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60.「その依頼、受けさせて頂きます」

夜中に蚊による耳元ブーン攻撃を受けます……。

あいつら電気を点けると姿を消しやがる。

 

 

 

「ん? なんじゃ、どこの馬鹿かと思ったらお前さんだったのか。そっちのは初めて見る顔じゃの」



 怒声と共に現れたガルムさんは怒った相手が俺だとわかると、幾らか表情を柔らかくした。

 女性プレイヤーの方とは初対面のようだ。



「すみませんでした。お騒がせしてしまって」


「私からも、誠に申し訳ない」



 俺と女性は揃って頭を下げる。

 その様子を見ていたガルムさんが声をかけてきた。



「何やら事情があるようじゃの。とりあえずここではなんじゃ。奥に入れ」



 それだけ告げるとガルムさんはくるりと回れ右して、店の奥へと続く扉の中へと入っていった。

 俺と女性は一度顔を見合わせるとガルムさんの後に続いて扉を潜る。



 通されたのは前回ここを訪れた時に入った部屋だった。

 ガルムさんが体面上に設置されているソファの一方に座ったので、俺はその反対側に腰掛ける。

 女性もそれに(なら)って俺と同じ側のソファに腰掛けた。

 二人の間にはちょうど人一人分の空間が空けられている。



「それでいったいお前さんたち、何を言い争っておったんじゃ? ちと話してみい」



 先程何があったのか説明するように促してくるガルムさん。

 その視線は俺の方に向けられていたので俺が話せと言うことだろうか。



「じゃあ、俺から説明します。えっと、どこから話せばいいのか――」



 ゆっくりと自分の頭の中でもう一度、事の顛末を整理しながら説明した。

 俺がギルドで伝言を聞いてここを尋ねてきたこと。

 店に入ると隣に座っている女性と、店番をしていた弟子の男性がカウンター越しに何やら話をしていたこと。

 その話の内容が俺が指名依頼を全て終えた時の報酬、【ブルーライトクリスタルアーマー】をどうにか譲ってもらいたいという交渉だったこと。

 ちょうどその場に居合わせた俺が【ブルーライトクリスタルアーマー】の先約だと知り、女性が今度は俺と交渉し始め平行線を辿り、最後にはガルムさんが怒鳴って現れたところまで。



 俺が説明している間、女性は特に口を挟んでくることはなかった。

 ただ時折俺の説明を聞いて頷いていたりしたので、聞いていなかったというわけではないようだ。



「――なるほどのう」



 説明を最後まで聞き終えるとガルムさんはソファの背もたれに体を預けた。

 それまでは座った膝に肘を付けて前傾姿勢で話を聞いていたので、俺達との間の空間が広くなったように感じる。



「そっちの、そうお前さんじゃ。見たところお前さんはそれなりのもんを身につけているようじゃが?」



 ガルムさんが女性の方に話を振った。

 


「確かに、今私が装備しているこの防具もなかなかに良い物かと」


「そうじゃろうな。それはこの街の騎士団が身につけている物と同じ……まあ多少意匠は変っておるが、性能で言えば同じ物じゃからな」



 女性の話し方が高圧的な物から若干変り、話をそこまで横で聞いていて唐突に思い出した。

 隣に座る女性が身につけている防具を、俺は一度見たことがあった。



 ドランとリックと三人でロックベアー討伐の件で騎士団を訪問した際に、事情聴取を担当した女性騎士の一番隊隊長、確か名前はミリアリア=パートンさんだったと思うが、彼女が身につけていた物と同じだったのだ。

 ただ一番目立つスカートの形状と色が違っていたりしたため、今の今まで思い出せなかった。



「これはこの街にやってきて騎士団の仕事を手伝った際、報酬として責任者の方からもらい受けた物で。ただ正規の騎士団の方と全く同じ物だと住民の皆さんに無用な誤解を受ける可能性もあるとのことで」


「それで見た目の意匠を少し弄った、というわけじゃな」


「ご明察です」


「ふむ、お前さんが手を加えたのかの?」


「いえ、私の知り合いにフォートの街で鍛冶師の者がおりまして。これはその者に依頼を」


「そうか」



 ガルムさんは女性を上から下まで眺める。

 こう表現すると嫌らしいように思うかもしれないが、実際にその時のガルムさんの目を見てそんなことは微塵も考えられないはずだ。

 その目は職人の目だった。



 現実世界の方で同じような目を何度か見たことがある。

 きっとガルムさんの目は女性ではなく、自分以外の鍛冶師が手がけた作品(防具)を見ているのだろう。

 しばらくするとゆっくり瞼を閉じ数秒ほど目を瞑り、再び開いた時にはいつものガルムさんの目に変っていた。



「儂の意見を言おう。長々と説明するのは性に合わんのできっぱり言うが、あの防具はお前さんには向かん。じゃからもしお前さんがこっちのイオを説得することが出来ても、儂はお前さんにあの防具を売るつもりはない」


「そんなっ」



 ガルムさんの言葉を聞いて思わず女性はソファから立ち上がる。

 


「何故ですか。あの防具には何か装備するに当たって特別な制限があるのですか?」


「いや、そんなものはありゃあせん」


「でしたら何故私に売ってくれないというのですか」


「逆に聞くがの、お前さんは何故そんなにあの防具にこだわるんじゃ」



 そう問い返された女性は一瞬眉をひそめた。

 だがそれもすぐ影を潜め立ち上がっていた女性はソファに腰掛け直す。

 そしてポツポツと言葉を紡ぐ。



「どうしても、どうしても今度のイベントで活躍しないといけないのです。あいつらを見返すために……。だから、少しでも性能が良い武器や防具が必要なのです」



 最初に出会った時の女性とは違い、今の女性からは弱々しい雰囲気が漂っていた。

 顔も俯きがちになってしまい長い髪の毛が、背中から肩越しに体の前へと流れている。

 イベントというのは十中八九【森の中の死闘】のことだろう。

 


「イベントというのはわからんが、『見返したい奴がおる』のう……」



 ガルムさんはゆっくりと顎を摩りながら何か考え事をしているようだ。

 そして無言が部屋を支配して数分後、ガルムさんが口を開いた。



「そういえばお前さんは伝言を聞いて来たんじゃったな」


「え? あ、はい、そうです」



 俺はいきなり話を振られたため気の抜けた返事をしてしまう。

 隣ではまだ女性が俯いているためそちらも気になる。



「実はお前さんには次の指名依頼について話をしようと思っての、こうして呼び出したんじゃ」


「そうでしたか。それで、次の依頼はどんな物ですか?」


「うむ、それなんじゃが」



 一度そこでガルムさんは話を区切り女性の方を見る。

 そして話の続きを口にした。



「お前さんにはこっちの嬢ちゃんと一緒に依頼をこなしてもらいたいんじゃ」


「――え?」



 女性が小さく声を出し顔を上げた。



「ちょ、ちょっと待ってください。それってどういうことですか?」


「お前さんも発行所に行ったならもう知っておると思うが、森の中でジェノザウルスと思われるモンスターが目撃されたそうなんじゃ」



 当然そのことは知っている。

 なにせその目撃情報は俺が発信源なのだから。



「そして近々大規模な捜索と討伐クエストがあるのじゃが、二人にはそれに参加してもらう。それが儂からの指名依頼じゃ」


「あのっ、ガルムさ――」


「お前さんがこの依頼を達成したあかつきには、あの防具と槍を報酬としてやるつもりじゃ。そして、そっちの嬢ちゃん」


「な、なんでしょうか」




 俺の言葉を無視したガルムさんは、女性に声を掛けると顔を見ながら話を続ける。



「お前さんにはこのイオと一緒に儂の指名依頼を達成したら、儂が防具をこさえてやる。ついでに武器も見繕ってやろう」


「……え」


「どうじゃ? 儂の依頼、受けてみんか」



 二人はそれ以降黙って視線を合わせる。

 一人蚊帳の外になってしまった俺は、口を挟める雰囲気でもなかったのでジッと事態が動くのを待つしかなかった。



「……わかりました。その依頼、受けさせて頂きます」



 女性がそう告げるとガルムさんはソファから立ち上がり、スタスタ歩いて部屋の扉へと向かって行った。



「では頼むぞお前さんたち。儂は発行所に出す依頼書を作るでの。今日はもう帰って良いぞ」



 そう言い部屋を出て行ったガルムさん――だったが、締まる寸前に頭だけ扉から出して言葉を付け加えた。



「そうじゃった、お前さんたちの装備、嬢ちゃんはともかくイオの方はジェノザウルス相手には心許なさ過ぎじゃ。じゃから儂の方でまともな装備を用意しておくつもりじゃから、それを使うと良い」


「ありがとうございます」



 俺が心許なさ過ぎと言われ少し悲しんでいるうちに、女性が丁寧に頭を下げてお礼を言った。



「それと嬢ちゃん、聞き忘れておったんじゃが名前はなんというんじゃ?」



 ガルムさんに聞かれて女性はハッとしていた。

 そういえば俺も女性の名前は聞いていなかった。



「申し遅れました。私の名前はメイランと申します。以後お見知りおきを」


「メイラン、じゃな。依頼書はまた出しておくから発行所で明日以降確認してくれ。ではの」



 今度こそガルムさんは部屋を後にした。

 そして女性――メイランさんは俺の方を振り返り手を差し出してきた。



「先程も聞いていたと思うが、メイランだ。よろしく頼む」



 俺はその手を握り替えした。

 





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 以下、登場人物紹介です。

 ============



【ミリアリア=パートン】



 女性。NPC。スレンダー。二十代後半くらい。騎士団一番隊隊長。


 VRMMORPG“∞―エンドレス―”にて、ヴァイス騎士団に所属する騎士。

 騎士団の中には女性騎士は多数在籍しているが、その中で唯一隊長を務めている人物。

 盾と片手剣を巧みに使ったカウンター戦法が得意。


 騎士団一番隊は街の治安維持に従事している隊で、街中で見かける大半の騎士は一番隊の者だが、隊長本人はデスクワークという戦場にかり出されているため滅多に街中では見かけない。

 ちなみに二番隊は門や外壁担当、三番隊はモンスターや盗賊討伐といった遠征、四番隊は情報収集、五番隊は後方支援(ざっくり言うと雑務)を担当している。


 実は年の割に起伏が乏しい自分の体にコンプレックスがある。

 意外と乙女チックで結婚願望があるらしいが………。


 実は可愛い?隊長さん






お読み頂きありがとうございます。


まず前回の後書きで女性プレイヤー、メイランの登場人物紹介を書くと記載しましたが申し訳ありあせん><;

予定通り行かなかったため次回に持ち越します。


代わりにというわけではありませんが今回の話の中で出た、以前登場した騎士団の方の登場人物紹介を書きました。

今後物語にちょくちょく絡んでくる予定です。

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