68.「あと……ありがとう」
ラブコメ?回
※誤字修正8/24
男性プレイヤーから【夜目】スキルという良い情報を手に入れた俺は、すぐにメイランの元へと近づいた。
「メイラン、なあちょっと聞いてくれないか」
「……な、んだ」
地面に腰を下ろし立てた膝に顔を埋めていたメイランが、俺の声に反応して頭を上げる。
メイランの顔には苦悶の色が見え隠れしていた。
「メイランは暗いのが苦手なんだろ? さっきプレイヤーの人にいい事を聞いたんだ。上手く行けば暗いところでも大丈夫になるかもしれない」
「本当、か?」
「ああ。何でもこの森の奥の方、暗くなってる場所を見続けていると【夜目】っていうスキルが手に入るらしい。効果は文字通り暗いところでもよく見えるようになるそうだ」
俺は意気揚々と話したのだが、メイランの反応はいまいちだった。
「けど、それはどのくらい時間が掛かるんだ」
「いや、そこまでは聞かなかったけど。教えてくれたプレイヤーの人も『一定時間』ってしか言ってなかったな」
「じゃあ……どのくらい掛かるかわからない間、暗闇を見続けないといけない、のか……」
言い切った後、メイランはガクッと再び膝に顔を埋めてしまう。
どうやら俺が思っていたよりもメイランの暗所恐怖症?は酷かったようだ。
「でも、いつまでもこうしているわけにもいかないだろ? 少しだけ頑張ってみないか」
俺には今のメイランの本当の気持ちはわからない。
もしかしたら今の台詞だってメイランからしてみれば『人の気も知らないで』と、酷いことを言ってしまっているのかもしれない。
でもさっき言ったようにこのままというわけにもいかないことも事実だ。
今はメイランに我慢して頑張ってもらうしかない。
「――わかった」
それから数分メイランは動きを止めていた。
俺もそれ以上声をかけることはせずジッと待っていたのだが、メイランが小さく『わかった』と呟くとヨロヨロとその場で立ち上がった。
「いいかい、さっきも言ったけど森の奥の方を見るんだ。特に暗くなってる場所があるからそこを見ると良いらしい」
「う、うむ」
そう言いつつ俺は目的の場所を探してみる。
すると木々が生い茂る視線の先の方に、他よりもいっそう暗い空間が木々の隙間から窺うことが出来た。
俺はその場所を見つめながら指を伸ばす。
「ほら、たぶんあの場所なんか良いんじゃないかな。他よりも黒って感じがする場所」
メイランにも俺が見つけた件の場所を教えてあげる。
返事こそ無かったが頷いて反応して見せたようなので、それ以上話すことをやめスキル習得のためにジッとアナウンスが流れるのを待つことにした。
「………」
「………」
俺とメイランの間に会話はない。
ただ時折吹く風や、その風で揺れ擦れる葉の音だけが耳に入ってくる。
「……ん?」
ふと、俺の左腕の方から何かに引っ張られるような感覚がした。
なんだろうと暗い部分から目を離し違和感を感じた箇所を見てみると、メイランの右手の指が俺の左腕防具の隙間から覗くインナーを摘んでいるのが見て取れた。
「どうした? もう【夜目】習得出来たの?」
「いや、そうじゃないんだ」
俺が話しかけるとメイランはインナーから手を離し、視線を俯かせながら体を揺らす。
「俺もまだだよ。一定時間見続けるってどのくらいなんだか」
「その、イオっ! 頼みが、あるんだが」
メイランは視線を上げ頼みがあると言ってきた。
だがその言葉も尻すぼみに小さくなっていく。
「頼みって?」
いつもよりも何だか体が小さく見えるメイラン。
俺は頼みを聞く聞かないも内容によると、先を促した。
「【夜目】を習得するために、暗い箇所を見続ける間。……その、こうしていても、いいだろうか」
そう言うとメイランは右手を伸ばし、俺の左手の小指を掴んできた。
俺はその突然のことに驚いて固まってしまった。
「え? いや、え?」
「頼む。こうしていれば幾らか暗くても平気になるんだ」
「んと、まあ、いい、けど?」
「すまない。あと……ありがとう」
「ど、どういたしまして?」
俺達は再び森の奥へと視線を向けた。
ただ先程までと違いメイランは俺の小指を握っていて、俺は変則的な形ではあるが女性と手を繋いでいるという事実に緊張し、体がカチコチに固まってしまっていた。
しかもメイランはわざとなのか不規則に手に力を入れ、ギュッギュと握り直してくるのでそのたびに俺も僅かにビクッと体を反応させてしまった。
――――――。
――――。
――。
ポォーーン。
《イベント限定スキル【夜目】の習得条件を満たしました。スキルを習得しますか? Yes/No》
それからしばらくすると、頭の中に聞き慣れたアナウンスが流れウィンドウが目の前に現れた。
どうやらようやく【夜目】スキルが習得出来るようになったらしい。
迷わず俺はYesをタッチする。
「えっと、俺の方は今習得条件満たしたってアナウンスがあったんだけど、そっちはどう?」
「私もちょうど今習得出来たところだ」
メイランは俺の小指から手を離すと、ステータス画面を呼び出し操作し始めた。
さっそく【夜目】スキルをセットするつもりなのだろう。
一刻でも早く暗い視界を何とかしたかったようで、その指捌きはかなりのスピードだった。
そんなメイランに続くように俺もステータス画面からスキルの習得をすることにした。
このゲームではスキルは八個までセット出来る。
ただ所持出来るスキル自体に上限はないため、いつでも好きなようにスキルを入れ替えることが出来るので、俺は今手に入れた【夜目】と今回使いどころがなさそうな【薬師】スキルを入れ替えることにした。
《【薬師】スキルと【夜目】スキルを入れ替えようとしています。よろしいですか? Yes/No》
俺はYesをタッチしスキルの入れ替えを完了すると、ウィンドウを閉じメイランの方へと振り返った。
するとそこには先程までの弱々しいメイランの姿は嘘のようにいなくなっており、いつもの凛々しいメイランの姿があった。
「イオもスキルのセットは出来たのか?」
「あ、うん。出来たよ」
「そうか。それにしても【夜目】スキルは凄い効果だな。ついさっきまで暗くて見えなかった森がまるで昼間のように見渡せるぞ」
そう言われて俺も気が付いた。
あれだけ暗かった森が今は少しだけ薄暗い森へと早変わりしている。
ただ頭上の木の葉の隙間から少しだけ顔を覗かせていた、日の光の方を見てみると眩しくて仕方がなくなっていた。
もしかしたら【夜目】スキルとは、映画などで軍隊が使っている暗視ゴーグルのように、少しの光を増幅して視界を得るのと似たような物なのかもしれない。
「メイラン、あのさ」
「さあ行こうかイオ。いつどこでモンスターが現れるかわからないから、注意して進もう」
「そうだね。気をつけていこう。それでさ、さっきまでの」
「それでは私が先行しよう。イオは後方の警戒を頼む」
早口に捲し立てるとメイランはスタスタと歩いて行ってしまった。
もしかしたら俺がさっきまでの怖がりようについて、探りを入れてこようとしていると勘違いさせてしまったのかもしれない。
俺はたださっきまでのことは気にしなくていいと、伝えたかっただけだったのだけど。
「ちょっと待ってくれよ」
「は、早くするんだ」
俺はそれ以上この話題に触れることをやめ、槍を片手にメイランの背中を追った。
そして少し先で待っていてくれたメイランに追いつき目にしたものは、耳まで真っ赤に染めたメイランの横顔だった。
お読み頂きありがとうございます。
この更新で戦闘に突入するつもりだったのですが、そこまで辿り着けませんでした……。
なんちゃってラブコメ回。
次話から戦闘シーンに入ります。




