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デストラクションエラー  作者: 仕方舞う
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コンセプトエグゼスタンス

 心には不思議な力がある。時に勇気を、時に希望を、時に愛を。人に光を齎す力がある。その逆に、心には恐ろしい力がある。時に怒りを、時に悲しみを、時に絶望を。人に闇を齎す力がある。

 戒の手に現われた紋章を研究するうちに分かったのは、紋章が概念存在の印だという事。現れた紋章が示しているのはアポカリプス。概念に至った戒ではなかった。紋章に宿っている力は微弱で、紋章があるからと言って絶大な力が手に入った訳ではない。アポカリプスの力を引き出すには、紋章をどんどん活用して繋がりを深めていくしかない。しかし、繋がりを深める事にはデメリットもある。アポカリプスの力を引き出し過ぎれば、体にも精神にも多大な負荷がかかり最悪は自己崩壊に至ってしまう。終末を司るだけに多用は不可。そこで新たな試みとして考えられたのは、アポカリプス以外の概念を手に入れる事。戒の多大な負荷をかけず如何に効率よく戦力としていくのか、それが戒の新たな戦い方となった。



 展望デッキ。

 謙二郎はゼロノートに呼び出されていた。

「何の用だ?」

「謙二郎に使っておったナノマシンが完全に定着したんじゃ。これによって謙二郎にも進化の道が出現した。戦いを経て成長し、相応しい敵を倒して進化する。戒が失った道を歩いてみんか?」

 紋章が現れたせいか、仮面の戒が居なくなったせいか、理由は定かではないが戒は進化出来なくなっていた。その為、概念を活用した戦い方にシフトするしかなかった。

「俺が…進化? 人間じゃなくなるのか?」

「そうではないんじゃが…ただ、場合によっては人間らしさを失う事になるかも知れんの…」

 謙二郎に迷いは無かった。

 強い眼差し、しっかりした口調で答える。

「頼む。バッドレインの時に感じた無力感を超えたい!」

「分かった。じゃが、忘れるんじゃないぞ。謙二郎は戒にはなれん」

「…分かっている」

 謙二郎に渡されたのは、進化の道標となるブレスレット。



 艦橋では風が一人で操縦していた。

 風が使い易いように改良した座席やパネル、ハンドル。飛行戦艦だと言われなければ、車の運転席にしか見えない仕様。

「快適、快適。でも、曲がり角が無いのは寂しいかな…」

 風も車を運転している感覚。

「…あれ? あんなものあったかな?」

 操縦席の上部にあるモニターに映し出されるのは、近代的な建物が次々建築されている光景。作っているのは機人。パネルを操作して拡大すると、機人に混ざって人間の姿も見える。驚くべき事に、人間と機人が仲良くしている。

「ゼロノートさん、艦橋に来てください! 異常事態です!」



 艦橋に集まった一同は、目にした光景に唖然。

 今まで人間を殺していた筈の機人が人間と協力して街づくりに勤しんでいる。人間は笑い、機人も笑い。一足先に共生が成されている事はこれまでの常識から外れている。

「嘘だろ…こんな事が…」

 謙二郎のショックは大きい。

 機人との戦いを繰り返して強くなって行く筈が、これではその計画は中止。場合によっては戦い自体が不要になる可能性もあり、強くなろうとした覚悟が空振りする虚しさを感じずにはいられない。

「どうやらフランスだけじゃな。何かの実験か、人間のコントロールの為か、ムムム…人間に優しくなったと考えるのは時期尚早かの…」

 胸を撫で下ろす謙二郎は、不可思議な葛藤に苛まれる。戦って強くなりたい。だが、強くなるのは守りたいモノの為。強くなるのは手段であって目的ではない。だが今、戦う事を目的に据えていた自分が居る。謙二郎は、自分の心に喝を入れ笑顔を作る。

「おじい、人間はどうして笑顔なの? 東京管理区を思い出すと…」

「推測じゃが、恐らくフランスの人間は厚遇されていたんじゃろ。長い間人間に寄り添って理解を得た…と思うのじゃが、行ってみん事には分からないの」

 風が慌てた様子でモニターを指さす。

「あ、あの…通信が来ています。その…フランスから…」

「繋いでくれんか…」

 通信を繋ぐと、砂嵐状態で映像は映らず遠征だけが聞こえてくる。

「育鯖戒、そして、その仲間達。私はフランス統括区のブレイン、ソフィー。フランスの新たな首相としてあなた達をお招きしたい」

 戸惑う風に代わりにゼロノートが会話を引き受ける。

「ソフィー、儂はゼロノートじゃ。何で儂らを招待しようと考えたんじゃ? お主たちのマスターはそんな事望んでおらんじゃろ?」

「…私は、マスターに感情を与えられました。しかしそれは、マスターにとっては必要ないゴミ。私がマスターに必要とされていなかった証として与えられたモノでした。ですから、マスター…破戒は、私が何をしても気に留める事はありません」

「手に入れた感情とは何じゃ?」

「愛です」

 破戒がゴミ扱いした理由が何となくわかった。

 しかしそれでも、完全に安全と決めつけるには材料不足。

「例え気に留めていないとしても、意に添わぬ行為をしていれば文句の一つくらいあるじゃろ?」

「町の再建を始めてから数日、人間との交渉を始めてから半年。破戒は一切介入しませんでした。私はそれが答えだと思います」

「じゃとしたら、儂らを招くのは危険じゃないかの? ソフィーに関心が無くとも、戒には大いに関心がある筈じゃ。危険を冒してまで戒を招くとしたら、純粋な会話目的と考えるより、破戒への貢ぎ物にすると考えた方がぴったり当てはまるんじゃ」

「疑いはもっともです。そうですね…でしたら、もし来て頂けるなら美味しい料理を振る舞います。機人にも、人間にも。今の私に出来るのはそのくらいです…」

 交渉材料にしては些か弱い。料理だったらここで食べられるし、味にも不自由していない。料理だけで危険を冒すのはあまりにも無謀。


「では、お邪魔します」


 しかし、戒はその内容で快諾。

 驚く顔を余所にソフィーに話しかける。

「いつが良いかな? こっちとしてはいつでも…」

「戒! 罠の公算が高い! 儂は行く事に反対じゃ!」

 その意見に全員賛同。

「想像してくれないかな? 罠にかけるなら、もっと気を引く条件を出したと思うんだ。喉から手が出るような欲しくて堪らない条件。間違っても料理じゃないよね?」

 戒の意見もまた賛同を得る。

 どっちの意見も間違っていない為、提起された面々は困り顔。

「ゼロノート行かせてくれないかな? シーリアと二人で」

「何でシーリアが出てくるんじゃ?」

「旅は道連れって言うよね?」

 すっかり警戒心のない戒に、謙二郎は笑って拍手を送る。

「良いじゃないか。何かあったら俺が直ぐに駆け付ける。戒、行って来い!」

 風も拍手する。

 ゼロノートは戒をジロジロ見ながら、溜息を漏らす。

「戒よ、お主は確実に弱くなっておる。紋章の力も使いこなせておらん。シーリアに何かあったら守り切れる自信があるのかの?」

「何があっても守るよ。僕は大事なものを手離さない」

 ゼロノートのシーリアを心配する様に、戒はずっと笑顔。祖父が孫の心配をする。人間では当たり前だが、機人にとっては非常に難解な事。

「おじい…私、行きたい。戒と一緒に」

 シーリアの懇願する眼差しにゼロノートは耐えられない。

 渋々頷いてしまう。

「やった~! 早速支度しないと」

 嬉しそうに走る去るシーリア。

 去り際に聞こえる鼻歌が気持ちの高ぶりを伝える。

「戒よ、くれぐれも頼むぞ」

「任せて」



 風が遠隔操作する小型飛行機に乗って、戒とシーリアはフランスに降り立つ。戒はいつもの服装だが、シーリアは綺麗なドレス姿。一応、動きやすさを考慮して丈が短めのドレスにしている。

「楽しみだね」

「うん♪」

 シーリアのテンションは上がりっぱなし。それもその筈、目の前に広がる街並みは失われた筈のフランスそのもの。映像でしか知らないシーリアは目に映る物全てに感動。


「ようこそ、私の街へ」


 現れたのは、金髪の女性。

 黒いスーツ姿で、長い金髪を髪飾りで留めている。首元には不格好なネックレス、右手には縫製の甘いバッグ。慌ててきたのか、肩で息をしていて、ボサボサな髪を髪留めで誤魔化している。

「ソフィーさん…かな?」

「お待たせしました。すみません、少々問題がありまして…」

「大丈夫ですよ。僕達も来たばかりですから」

 シーリアは首を傾げる。

 声から想像していた姿は、キャリアウーマン。しかし、実際の姿は優しい母親のよう。

「如何いたしました?」

「もしかして…お母さん?」

「…分かりましたか? 実は」

 ソフィーの後ろから小さな子どもが出てくる。

 黒髪おかっぱ頭の男の子で、身長から察すると小学生くらい。戒を不安気に睨み、ソフィーのスカートの裾を掴んで離さない。

「この子の名前は、ロジェ。ロジェ、ご挨拶は?」

「…帰れ…」

 ロジェは、戒に掴み掛り必死に訴える。

「お前が来たらお母さんが殺される! 早く帰れ!」

 戒はロジェの手に付いている絆創膏が気になった。

「ソフィー、ロジェは…人間?」

「はい」

 機人の子どもが人間。

 違和感しかないが、戒はすんなり受け入れる。

「ロジェ、お母さんは誰に殺されるのかな?」

「…破戒…」

 ソフィーの嘘が一つ露呈する。興味が無い筈の破戒が介入している事が判明。

 普通なら疑うところだが、戒は笑顔で話を続ける。

「ソフィー、実は腹ペコで我慢できないんだ。例のご馳走、お願いしても良いかな?」

「…信用して頂けるのですか?」

 戒は、ソフィーの震える手を掴む。

「嘘を吐く人の手じゃない。優しい母親の手だ」

 戒の優しい笑顔は、ロジェの警戒心まで解きほぐす。

 シーリアは、戒に賛同する様に頷く。



 案内されたのは小さなホテル。

 街並みに溶け込むような窮屈な立地で、通りを挟んだ反対側にはまだ再建されていない土地が広がっている。ホテルの入り口では人間の従業員が出迎え、客室では機人が清掃を行っている。通りすがる通行人は、人間だろうが機人だろうが関係なく親し気に挨拶している。

「ここが家?」

「はい、自宅兼ホテルです」

「ソフィー、本来の話し方で良いよ。もう大丈夫だから」

「…ふ~、緊張してたんだ。どんな恐ろしいかと不安だったから」

 髪留めを外し、ボサボサの髪を更に掻き混ぜる。印象はガラリと変わり、何処にでもいる母親に変身。

「ロジェ! 部屋に戻ってアリスを連れてきて!」

「は~い!」

 走って階段を駆け上がるロジェ。

 ソフィーは階段脇から奥の厨房に向かう。

「直ぐに用意するから待ってて! 客はいないから見学でも何でも好きにどうぞ~」

「シーリア、身に行こうか?」

「うん」

 


 軋む階段を上って二階に上がる。静まり返った客室からタキシードを着た機人が出てくる。手には清掃道具を持っていて、目があった戒に笑顔で会釈する。

「ここでは機人にも心が在るのか…」

「なんだか皆人間に見えるね」

「もしかしたら、ここは理想郷かも」

 戒は機人の下に行き、挨拶する。

「こんにちは」

「こんにちは。いいお天気ですね」

 自然な笑顔に見えるが、その後無表情になり戒を無視して次の部屋に向かう。

「理想郷の入り口…かな」

 機人の感情はインプットされたものだった。インプットしたのは間違いなくソフィー。ブレインならば配下の機人を操る事は簡単。



 見学をほどほどに、戒とシーリアは一階に戻ってくる。

 同じタイミングで、ロジェは妹のアリスを連れて降りてくる。

「初めまして…アリスです」

 アリスも人間だった。

 だけど、歪だった。

「…アリス、初めまして。僕は戒、よろしく」

「私は、シーリア。よろしくね」

 アリスの腕は機械に改造されていた。指先が鋭い刃物になっていて、ロジェの傷をつけた原因だとわかる。腰を屈めて顔を見ると、右半分は人間だが、左半分は機械。同じように瞬きするが、右と左で反応に差がある。

 戒はアリスの手を握る。

「お兄ちゃん、ダメ!」

 戒が怪我すると思い怯えるアリス。

 だが、戒は構わず握り締める。

「大丈夫。僕の手も機械なんだ」

 アリスは安心して握り返す。


「用意できたよ~!」


 厨房からソフィーの声が響く。

 戒はアリスの手を引いて厨房に向かう。



 厨房のテーブルには5人分の食事が並ぶ。スープにサラダ、ステーキ。漂ってくる匂いを感じる事は出来ないが、散らかった厨房をみると努力したのが分かる。

「さぁさぁ、召し上がれ~!」

 ロジェは手を合わせると、脇目も振らず貪り付く。

 アリスは、機械の手のせいで自分ではなかなか食べられない。

「アリス、はい」

 ロジェは自分の分を一通り食べると、アリスの食事を手伝う。

「良い子だね」

「…普通だよ」

 シーリアの言葉に照れるロジェ。

 頭を撫でられると顔を真っ赤にする。

「どれどれ…」

 戒もスープを啜ってみる。

「美味しい! 人間の体に戻ったようだよ!」

 スープからはしっかり味を感じる事が出来た。しかも、使われた材料一つ一つの意味までも伝わってくる。ゼロノートが作った料理もおいしかったが、科学的に調合されている感じが否めなかった。ソフィーの料理は自然の材料を使ったとしか思えない。

「本当だ」

 ステーキを頬張るシーリアを見て、戒は笑う。

 ロジェもアリスも釣られて笑う。

「…ありがとう」

 頭を下げるソフィー。

 戒は、ソフィーの肩を叩いて首を振る。

「感謝するのはこっちの方だよ。こんなおいしい料理をご馳走になったからね」

「うんうん。もっと食べたいぐらい」

「それじゃ、材料生産をもっと効率化しないといけないね」

 食卓は笑みに包まれる。

 しかしそれは、悲しみを隠すための仮初の笑み。



 食事が終わりロジェとアリスが寝静まると、戒とシーリアはソフィーの部屋に集まった。

 勿論、詳しい事情を聴く為。

「ソフィー、僕達を呼んだ理由はアリスと関係あるのかな?」

「…流石ね。だけど、アリスだけじゃなくて、ロジェも関係あるわ」

 ソフィーは、テーブルの上に名簿を置く。

「これが何か分かる?」

 戒は、名簿の上段に書かれている題目に眉を顰める。

「実験体リスト…」

「これは、イギリス統括管理区で人体実験を行う順番。一番下の欄にロジェ、その上にアリスがある。私が気付いて助けに行った時にアリスが実験の最中だった…」

 怒りで戒の体が震える。

 シーリアは、震える戒の手を握る。

 ソフィーは話を続ける。


 イギリスには計3つの管理区があった。しかし、将の一人、クレイジーウィズダム、通称アホ野郎が、一つに統合し実験場に変えた。人間を機械に変える為とか言って…。でも実際は、機械に変える振りをして人間を弄んでいた。神経を機械に繋いで死ぬまで苦痛を与えたり、脳の一部を機械に変え精神が崩れる様子を眺めたり、残酷なんて言葉で済まされるものじゃなかった…。それを知った私が助けに行くのも分かるだろ? 変わり果てたアリスと、助けようと必死だったロジェを見て…我慢できなかった。ブレインである役割を投げ捨ててフランスに連れ帰り、あの子達の為に管理区を廃止し、フランス再興を始める事にした。しかし、実験体を奪われたアホ野郎は黙っていなかった。「実験体を返さないとフランスの人間全員を実験台に貰う」って脅迫してきたがった。あの子達を渡すなんてできないし、フランスの人間を実験台にしたくない。途方に暮れていた時に、あんた達がバッドレインを倒したニュースを耳に挟んだ。


「…クレイジーウィズダム、許せない…」

 戒の紋章が仄かに光る。

 光はソフィーの胸を照らす。

「何だい?」

「僕にも何が起きたのか…」

 シーリアが驚いた顔で戒の後ろを指さす。

 そこにはアポカリプスの姿がある。

「戒よ。その機人には強い概念がある。愛と言う名の概念が」

 ソフィーの胸からハートの形をした紋章が浮かび上がる。

「説明してくれないか?」

「その紋章は概念の象徴、戒の力となる概念存在の証。機人よ、その力を譲れ。守りたいモノの為に」

 戒は、その言葉に嫌な予感。

「紋章を譲ったら、ソフィーはどうなる?」

「愛の概念を失い本来の機人に戻る」

「…紋章はいらない」

「戒よ。勝ちたければ選べ」

「アポカリプス…ソフィーには大切な子がいる。愛を注いで大切に育てていく存在が居る。例え負けるとしても絶対に紋章は要らない! ロジェとアリスからソフィーを奪いたくない!」

 戒の強い反論に、アポカリプスは何も言わず消え去る。

 ソフィーは、消えていく紋章を見ながら呟く。

「…今のあんたには勝てないのかい?」

「僕は弱くなりました。バッドレインを倒した時の力はもうありません。でも、僕は一人じゃない! 謙二郎も、風も、ゼロノートも、ここに居るシーリアも居る。一人では出来ない事も皆となら出来る! 僕はそう信じています!」

 ソフィーは直ぐに笑顔になる。

「あんたに頼んでよかった。あんたなら安心して頼める」

 差し出された手を戒は掴む。

「必ず、アホ野郎を倒す!」

 戒の激しい怒りに呼応するように背中に紋章が浮かび上がる。

 しかし、気付かぬままに直ぐに消えてしまう。


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