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ヴァルキリーバトル  作者: 弓師啓史


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13/22

13 廃コロニーの少年

新登場人物

プラス:原始生活をしている謎の少年



1,輸送船のブリッジ

評議員のカイン・マクドネル。トッド、レイ。そして子熊ロボットのクロ、キナコ。

他には海兵隊員や身分のはっきりしない人間。

そして、機械の瞳を持つエレーナ。

全員パイロットスーツや宇宙服を着ている。ブリーフィングをしているようだ。


カイン「今回の調査隊をこの俺マクドネルが率いることとなった。船長も兼任する。諸君も任務は聞いていると思うが、本船はエリア三十を越えて外宇宙の探索に向かう」


人々は少し顔を見合わせる。


カイン「これは一部の企業の手引きがあるのだ。外宇宙方面だけ監視が緩められている。エリアの外のとあるコロニーを調査する代わりに、そこで得た情報を引き渡すという契約だ」


中央大画面にコロニーの映像が映る。

暗く、ほとんど光もない。

かなり小型であり、型も古いようだ。

複数あり、大きく破損しているコロニーもある。


カイン「このコロニーは旧ソル王国が作ったものではないかと推測されているが、ソル王国崩壊とともにデータが失われ、詳細は不明である。戦後にソル王国の残党が立てこもった可能性がある。質問はあるか」

トッド「ならば、残存勢力がいるのではないですか」

カイン「そこははっきりしない。超望遠で調査しても、コロニーに通常の行動、つまり、経済活動などが観測されないのだ。しかし、コロニーの機能自体は生きている」

クロ「ソル王国残党だと、大した武装はないだろう」

カイン「油断は禁物だ。何を持っているかわからない。だから優秀な人間に来てもらっている」


そう言って、カインはレイを見る。


トッド「俺たちパイロットは調査隊の護衛任務ですか」

カイン「そうだ、海兵隊の仕事も同じだ。調査は専門の解析チームが行う」


所属がはっきりしない人間たちはその解析チームのようだ。


クロ「それって何を調べるんだ?」

カイン「それは機密だ、君たちが知る必要はない。旅は片道二週間になる。何もない外宇宙だからそうそう事件は起きないと思うが、パイロットの諸君は気を抜かないように」

レイ「はーい」


ブリーフィングは終わり、人々は三々五々、ブリッジを去る。



2,娯楽室

レイと子熊二匹、トッド、エレーナがコーヒーを飲んで窓から宇宙を見つめている。

他にも、雑談をする人々がいるようだ。

レイはモニターの前に座って、一人ゲームに熱中していた。


トッド「エレーナ。あの後具合はどうだ」

エレーナ「体調はいいわ。心も落ちついたみたい」

キナコ「今朝のデータは良好だよ」

トッド「それならいいが、あのティシュトリアはどうなんだ」


ハッキングして改修したティシュトリアはエレーナの乗機となっている。


エレーナ「あれはとてもいい機体ね。動きが滑らかだわ」


少し微笑んで答えるエレーナ。

トッドはその瞳に吸い込まれる。


クロ「兵隊、見つめすぎ」


モフ指でトッドの横腹を突く。


トッド「お、おい。そ、そんなことは、ないぞ。熊のくせに何言ってんの」

クロ「エレーナ、お前、好きな男とかいないのか」


無遠慮なことを聞く、黒い子熊。

黒いモフ脇腹を掴むキナコ。


キナコ「クロ君、失礼だよ」

エレーナ「いいのよ、そうね……私、大勢の人を殺してきた。だから、自分が誰かを好きになるとか考えたことも無いの」

クロ「超美人なのになーに言ってんの。結婚して子供作って、孫を見たいとか思わんのか」

エレーナ「わからないわ。いつ死ぬのかわからないのに」

クロ「そんなこと言ってたらきりがないだろ」

エレーナ「そうね、あなたとなら結婚してあげてもいいわよ」

クロ「お、俺はさすらいの熊だぜ、お嬢さん。俺に惚れちゃいけねぇぜ」


短い脚を何かの箱の上に乗せてかっこつけるクロ。


キナコ「エレーナ、そろそろ調整をしたいから病室に来てくれるかな」

エレーナ「ええ」


二人は娯楽室から去る。


トッド「俺、この任務が終わったらエレーナと結婚するんだ」

クロ「何を死亡フラグ臭いこと言ってんの。ところであんたら交際してたのか。それなら最初から言えよ」

トッド「今は違うが、そうなる予定だ」

クロ「要は妄想か……でも、あんたレイのことは好きじゃなかったのか」

トッド「レイは可愛い妹って感じだ。もちろん、好きだがな」

クロ「つまり美人だったら誰でもいいってか」

トッド「そ、そんなことは、ないぞ。とにかく話はこれまでだ」


トッドはそれ以上追求されたくなかったのか娯楽室から逃げてしまう。



3,古いコロニー群、宙域。

二週間後。

小型で古いコロニーが浮かぶ宙域。

三基見えるが、二基は大きく破損している。

輸送船はドローンを飛ばす。

情報を収集しているようだ。

やがて、ドローンは帰還する。



4,輸送船のブリッジ

評議員のカインと主だったものが並ぶ。


カイン「生きているコロニーは一基だけだ。他は破壊されている」


熱の解析映像が映る。

一基は明らかに熱反応が濃い。

他は宇宙の岩石と変わらない。


トッド「通信されたのですか」

カイン「ああ、完全に無反応だ」

トッド「近寄ったら襲いかかってくるかもしれませんね」

カイン「ああ、そうだ。本船の接近はエグゾフレーム隊で安全を確保してからになる。すぐに出撃になる、準備してくれ」

トッド「了解」


敬礼して踵を返すトッド。

レイたちも後に続く。



5,コロニー付近の宇宙

レイのヴァルキリー、トッドのスーパープラクス、そして、エレーナのティシュトリアがコロニーに向かっている。

ティシュトリアは背中の円盤が無くなり、とてもシンプルな人型のエグゾフレームとなっていた。

拡散ビーム砲がある影響で、頭部がやや大きい。


レイ「ティ……テリアちゃん、動きは大丈夫?」

クロ「ティシュトリアな。ハッキングは完璧だけど、問題は他のバランスだな」

エレーナ「大丈夫よ、少し、追加のバーニアのバランスが悪いかしら」

キナコ「今までの機体に比べたら比較にならないよ」


エレーナの横にはキナコが補助椅子に座っていた。


トッド「幾らデザイナーフレームだとしても、そんなに改修して成り立つものなのか」

クロ「工場長は元デザイナー様だからな。あいつのお墨付きはあるぞ」

トッド「アルさんが言うなら、間違いはないか……」


通信が入る。

なお、彼らから離れた位置に、輸送船のドローンがついてきている。


カイン「コロニーから何か出てきたぞ、気を付けろ」

トッド「とりあえず通信を試みてみます。ええっと、こちらユリシーズ海運の護衛部隊、交戦意思はありません、要望があればそちらの指示に従います」


トッドが通信するが、返事はない。

三つの光が徐々に大きくなってくる。


カイン「やはり、話し合う気はないようだ。交戦距離に来たら撃退してくれ」

トッド「了解」


徐々に機影が大きくなり、それがクニヤラだということがわかる。

散開するトッドたち。


レイ「なんだろう、変だよ、この子たち」

クロ「おい、なんだこれ、こいつらコクピットにアンテナが立ってるのか」


クニヤラは三機。

見慣れた機体だったが、腹を貫くように細い棒が立っている。


トッド「調べるのは後だ、交戦距離に来たら攻撃してくれ」


機数が同じなので、各人が一機ずつ対処する。



6,エレーナの戦場

エレーナのティシュトリアは動きを止めて、敵をじっと見つめる。


キナコ「撃ってきた! 回避して!」


エレーナは落ち着いた動きで光線を躱して行く。

迫ってくる敵の機体。


エレーナ「この人、生きていないわ」

キナコ「え? とにかく、反撃して!」


クニヤラと極限まで接近する。

どうやら、かなり古い型らしく、殺人ゲームで見るクニヤラとは若干違うようだ。

あちこち傷だらけで、例のアンテナはコクピットを貫く槍のような物体だとわかる。

クニヤラのライフルも古いのか、途中で弾切れを起こして撃てなくなる。


キナコ「何だろう。絶対変だよ」

エレーナ「これは、存在してはいけないものよ!」


エレーナはそう叫ぶとビームセイバーを抜き、交錯する瞬間にコクピットを真っ二つにする。

胴体を半分斬られて、爆発四散するクニヤラ。



7,レイの戦場

レイのヴァルキリーは迫ってくるクニヤラを観察していた。


クロ「通信無視して迫ってくる。やっぱ、マインドブーストされてる敵か」

レイ「ううん、何だろう、人じゃないみたい」

クロ「何だそれ」


レイは高機動で射撃を躱し、大きく回り始める。


クロ「何を考えてる。撃たないのか」

レイ「見てて」


迫る敵だったが、ヴァルキリーの高機動にかなうはずもなく、いつの間にか背後をとっているのはヴァルキリーになっていた。


クロ「お、背中とったぞ。やれ!」

レイ「いいから」

 

背後に回ってマインドワイヤーを伸ばす。

ワイヤーの先端が蒼く光り、クニヤラに精神波を送る。

クニヤラは徐々に動きが鈍くなり、最後には動きを止めた。


クロ「気絶させたのか」

レイ「ちょっと違うかなぁ。憎しみを消したのよ」

クロ「とりあえず、大人しくなったんだな」

レイ「うん」

クロ「カイン船長。敵のクニヤラを静止させたぜ」


通信が来る。


カイン「よくやった。捕虜は取れそうか」

クロ「なんかコクピットに槍が刺さってんだよな。無理じゃないか」

カイン「とにかく敵を調べるんだ」


トッド機がやってくる。


トッド「まさか鹵獲ろかくしたのか」

クロ「あんたも無事だったのか、よかった」

トッド「まあ、あんなのには負けんよ、俺は。バズーカで一撃だったんだぜ」


胸を張る青年。


クロ「こちらの精神波で抑えてるから、敵の状況を調べてくれ」

トッド「わかった」


スーパープラクスがクニヤラの前面に回って、コクピットを調べる。


トッド「これは生きてるわけないな。槍みたいなものが貫いているぜ」

クロ「内部はどうなってる」

トッド「いまから装甲を剝ぐ」


黒い巨人がクニヤラのコクピットの正面を怪力で外す。

槍は見ると結晶状の輝く金属でできている。ぽきりと折れ、カバーが宇宙に漂う。

果たして、コクピットにはパイロットが座っていた。

彼の胸は黒い槍で貫かれている。


トッド「うわ、これで生きてるわけがないよ。でも、こいつは操縦してたよな」

クロ「ヘルメットから見える顔は……黒いミイラみたいだな。金属っぽくもある」

トッド「訳が分からんぞ。何なんだ」

エレーナ「みんな離れて!」


エレーナの切迫した声が響く。

ぎょっとして振り返ると、ビームセイバーを抜いたティシュトリアが迫ってくる。


スーパープラクスとヴァルキリーは慌てて離れた。

ティシュトリアが駆け抜けて、クニヤラを胴体で真っ二つにする。

爆散するクニヤラ。


レイ「エレーナ……」

エレーナ「あれは憎悪の塊だわ。潰すしかなかったの」

トッド「……まあ、破壊するしかないかもな」



8,謎のコロニー

閉じられたコロニーのエアロックがハッキングされ、調査隊と海兵隊が乗ったランチ艇が突入する。

その後を追うように、レイたち三機のエグゾフレームが続いた。

コロニー内部は人工の光源が輝き、蒸し暑いジャングルのようになっている。

一面、森と湖。


トッド「これはいい。最高の空気だろ」


そう言ってコクピットを開け、ヘルメットの正面を開ける。

さわやかな空気を堪能するトッド。


キナコ「トッド、だめだよそんなことをしたら!」

レイ「ほんと、いい空気」


レイも同じことをしていた。

風にピンク色の髪がなびく。


キナコ「クロ君、止めないと!」

クロ「すまん、周りを調べるのに没頭してた」

キナコ「エレーナさんは真似したらダメだよ」


しかし、エレーナは外気に興味が無く、無言だった。

調査隊を積んだランチ艇が飛んで、昔の街と思われる付近に降りる。

大きな建物があった。


調査隊隊長「エグゾフレーム隊、こちらは調査を開始する。周辺を監視してくれ」

トッド「了解、こちらは街の周辺にいる」


三機はライフルを構えて状況を見る。


やがて、微かに響く、パリパリという銃声。

トッドが調査隊の方を見ると、海兵隊が銃撃をしていた。


トッド「どうした敵襲か、対人兵器を使うか」

調査隊隊長「そうだ、しかし、大した敵ではない、対処済みだ」

トッド「機密通信にする……隊長、それはどういった奴だ」

調査隊隊長「人間だ、ナイフや棍棒を持っている。十人程だったが制圧した」

トッド「殺したのか。死骸を隠してくれ。レイに見せたくない」

調査隊隊長「わかった、適当な廃屋に隠しておこう」

トッド「そいつらの特徴を教えてくれ」

調査隊隊長「原始人のような雰囲気だ。多分、ソル王国の生き残りが退化したと思われる」

トッド「そんなことがあるのか」

調査隊隊長「今から廃墟の中央庁舎を調査する、エグゾフレーム隊は施設の中庭で監視してくれ」

トッド「了解」


エグゾフレーム隊は街の中央にある大きな建物の中庭に移動する。



9、中央庁舎、中庭

三機のエグゾフレームが立ち、監視任務にあたる。

レイとクロがコクピットから降りてきた。


レイ「ねえ、お花がいっぱい咲いてるわ」

クロ「悪いが、交代で休憩しようぜ」

トッド「わかった、三十分ごとに交代だ」

エレーナ「トッド、あなたも休憩して。監視は私がするわ」

トッド「わかった、頼む」


トッドは先ほどの通信から、生身に近い敵が襲ってくることを想像した。

レイを守るためにサブマシンガンを持って地上に降りる。

地上は昔は花壇だったようだが、半分くらいは雑木に覆われていた。

花の種子は花壇を越えて辺り一帯に広がり、黄色い花の絨毯になっている。

レイは嬉しそうに花を摘む。

そして、それを編むと、花の冠にした。


レイ「はい、クロちゃん」


そう言ってクロの頭に乗せた。


クロ「なんか、すごくのどかだな」

トッド「……」


ガサ。


茂みに何かの気配。

トッドが銃を構える。


クロ「誰かいるぞ」

レイ「誰、怖くないから出てきて」


レイが優しく言うと、そーっと、大きな瞳が覗く。

それは少年のような顔をした小柄な人物だった。

伸び放題の髪、ボロボロの患者服のようなものを身に着けている。


クロ「何だ、お子様か。おやつでも食うか」


クロがモフ腹の隠しポケットからチョコレートを出す。


レイ「クロちゃん、普段からそんな物持ってるのね」

クロ「レイが腹をすかしたときのためだ」

レイ「わたし食いしん坊じゃないもん」


その少年はおずおずと手を伸ばしてクロからチョコレートを奪うように取る。

そして、茂みに消えた。


レイ「お菓子とられちゃったね」

クロ「大丈夫だ、奴はまた来る。動物の本能でわかるんだ」

レイ「クロちゃんってAIでしょ」


笑うレイ。

トッドは何か言いたげだったが、鋭い目であたりを伺うだけだった。

やがて、例の少年が再び現れた。


クロ「やっぱな、どうだ美味しかったか」

少年「ああ、あの」

レイ「わたしはレイ。この子はクロちゃん、あなたは?」

少年「ぼ、僕は」

クロ「名前だよ、お前の」

少年「プラス」

クロ「プラス? 変わった名前だな」

少年「マム、会う」

クロ「マム?」

レイ「お母さんがいるのね、会う!」


少年は少し走って、レイたちを見る。


クロ「ついて来いってことだよな」

トッド「危険だろ」

レイ「でも招待されたら受けないと、仲良くなれないよ」

クロ「行くのはいいけど。この花の冠どうしようかな、エレーナ、これやるよ」


花の冠をティシュトリアに見せるクロ。


エレーナ「ええ、もらうわ」


すると、昇降機がするすると降りてきた。

クロがそれに冠を乗せると再び上に行く。


キナコ「監視は僕たちがするから、彼と交流して来て」

クロ「おう、任せとけ。仲良くなって友達増やそうぜ」


レイとクロは暢気に追うが、トッドは無言だった。




8/29 微修正、ママからマムに呼称変更

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