第六話 ギャル、女王のお茶会に参加
月に一度の女王のお茶会。
サリアは黒のシックなドレスに身を包み、首元には大粒のダイヤモンドのネックレスを輝かせていた。
そこへ現れたジェリーは、相変わらずの派手な装いだった。
肩を大胆に出したノースリーブのピンクのドレスは、腰からヒップラインにかけて身体の線を美しく映し出している。大きく巻いた金髪には真珠の髪飾りが揺れ、歩くたびにきらきらと光を受けた。
アイラ女王は対照的だった。
真っ直ぐな金髪を下ろし、赤い装飾のないシンプルなドレスをまとっている。
女王は華美な衣装を好まない。
それでも誰より目を引くのは、その人柄ゆえだった。
「まあ、女王陛下より目立つ下品なドレスなんて」
サリアが眉をひそめ、小さく呟く。
「お茶会は誰が一番美しいか競う場所ではないもの。好きなお洋服を着て来てくれたことが嬉しいわ」
アイラは優しく微笑んだ。
サリアは何も言えない。
今日も広間には大勢の女性たちが集まっていた。
ジェリーは誰にも臆することなく歩いていき、そのままアイラ女王の隣へ腰を下ろす。
「アイラ女王、カトヤ商会は貴族の政治家に献金してるよ」
開口一番だった。
アイラは少し身を乗り出す。
「ありがとう。調べてくれたのね」
「なんでも言って。ウチ、ズルいことする奴、嫌だから」
エリザベスは目を瞬かせた。
ジェリーは女王へ政治家の不正まで伝えていたのか。
ありのままの彼女なのに、この世界へ自然に溶け込んでいる。
「まあ、さすが豪商のお嬢様ですこと」
サリアが扇子を口元へ当てる。
「お金のことはお詳しいのですね」
ジェリーはけらけら笑った。
「ま、商人だし」
そして、何か思い出したようにサリアを見る。
「そういえばサリアん家、カトヤ商会から小麦粉とかスパイス買ってるよね」
サリアの笑みが止まる。
「あそこ最近、商品の質も落ちてるから、変えたほうがいいよ、帳簿も怪しいんだよね」
その一言に、サリアは絶句した。
「そ、そうですの」
引きつった笑みを浮かべる。
「ご忠告、ありがとうございますわ」
やっぱり。
サリアではジェリーに勝てない。
※
しばらくして、アフタヌーンティーが運ばれてきた。
焼きたてのスコーンを、ジェリーは手で半分に割る。
「まあ」
サリアが待っていましたとばかりに声を上げた。
「スコーンはナイフで切るものですのよ」
ジェリーはきょとんとした。
「そうなん?」
割ったスコーンから湯気が立ちのぼる。
「でもこうやって食べても美味しいよ」
そのままぱくりとかじる。
「温かいうちに食べるのが一番のごちそうよ」
アイラも笑いながらスコーンを手に取った。
女王はテーブルマナーにうるさい人ではない。
むしろ、肩肘張らないお茶会を好んでいる。
サリアの指摘は、またしても空振りに終わった。
※
「そうだ、アイラ女王」
ジェリーが紅茶を飲みながら思い出したように言う。
「旦那っちとケンカしたってマジ? メイドから聞いたけど」
サリアは目が落ちそうなほど見開いた。
女王に向かって、なんという言葉遣いなのか。
「そーなの!」
アイラは照れくさそうに笑う。
「最近、お互い仕事ばっかりで、すれ違っちゃって」
「ありがちー」
ジェリーは大きく頷いた。
「でも二人だから、すぐ仲直りするっしょ? ちゃんと休んで愛も深めないとね!」
「そうだよね」
アイラも笑う。
「ちゃんと休みを取るようにする!」
エリザベスは二人のやり取りを眺めていた。
女王と豪商の娘。
本来なら身分も立場も違う二人なのに。
まるで女子学生がカフェでおしゃべりをしているようだった。
その光景が、なんだか微笑ましい。
もっとジェリーの話を聞いていたい。
サリアの嫌味にも少しも怯まず、笑いながら軽々と受け流してしまう。その姿は痛快で、見ているだけで胸がすっと軽くなる。
――どうしてだろう。
気づけば私は、彼女が次に何を話すのかを楽しみにしていた。こんな気持ちは初めてだった。
誰かを憧れの目で見つめることも、誰かともっと話したいと思うことも
「…………用事を思い出しましたわ」
サリアが静かに立ち上がる。
その笑顔は、もう笑っていなかった。
「失礼いたします」
誰にも引き止められることなく、サリアはお茶会をあとにした。




