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67.「怪しいもんじゃないんでっ」

なんとか今日中に書き上がりました><;

 

 

 

 イベント開催地である森の入口には異様な光景が広がっていた。

 森の木々は以前よりも太く高く伸びていて、通常の二倍ほどまで成長している。

 さらに元々薄暗かった森の中もどんよりとした空気が流れていて、木々が生長した影響なのかさらに暗くなっていた。

 少し離れた場所にはいつも通りの様子を見せる森も見えているため、このイベント用に用意された森の異様さが際立っているようにも思える。



「これは……」



 その様子を一緒に見ていたメイランが小さく呟く。

 俺にもその気持ちはわかる。

 まさかここまで森の様子が変ってしまうとは思っても見なかった。



「よっしゃあ! じゃあ行こうぜっ」


「あいよ」


「なあ、俺ポーションちょっと少なかったからさ、危なくなったら分けてくれよ」


「はあ? なんで前もって準備してこないし」



 森の入口で立ち尽くしていた俺達の脇を、プレイヤーが数人大きな声で会話をしながら通り過ぎていく。

 きっと彼らもPTを組んでイベントに挑もうとしているのだろう。

 彼らだけではなく、その後もひっきりなしに森に入っていく、森から出てくる人影が往来していた。



「――じゃあ行こうか。準備は出来てる?」


「っ!?」



 俺はメイランの肩を軽く叩いて声をかける。

 するとメイランは体をピクッと反応させ体が小さく跳ねた。



「あ、ああ……問題無い。問題なんか……ない」


「? そうか。とりあえずここにいても始まらないから、森に入ろう」



 何故か反応が鈍いメイランに少し疑問を覚えつつも、俺が歩き出すとその後ろを付いてくるので深く考えることもなく、森へと端を踏み入れた。



 ――――――。

 ――――。

 ――。






 森に足を踏み入れると、俺達はさっきまでいた入口とは違う場所に突然飛ばされた。

 マップを開いて確認してみると、今立っている場所に矢印のマークが付いている。

 おそらくここが森に出入りするための場所だという印なのだろう。

 俺達が今いる場所以外のマップは黒く塗りつぶされていた。



「ああ、そうか。自分で確かめたところしかマップには表示されないんだったか。じゃあまずはマップを埋めようか。………ん? メイラン?」



 俺が話しかけても帰ってくるはずの声が返ってこなかったことに疑問を覚え、メイランが立っている場所に目を向けてみると、そこには地面にしゃがみ込んでいたメイランがいた。



「どっ、どうした!? 具合でも悪くなった!?」



 俺は慌ててメイランに駆け寄る。

 だが調子が悪いのであれば下手に体を揺らすのも危ないと思い、すぐ側まで寄って声をかけるだけに止めた。



「――は―――だ」


「え? 何? ごめん、よく聞こえなかった」



 メイランは何か離しているのだが、声が小さいのと顔が俯きがちになっているためよく聞こえなかった。

 だが唇が動いているのは見えるので何か離しているのは間違いない。

 俺は今度は聞き逃さないようにと耳をメイランの方に向け、頭を傾けて耳の神経に集中する。



「暗いところは、私……苦手なんだ」


「暗いところ?」



 その言葉を聞いて俺は周りを思わず見渡した。



 確かにこの森は日の光が殆ど差し込んでいないため暗い。

 だが全く何も見えないような暗さではなく、田舎の街灯がない場所で月や星の光がある程度には周囲を確認することが出来ている。

 正直なところ俺にはそんなに暗いとは思えなかった。



「でも俺と一緒に今までも森に入ってモンスターと戦ってたじゃないか。あの時の森だってこの森程ではなかったけど、暗くなかった?」


「前の森程度なら、我慢出来る。けど、この森は暗すぎる」



 メイランは普段とは正反対な力のない声でそう言ったあと、とうとう頭を抱え込んでしまった。

 俺はこの後どうするべきなのか悩んでいた。



 メイランのことを考えるならいったん森を出た方がいいのは間違いない。

 だが、俺とメイランは今ガルムさんからの指名依頼を受けてこの場所に来ている。

 俺だけなら何とかなるかもしれないが、『メイランと一緒に』依頼を受けている以上、二人で目標を達成しないといけない。

 


「どうしたもんか」



 その時だった。

 近くの草藪から微かにガサガサと草をかき分けるような音が聞こえてきた。



「モンスターか? ったく、こんな時に」



 俺はメイランを背後に庇うような位置に立ち、偃月槍を手に取ると草藪に矛先を向け構える。

 


「……来るならこいっ」



 ガサガサという物音が次第に大きくなっていく。

 そして目の前の草藪が目に見えて大きく動いたかと思うと――そこから男性プレイヤーがひょっこり顔を覗かせた。



「――え?」


「は? って! ちょ、ちょっと待った! 俺はその、怪しいもんじゃないんでっ、武器を下ろして下さいっ!」



 男性は草藪から全身を露わにすると、両手を空高く上げてホールドアップのポーズを取る。

 俺もモンスターだと思っていた存在がプレイヤーだったことに驚きつつも、慌てて偃月槍を背中に背負い直した。



「すみませんでした。物音がしたのでモンスターかと思って」


「ああ、いえ。俺の方こそすみませんっした」



 俺と男性プレイヤーは互いに頭を下げる。

 そしてそこでふと気付いた。

 今のメイランの姿を見ず知らずの人に見せるのはどうかと。

 幸いにして俺と男性の立ち位置に加え、メイランがしゃがみ込んでいた事もあって男性からはメイランが見えていないようだった。



「あの、驚かせてしまったところ申し訳ないんですけど、俺以外のプレイヤーって見かけませんでした?」



 俺が背後の心配をしていると男性が話しかけてきた。

 どうやらメイランにはまだ気付いていないらしい。

 もし気が付いていたらメイランの様子を見て、何かしら質問してくるはずだったからだ。

 俺は男性の注意が背後に行かないようにすかさず言葉を返す。



「えっと、実は今さっき初めて森に入ってここに飛んで来たばっかりなんで、あなた以外のプレイヤーは見てないんです」


「あ、そうだったんですか。実は俺、PTメンバーとはぐれちゃって。いや、実際にはPTメンバーの方が勝手にどこかに行っちゃったんですけど……」



 そこまで言うと男性は何故かがっくりと肩を落とし、暗い顔で『ハハハ』と棒読みな変な笑い声を上げた。



「コールは使って見たんですか? それじゃなくても、PT間で似たような物が使えませんでしたっけ?」


「ああ知らないんですか。この森の中ではコールとかチャットとか、とにかく離れた場所にいる人と連絡を取る手段が使えなくなってるんですよ」


「そうだったんですか」



 思わぬ所で重要な情報を得ることが出来た。

 俺もメイランとはぐれないように注意しなければ。



「ちなみにPTメンバーの人ってどんな人ですか? 見かけたらあなたが探してたって伝えますよ」



 俺は男性にそう提案してみた。



「えっと、全部で四人、全員男なんですけど。銀髪オールバックの軍人、チャライ赤髪詐欺師、息が荒いケモナー、自称“∞”世界の神、です」


「………」



 この人は一体何を言っているんだろうと本気で心配してしまった。

 だが男性の様子を見るに嘘や妄想を言っているとは思えない。

 俺はこの男性にこれ以上関わってはいけないと思い、早急に話を切り上げることにした。



「わ、わかりました。もし見かけたらあなたが探してたって伝えます」


「そうですか! ありがとうございます」



 男性は実にいい笑顔を俺に向けてくる。

 そして『それじゃあ俺は行きます』と言い残し、元来た草藪の方へと向かいその場を後にしようとした。

 ――のだが、途中で足を止めたかと思うと俺の方へと戻ってきた。



「あの、初めてこの森に入ったって事は【夜目】も習得してないですよね?」


「【夜目】?」


「その様子だとまだみたいですね。普通にこの森の中で活動していると習得出来る、イベント限定スキルなんですよ。スキル名で一目瞭然ですけど、暗いところでもハッキリ視界が取れるっていうスキルです」



 俺は男性の話を聞いた瞬間、これだと思った。

 暗いところでもハッキリと見えるようになれば、メイランも調子を戻せるかもしれない。



「スキルの習得条件は簡単です。森の奥の方を見て下さい。特に暗くなってる場所があると思うんですけど、そこを一定時間以上見つめ続けると習得出来ますから」


「そうですか。親切に教えてもらって、ありがとうございます」


「いえいえ、こっちこそ。じゃあ今度こそ俺は行くんで、じゃあ」



 男性は軽く手を上げて挨拶すると草藪へと姿を消した。




お読み頂きありがとうございます。


今回登場した男性プレイヤーですが、実は第4話でちらっと登場しているプレイヤーという設定です。

他にもこの男性のPTメンバー4人も出てきてました。

いつかもう一度登場させようと思っていましたが、ようやく達成出来きて満足です。


次話から戦闘回に入る予定です。

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