69.「こいつの攻撃で十分だ」
週休二日?お盆休み?夏休み?
……羨ましいですね。
「くっ、すまない! そちらに一体抜けてしまった。気をつけてくれっ」
「了解した! 《ファイア》!」
前方でモンスターと戦っていたメイランから注意しろと声をかけられたが、まず俺は俺の相手を片付けることに集中する。
俺の火魔法は狙い通りに目標を捉えた。
「よし次だ!」
俺は次にメイランの攻撃をかいくぐってきたモンスターと相対する。
俺とメイランが戦っているモンスター達は、《トレント》という名前のモンスターだ。
見た目がまるっきり樹木の様で、注意深く観察しないと近づくまでそれがトレントだとわからない。
現に今の俺達は気付かないうちに複数のトレントが擬態し、待ち伏せしていたと思われる場所に足を踏み入れてしまい交戦状態に突入した。
「こんな事なら私も【火魔法】を習得しておくべきだった」
「《ファイア》! ――仕方ないさ。今は手持ちのスキルで何とかするしかない」
「ああ、わかっている、さっ!」
こちらに向かってくるトレントに向かって再び《ファイア》を放つ。
見た目が樹木であるためなのかこのモンスターは【火魔法】にめっぽう弱いようで、俺の《ファイア》が面白いように大ダメージを与える。
そして自分の体に付いた火に悶えるトレントの背後から、すかさずメイランが双剣を叩きつけトドメを刺した。
「あと何体いるんだっけ?」
「あと三体いる。気をつけてくれ」
「心配ないよ。それに危なくなったら予定通り逃げればいいさ。幸い、こいつらの移動速度は遅いから簡単なはずだしね」
最初にいたトレントの数は七体だった。
普通に考えれば二人しかいない俺達が三倍以上の数の敵と戦うのは無謀すぎる。
だが俺とメイランはこのイベントの敵について様々な情報を手に入れるため、あえて不利を承知で二対七の戦いに挑むことにした。
その時、『危なくなったら一目散に逃げる』という事にしておいたのだ。
「このトレントは魔法がないと少々厳しい相手だな。私の双剣のような軽い武器では尚更物理ダメージが入りにくい」
「ただ動きが遅いのと攻撃方法が単純だって事が救いだね。これなら魔法が使えなくても時間さえ掛ければ簡単に倒せそうだ」
「今の私達のように油断して囲まれなければ、という前提が付くだろうな」
「あ、あはは」
俺と合流したメイランと軽く話をしている間も、残った三体のトレントは徐々に近づいてきていた。
ただトレント達の移動方法が木の根を使って、虫のように歩く方法なので実にゆっくりとしたスピードのため、慌てる必要はない。
さらに攻撃方法も木の根を使った近中距離の刺突だけで、遠距離攻撃は一切してこないため、木の根の届く射程圏内から離れてさえいれば攻撃されることもなかった。
「しかし……こいつらは本当に《トレント》なのだろうか」
「ん? どういうこと?」
俺は偃月槍を向かって来るトレント達に構えつつも、横に並び立つメイランの方を見る。
「いや、私はこの“∞”意外のゲームをプレイした時にも《トレント》というモンスターはいた」
「うん、それで」
「そのトレント達は木の幹に目や口のように見える穴やヒビがあったり、手のように使える枝や葉や木の実を飛ばす遠距離攻撃もあった」
「へえ、全然この“∞《エンドレス》”のトレントとは似てないね」
「まあこのゲームではこういう設定というだけなのだろう。気にしないでくれ――さあ、残りを片付けてしまおう」
ある程度までトレント達が接近してきた。
メイランはその艶やかな髪を翻し、口元には微笑を浮かべながら両の手にそれぞれ一振りずつ剣を握りしめ、身を屈めながら走り込んだ。
その様子、姿は森には行って間もない頃のあの姿とはまるで別人のようで、思わず俺は戦闘中にもかかわらず見入ってしまう。
「……って! 俺もっ」
すぐ我に返った俺は偃月槍を振りかぶりながらメイランに続いて前進する。
先を行くメイランは一人で三体のトレントに狙われるが、トレントの木の根が届く範囲ギリギリのところで急激に方向転換あらぬ方向へと向かう。
メイランに狙いを絞っていたトレント達は当然その後を追った。
「こっちにも敵はいるんだぞっ! 《大車輪》!」
メイランを追うトレントの最後尾にいた一体目掛けて俺は《大車輪》をくらわせる。
片足を軸に体をコマのように回転させ、一度目の回転でトレントの表皮を削り、二度目の遠心力が乗った回転で削った部分をさらに広げ抉るように偃月槍を振り切った。
そして俺は素早く後方へと飛び退く。
俺の攻撃をくらったトレントにはあまりダメージが入っていなかった。
そしてトレントは一瞬体を硬直させ移動をやめると、メイランを追うことをやめ今度は俺の方に向かってきた。
メイランを追っていた方がもしこのトレント達にとって体の正面なのだとしたら、背面を見せたまま後退するような格好だ。
「こっちに一体引き付けたっ、危なくなったらすぐ言ってくれ!」
「了解したっ」
俺に向かって来るトレントの向こう側では、メイランは素早い動きで残る二体のトレント達を翻弄している。
さっきメイランも言っていたが、物理的な攻撃でトレント達を倒すのには骨が折れる。
双剣を使うメイランなら尚更だ。
なのでトレント達の弱点と思われる【火魔法】を使える俺が、一刻も早くここを片付けメイランの方に向かわなくてはいけない。
「《ファイア》!」
トレントが俺の元に辿り着く前に《ファイア》を叩き込む。
愚直に真っ直ぐ向かって来るトレントはいい的だった。
「――やはりこのトレント達はイオの【火魔法】に反応しているようだ! こちらの二体もイオの方へ向かおうとしているっ」
「わかった! こっちをなるべく早く片付けるから、気を引けるだけ引いてくれっ」
俺の《ファイア》が当たったトレントの体力ゲージは、《大車輪》をくらわせた時よりも多く減った。
体に火が付いたトレントはジタバタと木の根をうねらせている。
そしてメイランの方にいた二体のトレント達は、どういうわけか突然メイランに向かって行くことをやめ、俺の方へと向かい始める。
この不可解なトレントの行動変更は今まで戦闘中に何度かあった。
その行動についてメイランの推測は『【火魔法】を使う相手を優先的に倒そうとしているのではないか』とのことだ。
「これで終わってくれっ、《ファイア》!《ファイア》!」
今度は二発を続けて放つ。
表面に火が付いていたトレントに立て続けに命中したそれは、小爆発を起こし火を吹き飛ばしてしまった。
だがトレントの体力ゲージはもう残り僅かで、さらに時間経過によって徐々にダメージを受けている。
どうやら火傷による状態異常ダメージのようだ。
「これならこいつの攻撃で十分だ。《二段突き》!」
俺は偃月槍を両手で握りしめトレントの表皮が真っ黒に焦げ、木炭のようになっている箇所に狙いをさだめ素早く突き出す。
繰り出した矛先は狙い通りの場所に突き刺さり、一度目の突きでトレントの体の奥深くまで突き刺さり、二度目の突きではとうとう貫通した。
体に風穴が空いたトレントはピタッと動きを止めると、ゆっくりとその体を傾けていく。
そしてズズンと思い音を立て地面に横倒しとなると、光の粒子となって消えていった。
「今度はお前達だ。メイランっ、まず左のやつから片付ける! 《ファイアアロー》!」
俺に向かっていたトレント二体は、それを邪魔するメイランの攻撃を何度も受け、再びターゲットをメイランへと移していた。
俺とトレントの一対一の状況を作るため、頑張ってくれているメイランには感謝してもしきれない。
ゆっくりと移動しているトレントに、俺の放った《ファイアアロー》が命中する。
また俺に向かってこようとするトレント達だが、一体はメイランが食い止めてくれた。
あとはトレントの攻撃に注意しながら攻撃するだけでいい、簡単な仕事だ。
俺は所持品からマナポーションを取り出し、魔力を回復させると再び魔法を放った。
お読み頂きありがとうございます。
なんだかトレント戦は簡単だと感じたかもしれませんが、これには一応わけがあります。
どういうわけなのかは秘密です。
次回もなるべく一週間くらいで投稿出来たらいいな……。




