58.「なんだか今日は騒がしいな」
今回はいつもより少し文量が少ないです。
時刻は21:00時過ぎ。
夕食を実質一人で食べ終え俺は部屋へと戻ってきた。
今日も俺は自室にてVRS――Virtual Reality Station――を手に取り、セッティングを整えゲームの世界へとログインする準備をしていた。
基本的に休みの日や仕事が早く終わった日しかログインしないため、また前回のログインから時間が経ってしまった。
“∞―エンドレス―”初公式イベントが発表されて早数日。
春香はイベントの開始日に向けてアバターを強くするため、学校から帰ってくると連日のように“∞―エンドレス―”をプレイしている。
なんでも以前ゲームの中で紹介してもらったフレンドの子たち、ギルド創設のために集まったメンバーでPTを作り参加するそうだ。
今は全員のスキルをパワーレベリング中らしい。
「まあこっちはこっちでマイペースにやればいいさ」
俺はゲームを一分一秒でも早くやりたいから、という理由で夕食をドカ食いした春香のことを思い出し、思わず笑みをこぼしてしまう。
あの時の春香は空腹で目の前に出されたエサに、一心不乱に顔を突っ込む子犬みたいだった。
なので俺は“いただきます”をしてから僅か数分で食事を終えた春香をよそに、実質一人で夕食を食べたというわけだ。
「さて、と。そろそろ始めるか」
ベッドに横になりVRSを被る。
バイザーに映る“∞”のロゴを見ながら、俺の意識はゲームの世界へと旅立った。
――次に目覚めたのは宿だった。
ここでログアウトしたのだから当然と言えば当然なのだが。
「今日の予定は……ああ、とりあえず一度ギルドに行かないといけないか」
前回ガルムさんからの指名依頼を完遂したので、次の指名依頼が来ているはずだ。
その確認をしなければ。
「そうと決まれば行くとしますか。他にやることもないし」
俺は借りてる部屋を出て一階へと下りる。
一階の酒場を横切る際にカウンターにいたフィリプスさんが、二階から下りてきた俺に気が付き『飯はどうするよ』と聞いてきた。
だが現実世界の方で俺は夕飯を食べたばかりだったので、ゲームの世界には関係ないとわかっていても何となく食欲が湧かず食べる気にならなかったので、『今はまだ大丈夫です』と丁重にお断りした。
そしてフィリプスさんに見送られつつ外へと出る。
道端にはNPCが開いている露店などが建ち並び、時折気になる商品が店先に並んでいたりしたが、今はギルドへ行く用事があるので寄り道を我慢して足を進める。
そして数々の誘惑を振り払いほどなくして俺はギルドへと到着した。
もう何度も訪れたため見慣れた建物、その中へと出入り口から体を滑り込ませる。
「……なんだか今日は騒がしいな。何かあったのかな?」
だがギルドの建物に入ってみると、いつもの見慣れた屋内の様子とは違う光景が俺の目に入ってきた。
いつもはNPCやプレイヤーがたむろしている休憩スペースには殆ど人影がなく、殆どの人が依頼書が張られている掲示板の前に集まっている。
立ち止まって様子を窺ってみる。
『いってえ!? 誰だ! 今俺の足踏んだ奴はっ』
『うーんっ、見えないっ』
『“発行所からのお知らせ”だって?』
『すみませーん、通してくださーい』
『なんて書いてあるんだ。誰か教えてくれよ』
見事に人々はすし詰め、芋洗い状態なため、人垣の中からいろんな声が聞こえてきた。
所々の言葉を拾い集めてみると、どうやらギルドからの連絡事項が掲示されているようだ。
「俺も見てみたいけど……今はいいか。あんな中に突撃するなんて御免だ」
俺は掲示板に背を向け受付へと向かう。
あちらに人が集まっていたおかげなのか、受付の方には誰一人並んでおらずそのまま直接受付の女性に話しかけることが出来た。
「すみません」
「はい。――って、あら? あなたこの前の」
「えっと、すみません。どこかで会ったことありましたっけ?」
俺の記憶が間違っていなかったら、この女性とは一度も話した事もなければ会ったこともないはずだ。
少なくとも受付に何度か用事があって来た時に、この女性が受付に立っていたことはない。
「ごめんなさい。私の方が一方的にあなたのことを知っていたの。ほら、この前ジェノザウルスの情報を持ってきたでしょ? その時の騒ぎであなたの顔を覚えていたの」
「なるほど。そうでしたか」
言われて納得した。
確かにあの時はその場にいた人々の注目を一身に受けていたので、この女性もあの場に居合わせていたのであれば、俺の顔を覚えてもいるだろう。
「んんっ! 失礼しました。それで本日はどのようなご用件ですか?」
女性は気を取り直して受付の仕事に戻る。
俺は用件を告げた。
「前回の指名依頼の報酬が『次の指名依頼』だったはずなんですけど、その指名依頼の確認に来ました」
「そうでしたか。それでは確認しますのでお名前をお願いします」
「イオです」
「ありがとうございます。では少々お待ちください」
一礼して女性は受付を離れる。
そして他の職員と二、三言葉を交わし分厚い書類の束をパラパラと捲り、ある一枚の書類のところで手を止めるとその書類を手に受付に戻ってきた。
「こちらのクエスト発行所の方に、ガルム様からイオ様宛に伝言が残っていました」
「え? 伝言ですか。依頼書とかじゃなくて」
「はい。こちらが伝言の内容となっております」
俺は差し出された紙を受け取り内容を読んでみた。
『イオへ
まずはサーベラの牙の納品感謝するぞ。
指名依頼は間違いなく完了したわい。
それで報酬の“次の指名依頼”なのじゃが、その前にお前さんと直接話したいことがある。
この伝言を見たらいつでも構わんので、儂の店の方に顔を出してくれ。
ガルム』
俺はガルムさんが残した伝言を読み終えた。
どうやらガルムさんは俺に何か用事があるらしい。
「どうもありがとうございました」
「いえ、これも仕事ですのでお気になさらずに」
俺は受付の女性にお礼を言い、ガルムさんの鍛冶屋に向かうため建物の出入り口へと向かう。
途中掲示板の様子をチラッと窺ってみたが、まだまだ人の波が収まっていなかったので、掲示されている物の確認は後回しにすることにした。
「でもガルムさん一体何の用があるんだ?」
普通に考えたら次の指名依頼についての話なんだろうけど……どうしてなのか自分でもわからないのだが、何だか違うという予感がする。
「嫌な予感ってわけじゃないけど。何事もなければいいな」
俺の独り言を偶々向こうから歩いてきているプレイヤーが耳にしたようで、横をすれ違う時に妙な顔をして俺の事を見てきた。
誰かに聞かれるとは思っていなかった俺は、何だか恥ずかしくなり先程までよりも歩く速度を速くして、そそくさとその場を後にし脇目もふらずガルムさんの鍛冶屋を目指す。
最後までご覧頂きありがとうございます。
現実パートはたった一話で終了し、再びゲームパートがやって来ました。
もう少しで物語はイベント回になります。
乞うご期待!(でもあんまり期待されすぎてもプレッシャーが……(汗))




