71.「ここから先は通行止めだ」
トレントを始めとしたモンスター達と何度か槍を交えつつ、俺とメイランは多少のダメージを受けることはあっても死に戻ることもなく、森の探索は滞りなく進んでいた。
だがこのイベントのボスでまず間違いないであろうジェノザウルスを探すのだが、それがなかなか見つけることが出来ない。
そんな俺達の所持品にはモンスターを倒した際に手に入る、ドロップアイテムがどんどん貯まっていく一方だった。
「……ふう。なんだか全然ボスにも他のプレイヤーにも出くわさないな」
小休止中に俺は溜息混じりに愚痴をこぼしてしまう。
そんな言葉をすぐ隣にいたメイランの耳は拾ったようだ。
「仕方がないだろう。このイベントフィールドは――ほら、こんな具合に広大なのだから」
俺の呟きを聞いたメイランがマップを表示しながらそう指摘する。
空中に表示されたマップを見てみると、もう体感で二時間近く歩いているにもかかわらず、探索済みとなってマップに白く表示されている部分はごく一部だけであった。
まだまだ見探索の場所ばかりで、マップの大半は黒く塗りつぶされている。
これを全て探索するには、限られたプレイ時間だけでは数日かかるのではないだろうか。
「そう考えるとあの人に出会えたのはかなりの確率だったんだな」
「あの人? ああ、あのプレイヤーのことか」
「そうそう。便利なスキルを教えてくれたあのプレイヤーさん」
この森に入って間もなく遭遇した男性プレイヤー以外、まだ一人のプレイヤーとも遭遇していない。
もし誰か他のプレイヤーと出会えたなら、情報交換などしたいのだがそれもままならなかった。
「とりあえず今は先に進むしかないだろう。そろそろ行こう」
「そうだね」
メイランはなかなか進展しないこの状況にもめげず、淡々とした口調で話す。
俺はそんな彼女の後を追うように再び森の中を進み始めた。
「そういえば何となくメイランの後に続いて今まで歩いてきたけど、一体どこに向かってるんだ? もしかしてボスの居場所に見当が付いてるの?」
そう。
今まで歩いてきたルートはメイランが決めていた。
最初は男である俺が先を進むべきだと思い先頭で適当に歩いていたのだが、『私が』とメイランが前に出てきたのでそれ以降は彼女に任せていた。
「ああ、そのことか。一応マップの中央部を目指している」
「それはなんで?」
「これは他のゲームに言えることなのだが、ダンジョンや迷宮といった決まった道が存在するところでは、最深部にボスがいるのが殆どだ」
歩きながらメイランが説明する。
俺はそれに時折相づちを入れながら黙って聞く。
「けれどこのイベントの森は決まった道といった物がない。つまりプレイヤーは自分の好きなように進むことが出来る。それなら全てのプレイヤーに平等になるように、ボスはプレイヤーの出現地からみて均等な距離にいると考えたんだ」
「それでマップの中心部に」
「そういうことだ。私達が出現した場所はマップのここ、ちょうど隅だからこれ以上マップ下、つまり南には行けない。だから出現地からマップ上、北に進んで中心部を目指している」
正直メイランの説明を俺は完璧には理解していないと思う。
この辺りはゲームに馴れているメイランと、殆どプレイしたことのない俺の経験の差が出ている。
なので慣れていない俺よりもメイランの言葉に従った方がいいだろうと判断し、俺はそれ以上の追及をやめた。
「わかった。そういう訳ならこのままマップ中央に向かおう」
「そうしよう。もしかしたら同じ事を考えた他のプレイヤーがいるかもしれない」
「ならもし他のプレイヤーにあったら情報交換を持ちかけてみようか」
「それは良い案だ。相手が話に乗ってきてくれれば、だがな」
雑談混じりに今後の予定を立てながら歩いていると、モンスターを見つけた。
モンスターは全部で二体、《ソードフライ》と《フライアント》という名前の昆虫型モンスターだ。
《ソードフライ》は見た目は大きくなったトンボだ。
だが四枚ある羽は刃物のように鋭い切れ味があり、素早い滑空からすれ違い様に羽で切りつけてくる。
《フライアント》は同じく見た目が大きくなった羽アリ。
ソードフライトは違い主に地上を動き回るがここぞという時に羽を広げ、一足飛びにその大きな顎を目一杯開きながら突進からの噛み付き攻撃を仕掛けてくる。
「(メイラン、モンスターだ)」
「(こちらも把握している)」
今までの昆虫型モンスターとの戦闘経験から、昆虫型モンスターは他の種類のモンスターに比べて索敵能力が高いことがわかっていた。
なので俺とメイランは小声で話し合う。
「(……運が良かった。今回はこっちにまだ気が付いてないみたいだ。先制攻撃のチャンスだ)」
「(なら先にイオは《ファイアアロー》でソードフライの方を落としてもらえるか。私はフライアントの方に仕掛ける)」
「(わかった)」
「(じゃあ頼んだ)」
手早く作戦を決めるとメイランは木陰に身を潜め、俺は屈んで草むらの後ろに隠れ隙間から敵の様子を窺いつつ魔法の用意をする。
初めて昆虫型のモンスターを見つけた時、俺はメイランのことが気がかりだった。
なぜなら彼女は“女性”だからだ。
俺の感覚で言わせてもらえれば、女性はすべからく虫が嫌いという印象がある。
なのでただでさえ苦手と思われる虫が何倍、下手をすると何十倍物大きさになって敵として前に立ちはだかるのだから、メイランは大丈夫なのかと心配していた。
結果を見てみれば俺の心配は取り越し苦労だった。
メイランは特に気にした様子もなく、淡々と戦闘をこなすことが出来ていたのだから。
俺が『メイランは虫が苦手じゃないの』と聞いてみると、『グロテスクな虫じゃなければ大丈夫』とのことだった。
さらに『じゃあもしグロテスクな虫がモンスターとして今後出たらどうする』と、例えばこんな虫という例を挙げながら何の気なしに聞いた時の彼女の反応………は、黙っておこう。
とりあえず、このゲームにPKが存在しなくて良かった。
「(――チラ)」
「(……コクン)」
準備が出来たのでメイランの方を見る。
俺の視線に気が付いたメイランは、黙ったまま深く一度頷いて見せた。
これはメイランの方も準備が出来たという合図だ。
「………っ、《ファイアアロー》!」
俺はソードフライがこちらとは反対側を向いた瞬間を見計らって《ファイアアロー》を放った。
それにソードフライとフライアントの二体はすぐ気が付く。
だが時既に遅く俺の魔法はソードフライに直撃し、ギギギと軋むような鳴き声と思われる音を出しながら地面へと落下させることに成功した。
ソードフライが地面に落ちるのと同時に、フライアントが俺に向かって来る。
俺は背負っていた偃月槍を構え迎え撃つ。
「悪いが、ここから先は通行止めだ」
だがフライアントは俺の元まで辿り着く前に、横合いからの攻撃を受け吹き飛ばされた。
ちょうど羽を広げ跳びかかろうとしていたところだったこともあり、気持ちが良いくらい綺麗に決まった。
きっとクリティカル攻撃が出たのだろう。
横合いから攻撃したのは木陰から飛び出したメイランだ。
彼女の攻撃を受け今度はフライアントが地面でギギギと鳴き声を上げながらゆっくりと体を起こす。
「一気に決めるっ、イオ!」
「わかってるよっ、はあぁっ!」
俺とメイランはフライアントの体勢が整う前に偃月槍と双剣でたたみかける。
そしてクリティカル攻撃で大幅に体力ゲージが減っていたこともあり、あっという間にフライアントを倒しきることが出来た。
「次、ソードフライだ」
「あっちはもう攻撃態勢に入っているな。気をつけるんだ」
いつの間にか地上から飛び立ち高度を上げていたソードフライ。
メイランが注意を促した直後、飛ぶために羽ばたいていた羽をピタリと止め、滑空体勢にはいった。
「くるぞ!」
俺はタイミングを見計らって左へと柔道の前回り受け身のように回避する。
メイランは双剣を“X”のように交差させ防御を固めた。
そしてガギンッとメイランの双剣と、ソードフライの羽がぶつかりあい一瞬火花が散った。
だがお互いにダメージが入ることはなく、ソードフライはメイランの脇を通り抜けそのまま森の奥へと飛んでいこうとした。
逃げるつもりである。
「逃がすかっ、《ファイアアロー》!」
俺はすかさず《ファイアアロー》を放つ。
この魔法には精度こそ悪いが追尾機能が付いている。
だが木と木の間を縦横無尽にジグザグに飛ぶソードフライの軌道について行けず、最後には関係ない木に命中し小爆発を起こした。
そしてソードフライはその姿を消してしまう。
「あちゃー。逃げられちゃったか。ごめん、メイラン」
「いや構わない。あれはメタ○スライムみたいな物だから仕方がないさ」
「? よく分からないけど、ありがとう」
ソードフライが逃げたことで戦闘が終わり、ドロップアイテムのウィンドウが表示される。
俺とメイランは戦利品を確認していたのだが、森の奥から何やら複数の話し声が聞こえてきたことでそれを中断した。
「今声が聞こえたよね。しかも何人かの話し声」
「イオにも聞こえたか」
一応警戒しつつ声の聞こえた方へと向かってみる。
すると少し離れたところを行く四人の人影を見つけることが出来た。
お読み頂きありがとうございます。
先週は投稿エラーがあり投稿出来ず、申し訳ありませんでした。
やっぱりバックアップは大切だと学んだ一件です。




