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僕を共有した五人の乙女~告白は1億ポイントから!?~  作者: 寝不足魔王


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第28話:土曜日、球拾いの放課後と「ハズレ」の味

 土曜日の午前、学園のグラウンド。

 一条凪いちじょうなぎは、カンカンと小気味よい金属音と、土を蹴るスパイクの音に包まれていた。

 今日の予定は、藍澤凛あいざわ りんの部活動の応援、および支倉聖奈はせくら せいなから頼まれた「球拾い」のボランティアだ。


(……聖奈、あんなに勉強家なのに、急にソフトボール部の練習を手伝うなんて。……みんな、本当に活動的になったな)


 凪は感心しながら、外野に転がったボールを拾い集める。

 その隣では、300ptという巨額を投じて「おんぶ」とこの「労働枠」を勝ち取った聖奈が、泥まみれになりながらボールを拾っていた。


「凪くん……。……はい、ボールよ」


「あ、ありがとう聖奈。……でも大丈夫? なんだか、さっきから一球拾うごとに、今週の食費を計算しているみたいな悲しい顔をしてるけど」


「……気のせいよ。……私は今、このボールを通じて、凪くんと『共同作業』をしているという事実に、魂を震わせているだけだわ……っ!」


 聖奈は震える手でボールを凪に手渡す。その際、指先がわずか0.5秒だけ触れ合った。

 裏:【愛の証明】過酷な労働の中の接触:5pt獲得。

 300pt払って、リターンは5pt。投資効率としては破綻しているが、聖奈は(……この0.5秒のために、私は来週、水だけで生き延びてみせるわ……!)と、血の涙を流しながら決意を固めていた。


 一方、バックネットの裏では、今週の「絶対王者」藍澤凛が、1835ptという圧倒的な数字が表示された管理端末を片手に、守護神のように君臨していた。


「おい、聖奈! 腰が高いぞ! もっと機敏に動いて、凪の負担を減らせよ!」


「……っ! 凛さん、あなたは自分でお金を払わずに凪くんを眺めているだけじゃない……! この、高利貸し(ディーラー)……!」


 凛は不敵に笑う。彼女は今回、自分が落札しなくても「みんながポイントを払って、自分の部活(球拾い)を手伝いに来る」という、最高の集金システムを作り上げていた。

 さらにフェンスの向こう側では、昨日のオークションで200ptを「犬の散歩」に溶かして破産した一ノ瀬舞夜いちのせ まやが、双眼鏡を構えて虚無の表情で呟いていた。


「……愚かだわ。あんな埃っぽい場所で這いつくばって……。……でも、明日の私の『犬の散歩』よりはマシね……」


 日曜日の朝。

 全財産145ptを注ぎ込んだ瀬戸ほのか(5pt)が、凪の家のチャイムを激しく連打した。


「先輩! おはようございますぅ! 魚の難読漢字を完璧にマスターした私が、朝食を作りに来ましたよぉ!」


 凪は目を擦りながら玄関を開けた。「……おはよう、ほのかちゃん。……でも、なんで朝ごはんに『さわら』の西京焼きが出てくるのかな。……渋い、渋すぎるよ」


「愛です! 愛の結晶(145pt)が、この魚の身に詰まっているんですぅ!」


 ほのかは、魚へんの漢字を呪文のように唱えながら、必死に凪の口へ焼き魚を運ぶ。

 裏:【最大級の健気】身を削った奉仕:50pt獲得。

 ほのか、涙の復活。彼女にとって、この鰆は一週間の絶望を浄化する聖なる供物だった。


 そして日曜日の午後。

 凪は約束通り、霧島凪沙きりしま なぎさの家のデカい飼い犬の散歩を引き受けていた。


「……凪くん。……これ、リード。……あ。引っ張られるから、気をつけて」


「あ、うん。……って、うわぁぁぁ! 力が強いな、この子!」


 凪が巨大な秋田犬に引きずられ、公園の芝生を猛烈なスピードで滑っていく。

 その様子を、電柱の陰から舞夜が双眼鏡で静かに見守っていた。


「……私の200ポイントが、今、時速20キロで去っていくわ。……凪くんの背中が、あんなに遠い……。……でも、私が買った時間だから。……これこそが、私の『週末』なのね……」


 舞夜の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。

 凪沙は、庭のベンチで綿菓子を食べながら、その光景を見て「……うん。犬、楽しそう。……凪くんも、楽しそう」と、30ptの加点通知を無造作にスワイプした。


 夕方。すべての「依頼」を終えた一条凪は、自宅のソファに沈み込んだ。

 体中が筋肉痛と、犬に引きずられた擦り傷で悲鳴を上げている。


「……なんだか、今週の週末も、自分の意志で動いた時間が1分もなかった気がするな。球拾いをして、焼き魚を食べて、犬に引きずられて……」


 凪はカレンダーをじっと見つめた。

「……これ、もしかして、みんなが僕に頼み事をする『順番』が決まってないか? ……昨日は凛と聖奈、今日はほのかちゃんと凪沙ちゃん。……これじゃ、僕はただの『便利屋』じゃないか」


 凪の脳裏に、一つの確信に近い疑惑が芽生える。

 彼女たちの行動があまりにシステマチックで、かつ「権利」を行使しているような、奇妙な義務感に満ちていること。


「……来週は、僕から誘ってみよう。……そしたら、この不自然なリズムが、何なのか分かるかもしれない」


 常識人、一条凪の「自立」を超えた「逆襲」の決意。

 一方その頃、深夜。管理端末を握りしめる次期ディーラー、霧島凪沙。


「……ポイント。……いらない。……来週は、……ふわふわにする。……みんな、動けなくなる」


 1835ptという圧倒的な資本を持つ凛を前にして、凪沙は不気味なほど静かに笑った。

 彼女が用意した「新ルール」は、ポイント経済そのものを根底から揺るがす、天然ゆえの恐怖だった。


---

■週末終了時の所持ポイント(確定)

藍澤 凛:1835pt(絶対王者・ディーラー任期終了)

霧島 凪沙:384pt(犬の散歩・存在給により微増)

支倉 聖奈:63pt(球拾いによる微増)

一ノ瀬 舞夜:10pt(犬の散歩を眺めただけ)

瀬戸 ほのか:55pt(朝食加点により回復)


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