59.「やかましいんじゃ馬鹿共がっ!」
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※加筆6/25
いつもより早歩きで歩いたためすぐに目的地である、ガルムさんの鍛冶屋に到着した。
「こんにちはー」
俺は挨拶をしながら店へと入る。
すると以前ここを訪れた時にガルムさんの弟子だと名乗っていた、NPCの男性がお客さんと思われる女性と何やら話し込んでいた。
何やらカウンターを挟んで身振り手振りを交えて、女性は前のめりになっている。
女性はNPCではなく俺と同じプレイヤーだった。
ちょうど俺には背中を向けているので顔は窺えないが、薄紫色の腰まで届く長い髪が女性が時折体を動かすとサラサラと舞う。
「――そこを何とか、頼めないだろうか」
「申し訳ありませんが、あれは先約といいますか。とりあえず私の立場ではどうすることも」
「ではどなたに頼めばいいのか、それだけでも教えてくれ」
「うーん、困りましたね……あ」
別に盗み聞き目的ではなかったのだが、店内には俺と男性と女性プレイヤーの三人しかいなかったため、少し会話の内容が耳に入ってきてしまう。
自分の用件は女性の用事が済んだ後でいいかと思い、少し離れた場所で待機していると男性と目が合った。
そして目の前の男性が自分の背後を見ていることに気が付いた女性も、男性の視線を辿り俺の事に気が付き多様で一瞬だけ驚いた様子を見せる。
「あー、どうも。ガルムさんに用事があったんですけど、そちらの方の後で大丈夫ですよ」
「ちょうど良かったです。確かお名前はイオさん、で合ってましたか?」
「ええ、そうですよ」
女性からしてみれば突然現れた俺がさっきまで話していた相手と、いきなり話をし始めたような形になってしまったが、女性は文句を言うこともなくただただ視線を俺と男性の間で行ったり来たりさせていた。
「実はこちらのお客様が例の防具、【ブルーライトクリスタルアーマー】を購入したいと仰っておりまして」
「え? そうなんですか」
なんと女性は俺が今こなしているガルムさんからの指名依頼を全て完了し、その報酬としてもらい受ける予定になっていたあの防具が欲しいのだそうだ。
だが俺もあの防具は欲しいので、じゃあどうぞと譲るつもりはない。
「といいますか、なんでそんな話に? あれって報酬になってるはずですから、販売なんてしないはずですよね」
「ええ、もちろん売るつもりも予定もありません。実は――」
男性の話をまとめるとこういうことだ。
ガルムさんからの指示で男性は店頭で【ブルーライトクリスタルアーマー】のメンテナンスをしていた。
本来お客さんに売るための商品以外の武器や防具は、他の人の目に付かない場所でメンテナンスをするそうなのだが、生憎いつも使っていた作業場は依頼された防具の修理やらなにやらで一杯で、空きスペースがなかったそうだ。
仕方がないので店の休憩時間を利用して店頭で作業をしたらしい。
店の入口にも『休憩中』と書いてあるプレートを掲げていたので、誰も入ってこないと思っているとプレイヤーの女性が何故か店内に入ってきてしまった。
そして男性がメンテナンスをしていた【ブルーライトクリスタルアーマー】を見つけ、購入したいと言ってきたというわけだそうだ。
「外にあった『休憩中』のプレートを見落としたのは私の不注意だ。それに関しては言い訳はしない、申し訳なかった」
一通り現状の経緯を説明し終えると、女性はそういい頭を下げる。
「だが私はどうしてもあの防具が欲しいのだ。話を横からだが聞いたところ、君がこの防具を予約か何かしているのだろう? どうか私に譲ってもらえないだろうか。もちろん相応、いや、迷惑料も込めた対価を支払う」
女性が体の正面を俺の方に向け一気に捲し立ててきた。
その時初めて女性の全貌が明らかになる。
おそくまだ十代後半。
キリッとした目元でどこかセイ(春香の現実の友達)と似通ったところがある、女性らしい綺麗な顔立ち。
頭には白色のカチューシャを付けていて、前髪を上げ邪魔にならないようにしている。
だが所々細い髪の束が額の方へと垂れていて、それが何だか見た目の年齢にそぐわない艶っぽさを漂わせていた。
黒色の体にピッタリとフィットしている半袖のインナー上には、上半身に銀色に輝く胸部が女性用に隆起した鎧と籠手、下半身は何故か赤いプリーツスカートを身につけていて膝より少し上まであるこれまた銀色の脚鎧を履いていた。
スカートの下にはスパッツのような物を身につけているようで、脚鎧とスパッツの間だからもっちりとした太ももの肌色が顔を覗かせていてる。
話し方もちょっと固いというか女性らしい話し方ではないように思えるが、目の前のような女性が使うとしっくり来る。
相手によっては上から目線で話されているようにも聞こえるかもしれないけど、俺としては別に気になるほどの物ではなかった。
「どうだろうか。考えてみてくれたかな?」
無言で女性を見ていた俺の様子を見て、どうやら防具を譲るかどうか検討していると勘違いしているようだ。
なので俺はハッキリと自分の意見を女性に伝えた。
「いえ、残念ですけど、この【ブルーライトクリスタルアーマー】は譲れません。俺もこの防具が欲しいので」
俺は『No』と言える日本人だ。
「もう少し考えてみてもらえないだろうか?」
だが女性もなかなか肝が据わっているのか、真正面から拒否されたにもかかわらず食い下がってくる。
「いや、そういわれても」
「ではこの防具本来の値段の二倍払おう。店主、この防具はいくらなのだ」
俺と女性の話を傍観者のように聞いていた男性は、突然話を振られたがそこは流石に接客の仕事をしているだけあって、すかさず【ブルーライトクリスタルアーマー】の値段を諳んじた。
「こちらの商品は1,550,000Lとなっています。あと私は店主ではなくて、ただの弟子ですからお間違いなく」
1,550,000Lの二倍、つまり3,100,000Lだ。
こんな額をぽんと払えるとは到底思えない。
案の定、女性は先程までより少し目を見開いて驚いた様子を見せた。
「むう、これはそれ程までに高価な物だったのか。生憎と私の所持金では少し足りなかった」
それでも足りなかったお金は少しだけだったようだ。
俺のように予想外の事態に巻き込まれ大金を手にするような人は少ないはずなので、三〇〇万近いLを女性は地道に集めたのだろうか。
これで諦めてくれるかと思いきや、女性はまだ諦めきれないようで別の条件を出してきた。
お金の代わりにアイテムや装備品を付けるなど、あの手この手を使ってくるが俺ももう意地のようになってその全てを断る。
「頼む! 譲ってくれっ」
「お断りします!」
「そこをなんとかっ!」
「ダメですっ!」
もはや対話による交渉など遠い彼方へと消えてしまい、ひたすら頭を下げる女性と頭を横に振る俺の姿がそこにはあった。
途中何度か店の中に入ってきたお客がいたようだが、俺と女性のやりとりを見るとそのまま回れ右して外へと出て行ってしまう。
そしてその一連の流れが一体いつまで続くのかと男性が考えた時、店の中に声が大音量で響き渡った。
「「さっきからやかましいんじゃ馬鹿共がっ! 喧嘩をするなら外でやれば良いじゃろうが!」」
怒声の声の発信源はガルムさんだった。
俺と女性、そしてその場に居合わせた男性の三人は、突然の大声に方をビクッとさせ思わず耳を手で塞ぐ。
「……あ。そういえば俺ガルムさんに用があってここに来たんだった」
いつの間にか忘れてしまっていた本来の用事を思い出した俺だった。
最後までご覧頂きありがとうございます。
今回登場した女性プレイヤーの登場人物紹介は次回の予定。
武具の値段は以前投稿した47話に登場しています。
詳しい武具の説明もそちらに書いてありますので、気になる方はそちらをご覧ください。




