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僕を共有した五人の乙女~告白は1億ポイントから!?~  作者: 寝不足魔王


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最終話:日曜日、数値のない青空と「予約不可」な恋心

 日曜日の午前10時。駅前の広場にある待ち合わせの時計台の下には、5人の美少女が顔を揃えていた。

 これまでのような、電柱の陰に隠れたりスポーツ新聞で顔を隠したりといった「監視」の姿はない。彼女たちはそれぞれ、自分たちが一番似合うと思う勝負服に身を包み、堂々と、しかしどこか落ち着かない様子で一人の少年を待っていた。


 やがて、人混みの向こうから見慣れた姿が現れる。

「お待たせ! みんな、揃ってるね」


 一条凪いちじょうなぎが、屈託のない笑顔で手を振った。

 5人は一瞬、息を呑んだ。昨日まで、彼との時間は「ポイント」という対価を払い、分刻みのスケジュールで「予約」しなければ手に入らない、血の滲むような資産だった。

 だが今、凪は自らの意志でここに立ち、5人全員を同時に「誘って」いる。


「……本当に行くのね、あの店に」

 一ノ瀬舞夜いちのせ まやが、少しだけ照れくさそうに髪をかき上げた。


「もちろんだよ。第6話……じゃなくて、この前みんなで行きそびれた、あのアイスクリーム屋だよ。今日は僕の奢りだ」


 6人は連れ立って歩き出した。

 到着したのは、かつて「供給停止」のパニックを引き起こした、あのアイスクリーム専門店だ。凪は全員分のアイスを注文し、テラス席へと腰を下ろした。


「ほら、聖奈。君が好きそうな抹茶味。……凛は、これだろ? チョコチップ」


「あ、ありがとう、凪くん……。……なんだか、不思議ね。1ポイントも入らないのに、胸がこんなに熱いわ」

 聖奈が、アイスを口に運ぶ。


「おうよ。……ボク、今まで60ポイントとか1800ポイントとか、数字ばっかり見てたけどよ。……こうして凪が選んでくれたアイスの方が、ずっと美味いぜ」

 凛が、ガリガリと豪快にワッフルコーンをかじる。


 スマホは鳴らない。

 管理端末からの「加点通知」も、ライバルの残高更新を告げるアラートも届かない。

 ただ、爽やかな風と、凪の笑い声、そして甘いアイスの味だけがそこにあった。


「先輩ぃ! 私、もう魚の難読漢字を覚えなくていいんですよね? 『さわら』とか『おこぜ』とか、書かなくていいんですよね!?」

 瀬戸ほのかが、解放感に満ちた表情で叫ぶ。


「ははは、ほのかちゃん、そんなに辛かったの? ……でも、君が僕のために頑張ってくれたことは、ちゃんと覚えてるよ」


 凪が優しく彼女の頭を撫でた。

 かつてなら「特別ボーナス20pt」や「規約違反ケツバット」が飛び出したであろう瞬間。だが今は、ただの「先輩と後輩」の温かい交流として、穏やかに時間が流れていった。


「……あ。凪くんのアイス。……一口、もらう」

 霧島凪沙きりしま なぎさが、凪のスプーンをひょいと奪う。


「あ、凪沙ちゃん、それは僕の……。……まあ、いいか。美味しい?」


「……うん。……ふわふわ。……ポイントより、甘い」


 凪沙のバグのような天然発言に、5人は顔を見合わせて笑い出した。

 数値化されない愛。予約できない時間。

 彼女たちは、自分たちが築き上げた「ポイント経済」がいかに滑稽で、いかに自分たちの首を絞めていたかを、溶けていくアイスと共に噛み締めていた。


 夕暮れ。駅のホームへと向かう帰り道。

 凪が立ち止まり、5人を振り返った。


「……みんな。改めて、この1ヶ月、僕のために色々とありがとう。……僕を商品みたいに扱ったのは、ちょっと怒ってるけど。……でも、君たちが僕のことをそんなに大切に思ってくれてたのは、すごく伝わったよ」


 5人は、恥ずかしさに顔を伏せたり、そっぽを向いたりした。

「……これからはさ。もっと普通に、誘い合おうよ。……誰が一番とか、独占とかじゃなくて。……僕も、君たちのことが大好きだからさ」


 凪の、一点の曇りもない「告白」。

 それは1億ポイントのカードよりも重く、彼女たちの胸に突き刺さった。


 ……しかし。

「……でも凪くん、そうは言っても、来週の土曜日は私が一番に誘うわよ」

 聖奈が、眼鏡をクイと押し上げて宣言した。


「はあ!? 聖奈、出し抜きは禁止だろ! ボクがバッティングセンターに……!」


「いいえ。私が、新しい『やりたいこと掲示板』を作っておいたわ。……今度は早い者勝ちじゃなくて、凪くんがその時の気分で『落札』するのよ」

 舞夜が、いつの間にか新しい自作アプリを起動させていた。


「またアプリですかぁぁ!? でも、それなら私にもチャンスがありますぅ!」


「……凪くん。……私。……ずっと、隣にいる」


 結局。

 ポイントシステムは消えても、彼女たちの「一条凪」を巡る飽くなき独占欲と、不器用な執念が消えることはなかった。


 翌週の月曜日。

 私立聖蘭学園、2年A組の教室。

 登校してきた凪に、聖奈がいつものようにお茶を差し出した。


「おはよう、凪くん。……熱すぎないように淹れておいたわ」


「あ、ありがとう、聖奈。助かるよ」


 凪が微笑み、お茶を啜る。

 教室内で、5人が一斉に自分のスマートフォンを取り出した。

 ……だが、通知は来ない。1ptの加点も、経済圏の変動も起こらない。


「……ちぇ。なんだか、物足りねーな」

 凛が、ぽつりと零した。


 5人は顔を見合わせ、それから一斉に笑い出した。

 朝の光が差し込む教室。

 凪が「……みんな、朝からどうしたの?」と不思議そうに首を傾げる。


 数値のない、予測不能な日常。

 それは、世界で一番贅沢で、世界で一番騒がしい、新しい恋の始まりだった。


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