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デストラクションエラー  作者: 仕方舞う
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鏡を斬り裂け!

 求めるのは力。如何なる者にも負けない力。だが、それだけで良いのだろうか。手にしなくてはならないのは、力を使うにふさわしい意思の強さ。弱い自分を超えた先に在るのは、力を超えた真の強者。

 飛行戦艦は、尋常ではない謝罪の嵐に見舞われた。ゼロノート、謙二郎、風は、戒を忘れてしまった事を激しく謝り、腰と首がおかしくなるくらい何度も何度も頭を下げる。ゼロノートにはクレイジーウィズダムと内通していた件もあり、艦橋での土下座祭りが絶賛開催中。謝られている戒は、笑顔で「迷惑だからもうやめてくれる」と懇願したが、返って来たのは「自分が納得出来るまで」と、謝罪しているにも拘らず、意外に自己中心な考えで跳ね返された。そのせいで、戒が逆に虐められているような雰囲気にも見える異常事態。



「もういい加減に…」

「いいや、儂らの謝罪はここからじゃ! 真の謝罪の極地はここからじゃ!」

 艦橋では異様な謝罪現場が繰り広げられる。物凄い圧力で迫るゼロノート、謙二郎、風は、戒の前で土下座をしながら自分達の過ちを永遠詠唱し続ける。頭に響く謝罪は呪文のように戒を追い詰め、すっかり疲れ果てている。

「許しているから…もう止めてくれる? もう本当に…」

「私、自分が許せません! 恩人に酷い事をしてしまって…」

 終わらない詠唱。

 しかし、艦橋に響いたアラートで一旦止まる。戒にとっては救いの神。

「何じゃ何じゃ! 儂らの謝罪を邪魔するつもりか?」

 モニターに映し出されたのは、フランスのソフィー。イギリスの地図を持って海沿いの港を指さしている。

「イギリスに変な機人が居て、「港の波止場で待っていると伝えて欲しい」って伝言を頼まれた。伝言を伝えるように言われたのは海藤謙二郎。時間を掛けても良いから準備を整えて来い…って。やっぱり罠かな?」

 ゼロノートは、何やら嬉しそうに土下座解除。

「やっと現れおったか! 謙二郎の気配を感じ取ったんじゃな」

「ゼロノート、一体何の話だ?」

「進化じゃよ、進化。クレイジーウィズダムとの戦いで条件を満たしたんじゃ。まさかあっちから出向くとは思わなんだ」

 謙二郎は決意を固く結び、弱い自分との決別を誓う。



 イギリスの港町。と言っても、前からあった港町は壊滅。何者かが新たに作った鋼鉄製の港町。波止場、船、酒場、倉庫、何処を見ても鋼鉄製でしかも新品のように綺麗。錆びないように特殊なコーティングまで施され、不思議と人間が住んでも良さそうな雰囲気に仕上がっている。普通の港町と違うのは、沿岸に四角いリングのような舞台がある。大きさはちょっとした小島。周囲には等間隔にブイが並んでいて、時折電気が流れている光が見える。もう一人普通と違うのは、アイアンズキッチンとデカデカしい看板を掲げた店がある。港のレストランと言った雰囲気なのだが、入り口のメニューには、オイルやら、部品交換やら、機人を客として想定してある。


「何だ…ここは?」

 一人で訪れた謙二郎は、鋼鉄の港町に妙な不安と異様な好奇心を感じる。敵の陣地に入ったような感覚に見舞われつつも、人間が好意を持てるような雰囲気に心が躍っている。


「よくぞ来た、海藤謙二郎。拙者は無尽のガーラン! 剣の道を極めた最強の武人だ。以後よろしくッでござる!」


 重そうな甲冑を纏った日本の武人風機人。鬼を思わせる兜、甲冑の両脇に3本ずつ、計6本の剣。背中には折り畳み式の槍が2本、腕の外側面に射出式の小刀、具足の先端には鋭い刃。

「何で俺を選んだ? クレイジーウィズダムを倒したのは戒だ」

「知っているでござる。勝者だからではなく、お主と戦いたいと思ったからでござる。弱さを抱えつつ、弱さを克服しようとする姿を感じてな」

 謙二郎は白銀の鎧を纏い剣を構える。

「じゃあ始めるぞ」

「待つでござる。拙者はお主と友になりたい。死力を尽くして戦うのではなく、友として己の研鑽に協力したいでござる!」

 ガーランは、全ての武器を足元に置く。ついでとばかりに、兜と甲冑まで脱ぐ。現れたのは、全身傷だらけの壮観な体。そして、青髪の爽やかな顔。

「先ずはレストランで食事でござる。それが終わったら、存分に語り合おうぞ」

 ガーランは謙二郎を強引にアイアンズキッチンに連れて行く。



 アイアンズキッチンの中も全部鋼鉄製。しかしそれ以外は、風光明媚なレストラン。港町の利点を生かしたバルコニー、年代物のジュークボックスから音楽が流れ、カウンターに立つマスターは髭を生やしてダンディ。機械の世界観を押し付けてくるが、それさえ我慢すれば結構雰囲気が良い。

「ささ、こっちでござる」

 案内されたのは、カウンター席。マスターの目の前。

「マスター、人間用の酒とつまみを頼むでござる」

 素っ気ないマスターは、目を合わせず静かにサンドイッチとコーヒーを出す。レタスとチーズのシンプルなサンドイッチだが、そそられる匂いに謙二郎は生唾を呑む。コーヒーも直ぐに出したとは思えない芳醇な香り。

「…いただきます」

 警戒はしている。だが、久し振りの匂いに食欲が勝ってしまう。口に運んだサンドイッチ。続けて飲むコーヒー。謙二郎は穏やかな顔になり、溜まっていた緊張感を溜息と共に吐き出す。

「美味しい。こんなに落ち着く味は久し振りだ」

「そうでござろう。マスターは拙者と同じアンドロイドで、作った人間の趣向を受け継いでいるのでござる」

「アンドロイド? 機人じゃないのか?」

「全然違うでござる。機人は死んだ人間を基に作った機械生命体。拙者達アンドロイドは、正真正銘の命の無い機械でござる。勿論、魂はあるでござる」

 機械という事は誰かが作ったという事。機人は破戒、アンドロイドは? 考えれば考える程こんがらがる。

「難しい話は後でござる。先ずは食事を存分に楽しむでござる」

 無口なマスターは、サンドイッチとコーヒーを追加。謙二郎が顔を覗くと、一瞬ウィンクをした。

 食事が終わると、ガーランは自身を作った博士と今に至るまでの話を話し始めた。



 ガーランとマスターを作ったのは、引っ込み思案のマイケルと言う科学者。天才と言われてきたが、引っ込み思案の性格のせいで学会では発表できず、凄い物を作っても自分だけの世界で留めていた。世界崩壊時、研究所に引き籠っていたマイケルは被害を待逃れた。人間が居ない世界はマイケルにとって恐ろしくない世界。傲慢も、偏見も、差別も、不平等も無い。しかし、欲しかった平穏や幸せも無い。そこでマイケルは、自分にとって過ごしやすい世界を作ろうと考えた。その為に必要なのは、機人と戦う力と、欲しかったモノを作れる存在。それが、ガーランとマスター。ガーランには密かに研究していた日本の武人精神を、マスターには理想の町建設に必要な技術を与えた。マイケルが指示したのは、綺麗な港町を作る事と安定した治安を齎す事。ガーランとマスターは崩壊した世界を彷徨い理想の場所を探した。そして、イギリスに相応しい海岸を見つけた。マイケルの望んだ通りの町を作り、ガーランは剣の腕を磨いた。しかし、クレイジーウィズダムの脅威があったせいでマイケルを呼ぶ事が出来なかった。綺麗な町を見えないように封印して、クレイジーウィズダムの脅威が去るのを待った。そして、戒の手によってようやくクレイジーウィズダムの脅威が去った。だが、待たせてしまった時間はマイケルを頑なに変えてしまった。「この世界に平穏は築けない」と研究所から出ないと言い出した。説得すればするほど頑なになり、最後には二度と接触できないように回線を閉じられた。マイケルとの繋がりが無くなり、ガーランとマスターは今後を考えた。マスターはこの町で誰かと生きて行きたい、ガーランは極めた剣の道を誰かに伝授したい。必要なのは、その誰か。そこで白羽の矢が立ったのが謙二郎だった。



「と、いう事でござる」

「話は分かった。だがな、俺は強くなる為にお前を倒さないといけない。友として研鑽している場合ではない!」

「謙二郎、何を焦っているでござる。強くなるのは何の為だ? 己の為か、誰かの為か? 拙者には逃げているように見えるでござる」

 終末のリスクを踏み越えた戒、戒の為に心を燃やしたシーリア。そして、忘れて傲慢になった自分。なにもかもが焦りの原因になっていた。今度こそ今度こそと思うほど足を沼に突っ込み、もがけばもがくほど深く沈みこんでいく。

「だったらどうしろって言うんだ!」

「己を磨くしかないでござる。拙者には進化以外にも強くなる方法を教えられる。精神を磨く方法を知っている」

「己を磨く…」

「そうでござる! 拙者が手伝えば、見えている世界が180度変わるでござるよ! 己の限界を超えて、精神を強くする為の試練を超えられるでござる」

 謙二郎は頷いた。

 自分だけでもがいても限界があると思ったから。



 次の日から謙二郎はガーランと特訓を始めた。初日行ったのは、模擬戦。互いに木刀だけ持ち、沿岸にあるリングで技術だけで戦った。謙二郎の剣捌きは様になっていたが、ガーランの前では微力。幾ら木刀を振るってもガーランに当たらず、逆にガーランの木刀は謙二郎に全部ヒット。木刀だったにも拘わらず、模擬戦は謙二郎の気絶で終わった。翌日からは人間として足りない体力と筋力を補強する為、町の周りをただひたすらに走る事になった。ただ走るのではつまらないと、50㎏以上ある鎧を纏った状態で。走る特訓を一週間続けると、走りの後に模擬戦の追加。疲れ切った体では力が入らず、握った木刀は震えて定まらない。結果、気絶の連続。



 一か月後。

 過酷な特訓の成果はまだ現れていない。増えていくのは筋肉痛と気絶の数。しかし、謙二郎の気持ちは萎えていなかった。強くなっている実感はなくとも、強い友に教えを乞うている実感があった。ガーランは本気を出していなかった。ほんの僅かな力で友の研鑽の為に協力していた。それが分かったから、謙二郎には新たな目標が生まれた。ガーランをいつの日か超える。どんなに時間がかかっても、どんなにみんなに迷惑をかけても、いつの日にか必ず。それが謙二郎を強くしている。本人は気付いていないが…。



 夜の港町。

 静まり返った町に、侵入者。真っ黒な外殻に覆われた機人で、武器らしいものは一切持っていない。謙二郎を甘く見ているのか、それとも何か秘策があるのか。

「ここに育鯖戒の仲間が居るのか…都合が良い」

 狙いは謙二郎。

 飛行戦艦で移動している戒を捕捉するのは困難。その為、定住している謙二郎を標的にした。しかし、謙二郎を標的に出来る存在は限られている。


「ようこそ、破戒の将…でござるか?」


 侵入者の前に、剣一本持ったガーランが現れる。他の武装は一切ない。身を守る甲冑も兜もない。まるで寝起きのような出で立ちで侵入者に向かってくる。

「貴公は何者だ? 将の一人、ウェポンバーストと知っての接触か?」

「将かどうかは知らんでござる。ただ、邪魔をして欲しくないだけでござる」

「だったら問題ない。お前に用は無い。用があるのは謙二郎と言う人間だ」

「…それが邪魔でござる」

 ガーランは剣を抜き、真っ直ぐにウェポンバーストに向ける。

「早々に立ち去られよ。それが唯一生き残る術でござるよ」

「拒否する! 断固邪魔してやろう!」

 ガーランの背後に武器で出来た巨大な手が現れ、一気に掴む。掴まれた体は無数の刃でバラバラに斬り裂かれる。

 だが、ガーランの姿は揺蕩う蜃気楼のように消える。


「まずまずの攻撃でござる。だが…弱い」


 ウェポンバーストの首筋にガーランの剣。

 遅れてガーランの姿が現れる。

「陽炎の瞬き。お主には見えんでござろう?」

 剣は少しずつ首に食い込んでいく。

 斬れない筈のナノマシンまで斬りながら。

「お主にチャンスを与えよう。一週間後にまた訪れよ。その時は好きにすれば良いでござる」

「…何を企んでいる?」

「お主は弱い。だが、弟子の試練にはもってこいでござる。試練の為に見逃す師匠の鏡…いや、友の落第点…でござるか?」

「もし、勝った場合…貴公が手を出すのか?」

「何があっても手は出さないでござる。例え謙二郎が死ぬ事になっても…」

 師匠として厳しすぎる対応に、敵であるウェポンバーストも少し同情してしまう。だが同時に、消える事の無い殺気に友としての意思の強さも実感。ここで従わねば殺される確実性に思わず頷く。

 ガーランは剣を鞘に戻し、お辞儀をする。

「協力感謝するでござる。では、一週間後待っているでござる」

 背を向けて去って行くガーラン。

 しかし、ウェポンバーストは手を出せない。背後を晒しているにも拘らず、真っ直ぐ見られているような感覚が消えない。剣に触れた首は繋がっていないような冷たさがあり、動揺する心臓は無い筈が、激しい動悸が統率機越しに記憶されていく。

 結局、ウェポンバーストは何もせず帰っていった。



 翌日の朝。

 謙二郎は日課と化したランニングではなく、リングで木刀を構えガーランと対峙していた。謙二郎は木刀だが、ガーランは真剣。ただの模擬戦ではないのがガーランの目からヒシヒシ伝わってくる。

「謙二郎、今日から一週間で一つの境界を越えて貰うでござる」

「急にか? 俺としては望むところだが…」

 謙二郎にはしっかり疲労が残っている。連日の激しい特訓の弊害であり、成果の一環を実感できるものでもある。心配があるとすれば、自在に木刀を振るう力があるかどうか。

「では早速、ガーラン流の心得を伝授するでござる」

「心得? 技じゃないのか?」

「技は研鑽を続ければ自ずと見つかるものでござる。心得は研鑽の道を照らす標、ガーラン流には必要不可欠なものでござる!」

 ガーランは、謙二郎の間合いまで歩き剣を構える。絶妙な距離で、真っ直ぐ振り下ろせば当然両断、謙二郎が後方、左右に逃げても一歩踏み出すだけで直ぐに間合いに収まる。ついでに謙二郎は木刀。ガーランの剣を受け止める事は不可。回避と防御を完全に封じられた最悪の間合い。

「最初に教えるのは、断鏡。己の弱さを超える心得。謙二郎! お主ならどうやってこの状況を超える!」

 逃げる事も防ぐ事も不可な状況。考えられる対処はたった一つ。ガーランの懐に飛び込む。素早く飛び込めば、剣の特性上振り下ろす事が困難になる。しかも、攻撃にも転じる事が出来る。だが、最大の問題が控えている。相手はガーラン。半端な踏み込みでは、逆に後ろに下がられ一転不利な状況に戻される。素早さも剣の腕も勝てない謙二郎には一瞬の迷いも許されない。

「…分かっている。だが…難しすぎる」

「理解しているようでござるな。優秀でござる。だが、考えが優秀なだけでは剣の道は開かれないでござる!」

 ガーランは剣を振り下ろす。

 謙二郎は見逃さず、素早く懐に飛び込む。

 だが…。

「…くそっ…」

 踏み込みが甘く、懐に入る前に剣が肩を斬る。

「迷ったでござるな。謙二郎、己を信じる事が習得の道でござる」

 ガーランが剣を引き抜くと、謙二郎は気絶して倒れる。

 


 翌日以降も心得習得の為の特訓が続いた。朝、昼、晩、寝る間も惜しんで同じ事を繰り返した為、謙二郎の体は傷だらけ。この状態でも成果があればまだ良いのだが、一向に成果に届いていない。自分では本気で踏み込んでいるつもりでも、踏み込む瞬間に若干の迷いが生じてガーランの剣の餌食になる。次こそと力むと、踏み込み過ぎてガーランに体当たり。本末転倒にも木刀を振るう間合いを失う結果。分かったのは、迷った状態で闇雲に突っ込んでも意味が無い事だけ。謙二郎は自分に巣くっていた迷いの深さをあ甘く見ていた。それを認識した時には、ガーランがウェポンバーストと約束した一週間に至っていた。



 アイアンズキッチンでは、謙二郎がサンドイッチを爆食していた。横に並んでいる皿は40枚にも及び、腹はパンパンに膨れている。

「謙二郎、今日は良く食うでござるな」

「最近分かったんだが、食わなきゃ戦えない。しっかり栄養補給して今度こそ習得してみせる!」

 頬張っていたサンドイッチを口からばら撒く。

 マスターは黙々と汚れたテーブルを拭く。

「意気は良し! ぶっつけ本番になるでござるが…大丈夫かもしれないでござる」

 意味深なガーランの言葉に、謙二郎は眉を顰める。だが、喉元まで出かかっていた質問を一旦下げ、ずっと聞きたかった事を優先する。

「なぁ、ガーラン。一つ聞きたいんだが、マイケルが逃げた時どう思った?」

「…仕方ないと思ったでござる。世の中には強い者が居れば弱い者も居る。強者だけの理論で物事を判断してはいけないと思ったでござる。弱者には弱者なりの世界があって、強者には理解出来ない正当性がある。だから、拙者達はマイケルの弱さを受け入れた。それが父であるマイケルの為だと決めたでござる」

 謙二郎は首を傾げる。

「だったら、一緒に居た方が良かったかもな。弱いってのは孤独なんだ。一人で居たら寂しくて堪らない瞬間がある。誰かが居ると素っ気ないくせに、居なくなると傍に居て欲しいって身勝手な事を思うんだ。自分のそうだったからよく分かる」

 ガーランは、2、3歩彷徨い、瞼を閉じてカウンター席に座る。

「剣の道は拙者が上でござるが、人の道は謙二郎が上でござるな…是非、師事したいでござる」

 マスターはオイルの酒をガーランの前に置き、自分もオイルの酒を嗜むように飲む。表情を見せないマスターの目に涙のようなものが光る。



 その日の夜。

 ガーランの指定通り、ウェポンバーストが現れた。ガーランに追い払われた時とは違い。背中にアンテナが二基、腰に小型の機械。顔を覆うように付いたバイザーには、様々な記号や数値が表示されている。

「予定通り来てやったぞ。今度は何があっても成功させる」

 ゆっくり町を歩きながら、ガーランが現れないか警戒する。だが、ガーランは現れない。それどころか、分かり易く居場所への標を残している。標は沿岸のリングに向かっている。

 リングでは、謙二郎がガーランに指示された通り木刀を振るって自己特訓をしていた。

「真夜中に特訓…断鏡と何の関係があるんだ?」

 ガーランは、「真夜中の最高のチャンスが現れるでござる」といって謙二郎をリングで特訓させた。当の本人は相手は必ず現れると言っていたが、かれこれ一時間は現れていない。


「お前が謙二郎か?」


 ウェポンバーストがリングに現われる。

 謙二郎をバイザー越しに観察。バイザーには謙二郎の戦闘データが表示される。バッドレイン、クレイジーウィズダムとの戦闘データが基になっていて、使用する武器や戦い方の傾向が事細かく確認できる。だが、目の前にいる謙二郎はデータにある武装は付けていない。

「そうだが…最高のチャンス? お前が?」

「最高のチャンス? 何の事だ? 謙二郎、お前を痛めつけて人質にするつもりで来た。覚悟してもらう」

 ウェポンバーストの背後から武器で出来た巨大な腕が現れる。ウェポンバーストの右腕の動きに合わせて武器の巨腕も動く。背中のアンテナが僅かに光ると、武器の巨腕は謙二郎の背後に移動。掴み掛ってくる。

 謙二郎は、素早く反応。ウェポンバーストに向かって突進。

「こういう事か!」

 発言から敵だと認識しつつ、ガーランが仕掛けた相手だと察知し断鏡の特訓を試みる。だが、やはり踏み込みが甘い。完全に懐に入り込む前にウェポンバーストの腹から武器の巨腕が突き出してくる。

「無駄だったな!」

 腹を貫いてきた武器の巨腕はバラバラに散らばり、剣や斧、槍に変わって多方向から一斉に謙二郎に襲い掛かる。必死に回避する謙二郎だが、その瞬間瞬間に迷いが生じ、躱しきれない武器が謙二郎を傷つける。

「ダメだ…まだ迷う…自分を信じろ! 己を超えろ!」

 ウェポンバーストの姿に自分の姿を投影する。襲い掛かるのはかつての弱さ。逃げれば弱さに付け込まれる。立ち向かうしかない。ただ一心に。

 謙二郎はウェポンバーストの全てを見続ける。どうやって武器の巨腕を動かしているのか、何を標にして攻撃をしているのか、突然消えたり現れたりする仕組みは、現実化するタイミングは、幻影化するタイミングは。その成果分かったのは、背中にあるアンテナで自在に操っていて、バイザーの情報が謙二郎の動きを完璧に予測、腰の機械が消えたり現れたり、現実化、幻影化を操作している。この場合狙わなければならないのは、背中のアンテナ。武器の巨腕を操れなくなれば戦闘力は著しく低下し、幻影化や行動予測も意味を成さなくなる。ただ、それを成功させる為には断鏡を習得するしかない。

「逃げるのも限界か? 人質の役目は死後果たして貰おうか!」

 後ろと左右から同時に三本の武器の巨腕が迫ってくる。

 戒は、ウェポンバーストの腹からも出てくる事を予測。最大最後のチャンス来た事を悟る。瞼を閉じてウェポンバーストの姿を瞼で再現。迷いを覚悟に変え、全ての力を踏み込む足に乗せる。一気に最大加速し、懐に潜り込む。

 迷いの欠片も無い。ただ最適の場所に体を運び。

 そして…。


「断鏡翔ッ!」


 加速によって生じた力を、踏み込んだ足から増幅しながら体の捻りと共に木刀を振り上げる。現れかけていた機械の巨腕ごとウェポンバーストの体を一刀両断。背中にあるアンテナも一基破壊する。

「木刀で…体を…」

 ズレていく体。操作が上手く行かない機械の巨腕。ウェポンバーストはやや動揺。だが、完全に敗北を許した訳では無い。残ったアンテナで強引に武器を搔き集め、自身を取り込んだ武器の巨人になる。

「ウェポンギガント! 最終形にして最強の力!」

 謙二郎の体を掴み、腕を形成している無数の武器で切り刻んでいく。

「痛いだろ! 人間は不便だな。ひ弱な体では攻撃一つ耐えられない!」

 一撃に全てを賭けた謙二郎には力が残っていない。どんなに足掻いても、どんなに冷静に分析しても、抜け出す策が思いつかない。


「よくやったでござる」


 ガーランが武器の巨腕を粉々に粉砕し、謙二郎を抱きかかえて救出。

 労わるようにリングに寝かせる。

「手を出さない約束だ。破るのか?」

「いいや。約束は守った。拙者がしたのは、ただ瓦礫の中から謙二郎を救っただけでござる」

「何処が瓦礫と言うんだ!」

 全身から武器をばら撒き、ガーランを攻撃。

 だが、武器は散らばるだけでガーランに触れる事すらない。

「気付いていないでござるか? だとするなら、微塵も迷いがない最強の一太刀だったと言えるでござる!」

 ウェポンバーストの視界が歪む。武器の山となりウェポンギガントは消滅。

「木刀だぞ! ナノマシンの体が滅びる筈がない! 統率機も…健在…」

 武器の山から這い出るウェポンバースト。体を構成するナノマシンが不安定。

「統率機が健在…何が体を…?」

「お利口さんなナノマシンでござるな。持ち主の敗北を理解しているでござる」

 ナノマシンが霧散し、統率機が露わに。

 ものの見事に中央に木刀の跡が残っている。

「敗者は去るが良いでござる。勝者への悔しさを抱いて…」

 統率機の機能が停止する。

 そして、謙二郎の勝利が目に見える形に。

「ガーラン、やったぞ! 心得を習得した! 必殺技を手に入れた!」

 謙二郎は歓喜しながら気絶する。

 ガーランは嬉しそうに謙二郎を抱え上げる。

「己を超えて空へと飛翔する。良い必殺技でござる」



 翌日、アイアンズキッチン。

「何だ?」

 マスターが用意したサンドイッチ弁当が30箱袋に詰め込まれている。ガーランは半泣き状態で、マスターは飲めないコーヒーを無理して飲んでいる。

「謙二郎の特訓は一旦終了でござる。早々に仲間の下に変えるでござる」

「まだまだ終わっていないだろ? どうしてだ?」

「確かにまだ終わってござらんが、今の謙二郎なら十分役に立てるでござる。早く帰って助けになるでござる」

 涙を流すガーランを見て、謙二郎はクスリと笑う。

「ああ、そうする。新たな友よ、また戻ってくるから涙は流すな」

 友の言葉に余計涙が込み上げる。だが、強引に拭って笑顔を見せる。

「待っているでござる」

 サンドイッチ弁当を片手に、手を振りながら去って行く。

 謙二郎の姿を眼に焼き付け、ガーランはマスターに手で合図。オイルの酒を注文。

 だが、オイルの酒は来ない。

「マスター?」

 マスターは、いつの間にか旅支度を整えている。

「…ガーラン、マイケルの様子を見に行く」

 初めて発した言葉に衝撃を受けるが、ガーランは笑って手を振る。

「ゼン、マイケルを頼んだでござる!」

 マスターの名前も初めて呼ばれる。



 謙二郎が来た事で、ガーランとゼンも大きく変化した。ガーランは剣の道の先に友を見つけ、ゼンは謙二郎の中に人の道を見つけた。謙二郎は自分を弱いと思っている。だが、その弱い人間が心を打つ事が出来るだろうか? 謙二郎は知らず知らず、他者に影響を与える強さを手に入れていた。

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