66.「森へ向かおう」
8月最初の投稿です。
熱中症にご注意を。
装備を整え終えた俺とメイラン。
パーティを組み終えガルムさんの鍛冶屋を後にした後は、寄り道することもなくイベント開催地である森に向かうため一番近い門へと向かう。
「それにしても、やっぱりみんな今回のイベントに参加するんだな」
「それはそうだろう。なにせこのゲーム初の公式イベントなのだからな。本気で結果を残そうとする者やただ単に参加してみようという者まで、かなりの人数が今この街に集まっている」
誰に話しかけるでもなく呟いた独り言だったが、隣を歩くメイランには聞こえたようで返事が返ってきた。
通りには門に近づくにつれて俺達と同じように完全武装と言っていいプレイヤーや、何故か同じく完全武装のNPC達の姿がチラホラ見え始める。
恐らくこのプレイヤー達はイベント【森の中の死闘】に参加するつもりなのだろうが、NPC達も向かう方向から推測するに森を目指しているのだろうか?
「NPCの人達も森を目指してるみたいだけど、イベントに参加するつもりなのかな?」
「いや、NPCはイベントとは別にギルド(正式名称:クエスト発行所)からジェノザウルスの調査依頼のクエストが出ている。今私達と同じように森を目指しているNPC達はその依頼を受けた者たちだろう」
せっかくなのでメイランに質問してみると、あっさり答えがわかった。
「そうだったんだ」
「鍛冶屋に向かう前にギルドに行ったではないか。その時掲示板に目立つように掲示されていたぞ。気付かなかったのか?」
「う、うん。なんかごめん」
そう言われてみればなんだか掲示板の前に人だかりが出来ていたような気がする。
自分には関係ないことだと思っていたので全く気にも留めていなかったが、メイランはちゃんとチェックしていたようだ。
「別に謝る必要はない。それより早く行こう」
メイランはそう言いスタスタと先に行ってしまった。
俺は慌ててその背中を追いかける。
さっきまでは横に並んで歩いていたが、今は俺がメイランのやや斜め後ろを付いて歩くような形となっていた。
「―――ん? あれって」
「どうかしたのか、イオ?」
「いや、知り合いがいて………おーいっ、ドラン!」
俺は少し離れた場所でジッと立っていたドランを見つけ、少し大きめに声をかけながら手を振りつつドランに近づいて行った。
そんな俺にドランもすぐ気が付いたようで、軽く手を上げこちらに歩いてきた。
「イオじゃないか。お前もジェノザウルスの調査に行くのか」
「まあそうだね。というか、お前『も』ってことはドランも?」
「ああ。森は俺の仕事場でもあるからな。不安要素は早いうちに何とかしたい」
ドランは眉間に皺を寄せ強い口調でそう言い、顔の高さまで持ち上げた右手の拳を力強く握りしめた。
「ドランとやら、少し落ち着いたらどうだ。あまり気負いすぎては本来の力は発揮出来ないぞ」
「ん? ……そういえば、あんた誰だ? イオの仲間か」
「今はイオとパーティを組んでいる。メイランだ、よろしく頼む」
「俺はドランツェ=スカットンだ。よろしく」
ドランとメイランはお互いに手を差し出し握手する。
二人はグッと握る手に力を入れてから手を離すと、相手の頭からつま先まで観察するように視線を上下させた。
「ドランツェ殿は見たところ斧を使うようですが」
「見ての通りだ。俺は木こりでもあるから戦闘には剣なんかより使い慣れたこいつの方が都合が良い」
メイランに指摘されたドランは、背中に背負っていた大きな斧を片手で軽々と持ち上げてみせる。
この斧には俺も見覚えがあった。
フォートの街からここヴァイスの街までやってくる時も使っていた得物だ。
普段から使っているためなのか斧には無数の傷や、落ちそうにもない汚れがこびり付いていたが手入れが万全のようで、太陽の光を受け刃の部分が鋭い輝きを放つ。
「そういうあんたは剣を二本もぶら下げてるな。二刀流か?」
「私が使うのは双剣だ。ドランツェ殿の斧のように一撃における威力はないかもしれないが、手数でなら負けるつもりはない」
「それは比べるまでもないことだろう。そもそも土俵が違う」
メイランが口角を上げ不敵とも取れる笑みを浮かべつつ、腰から鞘ごと双剣を手に取りドランに見せつけるように差し出すと、ドランは苦笑しながら肩を小さく上下させた。
何も知らない人が傍から見てみると二人の間には、不穏な空気が漂っているように見えていたかもしれない。
なにせガタイがいいマッチョな大男が大きな斧を見せびらかす一方で、目の前の見目麗しい騎士風の女性はそれに対するように双剣を取り出したのだから。
実際数人の通行人やお店の店員が足や仕事の手を止めこちらを窺っていた。
だが一番近くでその様子を見ていた俺は、二人が単にお互いのことを知ろうとしている過程の会話でしかないように感じていた。
ただ俺も何も知らなかったら一触即発な現場を連想していたかもしれない。
「あと俺の事はドランでいい。殿もいらん」
「では私のことも“あんた”ではなくメイランと呼んでもらおうかな」
「ふっ、わかった。――では改めてよろしく頼む、メイラン」
「こちらこそ、ドラン」
メイランとドランは再び握手をするため斧と双剣を戻し、最初よりも深く握る握手を交わした。
そしてそれを見た周りの人達は二人が平和的に会話で和解したと思ったのか、ホッと溜息を吐いてそれぞれの講堂へと戻っていった。
「ところでドランはクエストを受けて森に行くんだよな?」
「そうだ」
俺はドランに聞いてみた。
見たところドランは一人だ。
俺がジェノザウルスの情報をギルドへと持ち帰った時の、職員の人の反応を見るにジェノザウルスはかなり危険なモンスターだと思う。
ドランが強いのは俺も知っているが、いくら何でも一人でクエストを受けるのは危険だ。
そこで俺はドランをパーティに誘ってみることにした。
「クエストはドラン一人で受けるつもりなのか? もしそうだったなら俺達とパーティを組んで一緒に行かないか」
「いや、クエストは俺もパーティを組んで受けるつもりだ。さっきも遅れてるパーティメンバーを待っていた―――と、噂をしていたら来たようだ」
会話の途中でドランは俺の背後に目をやったと思ったら、手を上げ軽く振り出した。
俺も釣られて背後を振り返る。
するとそこには見慣れた人物が手を掲げながら近づいて来るところだった。
「遅いぞリック。何をやってたんだ」
「ごめんドランっ、ちょっと調合に手間取っちゃって……って、イオじゃないか!」
「ああそうか、ドランがパーティを組む相手なんて決まってたよな」
「おい、イオ。その言い方は何だか失礼だぞ」
やって来たのはリックだった。
その他にも近づいて来る人影があったがその人達の顔も見覚えがある。
人影は全部で四人分で全員ドランの実家の工場で働いていた職人の男性NPC達だった。
「イオも今回のクエスト受けたのかい?」
「いやまあ、俺達はクエストを受けたわけじゃないんだけど、別件で用事があるから森には入るつもりだ」
「そっか。もしかしてそっちの騎士の人と一緒に?」
「ああ、二人でパーティを組んでる」
俺とリックが話をしている少し離れた場所では、職人達がメイランを取り囲んで浮かれた様子で話しかけていた。
きっとメイランの美貌にやられてしまったのだろう。
その場にはドランもいるので特に助けに入る必要もなさそうだ。
「そっか、二人なのか。それって大丈夫なの?」
「メイラン――あの女性の名前なんだけど、彼女はかなり強いからな。ジェノザウルスとはまだ戦ったことはないけど、それ以外の森に出るモンスターなら二人で勝てるから無理しない程度にやってみるさ」
「それでも、危ないと感じたらすぐに逃げないとダメだよ」
「ああ、わかってるさ」
俺はリックの忠告を胸に刻んだ。
「それはそうとイオ、全然僕の店に顔を店に来てくれないじゃないか。色々やることもあるんだろうけど、トーラスくん共々、僕もイオが遊びに来てくれるのを待ってるんだからね」
「そういえばまだ行ってなかったな。じゃあ今度遊びに行くよ」
「うん、わかった。その時は調合について教えてあげるから楽しみにしててくれ」
リックと世間話に花を咲かせているとドラン達がこちらにやってくる気配がした。
その気配の方を見てみると、そこにはいつもと変らないメイランと少し怒った様子のドラン、そして頭にアニメや漫画に描かれるようなタンコブを作った職人達が立っていた。
なんでそんなことになったのか―――は、大体想像が付くので割愛する。
「じゃあ俺達はそろそろ行く」
「わかった。気を付けてな、ドラン」
「ああ。行くぞ、リック」
「わかったよ。じゃあまたね、イオ」
「「「「失礼します……」」」」
ドランを先頭に六人は門へと歩いて行ってしまった。
イベント期間中の森は特異空間となっているため、ドラン達のパーティと遭遇する可能性は低い。
もし出会ったらパーティ同士で協力し合うのもいいかもしれない。
「では私達も森へ向かおうか」
「そうだね」
ドラン達の少し遅れて俺とメイランも門を潜った。
そして森まで延びる街道を歩いて行く。
道中モンスターが襲ってくる事があるのだが、今日はこの街道を歩く人が多いため出てくる度にすぐ倒されてしまう。
そのため俺達は一度も戦闘をすることもなく、無傷で森の入口まで辿り着くことが出来たのだった。
お読み頂きありがとうございます。
次話からはいよいよ森の中に入ります。
戦闘があるかどうかはまだ未定です。




