◆風変わりな彼女
親愛なるお父様、お母様
二人が亡くなってからはや二年。ナタリーは相変わらず元気にしています。規則正しい生活と人としての善良の心を忘れず毎日を送っています。悪いことは一切してません。
なのに何故でしょう?
一体いつからでしょうか?
清く正しく生きてきたつもりなのに、これは神様の悪戯なのでしょうか。
あたしの周りには人ではない人達が寄ってくるようになりました。今日もこれまた綺麗な女のバンパイアの方が一人家にやってきました。しかもすでに家に生息中のオスのバンパイアの婚約者なのだとおっしゃってます。
はぁ、そうですか
としか言いようがないのですが……。ふぅ
お父様、お母様、どうか教えて下さい。次から次へと人外の人達に絡まれるあたしは、これから一体どうしたら良いんでしょうか……
「ナタリーさん。ナタリーさん?」
「……。…は!?はいっ」
透き通る声に呼ばれて気がつくと、目の前には眉を寄せて心配そうにあたしを見つめる綺麗なお顔が。
あぁ、どうやらあたしはしばらく意識を両親のもとに飛ばしていたみたいです。
相当ぽけーっとしてたんだと思う。数メートルは離れた距離にいた彼女か、ベッドのすぐ傍まで来ていたのだから。
そりゃそうよ。
ここ最近エリクソンに出会ってからというものの心臓に悪くなるような出来事ばかり立て続けに起きて、心も身体もようやく本調子を取り戻してきた頃にまた新しいバンパイアが現れるんだもの。(しかもいつの間にか勝手に上がりこんでることが多いし……)
しかもエリクソンの婚約者ですか。あたしと名ばかり恋人のエリクソンの偽りではない、本物の彼女さんとかじゃなく結婚相手ですか。人生の伴侶ね。そこまで進んでる人がいたのね。
なのにそんな相手がいながらどうしてこの男は平気であたしの恋人なんかやってるのかしら。
普通に考えて浮気じゃない。
この馬鹿。
ジロリと傍に腰掛けるエリクソンを睨みつける。
でもあたしの睨みなど全く気づいていない様子で。この馬鹿は婚約者が来ているというのに全く無関心。いつもの調子で退屈そうに欠伸なんかしてる。ちょっと…あんたの婚約者じゃない。あんた相手しなさいよ。
そう目で訴えかけると、彼は視線に気づくが、何睨んでるんだと途端に不機嫌そうな顔つきになる。
もうっ、このお馬鹿は!
なんであんたがそんな顔するのよ。面倒事次から次へと降ってきて迷惑してるのはこっちだってば。
苛々しながら二人睨み合ってると、クスリと笑みが聞こえてくる。
「二人とも、そんなに見つめあって。ふふ、仲が宜しいですわね」
「「はぁ!?」」
エリクソンとあたしは一斉に彼女の方に振り向く。
今の睨み合いが何故見つめ合いに見えるのか。おかしな冗談はおやめください。
それに仮にそう見えたとして、自分の婚約者が他の女と見つめ合ってて、嫉妬を感じるとかじゃなくそれどころか逆にどうして嬉しそうに笑うのですか。
謎すぎる……。
「…あの…今のは見つめ合ってたんじゃなくて睨み合ってたんです」
「あら、それでもわたくしはエリクソンとそんなふうに睨めっこなどした時がありませんから、親しいのかと思ったのですが。違いますの?」
おいおいおい。お姉様。
完全にズッコケてますよ。
全然違いますよ。
「いいえ。違います。ちょっと事情があってエリクとは一緒に住んでますが、そんな親しい関係じゃないので、婚約者さんは安心して下さい」
最初からあたしとエリクの間にはなんの関係もないことを言っておかなくては。そう思って言ったのに。
なのに……。
彼女、一瞬驚いたように大きく目を見開いたと思ったら、パァァッとあたしが目を開けていられなくなるくらいまばゆい表情にみるみる変わっていって。
明らかに人が歓喜する時のような顔なのだけど…そんなに嬉しかったのかしら…ね?
ま、嬉しいか。
エリクが浮気してたわけじゃないって分かったんだし。
「まぁ!ナタリーさん、エリクソンと一緒に住んでらっしゃるの?」
…え?
なんでそこに反応するの?
そこは「良かった。安心しましたわ」とかじゃなくて?
彼女と会話を交わせば交わすほど予想外の会話の展開にだんだん疲労がたまってくる。
言葉は通じていないわけではないのに、自分の考える常識に当て嵌まらなくてヤキモキする。
いやでも、同居してますなんて言ったら反応するか。
あたしは力が抜けるように背中から倒れてベッドに沈み込んだ。
あぁ…少し休みたい。
ちょっと疲れた。
ごろりと体を横に倒すと、さっきまでそこにいたはずのエリクソンはおらず、木で出来た簡素な造りの椅子だけが視界に入ってきた。
何処にいったのだろう?
目をぱちくりさせてそれを眺めていると、
「エリクソンは先程部屋を出て行きましたわ」
と綺麗な声が降って、あたしは咄嗟に声の主のほうに振り向いた。
いつの間に?!気配しなかったけど!とういか自分の客づらい自分で面倒みろーー!
ふつふつと怒りが湧き上がってくる。
しかし当の本人がいないのでそれもできやしない。
「あの、それならいいんですか?追いかけなくて」
そういえばエリクが出て行ったの気付いてたら何故とめないのですかシルビアさん。
貴女の婚約者が出ていったんですよ?
「大丈夫ですわ。少し出掛けたのでしょう。そのうちすぐ戻ってきますわ。」
まるであたしを諭すかのように言う彼女。
彼がいなくなったというのに寂しいとか、彼をおいかけるような素振りをちっとも見せない。
まぁ、いつも勝手に一人で行動することが多い彼だから慣れてるのかしらね?
それにしても素っ気ない気がするんだけど……。
疑問に思っていると、彼女はあたしの心が読めるの?と問いたくなるくらいあたしの感じた疑問にぴったりの答えをくれる。
「エリクソンを追いかけないわたくしが変わっている。そう思っていらっしゃるでしょう?」
「………!」
ぴたりと言い当てられて咄嗟に言葉を返せなかったあたしは馬鹿だ。沈黙なんて肯定以外の何者でもないではないか。
「わたくしは今日、エリクソンに用があったわけではありませんわ。違う方に用事があったこちらに来ましたの。何故わたくしがここへ来たのか、聞いてくださる?」
まるで頼みごとをするように胸の前で手をあわせて聞いてくる。聞いてくださる?って………、初対面の人のそんな事情を聞いてもいいものだろうか?いや、普通は聞かないだろう。
というか、何故エリクじゃなくあたしなのか?って疑問があるし、こういう展開って、なんとなく話を進めたあと、それとな~く面倒くさそうな用件を頼まれてしまう典型的なパターンじゃないか?って思うんだけど……。(本とかで読んでるとね)面倒なことはご免よ。バンパイアに関わった時点でもう沢山なのに、これ以上あたしに何を求めるというのか。
あたしの人生はすでに狂わされているのよ?貴方達のせいで!
あたしの夢みる人生っていうのは!この村で静かで平和に、村人Aとして死ぬまで静かに生きていくこと。それともしいい人にめぐり会えたら、その人と一緒になって子供を3人くらいつくって平和な一般家庭を築いく。
それだけの願いなの!
べつにお父さんとお母さんを生き返らせて!とか子供じみた無茶なお願いなんて神様にはしていないはんだからね!!
なのに、それなのに、それだけの願いすらも叶わないような気するのよ。エリクに会った時点で!
しかし、目の前でお願いのポーズをする女性をあたしが放っておけるはずもなくて。
「話を聞くだけなら……」
反射的に口走っていた。
もう馬鹿ーーーーーー!!あたしの馬鹿ーーーーーー!
これだからバンパイアとの面倒事が絶えないのよあたし!
頭では分かっているのに、人間にせよバンパイアにせよお願いなんてされたら「断る」が出来ないわ。 だってこんな綺麗なお顔で見つめるんだもの。
無理でしょ。
それに話を聞くだけみたいだし。それなら……ね。
「まぁ!聞いてくださるの?ナタリーさん、なんて優しいのでしょう!嬉しいですわ。ではさっそく……」
ぱぁぁ!っと彼女の顔が明るく華やいで本当に嬉しそうにする。
表情豊かね~。
と、思いながら抱いていた抱き枕をだきしめなおしす。
そして彼女は今は空きになった椅子に腰をかけると、ひとつ咳払いをして話す準備をする。
なんだかそんなに準備されると、これからそんなに長くて重い話をされるのかと不安になってくるじゃない。
と、ここで彼女の目あたしの目がばっちりと合わさる。
どうやらそのお話とやらが始まるらしい。
「では、聞いてくださないな」
その静かで落ち着きのある気品のある声に、あたしの喉がゴクリとなる。
エリクという婚約者をよそにあたしに聞いて欲しい話って、一体――――?!




