔をしていた。
トッド「おい、死体の足元に」
トッドは扉を開けて何かを拾う。
クロ「何を拾った」
トッド「セキュリティーカードだ。何とか軍曹のカードだな」
クロ「軍曹なら割と入れそうだな、例の病院に行けるんじゃないか」
トッド「病院に入れろと言っても警戒されるだろう。あの怪物の目を潜り抜けて入る価値があるかどうかだな」
クロ「ん、通信が入った、キナコだ」
クロがキナコと通話を始める。
キナコ「何かあったの、時間がかかってるみたいだけど」
クロ「情報まとめを送るから見ろ」
クロはAIらしく、自身の情報をキナコに見せる。
キナコ「なるほど、ちょっと剣呑だね。そのエグゾは見当つく?」
クロ「旧ギガンテスの巨大エグゾフレームのシリーズだと思うが、サイコギガントじゃないか」
キナコ「槍が刺さっているってことは」
クロ「ああ、ギガンテスの支配下じゃねぇんだろ。明らかにローザというマイナー勢力の手先だ」
キナコ「調査隊の方は情報を探ってるけど、時間かかってるね。病院のことは教える?」
クロ「やめとこうぜ、すっげー嫌な予感がする。あいつら、プラスの仲間を見たらいきなり撃つかも」
キナコ「うん、その可能性はあるね」
クロ「とにかく急転直下何が起きるかわからん。マムが突然切れたら大戦争だから、警戒してくれ」
キナコ「わかった」
4,倉庫、屋外
クローン人間の一人、プラスと同じ顔をした人間がふらふらと倉庫に入ってくる。
彼は腹を血まみれにしてよろよろと歩く。
マムはすぐに気が付いた。
マム「マイナス百五号、その状態はどうした!」
血まみれのクローン少年は何か言いたげだったが、マムを見たら安心したかのように力尽きて倒れた。
レイ「きゃ、どうしたの」
レイは助けようとしたが、既にこと切れたようだった。
マム「これはどういうことですの! ユリシーズ海運の仕業ですか!」
トッド「やべぇ、生き残りがいたんだ」
クロ「どういうことだよ!」
トッド「調査隊の奴らがやったんだよ。とにかく逃げよう、レイ。今は話し合いは無理だ!」
レイは一瞬戸惑ったが、トッドが全速力で走るのを見て、結局、ついて行くことにした。
クロ「あのクソども。迷わずぶっ放したのかよ」
トッド「終わったことは仕方がない、今はあのマムの激怒から逃げないと」
巨大エグゾフレーム、サイコギガントが倉庫を突き破って宙に浮き、ゆっくり変形していく。
マム「私の子を殺したのね! 許さないわ!」
マムの声がコロニー内に響き渡る。
それは通常のエグゾフレームの三倍はあろうかという巨大さだった。
エレーナ「正体不明のエネルギー反応。エグゾフレームね。援護します」
通信が入る。
トッド「俺たちはエグゾまで走る!」
エレーナ「ええ、守るわ」
トッドは全力で走った。
しかし、レイは立ち止まる。
クロ「レイ、早く!」
レイ「大丈夫、カムヒアー、ヴァルちゃん!」
レイが手を上げると蒼い光を纏ってヴァルキリーが高速で飛んでくる。
巨大エグゾフレームをライフルで牽制射撃するティシュトリア。
命中はするが、強力なビームコートで一切ダメージはない。
宙に黒い槍が何十本と浮く。
エレーナは飛んでくる槍を躱し、ライフルで破壊する。
槍は撃たれると黒い粒子となって飛び散った。
彼女が引き付けている間に、ヴァルキリーが地上に降りたつ。
レイは昇降機を待つのももどかしく、異常な跳躍力と反射神経でコクピットまで登ってしまった。小脇にクロを抱えている。
そして、乗り込む。
ヴァルキリーが飛び上がったと同時に地面に黒い結晶の槍が突き刺さった。
砕け散る黒い粒。
クロ「あ、危なかった」
一気に上昇して、状況を見るレイ。
レイ「え? 何なのあれ」
ジャングルの各地からボロボロのエグゾフレームが何台も立ち上がった。
クロ「ロゼばかりだな、多少アクスもいる。あ、ギガンテス系のアッザマーも!」
彼らは一様にコクピットを黒い槍で貫かれていた。
生きているかのようにのろのろと動き出す。
レイ「あんな状態で動けるものなの」
クロ「動いてるのは現実だぜ、ゾンビエグゾだな」
まだビームガンが撃てる機体もあるらしく、散発的に撃ってくる。
高速で動くレイは捕捉できないが。
エレーナはサイコギガントを牽制していたが、マムは明らかに全身に内蔵した拡散粒子砲は撃たずに、黒く宙に浮く槍や格闘だけで倒そうとしていた。
マム「おまえたちは地球連合の手先ね! よくも私の子を。許せないわ、死になさい!」
手首から超巨大ビームセイバーが飛び出して、ティシュトリアを薙ぐが、回転して躱す。
エレーナ「敵は施設の破壊を恐れているわ」
レイ「とにかくトッドが安全圏に行くまで耐えるわ。それまで破壊はできない」
エレーナ「ええ、頑張りましょう」
二機は飛んできた槍を同時に躱す。
5,ジャングル
必死に庁舎前まで走るトッド。
しかし、ジャングルは視界が悪く、道がわからなくなっていた。
いきなり、彼の目の前に植物を纏ったロゼのゾンビエグゾが立つ。
腹に黒い槍を刺して、よろよろと立ち、目が光る。
ビームガンをトッドに向けた。
トッド「うわ、なんだこれ!」
たまげた彼だったが、ビームガンは弾を撃てなかった。
トッド「故障?」
しかし、銃を振り上げるゾンビエグゾ。
トッド「死ぬ!」
プラス「えい!」
プラスの声と同時に強い力で引っ張られて転がる。
間一髪、ゾンビエグゾフレームの一撃を躱した。
土埃の中トッドを引っ張ったのがプラスだとわかる。
プラス「こっち!」
少年は一方向を指さしてわかりにくい小路を走る。
トッドも必死に追った。
トッド「危なかった、助かったぜ。こちらが庁舎か」
プラス「……」
プラスは返事しなかったが、迷いなく走る。
トッドは全力で駆けた。
6,庁舎前
プラスの案内で何とか辿り着くトッド。
ぜいぜいとあえぎ、汗だらけだった。
そして、スーパープラクスの昇降機を降ろした。
トッド「ありがとうプラス。君は俺の命の恩人だよ」
ニコッと微笑む少年。
まるで少女のような笑顔だった。
トッドも笑顔を返す。
この無垢で善良な少年を疑いの目で見ていた自分が少し恥ずかしくなった。
トッドの視界にプラスの背後に立つ海兵が見える。
パン!
いきなり乾いた音がして、少年の顔は驚愕になり、そして腹を抱えてうずくまった。
トッド「え?」
海兵は拳銃を抜いて迷わず撃ったのだ。
トッド「おい! 大丈夫か!」
患者服のようなものにどんどん血の赤い染みが広がっていく。
プラス「マム……痛い」
トッド「貴様! なぜ撃った!」
トッドは少年の傷口を押さえながら海兵を怒鳴る。
海兵「伍長、しかし、そいつは危険な……」
トッド「うるさい! 彼は俺の命の恩人だ! 今すぐ治療しろ!」
好青年の顔をかなぐり捨て、激怒するトッド。
海兵は彼の剣幕を恐れ慌てて救命キットを出した。
コクピットに登りながら叫ぶ。
トッド「いいな、絶対に死なせるな! これは命令だ!」
トッドはスーパープラクスを起動すると、一気に空に舞い上がる。




