表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕を共有した五人の乙女~告白は1億ポイントから!?~  作者: 寝不足魔王


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/33

第26話:木曜日、震える指先と筋肉痛の断末魔

 木曜日の朝。一条凪いちじょうなぎが教室のドアを開けた瞬間、鼻を突いたのは微かな芳香剤の香りではなく、湿布と消炎鎮痛剤の強烈な匂いだった。

 そして視界に飛び込んできたのは、地獄から生還したばかりの兵士のような、凄惨な姿のクラスメイトたちだ。


「……おはよう、みんな。……大丈夫か?」


 凪の問いかけに、真っ先に反応したのは支倉聖奈はせくら せいなだった。彼女は椅子から立ち上がろうとした瞬間、「……っ、あ、……ぅぐっ!」と、およそ淑女とは思えない短い断末魔を漏らし、膝から崩れ落ちそうになった。


「聖奈! 無理するなよ、昨日の綱引きのせいだろ?」


「だ、大丈夫よ……。ただ、大腿四頭筋が……私の意志を拒絶しているだけ……。凪くん、おはよう」


 聖奈はプルプルと生まれたての小鹿のように震える手で、凪のノートの端を揃えようとした。しかし、指先の制御が利かず、逆にノートを床にぶちまけてしまう。

 裏:【奉仕失敗】ターゲットの身の回りの整理に失敗。加点なし:0pt。


(……指が、私の指が動かないわ……! これじゃ1ポイントも稼げない……!)


 絶望する聖奈の横で、一ノ瀬舞夜いちのせ まやもまた、限界を迎えていた。彼女は凪にコーヒーを淹れてあげようとしたが、カップを持つ手がミシン台のようにガタガタと震え、ソーサーの上でカップがカチャカチャと悲鳴を上げている。


「舞夜! 危ないよ! コーヒーが全部溢れてる!」


「し、失礼ね。……これは、最新のバイブレーション機能による……抽出法よ。……っ、熱っ!」


 凪は慌てて彼女の手からカップを取り上げた。「みんな、本当に昨日は全力だったんだね。……ごめん、僕のせいで」

 常識人ゆえの、申し訳なさ。だが、その「同情」すらも、今週のディーラー・藍澤凛あいざわ りんにとっては格好のマイニング材料だった。


「おい凪、そんなに心配なら、こいつらに湿布を貼ってやってくれよ! ……おい、お前ら! 凪に湿布を貼らせる権利をやるぜ! 一人10ptだ!」


 凛の声は、部活で鍛えた肉体ゆえに唯一軽度な筋肉痛で済んでいる王者の余裕に満ちていた。

 1235ptという絶対的な資本を背景に、彼女は「自分が稼ぐ」ことよりも「他人に奉仕させ、そのポイントを明日自分が回収する」という、残酷な循環エコシステムを構築していた。


「「「「……貼ってくださいぃぃ(なさい)!!」」」」


 四人の乙女たちが、震える手足で凪の元へ這い寄る。

 凪は「えっ、僕が!? ……あ、うん。少しでも楽になるなら」と、保健委員のような手際で聖奈のふくらはぎや、舞夜の肩に湿布を貼り始めた。


 裏:【愛の証明】ターゲットによる直接的な治療:20pt獲得。

 聖奈たちは「痛み」と「凪の指先の冷たさ」の板挟みになり、恍惚と絶叫が入り混じった、言葉にできない声を漏らした。


 昼休み。瀬戸ほのか(75pt)は、もはや腕が上がらず、凪の肩を叩くことすらできなかった。

「……せ、先輩。……足で、足で肩を叩きますぅ……!」


「ほのかちゃん、それは行儀が悪いよ! もう、一旦保健室に行こうか」


 凪はフラフラのほのかに肩を貸し、廊下を歩く。

 裏:【介抱】ターゲットによる逆奉仕:10pt獲得。


 放課後。

 あまりにも痛々しい5人を見かねて、凪は自ら「マッサージ」を申し出た。

「昨日は僕のために、クラスの絆のために頑張ってくれたんだもんね。はい、お疲れ様」


 凪の大きな手が、聖奈や舞夜の凝り固まった筋肉を揉みほぐす。

 裏:【最大級の癒やし】ターゲットによる全身愛撫(誤認):50pt獲得。


「……はぅ、あ、凪くん、そこ、……そこはダメ……!」

「……っ、一ノ瀬さん、変な声を出さないで……! ……あ、凪くん、もう少し……右よ……」


 夕暮れの教室。

 5人は凪の指先から伝わる熱量に、筋肉痛の痛みすら忘れてとろけていた。しかし、その甘美な時間は、明日の「金曜日」という現実によって、無慈悲に引き裂かれる。


 深夜のグループチャット。


『支倉 聖奈:……凪くんの手、あったかかったわね。……でも、身体がボロボロよ。明日、まともに歩けるかしら……』


『藍澤 凛:安心しろ、明日のオークションはボクが『ルール』だ。……お前らが今日稼いだそのポイント、一滴残らずボクの財布に叩き込ませてやるぜ』


『一ノ瀬 舞夜:……いいわよ、凛さん。あなたが何を引こうと、私の残りのポイントで、すべてを買い取ってあげるわ。……震えて眠りなさい』


 明日の金曜日。

 絶対王者・凛の1235ptと、連合の知略、そしてほのかの執念が激突する、3週目のオークションが幕を開けようとしていた。

 

 一条凪は、自宅のベッドで湿布の匂いに包まれながら、独り言を呟いた。

「……明日は、みんなの筋肉痛が治ってるといいな。……また、楽しく笑い合いたいよ」


 自分の優しさが、明日の鉄火場で「高額入札の弾丸」として使われることなど、彼はまだ、知る由もなかった。


---

■木曜日終了時の所持ポイント

藍澤 凛:1235pt(※ディーラーのため据え置き)

霧島 凪沙:414pt(マッサージ加点等)

支倉 聖奈:358pt(湿布・マッサージ加点)

一ノ瀬 舞夜:220pt(マッサージ加点)

瀬戸 ほのか:135pt(介抱加点)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ