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デストラクションエラー  作者: 仕方舞う
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忘却の狭間に映える想い

 突如失ったモノは、かけがえのないモノ。しかし、それを伝える手段は無い。如何に大切だったか説明しても、帰って来るのは素っ気ない言葉。如何に努力しても、消えてしまったモノは認識されない。しかし、諦めてはならない。諦めずに強い意思を持ち続ければ必ず見つける事が出来る。失ったモノを取り戻す希望を。

 クレイジーウィズダムとの激戦が終わり、フランスでは祝勝会が開かれた。飛行戦艦から呼ばれたゼロノートと風、シーリアも交えて盛大に三日三晩も続いた。しかし、本来中心に居る筈の最大の功労者を誰も思い出さない。誰もが自分達だけで撃退したと思っている。たった一人、シーリアだけが歓喜に浸る祝勝会で泣き続ける。居なくなってしまった戒を想って、誰にも理解されずに…。



「シーリア、何じゃ何じゃ? そんなに泣いて。儂ら勝ったんじゃぞ! あのクレイジーウィズダムにの!」

「そうだぞ。奇跡の連続で大勝利! 俺も随分強くなったな」

 ゼロノートの戦略を駆使して、謙二郎が光の力で倒した。それが現在の常識。異を唱える者はなく、歓声と共に拍手が鳴り止まない。勝利に酔いしれるたった一人の英雄は、心地良い気分に浸って満足そうに笑う。

「でも、おかしいですね? あんなに強かったのに急に灰になって消えるなんて…?」

「謙二郎の強さ故じゃ。強いように見えておっただけで、実際は弱っておったって事じゃ」

 ゼロノートは、ソフィーお手製の機械でも飲める酒を貪る。

 釣られて、風と謙二郎も煽る。

「ふは~、ソフィー美味しいぞ」

「ほんとに…人間でも飲めるってうれしいですね」

 謙二郎と風は、乾杯を境に競うように酒を飲む。

「儂も負けておれんの」

 ゼロノートも加わり、酒宴は熱を帯びていく。

 一人沈んでいるシーリアを心配して、ロジェとアリスが近づいてくる。

「シーリアお姉ちゃん、どうして泣いているの?」

「勝ったのに…何で?」

 二人も戒を忘れている。ホテルに訪れたのもシーリアだけだと思っている。

「ねぇ、思い出してみて。私がホテルに初めて来た時、もう一人優しい人が居たよね?」

「そんな人居なかったよ。僕はまだ若いよ。忘れたりしない」

「私もお姉ちゃんに手を握ってもらった事しか覚えていない」

 必死に質問するシーリアを見て、ソフィーは髪を掻きながら近づく。

「こんな事言いたかないけど、ちょっと寝ぼけてるんじゃないの? 疲れているならベッドで休みな」

 あれだけ感謝していた筈なのに、あれだけ助けてもらった筈なのに、誰一人として思い出せない。思い出そうともしない。戒が居なくなった代わりに押し込まれた記憶。何よりも優先されているのか、真実を話すシーリアを逆に嘘を吐いているように見せている。

「…そうします」

 シーリアは、一人酒宴から抜けホテルに帰る。



 ホテルには電気が灯っていない。街が壊れた影響で電気だけではなく、水道とガスも使えない。人間にとっては重要な事だが、機械のシーリアには然程問題は無い。静かな階段を上りながら戒の事を思い出す。初めて会った時から今に至るまでの全てを時間系列に沿って。悲しい思い出より、嬉しい思い出が明らかに多い。戒の笑顔を思い出す度に悲しさが込み上げ、気が付けばまた泣いている。心に満ちるのは、戒の為に何も出来ない自分への憤り。

 二階の部屋に入ると、ベッドに倒れ込む。


「どうしたら、戒を見つけられるの?」


 泣きながら戒を取り戻す方法を考える。思い浮かぶのは、戒の記憶。自分の中にある記憶を皆と共有できれば、もしかしたら何か思い出すかもしれない。しかし、幾ら話しても伝わらないのに、記憶を見せたからと言って思い出してくれるだろうか。試してみるまでは何とも言えないが、試す事も困難。戒の存在を忘れている者にとって、思い出してと記憶を見せられる事自体が不快。忘却してる事実を認識していない事を責められているように感じてしまう。その証拠に優しいソフィーが素っ気ない態度を取っていた。


「戒…会いたいよ…」


 シーリアは、泣きながら自然と眠りにつく。



 翌日。

 祝勝会が終わり、ゼロノート、謙二郎、風は帰艦の準備を進める。だが、シーリアだけは別の準備をしている。白い幕、プロジェクター、ビデオカメラ。持っている機器から分かるように、上映会を開くと皆に宣伝している。皆は映画の上映と思っている。シーリアもそう言っていた。だが実は、シーリアが記憶を編集して作った戒が主役の映画。実際にあった事を、まるでヒーロー映画のように自ら演出に拘って作っている。



「皆、準備は良い?」

 広場に設けられた特設映画館。集まったフランスの面々と飛行戦艦の面々。シーリアの宣伝が良かったのか、全員が参加している。

「帰る時間があるから、程々にするんじゃぞ」

 映画を楽しみにしているゼロノート。

 その顔が曇らないように祈りながら、ビデオカメラに映像が入ったディスクをセットする。

「おお、始まるぞ」

 真っ暗な映像が数秒続き、凝った導入からタイトル「イビルブレイカー」が表示される。



 ストーリーは、暴力に明け暮れる覇刃烈(はじんれつ)が、悪のヒーローとなって悪の軍団を倒していくと言う王道のヒーローもの。違うのは喧嘩に明け暮れるという一面。選ばれた理由は、悪を倒す為には相応の力が必要だから、多少の暴力性はエッセンスとして受け入れられる。と、選定者は意外にも軽いノリ。烈が相手にするのは、人々の心の闇から生まれたダークデビルとその配下。特徴は、社会に溶け込み、人間の振りをして裏からじわじわと勢力を拡大。正体を暴かれて初めて化け物の姿になり、倒すと人間の姿に戻る。戦闘を目撃した者には悪だと分かるが、目撃していない者には変身した烈が逆に犯罪者に見える。暴力者と日常で嫌われ、人殺しとヒーローになっても誤解され、なんとも踏んだり蹴ったりの恰好良いのか、悪いのか、見る人によって意見の変わる主人公。

 シーリアが映画に仕掛けたのは、烈と登場人物の絡みに戒との記憶を織り交ぜる事。烈の顔は、全く戒とは違う。だが、烈と登場人物の出会いや助けられるシーンは、戒と謙二郎、戒と風、戒とゼロノート、戒とソフィーなど、実際に起きた事を基にしている為それぞれの場面を目にすれば記憶を刺激する。例えば、少年が捕まり、条件として犯罪者を逃がすように父親に迫る場面。謙二郎が不良に捕まって、罪を免除する様に山路に迫る実際の場面に似ている。これを見た謙二郎は、眉を顰めてその場面を凝視。何か感じているのは間違いない。



 映画は短時間で作ったとは思えない1時間30分の大作で内容も非常に凝っていた。その為、映画全体で非常に好感を持たれ、終止盛り上がり続けた。最後の場面で迎えるダークデビルとの激戦は、立ち上がって応援する者が現れるほど。映画が終わると、皆笑顔で立ち去っていく。

「皆、どうだった?」

 シーリアは、帰る足を止めて話を聞く。

「面白かった」

「またなんか映画作ってよ」

 ロジェとアリスは、特に戒を想いだした様子は無い。

「自分の記憶に近い場面があったな…」

「就活で怪物に襲われる…? 違う意味で似てる」

 謙二郎と風は、何か引っかかるものがある様子。だが、それが強く影響していないらしく。思い出す事の無いまま去って行く。

「儂は眠かったぞ。早く帰って飛行戦艦の整備じゃ」

 ゼロノートに至っては興味がなかったらしく、ほとんど見ていない。

「シーリア、これって…」

 意味深な態度で近づくソフィー。

 シーリアは、思い出したのかと期待を膨らます。

「最高! ロジェに付き合ってヒーローものを度々見たけど、喧嘩ばっかりしていたり、ヒーローなのに悪扱い受けたり、初めて見る設定が随所にあっていい刺激になった! 名監督さん、次作も期待しているよ」

 期待は水泡となって割れてしまう。

 シーリアが仕掛けた映画は、大好評で大失敗。特撮の監督なら歓喜するところだが、シーリアの目的からすれば落胆必須。全力を注ぎこんで仕掛けだっただけに、悲しみが激しい。項垂れたまま飛行戦艦に帰るしかなかった。



 飛行戦艦に戻ったシーリアは、展望デッキで一人泣いていた。戒の事を忘れる事など出来る訳もなく、戒を思い出し、心が締め付けられ涙が溢れてくる。映画はフランスに残してきた。好評だった為、ソフィーに懇願されて仕方なく。本当は思い出してくれない人の為に残したくなかった。覚えている自分の為に持っていたかった。でも、気付いてしまった。見れば見る程辛くなる事に…。


「会いたい…戒、どうして居なくなったの?」


 シーリアは、怖くて戒の戦いを見ていなかった。どうやって倒したのか、何で消えたのか、使った力は、クレイジーウィズダムの状態は。何も知らない状況を作ってしまった自分を責めてしまう。だが、自分を責める過程で次なる作戦を思いついた。



 シーリアは艦内を走り回り謙二郎を探し、クレイジーウィズダムとの戦いを改めて聞いた。主役は謙二郎でも構わない。戦いの子細を理解出来るなら変質した登場人物は関係ない。謙二郎から聞けたのは、クレイジーウィズダムが狂気、愛の概念を使った事、鎖と茨を駆使した事、謙二郎が未知の閃きで愛の概念を使えるようになった事、天の助けで終末の概念を使えるようになり、クレイジーウィズダムを焼滅させた事。誇らし気に話しているが、クレイジーウィズダムに関する事以外は、未知の閃きだったり、天の助けだったりと曖昧。シーリアはここに活路を見出した。



 シーリアは、展望デッキで検証を始める。ゼロノートに頼んでも不審に思われるだけ。戒の名前を出せばそれは更に顕著になる。だから仕方なく、自分だけで検証する事にした。検証するのは概念の存在。概念と言うものを認知できるのは思考を有する存在があるから。しかし、思考を有する存在が居なければ概念が存在しない訳ではない。何も無い無の空間でも『無』と言う概念がある。概念を表現する存在が居ないだけで、消えてしまった訳ではない。戒が消えてしまったのは、戒が至った概念、もしくは使用した概念を皆が認識できなくなってしまった為、戒を概念と一緒に認識できなくなってしまった。と、するなら、戒と共に認識できなくなった概念を改めて認知する事が出来れば、戒が戻ってくる…筈。では、何の概念を認識できなくなったのか。謙二郎の会話から、愛と終末ではない。認識できなくなってしまった概念を知るヒントは、戒が居なくなってからの皆の態度。浮かれていて、全てを自分達で解決したと思っている。そして、自分達が知らない戒に関しては無関心か、嫌悪感。特に顕著なのが謙二郎。戒と一緒に戦いたい、戒を助けたいと、戒の為に強くなる事を考えて苦悩していた。歓喜する事は少なく、勝ったからと言って自慢する事は無かった。自分が自分の望む力に至っていない事を知っていたから。


「もしかして…」



 シーリアは、全員を艦橋に呼んだ。そして、見ている前である行動に出た。

「今から皆の事を説教します」

 いきなりの宣言に飛び出す失笑。

「何を説教するんだ? 強すぎる事か? それとも…クレイジーウィズダムに勝った事か?」

「謙二郎はいつまで経っても光しか使えない雑魚。クレイジーウィズダムにを倒したのもマグレ」

 大暴言に謙二郎は怒りを覚える。

「おじい、弟子だったからって内通してたんでしょ? 本当に酷いね」

「儂は内通などしておらん! 確かに弟子じゃったが…」

 ゼロノートは昔の事を引っ張り出され不機嫌そう。しかし、内通していた事実は理解出来ない。内通した事実を認知した時点でシーリアの検証は間違いだった事になる。

「風、どうやって飛行戦艦を自在に操れるようになったの? まさか自分の力とは思ってないよね?」

「私…運転は得意です」

 運転出来る事は確か。だが、ここまで飛行戦艦を操れるのは風だけの力ではない。それを認識していない事に妙な不安を感じる。その不安を別の形で認識したなら検証失敗。

「シーリア、急にどうしたんじゃ? こんな事言う子じゃなかったじゃろ?」

「…今、私は怒っているの。いつまで経っても概念を超えられない皆に」

 シーリアの検証は間違っていなかった。皆はある概念を喪失している。そのせいでシーリアの真実を受け入れられない。

 失っている概念は…過ち。過ちの概念を失った為、自分の全てを肯定し、全ての行動を過信している。今の状態で何を言っても過ちを認めない。過ちと言う概念自体を喪失しているのだから仕方がない。

 失っている過ちをどうやって取り戻すのか、これが本題になる。

「皆、今の私をどう思う? 思ったままに言ってみて」

 怒った謙二郎が勢いに任せて叫ぶ。

「馬鹿!」

 ゼロノートも続く。

「勘違い!」

 風は少し考えて。

「反抗期…」

 全然違う。でも、近い範囲に言葉がある。もっと言葉を引き出せば『過ち』が出てくるかもしれない。だが、それを試みる前に全員が艦橋から立ち去る。

「これ以上話を聞くつもりはない」

「儂は育て方を間違えたようじゃな」

「…部屋変わるね…」

 風に対する怒りと嫌悪感で、これ以上会話すらできない状況に陥る。



 その頃、フランスでは映画館が賑わっていた。勿論、シーリアが作った映画が渦中。映画館に収益の概念があったら、今頃大変な収入になっていた。しかし、崩壊した世界で収益を考える者は居ない。お陰で無尽蔵に観客が集まり毎日上映。

「…ロジェお兄にゃん…私、何か忘れている気がする。この手に…強い温もりを感じた事があったような…」

「アリスもか? 実は僕もなんだ。お母さんの事で嬉しい事をしてくれた…誰かが居た…ような?」

 何度も見ている内に、ロジェとアリスは心に引っかかるものがある事に気が付く。それが何かは分からないが、自分達が何か忘れているという感覚が生まれる。


 その異変は、フランス中に広がっていく。



 一週間後。

 飛行戦艦の中でシーリアは孤立していた。あの日詰問した事がきっかけ。理解出来ない者にしてみれば不快極まるのは当然。シーリアも仕方ないと納得している。だから、全く気にしていない。気にしているのは過ちの概念を蘇らせる方法。諦めずに何度も頭で試行し、いつか戒を取り戻せる希望を捨てない。世界中の全ての存在に嫌われても構わない決意。


「シーリア、至急艦橋に来るんじゃ!」


 久し振りの呼び出し。

 シーリアは更に嫌われても戒の為に同じ事をするつもり。



 艦橋では、ゼロノートと謙二郎が睨みを利かせて待っている。

「おじい、言いたい事が…」

「そんな事より、フランスに降り立ってくれんか。ソフィーが大事な話があるんじゃと」

 シーリアの言葉は聞かず、有無を言わせず、反論を許さず、怒り気味に強制する。

 モニターには、フランスの全員が旗を持って何かを訴えている。



 フランスに降り立つと、直ぐに住民達が集まってくる。旗には「真の英雄を教えろ!」、「我々が知りたいのは偽装された英雄じゃない!」。全員が全員、戒の存在を薄っすら認識し始めている。あまりにも薄い虚像だが、確かな実感が残っている。それが歯痒くて、それが悔しい。過ちの概念を使えないが、知りたい欲求は存在している。使える概念を駆使して何とか真実に辿り着こうとしている。


「教えておくれ、シーリア」

 群衆を掻き分けてソフィーが現れる。

 背後には強い眼差しのロジェとアリス。

「何で急に?」

「映画を見ていたら、段々…何だが小骨が刺さっているような感覚が強くなる。知りたいんだ! 何か大事なものを忘れている!」

 映画の好評が招いた千載一遇のチャンス。

 シーリアは、戒の名前を出してフランス救済の武勇を伝える。勿論、何も知らない話。違和感や嫌悪感を感じる。だが、知りたい欲求でそれらを抑える。話を聞いていくうちに、虚像が段々はっきりしていく。しかし、最後の一押しが足りない。完全に思い出す為の何かが足りない。

「皆、過ちを理解して。過ちを理解出来たら、戒は見える筈。帰って来る筈!」

「過ち…分からない。何なの…それは?」

 過ちの言葉を発した事で進展した実感を得る。次の段階に至るには、過ちを概念として捉える事。だが、恐らく幾ら教えても伝わらないだろう。だったら、全員には使えないが強引に過ちの概念をコピーするしかない。

「ソフィー、私の記憶から過ちの概念をインストールして。インストールすれば概念を保有した状態になる筈」

 ソフィーの手を握って、戒の真実と共に過ちの概念をインストールしてもらう。インストールした途端、ソフィーは驚く。今まで理解できていなかった事が鮮明になっていく。そして、戒の事を完全に思い出す。

「…なんて事を…自分に腹がたつ」

 忘れていた悔しさと怒りがソフィーを駆け巡る。

 ソフィーは、直ぐに機人に記憶をコピー。機人達も蘇る記憶と帰ってきた概念で悔しそう。これは、戒が居なくなる前以上の進化。ブレインでない機人が過ちを理解した。自身の心で。

「シーリア、これじゃあ人間には効果がない」

「…うん、そこが問題。何とかしたい…」

 戒を一つの概念と捉えた場合、概念を認識する存在が戒の存在を担保する。その数が多ければ多い程、戒が世界に存在できる力が強くなる。つまり、概念を認識できる人間、機人が増えれば増える程、戒が帰って来る可能性が高い。

「…シーリアお姉ちゃん、影が…影だけが…」

 アリスが指さしたのは、シーリアの一歩前。

 足跡のように影がある。

「もしかして…戒、戒なの?」

 影を足の位置と捉え、見えない戒を想定して抱きしめる。

 微かに温もりを感じる。

「…ここに居る。戒がここに!」

 嬉しさ半分、切なさ半分。傍に居る実感は、同時にまだ届いていない距離を感じさせる。微かな温もりを確かなものに変えたい。だが、それを成す為の手段が思いつかない。人間に概念を保有させる方法として思いつくのは、人工的に記憶媒体を脳に設置してそこに概念を与える。しかし、これはあまりにも人道的ではなく、クレイジーウィズダムと同じ存在になってしまう。例え戒が戻ってきても、もう二度と戒と一緒に居られない気がする。


「…本当に大したもんだ。まさか自力でここまで来るとは…」


 足の影を基に全身が薄っすら見えるようになる。

「シーリア、俺が誰だか分かるか?」

 声は戒だが、口調は違う。だが、その違う口調もしっかり覚えている。

「仮面?」

「正解だ。だが、今の名はエラーだ。しっかり覚えておけよ」

 薄かった戒の虚像が濃くなっていく。

 それと同時に、人間達にも過ちの概念が蘇っていく。

「戒…戒兄ちゃんだ! 思い出した! 思い出したよ!」

 ロジェが嬉しそうに飛び回り、戒の虚像に近づいてくる。

 アリスも近づいて虚像の手を握る。

「ごめんね。私…もう忘れないよ」

 二人だけではない。他の人間達も顔色を変えて近づいてくる。一様に感謝と謝罪を繰り返しながら、皆笑顔になっていく。

「戒は幸せだ。この温もりで感じる…だが、俺にはやっぱり良く分からないな。俺は戦っている方が性に合ってる」

 戒の姿がしっかり固着する。表情が変わり、柔らかい優しさに満ちた戒が帰って来る。消えいた弊害でやや疲労感があるが、顔を埋めて泣いているシーリアを見ていると疲労感が薄れる。帰ってこれた喜びの実感は疲労には邪魔できない。

「…シーリア、ごめん。たくさん泣かせちゃったね」

「戒、お帰り」

 抱き合う二人を様子を見て、住民達はニヤニヤしながら揶揄う。ソフィーに至っては、「愛はここにあるようね」と必要以上に茶々を入れる。

 

(戒、これは忠告だ。今は終末の力に頼るな。ソフィーのように変質した概念ではなく。概念だけで構成された存在を探し出し協力を得ろ。たくさん集める事が使いこなす為の最低条件だ)


 エラーの声は空に溶けて消えていく。

 残された忠告は戒自身も良く分かっていた。居なくなっていた間、戒はずっとシーリアの傍に居た。傍に居て何度も声を掛けた。泣いている時も、映画を作っている時も、皆と戦っている時も。隣に居て何も出来ない憤りに苦しんだ。だから、もう消えたくない、悲しませたくない。その為には終末を使いおなすしかない。何よりもシーリアの為に。

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