56.「そいつが森の中にいたんだよ」
天パには辛い雨の季節です><;
ほどなくして冒険者ギルドへとやってきた。
建物の内部に入ると相変わらずの賑わいを見せている。
「プレイヤーの数が増えてるな」
以前来た時よりもプレイヤーの数が多くなっていた。
依頼が掲示されている掲示板の前には、一人だったり数人で固まっているプレイヤーがいて依頼を吟味しており、受付の列に並んでいる人もいる。
もうこれはプレイヤーの活動地域が第一の街フォートから、ここ第二の街ヴァイスへと移り変わったということで確定だろう。
「おっと、俺も列に並ばないと」
俺は依頼完了を報告するため列のひとつに並んだ。
俺の前には三人しか並んでいないので、それ程時間も掛からないだろう。
そして前の三人が用事を済ませ、俺の番が回ってきた。
待っている間にも俺の後ろには一が並び、今は男女二人が立っている。
「お待たせ致しました。次の方どうぞ」
受付の男性に声をかけられたので進み出る。
今まであったことのない男性だった。
「本日は依頼完了のご報告でよろしいでしょうか」
「あ、はい。依頼されていた品を集めてきたんでその報告に」
俺がそう口に出して言うとどこからともなく一枚の紙が現れ、俺と男性の間にある受付の上へと舞い降りた。
その紙はガルムさんからの指名依頼が書かれたあの依頼書だった。
「それではまず依頼書の方を確認させて頂きます」
男性は驚くこともなく何気ない手つきで依頼書を手に取り、上から下まで一部の漏れもないように内容を読んでいるようだ。
一分もしないうちに男性は依頼書を読み終え、再び受付の上へと戻す。
「依頼内容はサーベラの牙を六本納品することですね。では現物を確認させて頂けますか」
「わかりました。ちょっと待ってください」
俺は所持品の欄からサーベラの牙を選び、六本取り出すと受付の上へとゴトッと置いた。
男性はサーベラの牙も一本一本丁寧に手に取り確認する。
そして六本全てを見終えると、サーベラの牙を一纏めにしその上に先程の依頼書を乗せた。
すると依頼書は溶けるように端の方から消え始める。
「えっ!?」
俺は驚きの声を上げた。
なぜなら依頼書が消えていくのと並行して、その下にあったサーベラの牙も消えて行き始めていたからだ。
「あ、申し訳ありません。もしかすると初めてご覧になりますか?」
「は、はい。まあ」
「そうでしたか。では簡単にご説明致します。今回のように何かを集めて納品するような依頼ですと、ご覧のように依頼書に納品の品を保存して発行所の方で保管するようになっております。そして依頼主の方へと依頼完了の旨をお伝えし、依頼書と一緒に品物をお渡しするようになっております」
男性が説明を終えるのと同時に依頼書は全て消えてしまった。
そしてサーベラの牙も時を斧軸して跡形もなくなくなってしまった。
「今の依頼書に俺が集めてきたサーベラの牙が添付されて、依頼書はそちらで管理するって事ですよね」
「はい。そのお考えで間違いありません」
「じゃあ依頼書はどこに」
「申し訳ありません。防犯の都合上それについてお教えすることは出来ません」
俺はどうしても知りたかったわけではなかったので、深々と頭を下げて謝罪してくる男性にそうですかと言い頭を上げてもらうように言った。
「そういえば依頼の品を集めるために森に入ってたんですけど、なんだか危なそうなモンスターがいました」
俺がそういうと男性職員は完全に頭を上げ真剣な顔をみせた。
どうやら『危なそうなモンスター』という単語を聞き、それに反応したようだ。
「森というと」
「フォートと繋がる街道とは反対側の門から出た先にある森です」
「なるほど。して、目撃したというモンスターはどのような――っと、申し訳ありませんが詳しいお話は別の場所でよろしいでしょうか」
男性はふと我に返った様子で俺の背後をチラッと見た。
そう言えば俺の後ろにも並んでいる人がいたことを思い出す。
このままここで話を続けると、他の利用者の邪魔になってしまうだろう。
「わかりました。どこに行けばいいでしょう」
「今案内の者を付けます。……おーい、そこの君、ちょっと来てくれ」
『はーいっ』
男性が振り返り受付の中で作業していた一人に声をかける。
返事をした声は若い女性の物だった。
「お呼びですか?」
「この方を応接室にご案内して差し上げてくれ。モンスターについて情報があるらしいから、調書の準備もして」
「わかりました。それではご案内しますのでこちらにどうぞ」
男性に呼ばれトコトコやってきたのは俺とドランとリックの三人が、初めてここへやって来た時に副所長のリアブルさんを呼んできてくれた、あの俺と同年代の女の子だった。
たしかあの時俺はこの女の子のことを『パン屋の店員さん』みたいだと思ったはず。
女の子はどうやら俺の事を覚えていないようだ。
特に会話をすることもなく応接室とやらに案内される。
「こちらです、どうぞお入りください」
応接室は前回入った職員以外立入禁止の扉の向こうではなく、建物の一角に備え付けられた板を立てて仕切っただけの簡単な物だった。
これは応接室といっていいのだろうか。
俺は女の子に先にどうぞというように促されたので、板と板の隙間から中へと入る。
中は腰高の机と椅子が置いてあるだけの簡素な物だった。
「どうぞお掛けください」
「どうも」
俺が椅子に座ると女の子も続いて向かいの椅子に座った。
「じぃーーー」
そこでふと、女の子からなにやら熱い視線が向けられていることに気が付いた。
というよりも、女の子は口に出して『じぃー』と言っている。
「あの、俺の顔になにか?」
「やっぱり、ロックベアー討伐の時の人ですよねっ」
「え? あ、ああ、確かに前にロックベアーの件で来たことがあるけど」
「そうですよねっ、いや~どこかで見たことがあるな~と思ってたんですよ」
どうやら女の子は俺の事を忘れていたわけではなかったようだ。
そして他の人目がないためか、少々砕けた口調になっている。
俺は別に気にならないので特にその辺りについて言及することはない。
「今日はお一人ですか? あの時は他にPTの二人がいたと思うんですけど」
「ドランとリック……あの時の二人とは臨時のPTだったから、あの後PTは解散したんだ」
「そうだったんですか~」
女の子がこの調子なので、俺も砕けた口調で話をした。
「あ、すみません、そういえば自己紹介もまだでしたね。私はこのヴァイスクエスト発行所で見習い職員をしてます、フィズ=スティアです」
「俺はイオっていうんだ」
「イオさんですね。私のことはフィズでいいです。よろしくお願いします」
「こちらこそ、これからもここにお世話になることがあると思うからよろしく」
フィズと俺は軽く握手をした。
そして改めて椅子に座り直すと、フィズは調書を取り出し話を聞く体勢になる。
「それじゃあ今回はモンスターの情報提供とのことですけど」
「ああ、場所はフォートと繋がる街道とは反対側の森。大体森の入口から歩いて三〇分くらいだと思う」
「ふむふむ……」
フィズは頷きながらペンを走らせる。
俺は一通り書き終えるのを待ち、フィズが顔を上げるのを確認すると続きを話す。
「モンスターは恐竜みたいで後ろ足で二足歩行してて、前足は飾りみたいに小さかった。頭が大きくてバランスを取るためなのか長い尻尾があって、尻尾の先には紫色のトゲが付いてた。口の中には鋭い牙が生えてたから肉食だと思う。それと体の色は暗い灰色で――ん? どうしたの?」
「………」
俺はいったん話すのを止めた。
なぜならフィズが汗をかいて小さく震えていたからだ。
いつの間にかペンは机の上に転がっている。
「イ、イオさん。もしかして、そのモンスターって、こんな形でしたか」
そう言いながらフィズは転がっていたペンを持ち直し、調書の空白部分にサラサラとイラストを描き始める。
その姿は多少デフォルメ加工されているようだったが、特徴をよく捉えていてまさに俺が見たティラノサウルスのようなモンスターだった。
「そうそれだ。そいつが森の中にいたんだよ」
俺が肯定の言葉を口にするとフィズが机に両手を叩きつけ、勢いよく椅子から立ち上がった。
両手で机を叩いた音と立ち上がった拍子に椅子が倒れ立てた音が、建物の中に妙に響き渡り他の雑多の音が一瞬シーンと鳴り止む。
そしてフィズが絶叫に近い声を出した。
「そのモンスターは“ジェノザウルス”ですよ! それが森にいるって言うんですか!?」
次の瞬間、フィズの絶叫が可愛く思えるほどの人々の怒号という騒音が、俺の鼓膜を刺激した。
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以下、登場人物紹介です。
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【フィズ=スティア】
女性。NPC。着やせするタイプ。二〇歳くらい。見習い職員。
VRMMORPG“∞―エンドレス―”の中の街、ヴァイスにてクエスト発行所で働く見習い職員。
今は依頼達成報告の受付を担当しているが、見習いのため人手が足りなくなると他の受付のヘルプをしている。
ヴァイスで生まれ育ったため実家暮らし。
明るい性格で誰とでも仲良くなれるが、若干言葉遣いが軽いため上司に注意を受けることがある。
トレードマークは自前のエプロンと三角巾。
その見た目から主人公からの第一印象は『パン屋の店員』だった。
天真爛漫な見習い職員。
お読み頂きありがとうございます。
ジェノザウルスという名前を考えた時、『あれ? なんかゾイドでこんな名前のあったような?』と思い確認したらいませんでした。
ニアミスはありましたけど。
ちなみに作者はガイロス帝国のシュバルツ(兄の方)が好きでした。
物語は一応大きな節目を迎えます。
MMOで定期的に運営が仕掛けるアレです。
次話もよろしくお願いします。




