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第2話 防衛ライン第三区

防衛ライン第三区が破られたのは、日付が変わった直後だった。


警報が鳴り止まない。


格納庫では、整備兵が退避した。


「異常なし」


昇降リフトが胸部ハッチへと上がる。

もう数えきれないほど繰り返した動作だった。


カイルがシートへ腰を沈めると、装甲が閉じる。

青いHUDだけが視界に残った。


「起動シーケンス、開始」


神経リンクが繋がる。

わずかな痺れが背筋を抜ける。

重い鋼鉄が、自分の身体になった。


射出レールが機体を掴む。

次の瞬間。


カタパルトが唸った。





外周センサーが群れを捉えてから、突破まで十数分。

第三区は壊滅した。


確認された規模は、一個中隊。これまでの散発的な暴走とは、桁が違った。


カイルの隊は第五区にいた。増援の命令を受けて機甲兵を走らせた頃には、居住区はもう混乱の底にあった。


避難サイレン、崩れる外壁、逃げ惑う人波。

その隙間を、感染者の唸りと防衛隊の銃火が交互に切り裂いていく。


異様だったのは、群れの動きだった。


感染者は理性を失っている。それが常識だった。

なのに眼下の連中は、瓦礫を避け、退路を塞ぎ、シェルターへの最短経路を選んで進んでいた。

何体かは軍用装備をまとい、対装甲火器を手にしている。

統率されている、としか思えなかった。

上は偶然だと言うだろう。


だが偶然が、この数か月、多すぎた。


「トマス、右に回れ。挟む」


『了解――くそ、多すぎる!』


応答の直後、通信が乱れた。

トマスの機体に感染者が群がり、関節部へ火器が撃ち込まれる。


装甲の裂ける光が、夜目に走った。


「トマス!」


『退がる!お前は前線を――』


被弾した機体が後退していく。それを援護しようと砲口を向けた、その側面。


数体が、示し合わせたように回り込んでいた。


集中砲火。


警告灯が一斉に灯り、視界が赤に染まる。

駆動系が焼き切れる寸前、カイルは脱出レバーを引いた。


夜気の中に投げ出されて、地面を転がって止まる。

立ち上がって、状況を悟った。


味方は防衛ライン再構築のため、バリケードを後方へ引いていた。

カイルは、その外側にいた。感染者の側に、取り残されていた。


『カイル、聞こえるか!位置を――』


「バリケードの、外側にいる」


自分の声が、やけに平坦に聞こえた。


「増援は、要らない。回せば居住区に群れが入る」


『……くそ』


トマスの沈黙が、答えの全てだった。

応援は来ない。

手元に残ったのは拳銃が一挺。


周囲では、理性を失った屈強な影が、じわじわと輪を狭めてくる。

銃を提げた個体。ナイフを構えた個体。

どれも、ただの市民の成れの果てではなかった。


一体が、腕を持ち上げた。銃口がこちらを向く。


引き金にかかった指を、カイルは見た。ここまでか、と思った。




その指が動くより早く、闇が裂けた。

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