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僕を共有した五人の乙女~告白は1億ポイントから!?~  作者: 寝不足魔王


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第31話:金曜日、最後の競売(オークション)と本当の価値

 金曜日の放課後。茜色に染まり始めた校舎の屋上には、突き抜けるような青空と、それを縁取る冷たい鉄柵だけがあった。

 一条凪いちじょうなぎは、一人でフェンスに寄りかかり、眼下に広がる街並みを眺めていた。手の中には、昨日彼がシステムを解体した際に回収した、25枚の薄汚れた紙切れが握られている。


 背後の重い扉が、ギィ、と軋んだ音を立てて開いた。

 やってきたのは、5人の乙女たちだ。支倉聖奈、一ノ瀬舞夜、藍澤凛、瀬戸ほのか、そして霧島凪沙。

 彼女たちの足取りは重く、その手にはもう、自分たちの愛を数値化して守ってくれたスマートフォンの輝きはない。ポイントは0。残高も、履歴も、すべては凪の手によって電子の塵に帰した。


「……来てくれたんだね。みんな」


 凪がゆっくりと振り返る。その瞳には、昨日までの冷徹な怒りはなく、どこか遠くを見つめるような静かな光が宿っていた。


「凪くん。……ごめんなさい。私たち、取り返しのつかないことを……」


 聖奈が、震える声で口を開く。彼女の頬には、昨夜一睡もできずに泣き明かした跡が、隠しようもなく残っていた。


「謝らなくていいよ、聖奈。……さあ、始めようか。これが本当に最後の『オークション』だ。……通貨はもうポイントじゃない。君たちの『言葉』だけだ」


 凪は束ねた25枚のクジから、1枚を無造作に引き抜いた。


「『凪くんの部屋で一緒に朝食を食べる』……これ、聖奈のクジだよね。150ptも払って、君は何を手に入れたかったの? ただのご飯なら、いつでも作ってくれてたじゃないか」


「……違うのよ。……ただのご飯じゃ、ダメだったの」

 聖奈が、堰を切ったように言葉を溢れさせる。

「ポイントという『対価』を払うことでしか、私はあなたの部屋に踏み込む勇気を持てなかったのよ! ……あんな馬鹿なルールがないと、私は……あなたの隣にいる資格がないって、ずっと思ってたんだから!」


 凪は次に、別の1枚を掲げた。

「『バッティングセンターで勝負』。凛、君は1835ptも貯め込んで、僕を独占しようとした。……怖かったの? 誰かに僕を取られるのが」


「……ああ、怖かったよ! 悪いかよ!」

 凛が、フェンスを拳で叩きながら叫ぶ。

「お前は優しすぎるんだよ! 誰にでも笑いかけて、誰の頼みも断らない。……だから、ボクだけの『予約枠』がないと、いつかお前が遠くへ行っちまう気がして……。1800ポイントなんて、ボクの弱さの塊だったんだよ!」


 舞夜が、ほのかが、そして凪沙が。

 これまで「ポイント稼ぎ」や「投資」という言葉で塗り潰してきた、不器用で、身勝手で、けれどあまりにも純粋な恋心が、夕陽の下で次々と剥き出しにされていく。

 ポイントとは、彼女たちにとって「愛」そのものではなく、愛を制御するための「枷」であり、同時に自分たちを納得させるための「免罪符」だったのだ。


「……最後に、これ。誰が書いたの?」


 凪がBOXの底に貼り付いていた、最後の一枚を取り出した。

 そこには、震えるような、けれど力強い筆致でこう書かれていた。

『1億pt:一条凪への告白権』


「「「「「……っ!!」」」」」


 5人は顔を見合わせ、そして全員が、迷うことなく手を挙げた。


「私よ」「ボクだ」「私ですぅ!」「……うん。……書いた」「……私以外に、誰がいるというの」


 凪は、その光景を見て、思わず吹き出した。

「1億ポイントなんて、一生かかっても貯まらないよね。……でも、今の君たちの言葉は、その数字を軽く飛び越えてるよ。……少なくとも、僕の心には、それだけの価値として届いた」


 凪は手に持っていた25枚のクジを、高く、空へと放り投げた。

 夕風に煽られ、白く小さな紙切れが、雪のように舞い踊りながら屋上の外へと吸い込まれていく。

 予約も、落札も、スケジュール管理も。すべてが、今、この瞬間、本当の意味で消滅した。


「……今週の週末。僕の予定は、僕が決めるよ」


 凪は一歩、彼女たちの方へと歩み寄った。


「明日。5人全員で、遊びに行こう。……場所は、僕が選ぶ。……ポイントもいらないし、順番待ちもなしだ。……文句、あるかな?」


「「「「「……ないです(ありません)!!」」」」」


 5人の叫びが、重なり合って空に響いた。

 それは、システムに管理されていた時の歪な調和ではなく、一人の少年を想う5人の少女としての、本物の合唱だった。


「……でも凪くん、来週からはどうするの? また誰かが独占しようとするかもしれないわよ?」

 舞夜が、涙を拭いながら不敵な笑みを浮かべて尋ねる。


「……そうだね。それなら、また新しい『ルール』を作ればいい。……今度は僕も、一緒に考えるからさ。……もっと、みんなが普通に笑い合えるルールをね」


 凪の言葉に、5人は顔を見合わせ、そして誰からともなく笑い出した。

 ポイントという偽物の絆を失った彼女たちの顔は、これまでで一番、凪の好きな「友人」としての輝きに満ちていた。


 夕陽が沈み、夜の帳が下りる。

 管理端末の画面は真っ暗なままだが、彼女たちの胸の中には、消えることのない「1億ポイント」以上の想いが、確かに灯っていた。


 一条凪の、本当の週末が、ここから始まる。


---

■第31話 終了時

システム:完全削除

ポイント:全記録消滅

関係性:共有財産から、正々堂々とした「競争相手」へ。


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