63.「黙っていてはわからないわよ~」
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「あら~? そちらにいるのはもしかしてイオさんじゃないですか~。どうも、お久しぶりですね~。お元気でしたか~」
「どうも、マリエルさん。まあ元気だったよ」
「そうですか~。それはなによりです~」
相変わらずマイペースなマリエルさん。
その間延びした口調は以前会った時から今に至るまで健在だった。
「マレットちゃんも久しぶりだね」
「っ! ……こ、こんにち、は」
俺はマリエルさんから視線を横にずらし、マレットちゃんに挨拶してみた。
マレットちゃんは男性恐怖症だと聞いていたので、挨拶が返ってくることはないと思っていたのだが、俺のその予想は外れ小さい声だったが確かに『こんにちは』と返事をしてくれた。
失礼だと思うがこれには驚いてしまった。
ゲームを通じて男性恐怖症の症状が少し改善されたのだろうか?
「まあ、すごいじゃないの~マレット。男の人に挨拶出来るなんて」
どうやら俺だけでなくマリエルさんも今のことに驚いたようだ。
少しだけ目を大きく開いて隣に立つマレットちゃんを見ていた。
「こ、この人は、シャロンさんの、お兄ちゃんだから」
「全く見ず知らずの男の人よりはマシってこと~?」
「(コクコクコク)」
マレットちゃんは首を縦に振って肯定する。
どうやらまだ男性恐怖症は克服出来ていないようだが、俺に対しての以前の態度を思い浮かべるとこれだけでも大きく前進したと思う。
これからも頑張ってもしいものだ。
「イオ、お話中のところ悪いんだが」
「ああ、悪い。つい話し込んじゃってたな」
俺の肩を後ろから軽く叩いてくるメイラン。
「いやそれは構わない。だが、アレを何とかした方がいいんじゃないか? いろいろと注目されているぞ」
「え?」
メイランは右手の親指だけ伸ばしてグットマークを作ると、自分の肩越しに背後を親指で指さす。
そこではいつの間に背後からの拘束を解いたのだろうか、シャロンとエリーザさんは地面をゴロゴロ転がる取っ組み合いへと移行していた。
「大体いっつもいっつも! シャロンは一人でふらーっといつの間にかいなくなっちゃうんだからっ。あなたはネコなの!?」
「そんなことないもんっ! ただ今回はイオが見えたから声をかけただけだしっ」
「声をかけに行く前に私達PTメンバーに連絡の一つでも入れなさいよっ」
「それを言ったらエリーザだって、この間料理人プレイヤーが作ったケーキを買うために並んで、クエストの集合時間に遅刻したじゃん!」
「なっ!? なんでそんなこと知ってるのよっ」
「へへーん。教えてあげませーん」
「きぃいいいい!」
二人はもう子供の喧嘩のようになってあーだこーだと言い合いながら転がる。
そして人の邪魔にならないようにと道の端にわざわざ寄ったにもかかわらず、立ち止まって二人の様子を窺うNPCやプレイヤーが多数いて結果的に他の人の通行の邪魔になりそうになっていた。
さらには野次馬達の中で色々の憶測が飛んでいる。
断片的にだが聞こえてきたのは『男一人』 『痴情の縺れ』 『取り合い』 『ハーレム』 『爆発しろ』だった。
……どう考えても勘違いされている。
そう言えばなんだか周りから向けられる俺への視線に、トゲのような鋭い物が混じっているような気がしないでもない。
これが現実での出来事であったなら、俺は今汗だくになっていたに違いない。
「あらあら~。そちらの方ともお話ししたいところですけど~、まずはあの二人を止めないといけませんね~。イオさんのためにも~」
「? イオのためというのはよく分からんが、止めること自体には賛成だ。このままでは不要な迷惑を住民達に掛けてしまいかねん」
マリエルさんは周囲から向けられる俺への視線の意図をくみ取っていたが、メイランの方は視線の意図までは気付いていないようだ。
二人は動機こそ違うがそれぞれこの事態を納めるため、ひっきりなしにマウントポジションを取り合うシャロンとエリーザさんの元へと向かって行った。
俺とマレットちゃんは少し離れた場所からそれを眺めることにする。
………………。
…………。
……。
~15分後~
「………」
「………」
「二人とも~。何か言うことはないのかしら~? ん~?」
場所は変らず街の外へと出る門近くの通りの道端。
そこには先程まであった俺達の事を見ていた野次馬の姿はなくなっていた。
いや、野次馬どころか一般の通行人すら近づくことはなく、通りは真っ直ぐな一本道にもかかわらず『Ω』や『ひ』の文字のように、避けて通られる空間があった。
言わずもがな、それは俺達がいるこの場所だ。
「黙っていてはわからないわよ~」
「こ、この度はその、大変申し訳なく思っておりまして」
「ご、ごめんなさい」
頬に手を当てながら『うふふ』と笑うマリエルさんの目の前には、地面に正座して謝るシャロンとエリーザさんがいた。
心なしか正座組みの二人の体は震えて見える。
そしてその二人を立ちながら見下ろす笑顔のマリエルさんの背後には、ゴゴゴゴゴという文字が浮かんで見えるようだった。
「ほら大丈夫だ。大丈夫だから離してもらえないか」
「(ブンブンブン!)」
俺の横にはメイランがいるのだが、彼女の腰に抱きつくようにマレットちゃんがしがみついていた。
メイランが説得を試みているが一向に離してくれる様子はなく、首を思いっきり横に振って拒否する。
まあ今のあのマリエルさんの気迫を目の当たりにしてしまったのなら、仕方ないのかもしれない。
そもそも何故このような状況になってしまったのか。
それは取っ組み合いをしていたシャロン達二人を止めようと、マリエルさんが近づいた時のことだ。
先行して声をかけていたメイランだったが耳に入っていないのか、返事をすることもなく取っ組み合いを続けていたので、マリエルさんが強制的に二人を引き離そうと手を伸ばす。
だがこれがいけなかった。
ちょうど良いタイミングでシャロンは杖を、エリーザさんは鞘に入ったままの剣に手を伸ばした。
ここは街の中、つまり中立エリアなので攻撃してもシステムがそれを妨げる。
それは誰でも知っているこのゲームのルールなのだが、頭に血が上っていた二人はそんなことすら忘れていたのだろう。
シャロンは杖で殴りかかり、エリーザさんも応戦するように鞘ごと剣を振るった。
結果は二人の攻撃はシステムの警告音と共に防がれ、杖と剣は磁石の同じ極が反発するようにはじき飛ばされた。
運が悪いことにはじき飛ばされた二人の武器は、近づこうとしていたマリエルさんの方へと向かって行ってしまう。
そして『コーン』という小気味よい音がした。
「「あ」」
自らの手から武器が飛ばされた二人は、動きを止めて同じタイミングで声を出す。
そして同じ方向を見た。
「~~~~っ!?」
そこには両足の弁慶の泣き所(ようは脛)を押さえてピクピクしているマリエルさんの姿が―――。
このゲームは五感が存在し痛覚に関してはかなり押さえられている。
かなり押さえられているが遮断されてはいない。
つまりはそういうことだ。
………………。
…………。
……。
鈍い痛みから回復したマリエルさんは、シャロンとエリーザさんを正座させお説教タイムへと入った。
俺とメイラン、そしてマレットちゃんはどうしたものかと手持ちぶさただったのだが、クルッと突然にマリエルさんが身を翻す。
そして俺達に話しかけてきた。
「すみません~イオさん。ちょ~っと私達時間が掛かってしまいますので、どうぞ本来の目的に戻ってください~」
「え? あ、そ、そうなんですか。わかりました。じ、じゃあメイラン、俺達は行こうか」
「そう、だな。それでは森に行こうか」
「そうしようそうしよう。じゃあ俺達はこれで」
俺はいち早くこの空間から解放されたく、足早に門を目指す。
メイランもマリエルさんから発せられるオーラのごとき雰囲気を感じ取ったのか、俺と同じく足早に移動を始めた。
「(……トコトコ)」
「マレットはここにいるのよ~。あなたは私達のPTでしょ~」
「ふえっ」
俺達の後に続こうとしたマレットちゃんがマリエルさんに捕まってしまった。
背後でジタバタする物音が聞こえた気がしたが、そのまま俺とメイランは門を潜り抜ける。
目指すは森の中。
モンスターと遭遇することがこれ程までに待ち遠しいなんて初めての経験だった。
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以下、登場人物紹介です。
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【エリーザ】
女性。慎ましい体型。十代前半。プレイヤーアバター。
主人公の妹がゲーム内で組むPTメンバー。
アバターネームの“エリーザ”のみ判明しており、現実世界の本名は不明。
勝ち気な性格で妹が現実世界で男性恐怖症ということもあり、男性には容赦がない。
“∞”はゲームを通じてなら実際に男性と接するより、妹の負担が少なく男性恐怖症を改善出来るかもという理由でプレイしているが、過保護すぎて本来の目的を忘れているのでは?と思われる行動を時折見せる。
ちょっと百合気味かつ、重度のシスコン。
自分と同じ戦闘スタイルのメイランを敬愛している。
百合にシスコン併発少女。
ゲーム内では両手に剣を持つ双剣で近接戦を得意とする戦闘スタイル。
【マレット】
女性。お子様体型。十歳くらい。プレイヤーアバター。
前記のエリーザの妹にして、主人公の妹のPTメンバー。
アバターネームの“マレット”のみ判明しており、現実世界の本名は不明。
男性恐怖症で同年代ならまだしも、年上の男性とは目も合わせられない。
原因は現実世界で不審者に襲われそうになった過去を持つため。
現在はよく知った相手なら頑張れば男性とも話せるようになった。
一部のプレイヤー(男女問わず)から人気があり、シャロン達のPTのマスコットキャラ的な存在となっている。
引っ込み思案な女の子。
ゲーム内では魔法を使った回復を担当していて、攻撃手段は殆ど持たない。
【マリエル】
女性。ムチムチ。十代後半。プレイヤーアバター。
シャロン達のPTメンバー。
アバターネームのみ判明しており、現実世界の本名は不明。
服で隠れていてわかりづらいがかなりのプロポーションの持ち主。
間延びした語尾が特徴的な話し方をしていて、PTメンバーの良心(お母さん的立場)。
怒ると得体の知れない威圧感、オーラ、雰囲気を醸し出すことがある。
ゲーム内では魔法を使った見方補助や敵妨害をメインに担当している。
最後までお読み頂きありがとうございます。
次話から森の中に入ってモンスターとの戦闘が始まります。
※活動報告に今後の作品の予定などを書きましたので、もし気になる方はご覧ください。
読まずとも特に作品を読むに当たって不自由はありません。




